GBN:ダイバーズコンピレーション   作:X2愛好家

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とにもかくにもメタバースだキンケドゥ。


眼帯貴族と新たな日常

新しい朝が来た、とはよく言われよく歌われるだろう。それはまぁ当然だ。そもそも古い朝is何だ。寝て起きれば誰にだって新しい朝は来る、嫌がっても拒んでも生きている限り朝は来てしまうのだ。

 

「今日も良い天気ですねぇ……」

 

学校に向かう朝、仕事に向かう朝、そして店を開ける準備の朝。誰にでも降り注ぐ新しい朝の日差しを浴び、大きな欠伸をしながら建物の外へ出てきたのは、寝間着と思われるラフな格好の女性。

 

「わたしには勿体ないくらいキラキラしてますねぇ……一応、世のため人のために働いてる方々と同じ人間だから義理で照らしてるんでしょうけど……本当はわたしみたいなのなんて照らしたくないんでしょうね。好きでもない上司に渡す義理チョコみたいですねぇ、義理日差しですねぇ……」

 

すんげぇ方向に独り言の舵切るじゃん。義理日差しって何だよ、初めて聞いたよ。

 

「ヨリ、仕込み始めるよ」

「あわわ……今行きます!」

 

手に持っていた内容物いっぱいのゴミ袋を回収の定位置に出した所でナナメウエネガティブに突っ走っていた女性、ヨリと言うらしい彼女を呼びに出てきたのはまた別の女性だった。親しげに会話しながら建物の中に戻っていく二人。

 

その建物には落ち着いた雰囲気に合わせたフォントで【BLACK VANGUARD】と刻まれた看板が掛かっていた。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

同日昼過ぎ、同建物内にて。

先程の女性二人を含めた何人かが忙しなく動き回っていた。服装こそ各々の趣味が反映された物でバラバラだが、サイズだけ異なる揃いのエプロンが彼女達が同じチームである事を示していた。

 

「テーブル空いたよ、次通すからね」

「はっ、はいぃ」

 

「今日はお客さん多いね。近くで何かある日だったっけ」

「記憶している限りでは無いはずだが」

 

ヨリのフォローに入りながら淡々と業務をこなしているのがミキという女性。ダメージジーンズとイヤリング、黒い不織布マスクがヤンチャな人という印象を強めているが、ミキ自身は感情という感情が表に出てきていないようだ。

 

そう広くはないフロアで片付けに追われているのがヨリ、水色のメッシュが入った黒いサイドポニーがあちらこちらに揺れる。

 

下げた食器を洗い場に渡して一息ついているのが、朝にヨリを呼びにきたイツコ。人前に出る際は何かしらを気にするのか、朝の時には着けていなかった仰々しいメカニカルなマスクで顔の大半を隠している。先程から初来店と思われる客には二度見どころか三度見くらいされているが、本人は特に気にしていない模様。

 

最後にキッチンからフロアの様子を窺っているサエリ。こちらもメカニカルなマスクで鼻から下を覆っているが、イツコに比べればまだ一般的な範疇だろう。

 

昼時の今はこの四人で喫茶店BLACK VANGUARDを回しているようだ。

 

「お次で───うっわ……」

「あはは……どうも~」

「はぁ……どうぞ」

 

一瞬、このままドアを閉めてやろうかとも考えたミキだが、今は客商売のスタッフをやっているんだとギリギリ踏みとどまったらしい。順番待ちをしていた眼鏡の男性と何かしらの因縁があるようだが、一応客として案内するようだ。それはそれとしてサービス業で赤点の態度なのだが。

 

「もし他のお客さんが待つようだったら、相席になるけど」

「あぁ、それは全然構わないよ」

「決まったら呼んで」

 

要件だけ伝えてさっさとテーブルから離れるミキ。よほど男性と話をしたくないのだろうか。男性の方も苦笑いである。と、他の対応が一段落したのか今度はイツコが男性のテーブルに近付く。

 

「あはは……相変わらず……」

「ゴメンね。嫌ってる訳じゃなくて」

「苦手、なんでしょ?分かっているよ」

「ありがとう、もう少し待ってあげて」

 

お冷を男性の前に置きながらミキのフォローをするイツコ。彼女のマスクにこれといった反応をせず、親しげに話している様子からして知己の間柄のようだ。

 

「一つ、聞いてもいい?」

「うん?」

 

「あなたにとって、私達はまだ……幸せにならなきゃいけない人間?」

「……それは」

「聞いてみたかった、今の私達がどう見えているのか。どう……?」

 

表情こそ見えないものの、イツコの声色から冗談の類いではない事が窺える。それに対して男性の答えは───

 

「正直な所、助けてあげたい気持ちはあるよ。でも、彼にも言われてしまったからね」

 

【未来を奪われた彼女達から、今度は過去まで奪うつもりなのか】

 

「辛い過去を糧にして新たな未来を創る。少なくとも、今の君たちはとても充実しているように見えるよ」

「よかった。ありがとう」

 

当人達だけにしか内容の分からない会話を終え、客と店員に戻る二人。テーブルから僅かに見える厨房に視線を向け、男性が口を開いた。

 

「今日はカギウさんブレンドかな?」

「そう。今日は店長のお休み。今頃GBNに……メタバースか、今は」

「技術の進歩は凄いねぇ、僕は追い付けそうにないよ。あっ、注文いいかな」

「うん」

「カレーとコーヒーでお願いします」

「かしこまりました。ちょっと待ってて」

 

この店の店長が通い詰め、舌で学んだとある喫茶店のカレーとコーヒーの黄金コンビ。このBLACK VANGUARDのメニューの中でも特に人気の逸品だ。作り出した本人曰く「我流で誤魔化すしかない部分が多くてオリジナルには遠く及ばない」との事らしいが。

 

「ん……?」

 

ふと店内の一角で電源入れっぱなしでニュース等を流しているテレビに目が留まる。

 

「夢は掴める、か」

 

テレビには新体操の女性選手が大会で優勝した、というニュースが映っていた。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

『クッソォ!何で当たらねぇんだよ!』

『ヒャッハァ!あんなヤベェ奴よりお前の方が楽に墜とせそうだぜぇ!』

『横槍天誅何でもアリだオラァ!』

『モヒカンとチンパンがぁ!虫みてぇに群がってくんじゃねぇよ!』

『ポイントチューチューおいちい!』

 

初手から治安が悪いって?ここは無法地帯ヴァルガだからね仕方ないね。メタバースになってもモヒカンとチンパンは絶滅してなかったんだ、悲しいねバナージ。

 

「やはりコズミック・イラの機体が多いな。血気盛んなのは構わんが、それを向けられるのは遠慮したい所だ」

 

そんな中、多くのSEED系機体の包囲を破り、集中砲火と流れ弾を難なく回避している機体が居た。そのコックピットには両目に眼帯を装着した男、THE Bi-neが搭乗していた。

 

『そんなクソデカヒットボックスでよぉ!』

「ふん……」

『ゴバァッ!?』

 

独り言を溢す余裕を見せたTHE Bi-ne。それを隙を突く好機と見たジェットストライカー装備のダークダガーLがビームサーベルを手に斬りかかる。が、そんな奇襲は親の顔より見たとばかりに、背を向けたままダークダガーの懐に敢えて入るTHE Bi-ne。敵のサーベルは乗機の肘を敵機の腕に当てて弾き、腰から引き抜いた自分のビームサーベルですれ違い様にダークダガーを両断してみせる。

 

「確かに大仰にはなったが、見え透いた攻撃に当たってやる道理は無いのでな」

 

メタバースになって新調・改修した眼帯貴族の新たな愛機の一つ。四基一組のシェルフノズルを上下に2セットずつ備え、上下ノズルの間に物理シールドを装備したベルガ・ギロス。六枚の羽根を広げた蝶、または蛾のようにも見える改造機、【ベルガ・モルス】である。

 

(試運転のつもりだったけど、思ったより動かされてるな。さすがイベント前、SEED効果もあるか)

 

試運転でこんなこの世の終わりみたいなヴァルガに来るお前is何。邪魔をしてやる事で有名なビギナ・ギナⅡ木星決戦仕様と同型のビームライフル内蔵型ショットランサーから、牽制のビームを放ちモヒカンチンパン達の接近を阻止するTHE Bi-ne。これ以外にはつい数秒前にダークダガーを葬ったサーベルしか見せていない為、多少は理性の残っている猛者も警戒して積極的な攻勢に出てこないようだ。

