GBN:ダイバーズコンピレーション   作:X2愛好家

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間を空けて第二弾


神様とVアイドルの初陣

「・・・」

「わぁ!スゴいスゴい!ねぇねぇこれは?さっきの羽根みたいなのってどうやったら出るの?銃みたいなのも持ってたけどアレも使うの?あとあと、鳥みたいな形してたけどもしかしてこの子飛べるの!?」

「・・・っさい」

「え?なに?」

「うるっさいって言ってんの!!!」

 

GBNに無数に存在するガンプラ。それこそダイバーの数だけ存在する中で、一機のガンプラが騒がしかった。騒がしいのはそのコックピット内なのだが。

 

「だいたい何でこっちに来るかなぁ!?自分のに乗ればいいじゃん!」

「あぅぅぅ・・・耳キーンってするぅ・・・」

「聞いてる!?」

「聞いてるよぉ・・・だってワタシ、がんぷら持ってないもん」

「は?」

 

騒がしい方の片割れ、ブチギレ眼鏡女子のアカネが急に静まった。迫真のポカーンである。

 

「もって、ない・・・?」

「うん!ない!」

「・・・」

 

握っていたアームレイカーから手を離し、額を押さえるアカネ。この白い少女───μが底抜けのバカ(アカネ評)だという事を失念していたのだ。

 

(その可能性を忘れてた・・・観覧席で満足するタイプじゃないとは思ってたけど、ここまでとは。だから格納庫まで着いてきたのか・・・)

 

しかもどうやったのか、一緒に乗るー!等と言わない内に別行動しようとしたアカネにぴったりとくっついてきたのだ。気が付いた時にはコックピット内アカネの背後に居り、つい先程の大はしゃぎに繋がるのである。病的なまでに色白なμに肩を掴まれ、小さく悲鳴をあげそうになったのは内緒である。絶対に。堪えた自分を褒めてほしいと思うアカネだった。

 

「出撃オッケーだって!早く早く!行こうよ!」

「・・・もう、いいや・・・今から降ろすのもめんどくさい。邪魔だけはしないでよ」

「分かってるって!」

 

「えーっと?コルニグス?だっけ?アカネ───」

「とμ!」

「はぁ・・・いきまーす」

「いってきまーす!!!」

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「とうちゃーく!」

「早速だけど言うからね。うるさい」

 

転送ゲートを潜り抜け、辿り着いたのは宇宙空間。今はアカネとμが搭乗しているコルニグス以外に動く物は無い。

 

「宇宙か・・・」

「わぁ・・・!綺麗・・・」

 

(ここまで作らなくてもいいか。朝と夜の移り変わりさえ問題無く───)

 

「うーん、でも宇宙は大丈夫かなぁ。あんまり容量使うとアリアに怒られちゃう」

「───チッ」

「うえぇ!アカネ!?何で舌打ち!?」

「別に」

 

考えてた事がほぼ同じで少しイラッとしたアカネくんだった。理不尽だね。

 

「ん」

「ひにっ!?」

 

急にコルニグスを動かすアカネ。直後、コルニグスが居た場所を光が照らし、焼いていった。

 

「敵はあっちか」

「いひゃい・・・ひははんは・・・」

 

アカネの舌打ちとほぼ同時にポップした電子表示。ミッション開始を知らせるそれを認識していたアカネだったが、スタート直後に先制攻撃してくるのは予想外だった。一応の警戒はしていた事と、攻撃を知らせるアラートが出た為に余裕を持って回避できたが、何の構えもしていなかったμは割と思い切り舌を噛んでいた。

 

「勝手に乗り込んでのほほんとしてた結果だよ」

「ひおいおぉ・・・」

「また噛みたくなかったら黙る」

 

まだ豆粒のようにしか捕捉できない敵に向かってコルニグスを飛翔させる。

 

「さっきの太い光線は使い切り・・・?」

 

コルニグスを狙った極太のビームは最初の一度しか飛んできていない。油断させる為か、と警戒するアカネだが直ぐに考えなおす。

 

(初見殺しではあるけどアラートは機能したし、そもそも初心者向けの低難易度でバカみたいに強いAIは使ってこないか)

 

アカネが受注したこのミッションの推奨ランクはE。チュートリアル以外はこなしていないアカネがギリギリ受けられる戦闘ミッションである。

 

