いよいよ那田蜘蛛山編です。
基本は原作沿いですが、原作から少しだけ変わるところもあります。
それではどうぞ。
炭治郎たちが療養のため藤の花の家紋の家を訪れてから数日、特に怪我のなかった私と真菰さんは炭治郎らが療養の間はそれぞれで体が鈍るのを避けるために、軽い基礎鍛錬を中心に行いながらしばしの暇を過ごしていた。
時折、炭治郎たちの怪我に影響が出ない範囲で、彼らの鍛錬にも付き合ってあげていた。
なお、その間あの女たらしの癖のある我妻善逸が、ふと普段炭治郎の背負っている箱から起き出てきた禰豆子の姿を見て、やたらと気持ちの悪い笑顔で炭治郎に屁子へ越していたり、鬼殺隊になるまでは大師範の所にいてある程度礼儀作法くらい学んだはずの伊之助が、まるでそんなことなかったかのような、元来からの野生児っぷりを発揮して炭治郎や真菰さんらに隙を見つけては決闘を挑んだりと、私の心情からすれば気の休まるようなときが全くないほど慌ただしい日々であったが
そんな日々が続く中でようやく。
「完治でございます」
医師から炭治郎たちの怪我が完治したとの太鼓判が押され、それが伝えられるのとほぼ同じくしてやってきた鎹鴉から新たな任務が言い渡された。
任務の内容はここからそう遠くはなれてない地にある那田蜘蛛山、この山に複数体の鬼が潜んでいるという情報が今回の指令の前に入り、既に何名かの隊士が隊を組んで乗り込んでいたはずであった。
しかし、その隊士の多くが行方知れずになっているという、そこでその近くの藤の花の家紋の家にいた私たちに緊急でお呼びがかかったといった所であった。
しかし、指令の内容から那田蜘蛛山に潜むという鬼は複数体、それもかなりの強敵であることが予測される。私や真菰さんならともかく、炭治郎たち癸の隊士に相手が務まるとは当然思えない。
勿論それを知ってか知らずか鴉は加えて私と真菰さんも炭治郎らとともに那田蜘蛛山に向かうよう指示を出してきていたが。
「真菰さんは、今回の指令……どう思う?」
「那田蜘蛛山には結構な数の隊士が向かってるはずだから、それがみんな行方知れずなことを考えると……十二鬼月……少なくとも下弦くらいの鬼がいるんじゃないかな?」
「やっぱり……そうなるわね……」
十二鬼月。
鬼の首魁、鬼舞辻無惨直々の配下の鬼たち。それは上弦と下弦と6体ずつの鬼たちで構成され、特に上弦と呼ばれる十二鬼月の力は優に柱3人分くらいはあるとされ、歴史上柱含め多くの鬼殺隊士らがその手に掛かって亡くなっている。
一方下弦の鬼に関しては上弦ほどの力はなく、少なくとも柱くらいの鬼殺隊士ならばまず負けることはないとされているが、それでもそんじょそこいらの雑魚鬼とは比較にならないほどの実力はあり、やはり多くの鬼殺隊士がその手によって葬られてきてもいる。
「最悪、本部に鴉を飛ばして、柱の出陣を要請する必要がありそうね……」
私が真菰さんとそうやり取りをしている間に、炭治郎たちも支度ができたようで次々に藤の花の家紋の家から出てきた。
「それでは、お世話になりました」
「どのような時でも、誇り高く生きてくださいませ……ご武運を」
最後に藤の花の家紋の家の主であるひささんから切り火をしてもらい、私たちは一路、那田蜘蛛山へと向かった。
那田蜘蛛山に到着して早々に感じたのは、この山から漂うあまりにもひどい刺激臭であった。
私や一般人並みの嗅覚の善逸はまだしも、人より数段鼻の利く炭治郎や、師の鱗滝同様に鼻が人並み以上には利く真菰さん、そして、大師範の所に行く前は文字通り獣に育てられ一般人のそれ以上に嗅覚など感覚の優れる伊之助には辛い場所だろう。
