鬼滅の刃 雪華ノ乙女   作:アウス・ハーメン

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第12話 本物の絆

 炭治郎、カンナの2名が下弦の鬼、累と対峙している中、伊之助、真菰と2体の鬼たちとの死闘も依然続き、戦いは熾烈を極めるモノとなっていた。

 

「くそ、真琴(まこと)と完全にはぐれちまった。しかも俺の方にいるのは……」

 

「がぁあああああああ!!」

 

 伊之助と真菰の2人は先ほどまでは2人で2体の鬼と戦っていたのだが、戦いの最中完全に分断されてしまったのだ。しかも伊之助が対峙している鬼は、あの大柄の蜘蛛頭の異形の鬼であった。

 異形の鬼は体が堅固なうえ力も強く、伊之助一人では全く歯が立たず追い詰められてしまっていた。

 命からがら近くの木の陰に身をひそめ、どうにかあの鬼を斃すすべはないかと考えを巡らせはしたものの、元々物を考えるというのがあまり得意ではないことに加え、戦い続け疲労がたまったことでの焦りも相まって。ついに我慢の限界とな力の陰から飛び出し、猪突猛進の言葉通り異形の鬼へと突進。

 

「うぉおおおおお、クッソがぁあああああ!!」

 

 その堅固な腕に刃を振るい、最初の炭治郎の時と同じく刃は鬼の硬い肉を前に途中で刃が止まってしまうものの。

 

「オラァ゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

 即座に伊之助はもう片方の刀の刃で刀の峰を思い切り叩き、その勢いで一気に異形の鬼の腕を斬り落とした。

 

「ガハハハ!! 1本で斬れなきゃ、2本分の力で叩き斬りゃいいんだよ!! だって俺、刀2本持ってるもんね!!」

 

 その事で伊之助は勝ち誇ったように大喜びする。だが突如その異形の鬼は伊之助に背を見せ何処かへと走り去ってしまう。

 

「てめぇ! 逃げんじゃねえええ!!」

 

 伊之助は慌ててその鬼を負う。しばらく走ると伊之助はその異形の鬼に追い付くが、その異形の鬼はいつの間に登ったのか木の上におり、そこでブルブルと震えていた。

 

「ケッ! 怖気づいてブルブル震えてやがる」

 

 だが、その鬼は決して伊之助相手に怖気づいたわけではなく、次の瞬間その異形の鬼の背中が盛り上がったと思うと、途端にそこから何かが飛び出て伊之助の前に降ってきた。

 

(なッ! 脱皮した!?)

 

 異形の鬼は先ほどよりもさらにその体躯を大きく、更に周囲に放つ圧もより強力なモノへと変え、再び伊之助へと襲い掛かった。

 先ほどまでですらほとんど歯が立たなかったほどだというのに、脱皮したその異形の鬼の力は最早比べ物にならないほどに速さも強さも増し、伊之助はその鬼にいいように弄ばれ、とうとうその鬼に頸を鷲掴みにされ持ち上げられてしまう。

 

「畜生……だが、俺は死なねえええ!!」

 

獣の呼吸、壱ノ牙 穿ち抜き

 

 それでもなお、伊之助はその鬼の頸に刀を突きさし、頸を刎ねようとするが、その鬼の頸は先ほどよりもさらにその硬度を増しており、刃が刺さったはいいがそこからはピクリとも動かすことができない。

 その間も鬼は伊之助の頸を折らんとその手の力を籠め続ける。

 そして今、まさに頸を折られんとなったその時、伊之助の脳裏には走馬灯が走った。

 炭治郎や善逸、カンナ、真菰など自身がこれまでに出会った鬼殺隊の隊士たち、藤の花の家紋の家の主ひさ、そして。

 

『ごめんね、ごめんね伊之助』

 

 その顔こそ見えなかったが、自身の名を呼び涙を流す女の人。

 最早これまでかとそう伊之助が思った瞬間、突如その異形の鬼の腕は掴んでいた伊之助ごと地面へと堕とされた。

 

水の呼吸、肆ノ型 打ち潮

 

 朦朧する意識の中、伊之助が見たのは一人の男の手で、あの堅固な体を持った鬼の体が、細切れのごとく斬り落とされていく様であった。

 

 

 

「アハハハハ! ここまでよく頑張ったってところだけど、さすがにもう限界みたいだね!」

 

「ハァ……ハァ……くっ!」

 

 一方、真菰の方も少年の鬼と熾烈な戦いを展開していた。

 伊之助とはぐれた時は流石にあせりはしたが、同時に戦っていた大柄の異形の鬼の姿も見えなくなったことで、真菰はどうにか自身の長所である身軽さを生かし、少年鬼の放つ糸の刃を避けながらも、頸を刎ねようとその機を窺っていた。

 しかし、すでに真菰も体中に躱しきれず受けてしまった糸によって付けられた切創や避ける際に地面などを滑ったときについた擦過傷などが目立ち、疲労も相当にたまっていた。

 

「これで終わりだよ!」

 

血鬼術、綾ノ目波状ノ絃

 