 

(にしても、本当にあの世紀末仕様のザクやらドムで出るつもりなんだろうか……)

 

トルーパーというよりデスペラードなドムやザク。頭にヒートナタを備えていたり、スパイクアーマーがやたらと増設されていたりと原型の面影を残しつつ原型機の雰囲気を良い感じに損ねている。もはや才能レベルのモヒカンチンパンガンプラを眺め、近日開催予定の大規模レイドバトルを思い出すTHE Bi-ne。

 

連合、ザフト、そして少数の第三勢力とファウンデーションに参加プレイヤーを分け、原作における最終決戦ばりの総力戦を行うという【ガンダムSEED RAID BATTLE FREEDOM】。それがあと数日で開催されるのだ。それに合わせてなのか、このヴァルガも含め様々なバトル可能エリアでSEEDシリーズに登場した機体を操るプレイヤーが増え、セントラルロビー等でライブ中継されるバトル映像もSEED系のピックアップが多くなっている。

 

(連合とクライン派には彼女らがエース枠で入るはず。ザフトには……そういえばメイジンがザクやらズゴックやらを発表してたな。あの男ならコズミック・イラ仕様のザクアメイジングで殴り込みを掛けてきても可笑しくはない。或いはストライクフリーダムか)

 

GHCのウィンダム好き少女、フリーダムとキラ・ヤマトの熱烈なファン、そして疼くと体が勝手に動くメイジン。まだ予想でしかないが、ほぼ当たりであろう面々を思い浮かべながら操縦桿を操作している眼帯貴族。しびれを切らし、ニーズヘグを振りかぶり飛び込んできたフォビドゥンの両腕を一太刀で斬り落とし蹴り飛ばす。考え事をしながらでも敵の処理が出来る男THE Bi-ne。こう見えて未だにサヨナラの語呂合わせの為だけに347位を死守している狂気のランカーなのだ。

 

『チョロチョロしやがって……!』

『目障りだ!あの羽虫から墜とせ!』

『ヒィヤッハァ!!!』

 

「さて、ここからが本番か」

 

ついに結託、もとい共通の敵を撃墜するレースを開始したヴァルガモヒカンチンパン達。一斉に対空砲火が上がるが、羽虫と呼ばれた意趣返しに小刻みにブーストを噴かしてヒラヒラと攻撃を回避していく。「こう撃てばこう動くだろうから本命を置いておこう」という冷静な思考ではなく、「やれそうな相手にやれそうなタイミングでやれるだけ行く」という獣の本能じみた攻撃では話にならない。表面的なだけの敵意に、今日はこんなものかと帰還を選択肢に入れ始めるTHE Bi-ne。

 

次の瞬間、緩慢な敵意の中に明確な刺々しさが混じったのを感じた。その感覚に突き動かされるまま操縦桿を倒し、迫る新たな敵意を躱す。

 

「赤い粒子ビーム……疑似太陽炉搭載機か」

 

『よぉ、調子はァ……どうだいッ!』

 

THE Bi-neの予測に正解を叩き付けるように高速で飛来したビーム発射の主。元の赤い機体色を真逆の青に染めたアルケーガンダム。天才と戦争屋を名乗る女傭兵、アリムの愛機ゲニーアルケーだ。

 

『ちょいさぁ!』

 

「ふん、相変わらず野蛮な挨拶だな」

 

ベルガ・モルスの予測回避先にビームを連射し、動かした所で本命のGNバスターソードを振るう。過去に何度か見たヤークト装備ではないようだが、左腕にビームガンを備えている。バスターソードの抜刀がいやに早かったのは、元から手持ちして射撃は左腕ビームガンで行っていたからだろう。形状から推察するに、アルケーの発展元になったスローネツヴァイの物を先祖返り的に装備しているのか。

 

『そっちも相変わらず辛気臭ぇ眼帯だなぁ。前見えてんのか?あぁ?』

「改めて確かめてみるがいい!」

『うおっ……!』

 

大上段から振り下ろされたバスターソードを躱し、カウンターのビームサーベル。横薙ぎに振るわれたそれを上体を反らして回避するアルケー。両機の態勢が崩れた所でアリムが手札を一枚切り、仕掛けた。

 

『ところがぁ……ぎっちょん!』

「ふん……!」

 

アルケーの爪先から発振された血のように赤いビームサーベル。経験の浅いプレイヤーなら勝負の着いていただろう不意打ち。だが、文字通り必殺の一撃はTHE Bi-neの新たな愛機によって受け止められていた。

 

奇しくも同じ、爪先から発振されたビームソードで。

 

『仕込みサーベルだと?アルケーじゃねぇな……ブラックナイトか!』

「ご名答。これで専売特許が一つ消えたな?戦争屋」

『ハッ!一朝一夕の付け焼き刃で、アタシのアルケーに刃向かうなんざ二万年早いんだよッ!』

 

脚の鍔迫り合いを切り上げ、逆の脚による回し蹴りで再び激突するベルガとアルケー。格闘を得意としているアルケーに格闘戦で応じるのは悪手も悪手なのだが、このベルガ・モルスは「接近戦に強く調整されている」。GNビームガンの銃口から発振されたビームサーベルをベルガのビームサーベルで弾き、脚には脚をと斬撃蹴りには斬撃蹴りを返し、バスターソードはショットランサーで受け流す。

 

互いに一歩も退かない攻防が続くと思われたが、これは神聖な決闘ではなくフリーバトルディメンションヴァルガで行われている乱闘の一つ。水を差すのも横槍を入れるのも漁夫の利を狙うのも、何でもありなバトルジャンキー共のエデンなのだ。突如として、ベルガとアルケーを狙った弾幕が襲い来る。

 

「チッ……!」

『っぶねぇ!』

 

『命中弾、無し!』

『あの弾幕を抜けたのか!?』

『よく避ける……!』

 

非常に濃密な弾幕だったが、そこは狂気のランカーと歴戦の女傭兵。それぞれが持つ防御装備を使うまでもなく弾丸砲弾の雨あられを無傷で回避してみせた。

 

「あのエンブレム……スカーレッド・ガンズか」

『おいおい、メタバース協賛企業のプロモーション部隊サマがこんな肥溜めに来て良いのかい』

 

『データ照合……傭兵プレイヤーのアリムと個人ランク347位THE Bi-neです!』

『GBNからの引き継ぎ組……!』

『野良犬と野良猫に変わりはねぇ、叩き潰すぞ』

『傭兵に後れを取る訳にはいかねぇ』

 

多くの協賛企業が付いているメタバース。その内の幾つかは、界隈の活性化と自社のプロモーションの為に専属プレイヤーを送り込んでいる。二人を襲撃したのは、そんな企業所属フォースの一つ【スカーレッド・ガンズ】のようだ。

 

ジンやディンの改造機に混じってモビルワーカーのカスタムタイプや、パワーローダーのような機体も見受けられる。そんな混成部隊の先頭に立ち、ベルガとアルケーに急速接近しているのは、増加装甲を纏ったらしいモノアイ式の頭部が特徴的な人型。そして重戦車のような下半身と明確な人型をした上半身が特徴的なタンクタイプの機体。

 

『ここは一時共闘と行くか?』

「貴様が感情を処理できる人間だったとは意外だよ」

『へっ……言ってくれるなぁ!』

 

行き掛けの駄賃代わりとばかりにバスターソードを振るうアルケー。斬撃と平行してベルガから距離を離し、スカーレッド・ガンズの攻撃第二波を潜り抜けながら先頭の二機に迫るアリム。あちらを先に叩くかとTHE Bi-neもまたアルケーの斬撃を避けた滑り動作を利用し、スカーレッド・ガンズとの距離を詰めていく。

 

三つ巴の激闘が幕を開ける、と思われたその時。

モヒカンが叫ぶ。まぁヴァルガのモヒカンはいつも叫んでるんだけど。

 

『核だぁー!』

 

そんな酸だー!みたいに。

だが言葉自体は真実で。スカーレッド・ガンズの後方、ベルガとアルケーの更に上空から大小様々な核弾頭ミサイルが飛来していた。

 

『なっ、何処の馬鹿だ!』

『あんな数の核弾頭を一度に撃つ馬鹿などあのフォースしかないだろう!』

『各機迎撃───』

 