「赤鬼か何か?」

 

ようやく視界に捉えた敵機は白い装甲に赤い部位が映える機体、アストレイ レッドフレームだった。しかも先程、先制射として使用した150ガーベラ・ストレート【パワー】を運用するためか、マッシブな強化パーツを纏ったパワードレッドである。そしてμは舌を噛んだダメージからまだ復帰できていない。

 

「いきなり脱ぐんだ」

 

と、強敵の気配が漂っていたが、150ガーベラを手放し大型腕もパージしてノーマルの状態になるレッドフレーム。先にアカネが思い返したように、このミッションはEランク。始めたばかりの初心者に、高火力武装と必殺技を持つ強化仕様の赤枠を相手にしろ、とはさすがに言わないようだ。

 

「まぁ、飾りじゃないよね」

 

本来の腰部装甲にマウント位置を戻しながら抜刀するガーベラ・ストレート。誰がどう見ても「これから斬りに行きますよ」と言わんばかりの構えだ。わざわざ斬り合いに応じてやる必要もないと、コルニグスを急上昇させて接近を中断するアカネ。ビームライフルの照準は既に合わせている。

 

「腕から貰うよ」

 

特徴的な形状のビームライフルから吐き出される光。ゲームとしてのシステムアシストもあり、三連射されたビームは全てレッドフレームに向かう。だが、いかに低難度と言っても敵は敵。トレーニングやチュートリアルのぼっ立ちNPDとは違い、回避もすれば防御もする。

 

「ビームを斬った・・・」

「スゴーい!サムライだねぇ!」

 

実際の侍がビームを斬れるかはさておき、ガーベラ・ストレートで先の一発を斬って無力化し残りはステップで回避したレッドフレーム。ガーベラを構え直し、コルニグスへと突撃する───

 

「回避先は予測済みだけどね」

 

瞬間、小規模な爆発が左脚で発生した。それだけで終わらず二度三度と脚以外の部位でダメージが連続する。

 

「あっ、羽根!」

「うるさい・・・」

 

μが気付いたのとレッドフレームの索敵システムが原因を捉えたのはほぼ同時だった。羽根のようなモノがレッドフレームを囲むように展開されていたのだ。コルニグスのフェザーファンネルである。

 

「いつ出してたの?」

「最初の攻撃受けた辺り。撃たれた方向に向かって、大回りで。気付かれたらそこから一斉攻撃だし、気付かれなければ今みたいに不意打ち用として使うし」

「アカネって意外と頭良いんだね!」

「喧嘩売ってるなら買うよ?」

「いひゃいいひゃい!おえんあはい!」

 

一応の解説はする辺り、本気でμの事を嫌っている訳ではないアカネ。純粋な称賛という名の無自覚煽りに対しては頬をつねる事で手打ちとしていた。

 

「おっと」

「ふみゅ!?」

 

フェザーファンネルによる鳥葬、もといオールレンジ攻撃から逃れたレッドフレーム。その運動性を活かし、一息にコルニグスへと斬り掛かってきた。大上段から振り下ろされるガーベラ・ストレートを左方向へのステップで回避するコルニグス。μの頬をつねったままサイドステップした為、指に余計な力が加わり、結果としてμの頬は赤く腫れた。

 

「お返し」

 

μの頬から手を離し、両手でアームレイカーを握り直したアカネ。彼女の操作にコルニグスが応え、機体ごと回転しながら裏拳の要領でビームライフルを振り抜いた。

 

「ガンダムの首がすっ飛んだ、って所かな」

 

コルニグスのビームライフルには、トリガー方向に向かって展開されるビームアックスが備えられている。それにより、レッドフレームの首を刈り取ったのだ。

 

「じゃあ、さようなら」

 

頭部を斬り飛ばされた衝撃で一瞬動きを止めるレッドフレーム。その隙を見逃す事なく、左手から発振したビームクローでレッドフレームの胸部を貫き、息の根を止めた。

 

【Mission Success !】

 

「はい、おしまいっと」

 

まぁこんなもんか、とコルニグスに転送ゲートへの帰還軌道を取らせるアカネ。自分でも意外だったが、被弾無しでミッションをクリアした事に多少は満足感があった。強いて懸念点を挙げるとすれば───

 

(なーんか静かだよね)

 