「匂いもそうだけど、この山……」
その上、那田蜘蛛山の地形は外から見ても分かるほど、鬱蒼と樹々の生い茂った森で、夜中であればなおの事視界が悪く鬼からの不意打ちを喰らいやすい最悪としか言いようのない環境であった。
「とにかく、入山の際は全員で、できるだけ固まりになっていきましょう。こんな地形だと離れ離れになったとことで各個撃破されかねない」
「うん……炭治郎たちも分かった?」
「はい!」
「うげぇえ……やっぱり入るの? この山に!?」
「ガハハハ! 弱味噌は相変わらずだなぁあああ!!」
「誰が弱味噌だ!」
「ッ!?」
すると、突然炭治郎が何かの匂いを感じ取ったのか、鼻を僅かに動かした後に山の麓の方へ走り出した。
追いかけてみるとそこには一人、傷ついた鬼殺隊隊士の姿があった。
「大丈夫ですか!」
炭治郎がその隊士に声をかけその隊士に駆け寄る。
私たちも少し遅れてその隊士に近づき傷の状態を伺う。幸い毛がそれ自体は浅くきちんと休養を取れば完治するくらいであった。
私たちはとにかくこの隊士から事情を聞こうとこの山で何があったのかをこの隊士に問いかけると。
「山に入ったら突然……隊士同士で斬り合いになって……俺は命からがらどうにか逃げてここまで来たんだ……」
「隊士同士で斬り合いに!?」
「頼む……助けてくれ……」
そう告げた後、すぐにこの隊士は意識を失った。私はすぐさま鴉に応援を呼ぶように告げ飛ばすと善逸にこの隊士を安全な場所まで運んでいくよう指示を出した。
「お、俺がぁ!?」
「山に入りたくないんでしょ? 貴方は足が速いし鬼殺隊として鍛えてるんだから、人一人運ぶのくらいわけないでしょ?」
「で、でもさぁ……」
「生憎、任務をあれやこれや理由付けて躊躇ってるような臆病者を一緒に連れて戦えるほど、今回ばかりは余裕がありそうにないのよ! ずべこべ言わずにとっとと行きなさい!」
「わ、分かりました!!」
途中善逸は渋るも私がそう檄を飛ばすと、いやいやながらも指示に従い負傷した隊士を背負ってその場を後にした。
「大丈夫ですか? 善逸」
「炭治郎……悪いけど私がさっき言ったことは事実よ……この山にはおそらく、十二鬼月がいる」
「ッ!? 十二鬼月!?」
「派遣した複数名の隊士が一同に行方知れずとなったという指令の内容……それに殺気の隊士が言ってた話からの推測だけど、まず間違いないとみていいわ。十二鬼月の力は言わずもがな、並の隊士ではまず相手にするのは困難……山に入ったら一時も警戒を怠ることがないようにね」
「わ、分かりました!」
「腹が減るぜ!」
「腕が鳴る、だよ? 伊之助」
善逸を見送った後私は炭治郎と善逸にそう告げると、炭治郎、伊之助、真菰さんの3人と共に那田蜘蛛山の中へと歩みを進めた。
山の中は外で見たとおりの環境であった。鬱蒼と生い茂る樹々に足場もよくはなく、夜になってるせいもあるが、この様子では昼間でもそう日の光が差さないであろう程に暗く視界が悪かった。
しかも入る前から山から漂って来ていた刺激臭は中に入るとなおの事酷く、鼻の利く炭治郎や真菰が普段やってるように匂いを辿って鬼を見つける、などということも困難だ。
「うわっ! また蜘蛛の巣……」
「私は平気だけど、蟲が苦手な隊士にとっては別の意味でも地獄ねココ」
「私も平気だよ。鱗滝さんの所で修業してる時も山の中で、結構いたし見慣れてるから」
「俺も大丈夫です。元々山育ちなので」
「俺は全然平気だぜ! 蟲なんざ屁でもねえ!!」