状況を把握したスカーレッド・ガンズが核を迎撃しようと各々の武装を向けるが、それを待っていたとばかりに四方から飛び込んでくるのがヴァルガモヒカンチンパン達。

 

『コイツら!状況分かってんのか!』

 

『ヒャッハァ!どうせもう逃げらんねぇなら一人でも多く道連れだぁ!』

『墜とされる前に墜として撃墜のマイナス分を相殺すんだよぉ!』

 

『せめてもの情けだ。二、三発は墜としといてやるよ。頑張って生き延びな』

「混沌か。確かにな」

 

『ハーッハッハッハッ!!!我ながら完璧で素晴らしい数と配置だ!もうすぐ綺麗な青い大輪の花が咲くぞぉ?これこそが私の夢!私の望み!!私の業!!!』

 

より一層混沌としてきたヴァルガ。これにはクルーゼもニッコリ、するかどうかは微妙な所だが。上空に居たお陰で、核ミサイル着弾の影響から遠ざかる事が容易なTHE Bi-neとアリム。二人の耳にはオープン回線で垂れ流されている、核弾頭発射の犯人の声が響いている。恐らく下のスカーレッド・ガンズとモヒカンチンパン共にも届いているだろう。呆れと共に首謀者の正体に気付き、余りに理不尽な目にあっているスカーレッド・ガンズへの情けと、核狂いへのささやかな復讐としてミサイル迎撃に動く二人。

 

そんな二人に対し、新たな通信回線が開く。

 

『射線上に立つなとは言わないけれど、その場に留まり続けるのは勧めないわよ』

 

「っ!」

『っとぉ!』

 

咄嗟に現在高度よりも更に上へと退避する二機。数秒と経たず二機が居た空を切り裂くように、ビームと実弾が入り交じる嵐の如き苛烈な射撃が迸った。乱れ撃ちのように見えたそれらは、精密なロックオンの元で放たれたらしく、迫る核弾頭ミサイルを一基も残さず撃ち抜き破壊してみせたのだった。

 

「黒いストライクフリーダム……」

『今日は骨のある奴が居ないと思ったらこれか……我ながらエンカウント運が良いのか悪いのか分からねぇなぁオイ』

 

撃墜された核ミサイルの爆風と光に照らされ、黒と紫でリペイントされた装甲を僅かに輝かせながらフルバーストの構えを解いたストライクフリーダムガンダム。その圧倒的な威圧感に、地上のスカーレッド・ガンズとモヒカンチンパン共も動きを止め、特等席で核爆発を見ようとしていた核狂いフォースのリーダー レグフィナに至っては乱入者の正体を察して顔が引き攣っていた。

 

『自分の業を自覚していたとは意外ね、レグフィナ。ここからどうする?ディフェイル』

『個人的に一戦交えたいプレイヤーも居る。此方はこのまま戦闘に突入する!』

『了解、なら私は……』

『ヒエッ』

 

地表を滑るように高速移動してきたもう一機のモビルスーツ。どうやら黒いストライクフリーダムとは一時的な共闘関係だったらしく、互いに攻撃し合う事もなく会話を交わしている。どことなく犬を思わせるその機体は、空で状況を静観していたTHE Bi-neのベルガに向け一直線に加速を始めた。

 

「ほう、向かってくるか」

『ソロプレイヤーのTHE Bi-neだな?』

「その通りだが、そういう貴様は何者だ」

『GHC警備部預かりのディフェイルだ。お前には聞きたい事が幾つかある!』

「ふっ……!」

 

ディフェイルと名乗るプレイヤーの機体、その左肩装甲には、彼女の言葉通りGHC所属である事を示すエンブレムが描かれている。太陽炉か、それに連なる動力機関から粒子を放出しつつベルガ・モルスとの距離を詰めてくるディフェイル機。粒子放出口と同じバックパックに備え付けられた砲門をベルガに向け、躊躇無く発砲。放たれたのは高弾速のビーム。

 

「ヴェスバーか……」

『さすがにこの程度では墜ちないか。ならば!』

 

メタバースにおけるバトルでも、しばしば高弾速ビームライフルか狙撃銃として使われるヴェスバー。初見殺しの開幕ぶっぱだったが、この眼帯貴族は何よりもクロスボーンとF91を好むガンダムオタク。磨いてきた腕前もあって、そんじょそこらのヴェスバーには易々と当たってはやらない。ファーストアタックが失敗に終わったディフェイルが次に取った行動は、別の武装に切り替えての追い込み。両腕に内蔵されているらしき実弾武装を連射し、更にベルガとの距離を詰めていく。

 

「それで?私に聞きたい事というのは?」

『余裕だな……お前は悪か?』

「何かと思えば五飛のような事を言う……どういう意味だ」

『お前はGHCに対し敵対的な行動を繰り返している。企業に対して思う所があるのだろうが、自分を拾ってくれた恩ある者達に弓を引くなら見過ごす訳にいかない』

「なに……?」

『だが、一方でお前は新たな命の可能性を守ってもいる。自分の姉や兄たちからお前の悪評は聞かない。特にイドゥはお前を慕ってすらいる』

 

悪か?という要領を得ない質問から始まった問答だが、ようやく点と点が繋がった。拾ってくれたという言葉と新たな命の可能性、姉と兄、更にはイドゥの名。そこから導き出される答えは───

 

「貴様……ELダイバーか」

『そうだ、自分は守る為に生まれたELダイバー。故にお前の存在と行動が不可解だ。自分の恩人達に牙を剥き、自分のきょうだい達を肯定するお前が。もう一度問う』

 

『お前は自分が排除すべき悪か?それとも肩を並べるべき正義か?』

 

難しい質問だ。いや、答え自体は用意できるのだが、今現在二人が身を置いているヴァルガという場所が悪い。話し合いにここまで不適切な場所はメタバース広しと言えど他に無い。実際、ディフェイルの言葉を聞いている最中も、ディフェイル機の攻撃に加えて活動を再開したモヒカンチンパンとスカーレッド・ガンズからの流れ弾もあったのだ。それを全回避しながら問答に付き合っているのはランカー眼帯貴族の面目躍如か。

 

「どこから説明したものか。まず其方の攻撃を止めてもらう所からなのだが」

『申し訳ないがそれは出来ない。ここはヴァルガ、闘争を求めし者達の失楽園。戦う姿勢を見せ続けなければ今の数十、数百倍の弾幕に晒される事になる。弱った獲物にここで生き延びる資格は無いらしいからな』

「最もな理由だな!」

 

荒く納得を示しながら振り向き様のビーム発射。ショットランサーから放たれたそれは、気付いてないとほくそ笑んでいたブリッツの腹を貫通して虚空に吸い込まれていく。撃破には至っていなかったブリッツだが、キルポイントは自分の物だとハイエナの如く群がってきたヴァルガ民達によってあっという間に消し飛ばされてしまったようだ。

 

「落ち着いた場所の方が冷静に話し合いが出来ると思うのだがな!」

『悪いが今のお前の提案には応じられない。助けを求める声ですらない以上』

 

爪先のビームソードを両脚とも展開し、不用意に近寄ってきたグフ・フライトタイプとウォルターガンダムをまとめて蹴り裂く。その一瞬の隙を狙い、ヴェスバーとは反対側に装備しているレールガンをベルガへと向け発砲するディフェイル機。普通のプレイヤーならあえなく撃破となるタイミングだったが、この眼帯貴族は格闘に後隙が出来る事など織り込み済み。右下に向けているシェルフノズルを噴かし、強引に機体を動かしつつビームソードが食い込んだままの敵機を引き裂いてみせる。

 

「強情なELダイバーだ。ならば撃墜してロビーで待っていてもらおうか」

『ようやく本気になったな。望む所だ!』

 

左手に握らせたビームサーベルに再びエネルギーを流し刀身を展開、ショットランサーも構えて本気でディフェイルを墜とす事を決めたTHE Bi-ne。ディフェイルもまた自身の躯体に装備・内蔵された武装を全てアクティブにし、バックパックの機動ユニットの稼働率を引き上げる。互いの射撃を掻い潜りつつ距離を詰めていく両機。格闘の間合いに入った次の瞬間───

 

───では此処よりは静かな場所へとご案内いたしましょう。

───そこなら声も聞こえやすいはずですよ?