途中から一言も発しなくなったμ。アカネとしては嫌な予感がするのだが、この後すぐにその予感が当たっていた事を知る。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「ワタシも乗りたい!ガンダム!」

「・・・」

 

はい予感的中。と言わんばかりに渋い表情となるアカネ。対してμはふんすふんす!と鼻息荒く目を輝かせている。あとアカネの機体はガンダムじゃなくてコルニグスって言うんだよ。

 

「後ろで見てて楽しそうだった!」

「誰も理由は聞いてないんだけど。そして小並感」

「アカネと一緒に戦う!」

「聞け・・・」

 

友達がゲームをプレイしているのを隣で見ているだけというのが一番つまらない、とは昔から言われている事。μは見事にそのパターンにハマったらしく、自分もガンプラに乗って戦いたいらしい。どうやって言いくるめるか、と考えていたアカネだったが、一つ小さな悪巧みを思い付く。

 

「まぁ良いけど」

「ホント!?ヤッター!」

「その機体はどうするのかな」

「ほえ?きたい?」

「乗って戦いたいんでしょ?ならその【乗る物】はどうするのって聞いてるんだけど」

「・・・あ」

 

そう、ミッション開始直前に言っていた通り、μは機体を持っていないのだ。アカネのようにデータは弄っておらず、正規のログインでGBNに来ている訳でもない。さらに言えば、別世界のバーチャルアイドル兼歌唱ソフトが自我を持った、一種の電子生命体のため生身の人間ですらないのだ。つまり、現実でガンプラを組むという当たり前の手段が取れない。

 

「あー・・・うー、そのぉ・・・」

「自分で言ってたもんねぇ、持ってないって」

「それはぁ・・・」

「無いんじゃあバトル出来ないよねぇ」

 

アカネくん、本来の歴史で会う黒い宇宙人みたいになってない?

 

「うぅ~アカネ意地悪ぅ・・・」

「どうしてもって言うなら、出してあげようか?」

「えっ、ホント!?」

 

μ気付け、アカネくん滅茶苦茶悪い笑顔してるよ。

 

「ホントホント。その代わり・・・」

「その代わり?」

「これで共犯ね?」

「きょう、はん?」

 

表情も言ってる事も詐欺師か何かだよ。

 

「私だって現実から持ち込んでる訳じゃないし、このゲームのデータベースから適当に引っ張り出してあげるって言ってんの。バレない内に引っこ抜いてくるから、ギャーギャー騒がない事」

「えぇ!?ダメだよそれは!」

「誰に迷惑かけるでもないから良いじゃん。むしろアンタの機体を用意するって言ってるんだから、幸せになるアンタは居ても不幸になる奴は居ないでしょ?」

「うぅ・・・でもぉ・・・」

「じゃあこの話はおしまーい」

「あっ!ちょっ!待って待って!・・・分かったよぉ」

 

うっし、と心の中でガッツポーズを取るアカネ。特等席で体験したからこそ、この誘惑には抗えないと思っていた。そしてこの先、不正操作なり何なりに口出ししてきても「不当に機体データを受け渡しした共犯者」というマウントを取って黙らせる事が出来る。アバターの表情は悪い微笑だが、心の中ではヒーローを罠に嵌めてご満悦な悪役のように笑っていた。どっちにしろ悪役なのは変わらないのだが。

 

「じゃあ漁ってみますかね」

「早くね」

「アンタ意外と図太いよね」

「モデルデータは細めだよ?」

「神経の話なんだけど」

 

もはや漫才じみてきたやり取りをしながら、手はキッチリとコンソールを操作している。もちろんGBNのシステムコンソールではなく、「イケナイ操作」をするためのマイコンソールである。

 

(って言ってもロボットはあんまり興味無いからなぁ。どうするか)

 

侵略宇宙人のロボット怪獣や宇宙生物を改造した生体兵器はともかく、ガチガチのロボットものは管轄外のアカネ。ガンダムに関しては初心者も初心者の為、どんな機体が存在して何がμに合うのかサッパリ分からない。一応の愛機となっているコルニグスも「ザッと目を通した中で偶然見付けて」「何となく怪獣っぽいから」という理由で選んだのだ。

 

「アカネー?大丈夫?」

 