しばらく歩くと、樹々と林の間から1人、鬼殺隊の隊服を着た青年の姿が目に入った。山に入ったという鬼殺隊隊士の生き残りだと炭治郎が一番に駆け寄ろうとするが、私は既の所で炭治郎を止める。
「待って、さっきの隊士が言ってたでしょ? 森に入った途端隊士同士で斬り合いが始まったって」
「か、カンナさん!?」
「慎重に、周りにも警戒しつつ近づくのよ、いい?」
「はい……」
私と炭治郎を先頭に、周囲を警戒しつつも徐々に徐々にといった感じで、慎重にその隊士へと近づいていき。
「どうやら大丈夫のようね」
「はい……大丈夫ですか!?」
「ッ!? 誰だ!?」
どうやら問題はないとそう私が判断したのち、炭治郎はその隊士に声をかけた。
「応援に来ました。階級・癸、竈門炭治郎です」
「雪柱・蓮刃導磨が継子、階級・甲、氷室カンナです」
「水柱・冨岡義勇の継子の鱗滝真菰、階級は甲」
炭治郎に続く形で私と真菰さんもその隊士に声をかける。
「水柱……冨岡の所の!? それに雪柱、導磨様の継子のカンナ様まで!? 良かった……柱じゃないのは少々不安だったけど、冨岡の所の継子にカンナ様なら安心だ! けど、なんで癸の隊士まで?」
「彼等とは合同の任務で一緒に行動しています。大丈夫です、先の選別を突破した選りすぐりの5人のうちの2人で、全集中の呼吸も十分に使える猛者ですから」
「そ、そうか」
「何があったのか、詳しく教えてもらえないかしら?」
「ああ……」
隊士の名は村田と言い、その名前に真菰さんが少しだけ驚いたのを見てその理由を聞くと、どうやら現水柱、冨岡さんと同期で隊士になった間柄らしかった。
村田さんはゆっくりと自分たちの身になにが起きたのかを話してくれた。
那田蜘蛛山には村田さんをはじめとした癸以上の隊士らで構成された討伐隊で入ったらしい。
しかし入山してすぐに一部の隊士が仲間の隊士に斬りかかるというような事態に陥り、村田さんも先の山の麓にいた隊士もそこから命からがらどうにか逃げてきたらしい。
「他に何かわかることは?」
「糸……そうだ、斬りかかってきた隊士、よく見ないとわからないくらい細いんだが、糸のようなものが体に括り付けられてた。おそらくそれで操られて、そんなことに」
なるほどと、私は村田さんの言葉で先の隊士が言っていたこと、その理由と元凶が分かった。
「カンナ、それじゃ」
「その糸が……」
「ええ……ッ!?」
そうこう話していると、その件の隊士たちがこちらにゆっくりとだが近づいてきた。
「みんな、刀を構えて! 来るわよ!」
「うん!」
「はい!」
「俺に命令すんじゃねえ!!」
「わ、分かりました!」
私がそう叫ぶのとほぼ同じく、その隊士たちは一斉に私たちめがけて斬りかかってきた。
「そうか……私の
月明かりが照らす邸宅の中、縁側にて瀕死の鴉を撫でながら一人の男が静かにそう口にした。
「那田蜘蛛山、そこに十二鬼月がいるかもしれない……柱を行かせなくてはならないようだ、義勇、しのぶ、導磨」
『御意』
その男の言葉に静かに答える者たちが3名、鬼殺隊、水柱、冨岡義勇、蟲柱、胡蝶しのぶ、雪柱、蓮刃導磨であった。
「鬼も人も仲良くすればいいのに、冨岡さんもそう思いませんか?」
「無理な話だ、鬼が人を喰らう限り」
「そうだね~鬼にとって、人は文字通りの餌……それが鬼の習性である限り、俺たちと鬼は、相容れることはない」
3人の鬼殺隊の柱たちは邸宅から姿を消し、一路、鬼の闊歩する那田蜘蛛山へと向かうのであった。
つづく
雪華こそこそ話
真菰も炭治郎、鱗滝ほどではありませんが鼻が利きます。
その為今回の那田蜘蛛山、真菰にとっては結構つらい環境だったりします。