 

「むっ!?」

『なっ、あっ!?』

 

ベルガ・モルスとディフェイル機はヴァルガから消えていた。誰かに撃墜された訳でも、ログアウトした訳でもない。唐突に、初めから居なかったように。その姿を消し去ったのだ。或いは消された、か。

 

『あぁ?あの眼帯野郎、墜ちたのか?』

『ディフェイル機の反応……ロスト?』

 

『余所見とは良い度胸だな野良猫!』

『一時撤退、てったーい!リーダーがシワシワになっちゃった!』

 

直前まで戦闘をしていたアリムと、ディフェイルと行動を共にしていた黒いストライクフリーダムことケイオスフリーダムに乗るプレイヤー カミオは二人が消えた事に気付いたものの、アリムはスカーレッド・ガンズの隊員の一人に執拗に狙われ、カミオは何らかの因縁があるらしい核狂いフォース アトミック・ブルーブレイカーズ!構成員を追うので手一杯だった。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「チッ……!」

 

原因不明の転移によって機体の制御を一瞬失うTHE Bi-neだったが、リカバリーなど何度もやってきた事。巨大なポールのような物を避け、瓦礫の上にベルガを着地させた。

 

「今のは……何かしらの武装に見えたが。それにこの足場は……」

 

今しがた回避した円柱に既視感を覚え、ベルガの脚を着けたばかりの地面に違和感を覚える。鉄やコンクリートに加え、明らかにモビルスーツの手足や頭部、剥離した装甲などで埋まっている。それだけならマウンテンサイクルやジャンクヤードで片付けられるのだが、違和感の原因は、建造物の破片やMS・MAの残骸に混じって木々も乱雑に埋まっている事だ。

 

(おまけにノイズが走っている……まさか、ディメンションやバトルエリアの地形データ?)

 

『ひっ……あぁ……うっ、ぐぷっ……』

 

「ん?」

 

思考を巡らせていたTHE Bi-neの耳に聞こえてきた悲鳴と嗚咽。嘔吐一歩手前の音も聞こえた方向にベルガの索敵を走らせると、そこにはディフェイルの操る機体があった。どうやら同時に異常事態に巻き込まれたらしいが、ディフェイル本人の様子がおかしい。

 

「どうした?」

『き、こえ……こえ……そ、ら……!』

「空?……なっ!?」

 

空、或いは天井にベルガのメインカメラを向けたTHE Bi-neが見たモノ。そしてディフェイルの不調の原因。

それは───

 

「残骸……!?馬鹿な!空を埋め尽くすジャンク等あってたまるものか!」

 

地上のスクラップ溜まりとは比べ物にならない量のジャンクやエリアの欠片。それらが、本来見えているべき空を覆い隠し、世界全てに蓋をしているかのように蠢いていたのだ。更には、その残骸の空から地上に向かって何かが滴り落ちている。恐らくはMSのパーツ等だろう。そしてパーツが落ちて空いた穴は直ぐさま別の残骸が埋めてしまい、一向に向こう側が見えない。

 

「何なのだこの異常なエリアは……!ディフェイルとやら!出口を探すぞ!」

『うぅ……あっ……』

 

体調を崩したままのディフェイル。そういえば、とELダイバーの特性を思い出す。感受性が強く、個人差は有れど「ガンプラの声が聞こえる」という。空と大地のスクラップ機体群が、ゲーム側のNPCであってもその声が聞こえてしまうのだろうか。しかも目に映る機体は何れも破損しており、五体満足な物の方が少ない。それから聞こえるだろう声など、ELダイバーではないTHE Bi-neでも予想できる。

 

「本当に気が狂うぞ。思考ではなく動く事に注力し───」

 

『そのエンブレム……GHCか。新しい猟犬を飼ったらしいなぁ、クレダ・テイト』

 

「っ、誰だ」

 

『そちらはGHCではないのか。今回のリード引きかと思ったが、無関係……という訳でもなさそうだ』

 

ゲーム的には「まだ生きている」扱いのジャンクが多すぎるせいで、機能しなくなっているレーダーに一つだけ映る動体反応。同時に聞こえてきた声は、THE Bi-neの物でもディフェイルの物でもなかった。

 

『しかし、処理場にまで手駒を送るとは相変わらずだなサクラノミヤ・リンネ。形振り構わなくなった、と言うべきか?』

 

クレダ・テイト、そしてサクラノミヤ・リンネ。どちらもリアル、メタバース問わず名の通った有名人だ。片や世界規模の総合商社社長。片やそのGHCのバックアップを受けている国会議員。そしてGBNの頃から、バトルとビルドの腕前を遺憾無く発揮してきたダイバー/プレイヤーでもある。更に言えばどちらもELダイバーの保護や人権問題に切り込む「大人」だ。

 

「貴様は」

『さてな、自分を示す要素など持ち合わせていない。名前もダイバールックも、この機体すら破損データを継ぎ接ぎしただけのモノに過ぎん。唯一言えるのは、この処理場の管理者……いや、処理担当という事かな』

「処理場だと……?」

 

先程から何度か発している「処理場」という単語。そして破損データでパッチワークしたという機体。つまり、この場にあるジャンクを使って乗機を造り、他のジャンクを処理しているという事だろうか。

 

『あぁ、このゴミ山は私の管轄ではないぞ。落ちた物は放っておいてもその内消えるのでな』

 

消失の工程は空にストックされ、落ちた先で時間が経過するといった所か。ならば、アンノウンの言う「担当」とは何を指しているのか。これだけ多くのジャンクでないなら、何を「処理」していると言うのか。

 

『ほぉら来たぞ。今日は一匹か』

「あれは……まさか!」

 

アンノウン機がメインカメラを向ける先。ジャンクと共に小さな何かが降ってきていた。ズームしても尚確認しづらいが、落ちているのは紛れもなく「人間」だった。

 

「くっ!」

『救助でもする気か?させんよ』

 

咄嗟にベルガのスラスターを噴かすが、アンノウン機からの攻撃により空中でのキャッチが間に合わなくなってしまった。べちゃっ、と大惨事確定の音を響かせアンノウン機の近くに落下したプレイヤーと思わしき存在。ここがまだメタバース内ならリアルの生死には関わっていないはずだが。

 

『これが私の担当だよ。誰にも見付けられず、誰も手を伸ばそうとしなかった哀れな犬。同類のよしみで終わらせてやるのが私の仕事だ』

 

落下ダメージこそ無かったようだが、トドメを刺そうとアンノウンが近寄っていく。話の内容から落ちてきた人物が何者なのか、このアンノウンは何なのかを推察しながらベルガを飛ばすTHE Bi-ne。

 

「貴様もELダイバーか!そのプレイヤーも!なぜ処理などと、同じELダイバーを殺そうとする!」

『感情と切り離して思考が出来るようだ、素晴らしい能力を持っているようだな』

「答えろ!」

『どうやら本当に此処を知らず迷い混んだらしいな。此処はメタバースの終末処理場、プレイヤー達が壊したデータの破片が行き着く場所。いわばキャッシュの溜り場だよ』

「何!?」

 

アンノウンの言葉に驚愕するTHE Bi-ne。このジャンクや空を埋め尽くす気味の悪い残骸群は、全てプレイヤー達が生み出している物だとアンノウンは言い切ったのだ。

 

メタバースにはガンプラバトル以外の要素もある。だが、GBNから受け継がれたバトル要素が強いのもまた事実だ。そしてバトルを行えば、互いの機体やNPCの機体だけでなく、踏みつけられた地面や盾にされた建造物も破壊される。バトルやイベントが終われば何事も無かったように元通りになるモノが、実際はこの悍ましい場所に送られていたとは。

 

『破損データは此処でリソースに戻り別の何かを構成しては壊される、それを繰り返しているのだよ』

「そんなシステムが……」

『そして、その循環システムから外れている違反ゴミがある』

「っ!」

 

『ELダイバーだよ』

 

合点がいった。

ELダイバーは、ダイバー/プレイヤーとほぼ同じだけの複雑なリソースで構成されており、還元を待つだけのジャンクとは違って時間経過だけではリソースに還らないのだろう。更に先程の発言からして、ここに落ちてくるELダイバーはビルドデカールを適用されていない、ELバースセンターが保護できずプレイヤー達に発見すらされず消え逝くだけだった者達。その体の内には、メタバースと相容れないバグが残っている。

 