バレない内に引っこ抜く、と言っていたアカネが中々コンソール操作を終えない事を心配し、μも覗き込んできた。もういいや、てきとーチョイスして押し付けるか、等と投げやりになった時、丁度SEED DESTINYのカテゴリーページで指が止まる。

 

「アンタって歌唱ソフトなんだよね」

「元々はね!今はアリアと二人で、皆の心がこもった歌を歌う───」

「ハイハイ、これね」

 

本人から確証も得られた所で、コンソールに表示された機体を選ぶ。そして機体コンディションや、修復状態を確認する為の格納庫へと移動していくアカネ。μも慌ててその後を追う。

 

「ほれ」

「置いてかないでよぉ───わぁ・・・!」

 

直立状態で格納されているのは、SEED DESTINYに登場した組織ザフトの主力量産モビルスーツ【ザクウォーリア】。それもビビッドなピンクの塗装に、マスコットロボであるハロのマーキングや、ポップなフォントのテキストマーキングなどを施された【ライブ仕様】である。

 

「スゴいスゴい!これ!ワタシのがんぷら?」

「そーそー。ザクウォーリア……ライブコンサートVerだってさ」

「ライブ!コンサート!!!」

 

ライブザクの足元に駆け寄り大はしゃぎのμ。互いに原作及び登場シーンは一切知らないが、【バーチャルアイドル】のμとしてはライブコンサートの舞台装置として使われていたモビルスーツ、という設定だけでも歓喜できるのだろう。

 

「どうやって戦うかはアンタに任せるよ」

 

そう言いつつ何らかのデータをμ宛てに送信するアカネ。データベースからザクを引っ張り出し、その引き出し先をμにした際にダイバーデータを確認していたようだ。アカネの見よう見まねでコンソールを開くμ。さらに開いた自身のパーソナルデータから機体ページに飛び、アカネからの贈り物を確認する。

 

「ビーム……とつげきじゅう?ブレイズウィザード?って何?魔法使い?」

 

受け取ったデータは武装だった。どうやら原作最終盤で実戦投入された1シーンの再現らしく、手持ち武装のビーム突撃銃に加え、高機動戦用バックパックであるブレイズウィザードもセットになっている。

 

「うっわ・・・このザクってやつだけで何個あるのよ」

 

ザクウォーリアとザクファントムで既に二つバリエーションが分かれ、μに送ったブレイズ以外にもガナーウィザードとスラッシュウィザードが装備違いとして存在する。更に覗けばホスピタルやノクティールカ等もあり、ルナマリア専用カラーのウォーリアにレイ専用のファントムもあり───等とキリが無い。

 

「・・・」

 

そっとコンソールを閉じた。アカネくんは見なかった事にしたらしい。

 

「ねーねー!アカネー!ミッションやってみたーい!」

 

一頻り騒いで満足したのか、今度は実際に操縦してみたいと言い出すμ。ここまで来たら最後までやらせた方が良いと学んだアカネはμを手招きし、一旦セントラルの総合受付まで戻る。

 

「そこでチュートリアル受けてくれば」

「はーい!」

 

受付待ちの列が無くなったタイミングでμに促すアカネ。意気揚々と受付NPDに話し掛け、チュートリアルミッションを受注して帰ってきた。何故かドヤ顔である。

 

「はいはい行ってらっしゃい・・・」

「いってきまーす!」

 

ドヤ顔はせめてミッションクリアしてから見せなさいよ、等と考えながら疲れた顔でμを送り出す。対するμは期待とワクワクが抑え切れず、軽くスキップしていた。すぐに格納庫へと消えていったのだが。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「にへへ~」

「・・・」

 

チュートリアル戦闘を終えてカフェテリア。頬が緩みきっているμと、呆れきった表情を隠そうともしないアカネの姿があった。

 

「えへ~」

「チュートリアルクリアしただけで、そんな満足そうな顔できるもんなんだ」

「だってワタシぃ、すっごくカッコよかったしぃ」

「自分で言うか・・・」

 

自己肯定感高めのμ。アカネから見れば、μの動きは【普通】の一言に尽きる。自身もそこまで長くプレイしている訳でなく、μが初操縦という二点を加味しても【中の中】に見えたのだ。針の穴を通す正確無比な狙撃をした訳でなければ、反撃の隙を与えぬ怒涛の格闘戦をした訳でもない。早速装備したビーム突撃銃をリーオーNPDに命中させ、やたらカッコつけて抜き放ったビームトマホークでリーオーNPDを叩き斬った、というか割っただけ。