『だから私が処理している』

「くっ!」

『理解したか?なら、互いにとって何の利益も無い戦闘は今すぐ止めるべきだと思うがね』

「目の前で命が消されるのを黙って見ていられる程、人の心を失ってはいないのでな!」

『照合完了……THE Bi-neか。有志連合にも参加していたお前が、今さらELダイバーを庇うのか?』

「……!」

『アレを救ってどうする?一桁の奇跡にも賭けられなかったお前が、この私すらも知らない出口を探し当てる事が出来ると?』

 

アンノウンすらもこの処理場の出口を知らない、という衝撃的な事実が判明してしまった。その上、有志連合としてビルドダイバーズと戦っていたという過去を掘り返され、動揺が隠せないTHE Bi-ne。と思われたが。

 

「そのデータは完璧ではないな」

『何……?』

「私はビルドダイバーズに付いているよ。裏切り者らしく、ね」

 

挑戦者を見送った後の事を思い返しながら、ベルガにビームサーベルを振らせる。今思えばかなり傲慢な考えではあったが、あの奇跡を起こすなら自分程度は軽く越えていってもらわねばと考えていたのも事実。そして確かな可能性を見届け、裏切り者らしく戦ったのだ。卑怯だ何だと言われようと構わない。

 

「私はザビーネ・シャルが好きだが、キンケドゥもまぁそれなりに好きでね。奇跡を見せてやろうじゃないか」

『愚かな……』

「それと、まだ気付かないのか?」

『何だと?』

「この場に居るのは私だけではないぞ?」

 

『要救助者、確保!』

 

『なっ、動けたのか!あの猟犬!』

 

THE Bi-neがアンノウンを釣り上げている間に、どうにか復調したディフェイルがELダイバーの元へ辿り着いていた。慌てた様子で左腕に装備しているビームガンを向けるアンノウン機だが、ようやく見せた隙を逃す眼帯貴族ではない。加速を付けてのキックでアンノウン機の左腕を蹴り上げ、体勢を崩した所でビームサーベルを一閃。アンノウン機の頭を斬り落とした。

 

『チッ!』

「やはり、処理は得意でもバトルには慣れていないようだな」

『嘗めるな……!』

 

技量はTHE Bi-neが上だが、地の利はアンノウンにあるのだろう。落としたはずの頭部が、別の機体の頭となって復活したのだ。破損データでパッチワークした機体というのは確からしく、この処理場内なら幾らでも補充が利くのだろう。

 

『そこの犬、お前も少し遊んでいくといい』

『大型の熱源!?これは!』

 

左腕のビームガンを捨ててビームサーベルを握ったアンノウン機。ベルガとの鍔迫り合いを演じながら処理場に何らかの細工をしたようだ。転移直後にTHE Bi-neが回避した円柱が音を立てて動き始め、その周囲から巨大な手足が姿を見せる。所々破損してはいるが、その漆黒の巨体は間違いなくデストロイガンダムだった。

 

「露出していたのはフライトユニットのビーム砲か!」

『さて、どこまで守り切れるかな?』

 

 

◇◆◇

 

 

GFAS-X1 デストロイ、単独での拠点防衛または敵拠点の破壊を主な目的とした大型機。胸部のスーパースキュラと首もとに爆発痕、腹部に裂傷がある以外は目立った傷の無い機体。SEED DESTINY劇中でステラ・ルーシェが搭乗し、ヨーロッパ都市を焼き払った機体と思われる。恐らくこれも再現ミッションか何かで撃破されたデータキャッシュなのだろう。それを最期の状態とはいえ強制再起動して手駒にするとは、やはりこの場での有利はあのELダイバーにあるようだ。スキュラを使ってこない分、強力な火線が減るのは救いだが、如何せん他の武装も回避に手間取る物ばかりだ。どうにかして懐に潜り込まなければあっという間に磨り潰されてしまう。

 

「ぅ……あ……?」

「意識が戻ったか!少し揺れるが耐えてくれ!」

「ど……ぅ……?」

「安心しろ、必ず助ける!」

 

やはりネフェルテムとスプリットビームガンが厄介だ。アレに動かされた先でミサイルの雨を浴びせられたり、背中のアウフプラールを撃たれれば致命傷は避けられない。THE Bi-neもアンノウンの隙を見ては援護射撃をしてくれているが、デストロイのヘイトはこちらに向いたまま。完全に付け狙われている。自分の躯体、ガードロンに装備されている格闘武装はスタンスティックのみ。ビームの嵐を抜けても、これで倒せるかどうか。

 

「ぁ……に……る……?」

「何だ?すまないが、今は!」

 

「な……ん、で……?」

「え?」

 

「たす……ぇ……る……?」

「なんで、助ける……?それは……」

 

その答えを自分はまだ持っていない。誰かを守り助けるという、そういう気持ちと行動のデータから生まれたらしいから。今はただそうしているだけ、そこに自分の意思は本当に介在しているのだろうか。

 

『避けろ!止まるな!』

「っ!?」

 

THE Bi-neの警告。足の止まった自分に向けて頭部のツォーンを撃とうとしていたようだ。

 

「な、ん……ぇ……?」

「答え……答え、は……」

 

デストロイが両腕を切り離した。違うそうじゃない、この子に対しての答えは。シュトゥルムファウストによる多角的な攻撃を狙っているのだろう。違う、違う、何の為に戦うんだ自分は。もう被弾覚悟で突撃するしかないのか。

 

駄目だ、思考がまとまらない。

 

『守り抜け!』

「っ!」

 

『理屈だ何だと考える暇があるなら体を動かせ!足を動かして走れ!手を伸ばして掴め!どうしても今、戦う理由が必要なら!きょうだいに死んでほしくないからとでも叫べ!恩人を、きょうだいを案じていたヴァルガの時の貴様は幻だったのか!』

 

「家族を……守る……」

 

あぁ、そんな簡単な事で良かったのか。

 

「なん……で……?」

「目の前で家族が傷付けられて、黙っている訳にはいかないから、かな」

「か……ぞ……ぅ……?」

「あぁ、手の届く所に居る者すら守れないで、メタバースの警備だなんて笑い話にもならない」

「まも……ぅ……」

 

そうと決まればこの破壊者をどうにかしなくては。腹部の裂傷かスキュラの爆発痕に全火力を注ぎ込めば倒せるか?いや、迷う前に動け!

 

「…………ん」

「アレは?」

 

急に指を差したきょうだい。ジャンクの空から落ちてくる残骸の一つが、マーキングされたように光る。それは、頭部と右腕、右膝から先を欠損したフリーダムガンダム。あの状態のフリーダムなら───

 

「間に合うか……!いや、間に合わせる!」

「ま……も、る……」

 

GHCの航空部隊直伝のマニューバが役に立った。付け焼き刃ゆえに左腕を持っていかれたが、それ以外は無事だ。シュトゥルムファウストの回避とフリーダムの落下をまとめて計算に叩き込み、一気にガードロンを加速させる。近付いた事ではっきりと分かった。

 

まだ持っていてくれた。

 

「データ再構築、及び武装アジャスト……間に合ってくれ!」

 

フリーダムから拝借したモノを手にデストロイへ直線加速。増加装甲と追加装備の強制排除も設定し……ここまで緊迫した状況下で、これだけのマルチタスクをしたのは初めてだ!

 

「届けぇぇぇぇっ!!!」

 

 

◆◇◆

 

 

「ディフェイル!」

『ふん、文字通り犬死にだったな』

 

ディフェイル機の行く手を完全に塞ぐ形で張り巡らされたビーム。追い撃ちのミサイルランチャーも着弾し、ディフェイル機は撃破されてしまったかのように見えた。

 

だが───

 

『ぅおぉぉぉぉぉあぁぁぁぁっ!!!』

 

爆風の中から飛び出す機影。全身の増加装甲をパージした事でシルエットが変わったディフェイル機だ。今の姿が正真正銘、本来のモビルドールディフェイルなのだろう。庇った事で無事だった右手には、連結形態アンビテクストラス・ハルバードモードのラケルタビームサーベルが握られていた。

 

『何だと!?』

「ふっ……アーマーパージアタックか」

 

一息にデストロイの懐、もとい胸元に飛び込み、ラケルタビームサーベルを突き入れるディフェイル。そのまま強引にスーパースキュラの砲口を切り裂き、反対側のサーベルで更に一閃。ダメ押しとばかりにサーベルを手放し、右サイドスカートから抜いたスタンスティックを傷口に押し込む。最大電圧を超え、過負荷によって暴発寸前となった物を。

 

スタンスティックごとスキュラの砲口を蹴り飛ばし、踏み台にして離脱するディフェイル。一矢報いようとツォーンをディフェイルへと向けるが、発射より早くスタンスティックが暴発。機体各部のエネルギー系に誘爆し、原作における最期と同じく虚空にツォーンのビームを放ちながら倒れ、デストロイは沈黙した。

 

『ハァッ……!ハァッ!やったぞ……!』

「そのまま出口を探せ、こいつは私が抑える」

『EL使いの荒い男だ……!』

 

『……無駄だ、この処理場に出口など無い』

 

そう、根本的な問題は解決していない。

どうやってこの処理場から出るか、その解決法が見付からない限り状況は好転しないのだ。

 

(被撃破戻りも可能性はあるけど、さすがに却下だ。この処理場内で撃破なんてされたら、どうなるか分かったもんじゃない)

 

『ゆれ……』

「ん?」

『こ、え……』

 

悩むTHE Bi-neをよそに、モビルドールディフェイルのコクピット内では、名も無きELダイバーが再び指を差していた。残骸の空、その一角を。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「いい加減に諦めたら?」

『断る!まだまだ撃ち足りない!』

『青き輝きが満ちる世界の為に!』

『リーダーの分まであたしらが撃つんだ!』

『A・BB!の核ぢからはメタバースイチィ!』

 

未だ乱戦続くヴァルガ。何のトラウマがあるのか、カミオの存在を認識した途端しわしわ電気ネズミになってしまったレグフィナの為にも!と核狂いフォース、アトミック・ブルーブレイカーズ!のメンバーが奮闘していた。カミオとしては彼ら彼女らが何発核を撃とうが関係は無いのだが、戦おうとした相手を消し炭にされるのも癪なのでA・BBの第二次核発射を抑止し続けているのだ。

 

「そう……なら、容赦は───」

 

───……ミ……オ……

 

「ん?」

 

───カ……オ……!

 

「声……?通信、は開いてない……」

 

───カミオ!

 

「ディフェイル?」

 

個別の通信回線は開いていないにも関わらず、姿を消したはずのディフェイルの声がカミオの聴覚を揺らす。いったい何事かと困惑しながらも、ヴァルガチンパンの一機を連結状態のビームライフルで撃ち抜き、正面から斬り掛かってきた宇宙世紀のザクを腹部のカリドゥスで撃破する。更に連結ライフルとは逆の手、右腕で保持しているオリジナル武装「長射程ビームヘビーマシンガン デストロイア」を上空に向けて掃射。虎視眈々と核発射を狙うA・BB機を牽制してみせる。

 

「急にロストするから心配したのよ?何があったの?」

 

───時間が無いから手短に。

 

───世界を揺らしてほしい。

 

「え……?世界を、揺らす?」

 

───何でもいい!とにかく大きな力で!

 

「大きな力と言われても……」

 

ディフェイルからの急な頼みで更に困惑を深めるカミオ。一対多の殲滅・制圧はケイオスフリーダムの得意分野だが、一極集中の超火力と言われるとやや外れる。要はダメージこそ取れるが衝撃に関してはそこまで強くないのだ。悩みながらも、周囲に爆発物等の使える物は無いかと探すカミオ。

 

ふと上空に目が向き───

 

「あるわ。おあつらえ向きの馬鹿火力が」

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

『恩に着るよ、カミオ。THE Bi-ne!脱出はどうにかなりそうだ!』

「了解した。……チッ」

『そう簡単に逃がすと思うか?』

「貴様も共に来れば良いものを!何故そこまで同類を殺す事にこだわる!」

 

『それが私の存在証明だからだ』

 

底冷えするような暗く無機質な声。

アンノウンは言う、同じELダイバーを殺す事こそ自分が自分である証明なのだと。

 

『その猟犬が守る事を存在意義としているのと同じだよ。私はこの場で、ELダイバーを、殺す事こそが存在証明。私が生まれた意味となるのだから』

「分かり合うつもりは無いと?」

『分かり合えないのだよ、根本的にな!』

 

ELダイバーは誕生の際に参照・収集したデータに性格や行動規範が左右される。剣に魅せられた者達の高みを目指す魂を垣間見たのなら侍のようなELダイバーが、圧倒的な火力こそ正義と信ずる者達の逸楽を感じたのなら砲兵のようなELダイバーが。そして、誰かが誰かを想い、守りたいと願ったからこそディフェイルのようなELダイバーが生まれた。アンノウンも然り、そう在れと誰かが想い願い吐き出した感情がアンノウンを生み落とした。

 

「ELダイバーの命を消せと、そして人間の娯楽の為に世界を循環させろと。そう言われればそうもなると?」

『そうだ、だから殺す。この地獄に落ちてきたモノは例外なく。全て!』

「人の業か……!」

 

ディフェイルへと向けられたレールバズーカをバックパックから伸びるシールドで逸らし、全シェルフノズルを稼働させて一気に距離を詰める。何故か砲身下部に備え付けられている銃剣にショットランサーを合わせ、思い切り下からカチ上げる。そしてTHE Bi-neは、切り札の一つを切った。

 

「この距離ならば!」

 

ブラックナイトから移植した武装は爪先のビームソードだけではない。胸部装甲を開き、無数の短針をアンノウン機に浴びせたのだ。断続的な連射によってフェイズシフト装甲をダウンさせるまでに追い込む事が出来る短針砲。ベルガとブラックナイトスコードの機体サイズ違いの関係で搭載数こそ減少したが、その瞬間的な破壊力は侮れない。

 

『ぐっ、うぉあぁ!?』

 

「まだ終わりではない!」

 

大きく体勢を崩したアンノウン機に対して追撃のサマーソルトキック。もちろん爪先ビームソードを展開した状態でだ。左足のソードでアンノウン機の右腕を肩口から切断しつつ、腰のラックからサーベルをパージ。ちょうど機体が正面を向くタイミングでそれを掴み、発振したビーム刃で胸部を貫く。新たな【さようなら】コンボだ。

 

「これで───まだ再生するか……!」

 

『THE Bi-ne!穴が空くぞ!』

 

コンボ締めのさよキンキックを受けて吹き飛ぶアンノウン機。だが、即座に姿勢制御を行い復帰、更には右腕も別機体のパーツで修復しダメージが無かった事になってしまう。もはや不死身と言えるアンノウンを相手にこれ以上の時間稼ぎは難しいと考えるTHE Bi-neだが、ディフェイルから待ちに待った報告が飛ぶ。

 

その直後。

 

世界が揺れた。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

『ハーッハッハッハッハァッ!!!如何にカミオと言えどエネルギー切れではどうにもなるまいよ!!!撃て撃てェ!我らが核の満ちる世界の為になぁ!ハーッハッハッハッハァッ!!!』

 

何が起きたか、それは至極単純。カミオが止め続けていたA・BBの核を撃たせたのだ。しかも意図的にフェイズシフトを落とし、エネルギー切れに見せかけた事で敵の油断を誘った。しわしわ電気ネズミになっていたレグフィナも鬼の首を取ったように復調している。積年の怨みとばかりに地表近くのケイオスフリーダムに向け、各々の核を連射するA・BBの面々。

 

もっとも、カミオはとうにその場を離脱しており、アトミックハイになった核狂い共が欲望を解放しているだけなのだが。

 

『おぉ!見ろチャルル!我らの熱意と核意がメタバースに届き、ヴァルガの大地に大穴を空けたようだ!』

『おぉー!ほんとだ!凄いねぇ!』

 

核意って何。

 

「……これで良いのよね?ディフェイル」

『なっ、い、生き延びていたとは驚きだなぁカミオ!』

「お生憎様。別に動けない訳ではないもの」

 

大穴の様子を窺いに戻ってきたカミオ。本当にこれで良かったのかと若干の不安が垣間見えている。一方、そんなカミオの事情など知った事ではないレグフィナは、先程の核乱舞を無傷で生き延びていたカミオを見て再び顔を引き攣らせていた。

 

『ええぃ!こうなればアレを使う!チャルル!』

『アレ?』

『最近作った一番新しいのだ!』

『あー……あー!アレね!オッケー!』

 

いそいそと僚機に準備をさせるA・BB副官のチャルル。直ぐに準備を整え構えられたのは、鉄血のオルフェンズにて使用された禁止兵器ダインスレイヴ。なのだが、何故か特殊KEP弾が青白く輝いている。カミオは深く溜め息を吐いた。