 

(何というか・・・本領じゃない感が凄い)

 

μの真価は戦いではない、とでも言うべきか。μが戦っている姿に何となく違和感を覚えたのだ。

 

(まぁ説明しろって言われても無理なんだけど)

 

これ以上μの事で悩むのも時間の無駄、と割と酷い思考切り替えを行うアカネ。注文したコーラと氷をストローでかき混ぜ、コップの中でカラカラと弄ぶ。と、μが上機嫌でコンソールを操作している事に気付く。

 

「何してんの?」

「んー?せっかくだから、バトル!」

「は?ちょっと待───」

「受けてくれるって!」

 

はい手遅れ。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「あなた達が?」

「そう!ワタシがμだよ!で、こっちが───」

「おい」

 

何らかの衣裳を着用している女性ダイバーと和やかに会話していたμ。そのμと強引に肩を組み、後ろを向かせてドスの効いた声で問い詰めるアカネ。

 

「とんでもない勢いで話進めるねぇ?」

「どうせならバトルしたいじゃん。それにアカネもやるつもりだったんでしょ?」

「それはそうだけど」

「それに一人より二人の方が面白いよ!」

 

どうやら巻き込まれる事は確定しているようだ。ここで拒否して騒がれても面倒だし、問題を起こして運営やそれに近しい連中に目を付けられるのも避けたい。

 

(この前のオカマとかね)

 

「分かった・・・今回は一緒にやってあげる」

「アカネならそう言ってくれると思ったよぉ」

「調子乗んな」

 

「えーっと?大丈夫?」

 

後ろを向いたまま戻ってこない二人を心配、というか怪しんでいる女性。

 

「ゴメンね~。ちょっと作戦会議しててー」

 

μへの態度とは全く異なる柔らかい話し方になっているアカネ。ほら、μが「え……誰……?」みたいな顔してるよ。

 

「私はアカネ。よろしくね~」

 

上着の袖から指だけ出し、人差し指と中指、くすり指と小指をそれぞれくっ付けてハサミのように開閉させる。表情は可愛らしく微笑である。μの宇宙猫が加速した。

 

「あ、あぁうん。問題無いなら良かった」

 

μのフリーバトル相手募集にタイミング良く応じてくれたのは女性二人組。【アークエンジェルス】というフォースで活動している【カナリ】と【ステア】。軽く自己紹介を終えた所で早速対戦という事になった。

 

「ねぇアカネ?」

「なに」

「良かったぁ!いつものアカネだ!」

「は?」

 

アカネの他人への態度は先程の猫かぶりがデフォルトであり、むしろμへの対応の方がイレギュラーなのだ。だがμからすれば、ぶっきらぼうで無愛想でジト目でダルそうなのが「いつもの」アカネ。出会った時の印象と対応が定着してしまったとはいえ、難しい所である。

 

「じゃあ、μ!ライブザクウォーリアさん!いっきまーす!」

「・・・アカネ、コルニグスで出るよ」

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「海か」

『あっぶっぶ!?ふぅ・・・落ちる所だった』

 

滞空するコルニグス、MS二機程度なら戦えそうな足場に着地するライブザク。バトルフィールドはアカネが直喩し、μが早速落っこちかけた通り小島や岩塊が点在する海だった。

 

「向こうの機体によるけど」

『あらーと?あっ、来たよ!』

 

ほぼ同時に鳴り響く二人の機体の接近警報。

 

『ライブ仕様!?』

『あの白紫は分かんないなぁ』

 

コルニグスと同じく滞空しているのは、SEED DESTINYに登場したオーブ軍の可変MS ムラサメ。ライブザクから離れた岩塊に着地したのは同じくSEED DESTINY登場のガイアガンダム。今は四足獣のようなMA形態となっている。

 

「飛んでる方は・・・私がやるか。そっちの犬みたいなのは任せるよ」

『任されたよ!』

「秒でやられて二対一、とか無しだから」

 

コルニグスを人型から鳥獣型に変形させ、ムラサメに迫るアカネ。μもおっかなびっくりブーストを噴かしながら小島と岩塊を飛び移り、ガイアに接近を試みる。

 

『そんな変形すんの!?ステア!ザクはお願い!』

『わ、分かった!』

 

腕と脚の配置を入れ換えるという木星面全開の可変機構に驚くカナリ。向かってくるなら迎撃する、とビームライフル イカヅチで牽制射撃。そのままシールドを前面に構えさせコルニグスへと向かう。

 

「出し忘れた・・・まぁ見せれば警戒はするか」

 

『ドラグーン!?どんだけ持ってるのよ!』

 

「フェザーファンネルって言うらしいよ~───やれ」

 

宇宙でのレッドフレーム戦から追加装備しているインプルースパーツ。本来は重力下でも宙間戦闘時と同等の機動性を確保する装備だが、アカネはラックと共に追加されるフェザーファンネルによる攻撃力強化を主目的として装備していた。

 

『くっ』

「それ」

 

オート操作の為にそこまで精度は良くないが、タイマンでオールレンジ攻撃を捌きながら本体の相手もする、というのは神経を磨り減らす。囲まれるのを嫌がって後退するムラサメだが、迎撃目的だったMS形態のムラサメと、積極的に前に出ようとMA形態になっていたコルニグスではスピードが違う。頭部の嘴のような装甲を開き、メガ粒子砲からのビームでムラサメを狙う。

 

『ここで、あえて!』

「まぁそうするよね。そうしたいよね。でもさ」

 

ファンネルを引き付け、ビームサーベルを抜刀しながら急加速するムラサメ。一気にファンネルを置き去りにしつつコルニグス───アカネの意表を突いて格闘戦に持ち込む気だ。だがアカネとてそれは予想済み、むしろそうするように誘導したのだ。

 

「これでどう」

『うわっ!?』

 

実際に鳥が羽ばたくように翼を可動させ急停止、スラスターから全力噴射して宙返りしたコルニグス。来るはずだった位置に向けてサーベルを振るったムラサメだったが空振りさせられ、続けて襲ってきた衝撃に悲鳴をあげる。コルニグスの手にはビームライフルが握られており、現在は脚と入れ換わって下方向に来ている。宙返りと共にトリガーガードのビームアックスを展開し、その勢いのままムラサメに攻撃したのだ。

 

『っくぅ!まだ、致命傷じゃないよ!』

「ズレた・・・慣れない事はするもんじゃないね」

 

誘導までは完璧だったが、アカネの技量がムーブに追い付いていなかった。頭からコックピットまでをまとめてカチ割る予定のビームアックスは、横にズレてムラサメの左肩関節を叩き斬っていた。

 

「腕一本無くしてどこまで粘れるかなぁ?にしし」

『勝った気になるのはちょっと早いんじゃない?』

 

器用に素と猫かぶりを切り替えるアカネ。通信が繋がっているカナリに対して、コミカルな挑発をする余裕があるらしい。対してカナリは劣勢ながらも諦めていない。不敵に笑い返し、ムラサメにビームサーベルを握り直させる。

 

『アカネー!ちょっ、ちょっと助けてー!』

 

「・・・はぁ」

 

知 っ て た

 

 

◆◇◆

 

 

『秒でやられて二対一とか無しだから』

 

うん、映像は直ぐに閉じたけど分かる。アカネめちゃくちゃ真顔で言ってる。コルニグスさんを鳥さんモードに変形させて、飛んでるニンゲンみたいな方に向かっていくアカネ。任されたとおり、ワタシはワンちゃんとの戦いに集中する!

 

『やぁあぁぁ!』

「うわわっ!?いきなり!?」

 

ワンちゃんが飛びかかってきた。背中から生えた剣みたいなのも光ってるから、多分触ったら危ない。

 

「ザクさんジャンプ!」

『避けられた!?でも!』

 

チュートリアルの時に確かめたから分かる。ザクさんはけっこう動ける。全力でジャンプしてもらってワンちゃんの背中剣は避けれた。と思ったんだけど───

 

『当たって!』

「ひぃ!うわっ!ちょっ、まっ!」

 

背中剣だけじゃなくて背中銃もあったみたい。いっぱい撃ってきて、ザクさんの頭がちょっと焦げちゃった。他はザクさんシールドで防いだから問題無し。

 

「エヌピーディーと全然違う!」

『わたしだって戦える!皆の足手まといになんて・・・ならないんだからぁ!』

 

リーオーっていう名前のエヌピーディーとは全然違う。武器も動きも何もかも。特に【心】があるのが一番の違い───これ・・・

 