 

「まさかとは思うけれど、ダインスレイヴで躱せない核を撃つ、なんて言わないわよね?」

『そのまさかだが?』

「はぁ……」

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「出口にしては少々荒いな」

『自分もここまでとは思わなかった……』

 

一方、処理場の二人。

処理場の空を埋め尽くす残骸の一部が核攻撃によって吹き飛び、大型機がギリギリ一機通れる程度の穴が空に抉じ開けられていた。どうやらヴァルガ側の穴と処理場側の穴はサイズが一致していないらしい。

 

『どう、やった……』

 

「む?」

 

『あり得ない……メタバースと処理場を隔てる壁がそう易々と壊れるはずが……いや、そもそもメタバース側のゴミを送るだけの一方通行のはず。相互に通れる穴が空くなどと……!』

 

「私にも分からんよ、このメタバースはGBNの頃から分からない事だらけだ。だからこそ何度も挑み、学び、分かち合う。それはダイバー……プレイヤーに与えられた自由だ。ディフェイルにも、あのELダイバーにも、そして貴様にもな」

 

『自由など……無い!』

 

脱出口を目指して飛翔しているモビルドールディフェイル。その後にベルガを続かせる動きを入力するTHE Bi-neだが、アンノウンに最後の提案をする。やや遠回しではあるが、一緒に外を見ないかと。だがアンノウンはそれを一蹴し、残骸に細工を施す。

 

『あるのは決められた運命だけだ!』

 

先程と同じく地面から破損データ機が立ち上がる。再起動したのはまたしてもデストロイガンダムだが、この機体は背部フライトユニットが丸ごと欠損しており、左腕も肘から先が無い。更に胸部スーパースキュラも一門が塞がれている。だがそれでも左手のスプリットビームガンや、残った二門のスキュラ、顔部ツォーンは健在だ。放置すれば離脱中に背後から多くの火線に晒される事となる。

 

(ディフェイルだけでも先に行かせるべきか。デストロイを抑えながらアンノウンも……それなりに厳しい戦いになりそうだ)

 

「私が殿を務める。先に───」

 

見えた。

何かヤバいのが。

ここは俺に任せて先に行け!と振り向き、一度ディフェイルと大穴の方向を確認しようとしたのが功を奏した。

 

遥か出口の星が青く輝いて見えたから。

 

青 白 い 凶 星 が

 

「射線上から退け!」

『射線?えっ、はあっ!?』

 

凶星が一際強く輝いた瞬間、何とか姿勢を変え、青白い流星と化したヤベー物体を回避したディフェイル。眼帯貴族も警告と同時に回避済み。だがフライトユニットを失い、THE Bi-neの回避運動に気を取られていた38mちょいの巨人に流星を躱す術などあるはずもなく。

 

「最大稼働で退避しろ!ここから出るぞ!」

『りょ、了解!』

 

デストロイに青白い流星が着弾、一拍置いて爆発。

核だこれ。

 

「掴まれ!」

『すまない……!』

 

強化ユニットをパージし、強引な突撃もした影響か中々推力の上がらないモビルドールディフェイル。ビームサーベルを腰のラックに戻し、空けた左手でモビルドールディフェイルを掴み共に離脱する。

 

『私はこれからも殺し続けるぞ。お前達の傲慢な手から溢れ落ちた哀れな犬をな』

 

『なら自分は……自分達は救い続ける!声を聞き続けて駆け付ける!大切な家族の元に!』

 

遠ざかる背に、定められた運命のまま殺し続けると投げ掛けるELダイバー。

その手を握れなかったきょうだいに、運命など知った事か、自分は手を伸ばし続けると叫ぶELダイバー。

 

二人のやり取りを聞きながら穴を抜けるTHE Bi-neのベルガ・モルス。ヴァルガへと出た直後、ベルガとディフェイルの背後で穴は静かに閉じるのだった。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「ただいま」

 

返事の無い独り暮らしの家、そのドアを開けて愛しい我が家へと入る。

 

疲れた。

というのがTHE Bi-neのリアル、サビネ・タカトの嘘偽り無い感情だ。処理場内での戦闘もさることながら、処理場を脱出してからも忙しなく動き続けていたのだから当然だ。何なら慣らし運転とはいえ、ヴァルガでの戦闘もしていた。これで疲労を感じない人間が居るなら是非とも疲労軽減の方法を教えてほしいものだ。

 

まず、メタバース内に戻った事でバグに似た症状が再発したELダイバーの少女を、ELバースセンターに連れていく事から。正常なゲーム内に戻ったとはいえ、その戻った先はヴァルガ。流れ弾でディフェイルが撃墜などされれば、同じコックピット内に居る少女がどうなってしまうか分かったものではない。タカト/THE Bi-neが援護しつつ、エネルギー切れの偽装を解いたカミオの支援もあって無事にヴァルガを離脱。ELバースセンターに辿り着き、少女の治療及びビルドデカールの適用ができた。

 

「そういえば……あの人は何だったんだろうか」

 

ふとELバースセンター到着直前の事を思い出す。もう少しで到着、という時。物陰からTHE Bi-ne達の機体をじっと見つめていたプレイヤーの姿があったのだ。

 

「敵襲かと思ったけど、機体は出さないし見てるだけだったし……」

 

むしろ何もしてこないのが不気味だった。ELバースセンターの管轄エリアに入った途端に姿を消した謎の人物。推測しようにも情報が少なすぎる。

 

「一応センターには共有しておくかな」

 

メタバース簡易ログインも可能な携帯端末のスリープを解除し、そこまで数の多くない連絡先からELバースセンターを選ぶ。GBN時代に保護したイドゥの件もあって、センターの職員とはそれなりの付き合いだ。特にあの目付きの悪い紫ハロとか、眼鏡を掛けたエルフ耳くんとか。

 

「よし、っと。で、店の方は?」

 

自身が店長を務める喫茶店BLACK VANGUARDからのメッセージは、とリアルの方の連絡欄を開く。緊急のメッセージはログイン中でも表示されるようになっている為、それが無かったという事は非常事態は起きていないという事なのだが。

 

「……ははっ、またヨリが多く食べたのか」

 

時間帯リーダーにして住み込み四姉妹(血は繋がっておらず)のリーダーでもあるサエリからの報告。食材のストックが少し減った、といった業務連絡が幾つかと、昼休憩の賄いをヨリがしれっと多く食べていた、という苦笑するしかない日常報告。

 

「まぁ、こういうのも悪くないね」

 

メタバースと共に新しくなったタカトの日常。

明日は自分も店に出る日だなと再確認し、諸々の準備を終わらせ、独身貴族飯を作り、愛機達を軽くメンテナンスして……と緩やかかつ時に慌ただしく過ぎていく日常。以前の人を避けていたコミュ障時代からはとても考えられないだろう日常。

 

こういうのも悪くない、ともう一度胸の内で呟くタカトの顔は穏やかだった。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「随分と嬉しそうねぇ団長」

『えぇ、えぇそれはもう。壁を薄くしたとはいえ、人が自らの意志と力でもって理を揺るがしたのですから』

「気になる子でも居たのかしら?」

『今はまだ様子見です、暫くはこの世界を観測するに留めましょう。私は一度拠点に戻りますが、貴女は如何されます?』

「私はもう少しインしているわ。何かあったら声を掛けてちょうだい」

『分かりました。では』

 

深紅に染まったファントムガンダムと、海洋生物の意匠を多分に含んだアビスガンダムのパイロットが会話をしている。かと思えば、深紅のファントムの姿が一瞬にして消える。ヴァルガでTHE Bi-neのベルガとディフェイルがロストした時のように。そして、エリア移動のポータルへと入っていくアビス。その足跡には大小の水溜まりが出来ており、決して深くはないはずの水溜まりからは何かの瞳が外を覗いていた。

 

 

◇◆◇

 

 

「仮面を着けたドレスの女……?」

「彼が見た、というか見られてたプレイヤーの姿はそんな感じだったらしいよ」

 

ELバースセンターにて。

目付きの悪い紫ハロとエルフ耳の眼鏡を掛けた青年が話をしていた。アンシュとコーイチだ。

 

「仮面舞踏会みたいなアバターなんざ幾らでも居る」

「そうだね、カスタマイズの幅はGBNの時よりも拡がっているし」

「だが、そいつがあの眼帯を……いや、ディフェイルと保護されたELダイバーを、このセンターを見てたんだとしたら話が変わってくる」

「うん……」

 

THE Bi-ne一行を見つめていたプレイヤーに心当たりがあるような口振りの二人。アンシュの傍らにあるデスクトップにはTHE Bi-neからのメッセージが表示されており、それよりも大きく表示されているデータも映っていた。そのデータのファイル名にはこう入力されている。

 

【ELD-13】と。




カミオ「エネルギー切れと言ったわね」
レグフィナ「そうだカミオ!」
カミオ「あれは嘘よ」

【喫茶店 BLACK VANGUARD】
THE Bi-neことサビネ・タカトが開いた喫茶店。
東京都内のとある喫茶店に何度も足を運んでいたタカトが、その店への憧れから開店した。舌で盗む分には構わないとの事だったのでカレーとコーヒーを研究し、自分の店のメニューにも出しているが、「我流で誤魔化さざるを得ない部分が多くオリジナルとは比較にならない」との事。それでもカレーをはじめとして様々な料理は軒並み好評。
後述のスクワッドメンバーの住み込み先でもあり、居住スペースも完備されている。

【ブラックスクワッド】
メタバースに登録されているフォースの一つ。
リーダーのカギウ・サエリ/サリエ
狙撃手のツチダ・ヨリ/ヒョウリ
砲撃手のシバウラ・ミキ/キザシ
そして姫とも呼ばれるサジョウ・イツコ/リブラ
以上の四人で構成された小規模フォース。
まだGBNだった頃にTHE Bi-neと交戦したらしく、その時の縁でタカトが後見人を買って出た事で四人まとめてBLACK VANGUARDの住み込み従業員となった。

【ベルガ・モルス】
THE Bi-neの新たな乗機。
GBN時代から愛用しているベルガ・ギロスにブラックナイトスコード シヴァのパーツを組み込んで改修した機体。胸部短針砲と爪先のビームソードをメインに移植されており、サブアームの追加によってシェルフノズルの装備数も増えている。上下のシェルフノズルの間に同じくサブアームで保持された物理シールドがあり、六枚の羽根を広げた蝶か蛾のように見える事からモルスの名が付けられた。
他にも、ショットランサーが木星決戦仕様のビギナ・ギナⅡと同じビームライフル内蔵型になったり、サイドスカートにシヴァのビームサーベルを追加していたりと細かな改修も多い。

【スカーレッド・ガンズ】
メタバース協賛企業の一つが自社プロモーションも兼ねてゲーム内に送り込んでいるフォース。
モビルスーツやモビルタンク、モビルアーマーだけでなくパワーローダーのような小型機も戦力として投入しているのが特徴。
ガンズナンバーと呼ばれる番号持ちが他のメンバーよりも実力を持っている証。今回のヴァルガに現れたのはガンズナンバー4と5。
4はザウートとヒルドルブをベースとしたタンク型、5はルブリス量産試作モデルにアサルトシュラウドを纏わせ頭部をモノアイ式に改造した人型に搭乗している。
同じ企業所属部隊としてのライバル心があるのか、GHC所属のプレイヤーを敵視している。

【ディフェイル】
GHC警備部預かりのELダイバー。
尖った犬耳と灰がかった青髪、尻尾が特徴の獣人チックなアバターが特徴。ミリタリースタイルの装いにボディアーマー、上腕や太腿のホルスターと拳銃にナイフ、予備弾倉なども目を引く。
警護や守護などのデータから生まれたらしく、誰をどうやって何から守るのか、を知らぬまま奔走していた危うい気質だったが、今回の一件で「きょうだいや家族を守りたい」と信念に筋が通った。
乗機兼躯体は「モビルドールディフェイル」。GHCでライセンス生産されたGBN-ガードフレーム、試作型GHCフレームに専用のガードドッグユニットを装着する事で「GHCガードロン」となる。

【カミオ】
メタバースからの新規プレイヤー。
軍服のような服装と悪魔のような角、蝙蝠の羽を腰辺りから生やしたアバターが特徴。150cmに届かない身長から勘違いされやすいが、リアルは卒業を控えた高校生。
愛機は黒に紫、一部を白で塗装し、スーパードラグーンのマウントをアバターと同じ後腰に変更したストライクフリーダム「ケイオスフリーダムガンダム・ゲヘナ」。
武装は全て流用だが、ビームライフルは基本的に連結状態で左手に保持され、右手にはカミオが自作した武装「長射程ビームヘビーマシンガン デストロイア」を備えている。また、スーパードラグーンもG-アルケインのフルドレスバインダーを参考に改良され、マウント状態でも180°の可動域を確保。重力下でもドラグーンを加えたフルバーストが可能。

【EL-U】
GBNから続く決して外にその存在を知られなかった破損データキャッシュの行き着く先、「処理場」に一人存在しているELダイバー。劇中でアンノウンと呼ばれていた個体。
ELダイバーの存在を許さない過激派の思想と、このゲームが長く何の異常も無く続くようにという願いが積み重なって生まれたらしい。
データに混じって落ちてきた他のELダイバーを正常なリソースに還す役割を担っている。
機体は処理場の残骸を継ぎ接ぎした物で、処理場内なら半ば無限に増え続けるデータから補充可能。その為ベースは存在せず、本人ともども名前は無い。EL-Uは便宜上の呼称であり、UはUnknownの頭文字。

【ELD-13】
THE Bi-neとディフェイル、救助されたELダイバーの少女を見つめていた謎の存在。表情を完全に覆い隠す仮面を装着し、ウェディングドレスと喪服と拘束衣を組み合わせたような服装をしている。
13番目に確認されたELダイバーらしいが……?

【団長】
THE Bi-neとディフェイルを処理場へと転移させた存在。深紅のファントムに搭乗していた。何故そんな事が出来たのか、どうやって処理場へ送ったのか、何が目的だったのか等々謎の多い怪人。

【オリビエ・ヴィクスン】(原案:青いカンテラ 様)
シスターかメイドかといった風情のアバターが特徴的な女性プレイヤー。深紅のファントムに乗った団長と話していたアビス乗り。
乗機の「アビスクィード」は烏賊のような形状となった肩アーマー、両手のスネークハンド、腰から多数伸びるテンタクラーロッドといった海洋生物のような意匠となっている。

【アトミック・ブルーブレイカーズ!】
(出典:青いカンテラ 様)
愛すべき……愛せるかこれ……な核狂い共の集い。
通称A・BB。
核に魅せられた青白い光に集う狂人集団であり、ヴァルガだから核を撃つのではありません、核を撃ちたいからヴァルガに居るのです!そこに大義名分などありません!とラクスなのか地獄公務員なのか分からない発言もあったとか無かったとか。
リーダーは袖が余ったサイズの合っていないだろう白衣を来たレグフィナ。その副官として、核の魅力云々は分からないけど幼馴染みが楽しそうだからヨシ!というサムシングのチャルル。
アトミックダインスレイヴを筆頭とした頭アトミックな代物を次から次へと実戦投入しており、その度にヴァルガモヒカンチンパン共は消し炭になる。仕方ないね。

【サクラノミヤ・リンネ】(出典:守次 奏 様)
GBN時代から「バエリングお嬢様」として名を轟かせていたダイバーにしてプレイヤー。
現在はGHCのバックアップを取り付け、国会議員として活動している。ELダイバー人権問題などを提起し、それに第一人者として取り組む人格者。
言うまでもなくバエリスト。

【ガンダムSEED RAID BATTLE FREEDOM】
近日開催予定のシリーズ指定レイドバトル。
イベント名はかつて携帯ゲーム機で発売されていたSEEDシリーズのタイトルをオマージュしたもの。
FREEDOMの時系列を含めつつアレンジした4つの勢力に分かれ、選出された大将機が撃破されるかそれ以外が全滅させられるかで争う大規模チームデストラクション制。参加登録時の機体によって配属勢力が異なり、連合、ザフト、歌姫の騎士団(クライン派)、ファウンデーションの何れかとなる。
歌姫の騎士団のみ配属プレイヤー数が少なく、原作さながらの少数精鋭となり、この勢力のみ敵総戦力に合わせて運営側のシステムが適正と判断したプレイヤーに招待が届き選出される。

というのが本来想定されていたルールだが、何やら仕様変更が噂されているらしい……
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