「あなた・・・うっ!」

『このぉ!』

 

ってそんな場合じゃない!アカネに助けてもらうしかない───でもめちゃくちゃ怒るよねぇ・・・舌打ちは絶対にする。でもなぁ・・・

 

【秒でやられて二対一とか無しだから】

 

秒ではないけど、無言でやられてたらもっと怒る。うん!よし!ここはいさぎよく───

 

「アカネー!ちょっ、ちょっと助けてー!」

 

『・・・はぁ』

 

あっ、舌打ちじゃなくて溜め息だった。

 

 

◆◇◆

 

 

ガイアのグリフォン2ビームブレイドが迫っていたライブザク。ギリギリの所でザクの肩を掴み、強引に持ち上げながら急上昇。どうにかハイネ斬りは避けられたようだ。

 

『ありがとうアカネ!』

「・・・ほぼ無傷で持ちこたえた事は褒めてあげるよ」

 

『ステア!無事?』

『何とか・・・でも、ごめん。倒せなかった』

 

互いに相方と合流して仕切り直し。被害としては片腕を失ったムラサメの分、ステアとカナリのペアが不利といった所。

 

「さーて、ここからどうしようか」

『ワタシに任せて!今度こそやってみるから!』

 

『厳しい状況だなぁ・・・』

『大丈夫。次こそ・・・やってみせる!』

 

同時に飛び出すライブザクとガイア。結局同じ状況になりかねない為、援護に動くコルニグスとムラサメ。

 

μのライブザクはビーム突撃銃を左手に持ち替え、空いた右手でビームトマホークを引き抜いている。

 

(このまま突っ込ませた方が良いか!)

「適当で良いから撃つ!」

『分かった!』

 

ろくに照準などつけていない連射。予想外のダメージを嫌って左右どちらかに大きく避けるはず。そこをビームライフルなりメガ粒子砲なりで撃ち抜く算段のアカネだったのだが───

 

『うあぁぁぁぁ!!!』

『ステア!無理し過ぎだって!』

 

まさかの正面突破。損傷も厭わず背中のビーム突撃砲からビームを乱射しながら向かってきた。

 

「一番面倒な手・・・打っちゃってさぁ!」

『ぐうっ!?』

 

爆発するビーム突撃砲と右肩のビームライフル。ガイアの周囲にフェザーファンネルが漂っていたのだ。ムラサメ相手に使用した物を回収し、ライブザクを救援する際に充電完了した物から再展開していたようだ。保険は掛けていたらしい。

 

「μ!」

『いくよぉ!』

 

『まだあぁっ!』

 

ガイアもやられてばかりではない。ファンネルの攻撃で武装の大半が機能不全に陥ったものの、ビームライフルに守られた形で、右の突撃砲一門がまだ生きていた。それをコルニグスに向けてビームを放つが、μのライブザクが割り込み防がれてしまう。

 

『退いて───ウソっ!?』

 

『ゴメンねザクさん・・・根性だよ!』

 

一か八かグリフォン2ビームブレイドを展開して突撃するガイア。だが、退避しなかったライブザクが、文字通り身体でビーム刃を止めていた。確実に腹部に食い込み、されど撃破には至らず。

 

『たお、れてぇ・・・!』

 

「一瞬で忘れちゃったかな?」

 

『っ!?』

 

「私も居るんだよねぇ!」

 

左腕、もとい左脚からビームクローを発振したコルニグスが、ライブザクを飛び越えるように襲い掛かる。ビームブレイドごと押さえつけられ、身動きが取れないガイアに光の凶爪を止める手段も避ける手段も無く。

 

『ステア!こっのぉ!』

 

「!」

 

ガイアが地面に崩れ落ち、ライブザクも限界を迎えて機能停止する。隙を逃すまいとビームサーベルを突き出してくるムラサメ。その光刃は確かにコルニグスを貫いた。

 

『あ、れ?』

 

「結局同じ手になるかぁ・・・生きてりゃ安いとか、そういうキャラじゃないんだけどなぁ」

 

『やっば───』

 

コルニグスの目は光を失っていなかった。貫かれてはいるものの、致命傷ではないのだ。μと同じ手を使う事に若干の呆れを表しつつ、コルニグスを動かしていくアカネ。

 

「じゃあ私の勝ちって事で」

 

右脚を右手に直しつつ、バトル開始直後から握ったままのビームライフルをムラサメに向ける。この距離なら外す方が難しい。

 

光が三度瞬いた。

 

【Battle Ended】

【Winner:アカネ&μ】

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「やー、負けた負けた!強いね二人とも」

「いやいや~それほどでも~。グッドゲーム、だったよー」

 

バトルが終わって総合受付。負けはしたがアカネとμの健闘を称え朗らかに笑うカナリと、即座に猫かぶりモードになったアカネが話していた。

 

「ねぇねぇアカネ!ワタシは?ワタシは?」

「あぁうん、ヨカッタトオモウヨー」

「てきとー!雑だよぉ!」

 

「あはは、仲良しなんだねー」

 

相手するのも何か面倒だし今は猫かぶってるしで空返事のアカネ。冗談を言い合える仲、もしかしたらリアルでも知り合いなのかな、等と考えているカナリだが外れも外れ。出会って一週間すら経っていないのに天然ボケとやむを得ずツッコミに分かれた、ただの神様とアイドルである。

 

「・・・」

「ステア?」

「っ、ううん!何でもないよ。対戦ありがとうございました」

 

「こっちこそありがとねー」

 

じゃあまた縁があったらー、と解散する二組。目的は果たしたから正直感想はどうでもいいアカネ。さっさと雑踏に紛れようとしている。だが、μはしきりに対戦した二人を───特にステアの方を振り返っている。

 

「ねぇアカネ」

「なに」

「あのステアって子・・・何か、悲しそうだった」

「そりゃ負けたら誰だって悔しいでしょ」

「そうじゃなくて!ワタシが・・・ワタシとアリアが今まで見て、聞いてきた人間と同じ感じがしたの」

 

ネットに溢れる情報、そしてネットワークに流される様々な人々の感情で自我を得たバーチャルアイドル、μとアリア。その中には、μとアリアの為に作られたモノ───歌も存在する。作り手の心情や思い出を歌い上げてきたμだったが、それらの多くに【悲しみ】や【怒り】、【諦め】等が混じっていた事を知っている。μが戦いの中で、ステアから感じ取った【何か】は、悲しみに近しい何かだったという。

 

「で?」

「で、って」

「私達に何が出来るって?」

「それは・・・」

「あんまり人の心に踏み込むもんじゃないよ」

 

そう言って今度こそ歩みを止めなくなったアカネ。μもそのあとに続く。

 

(私はヒーローになんてなれないよ。それも、会ったばっかの他人を救うなんてさ)

(もっと力が欲しい・・・もっと勉強して、ステアみたいな子も癒せるメビウスにしなきゃ)

 

諦観と決意を新たにして、二人は歩く。

 

「で、何で当然のようについてくるワケ?」

「一緒に勉強するから!」

 

それはそれとして、まだまだ二人の関係は途切れないらしい。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「ごめん・・・」

「だからぁ、気にしてないって言ってるじゃん」

 

「わたし、もっと頑張るから。足手まといになんてならないから」

「気負いすぎだって!ほらほら!切り替えていくよ!明日は皆でフォース戦だし、それが終わったらお待ちかねのフェスなんだから!もっと楽しもうよ!ね?」

 

「うん・・・」

 

(このままじゃ、ダメだ・・・明日のフォース戦で結果を出さなきゃ・・・わたしは・・・)




君を救うヒーローは───

アカネ(cv.上○麗奈)
μ(cv.上田○奈)
ステア(cv.上田麗○)

これがやりたかっただけだろ?そうですが?(開き直り)

【ステア】(原作:ガンダムビルドダイバーズ)
フォース「アークエンジェルス」に所属している女性ダイバーで、ガイアガンダムの搭乗者。原作ではフェスの回に登場した。仲間からの信頼と自己評価にやや齟齬がある。普段は元気な女の子だが、ふとした瞬間に思い込みから来る暗い一面が顔を出す。

【カナリ】(原作:ガンダムビルドダイバーズ)
ステアとチームメイトで、アークエンジェルス所属の女性ダイバー。乗機はムラサメ。ステアと同じく原作のフェス回に登場。性格は明るく活発で社交的。本気でステアの事を気遣い、失敗しても笑って切り替える事ができるメンタル強め女子。
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