 少年鬼はトドメにと、真菰に対し網目状になった糸の刃を放つ。

 

(あぁ、これは避けられないなぁ)

 

 その糸の刃は縦横一杯に張り巡らされ、上にも左右どちらにも逃げ場などなかった。

 完全に逃げ場のない攻撃を前に、真菰は自分の死を悟る。

 だが次の瞬間、その網目状の巨大な糸は瞬く間にバラバラに切り裂かれた。

 

「えっ!?」

 

「な、なんだと……糸が!?」

 

 直後、特徴的な半々羽織をはためかせながら、一人の長髪の男が真菰の前に降り立った。

 その男はつい今しがた伊之助と対峙していた異形の鬼を斬った男であった。

 

「俺が来るまで、よく堪えた。後は任せろ、真菰」

 

「……少し、遅いよ……義勇」

 

 その男は、水柱、冨岡義勇であった。

 真菰は義勇の顔を見ると、安心したのか気が抜けてへたりと地面に座り込んだ。

 

「鬼狩り……新手……だけど、何人来たところで!!」

 

血鬼術、波紋ノ絃・連

 

 少年鬼は義勇へと新たな糸の刃を放つ、だが。

 

水の呼吸、拾壱ノ型……

 

 

 その糸はいずれも義勇の下へと到達する前に、全て断ち切られてしまった。

 

「えっ!? そんな、糸が……」

 

 そして、少年鬼が再び義勇のその姿を捉えた時には既に、その少年鬼の頸は胴と泣き別れとなり地面に墜とされていたのだった。

 

 義勇が使ったのは水の呼吸の拾壱ノ型であった。

 本来水の呼吸は拾までしか型がない。だが義勇は自ら新たな型として、この拾壱ノ型を編み出した。

 無風状態で一切揺れ動かない海の如く、義勇の間合いに入った全ての術は無へと変わり、一瞬のうちに鬼の頸を斬る。

 それが拾壱ノ型、凪であった。

 

「遅いよ、義勇」

 

「これでも急いできた方だ……無事か?」

 

 義勇はそう言い披露で座り込んだままの真菰に手を貸してやる。

 普段から口下手で言葉足らずなこの冨岡義勇という男だが、同門の弟子に対しての面倒見は実は意外といい方だ。

 真菰は義勇の手を取り何とか立ち上がった。

 

「うん、平気……そうだ義勇、ここに来る前に伊之助に会わなかった?」

 

「伊之助?」

 

 ふと真菰は伊之助の事を思い出し義勇に問うた。

 義勇は最初、伊之助という隊士の事が分らず首をかしげたが、即座に真菰が伊之助の特徴を話し。

 

「頭に猪の被り物を被った、半裸の男の子だよ。あと刃こぼれしてる2本の日輪刀を持ってる」

 

「あぁ……」

 

 義勇もその隊士に心当たりがあったので。

 

「樹に吊るしてある……」

 

 と、それだけ答えた。

 なおそれを聞いた真菰はというと。

 

「義勇、ちゃんと話をするのなら主語、述語はキチンと一言一句ちゃんと話さないと伝わらないよ? 私なら兎も角しのぶとかカンナだとそんな言葉足らずなことしたらまず、刺されるか凍らせられるかだから、気をつけてね」

 

「…………」

 

 ものすごく怖い笑顔で義勇にそう、キッチリ警告したのであった。

 

 

 

 一方炭治郎、カンナと下弦の伍、累との戦いは依然として続いていた。

 最初、お前たちの絆は紛い物だと豪語した2人であったが、やはり下弦とはいえ相手は十二鬼月、炭治郎は元よりカンナにとっても極めて強大な相手、戦いは早々に劣勢に追い込まれた。

 

「本当、人間って口ばかりだね。そっちの女の方の隊士はそこそこやるようだけど、お前はそのくらいなんだ」

 

「くっ!」

 

 カンナこそ体に負った傷は左頬に腕などの僅かな切創くらいであるが、炭治郎はそのカンナの倍以上の傷をすでに負っていた。

 

「お前たちは楽には殺さないよ。うんとずたずたにした後刻んでやる。けど、さっき言った言葉を取り消すのなら一息で殺してやるよ」

 

「冗談を!」

 

 いくら十二鬼月とはいえ、あまりにも舐めた態度にカンナは再び怒りをあらわとし、炭治郎も。

 

「取り消さない! 俺とカンナさんが言ったことは間違っていない! 可笑しいのはお前だ!!」

 

 そう累に強く叫んだ。

 

「間違ってるのはお前だ!!」

 

 炭治郎はそう叫ぶと累へと向かって行く。累も反撃にと糸の刃を炭治郎に向けて放つが、炭治郎はそれに怯んで足を止めたりはしない。

 森に満ちた刺激臭が和らぎ、炭治郎の鼻の感覚が戻りつつあったのだ。そのおかげで最初の時よりもずっと、累の放つ糸を躱せるようになっていた。

 

(こいつ、思った以上に頭が回るいや、それ以外の何か、別の感覚で糸を掻い潜ってる!?)

 

 だが、累は余裕の表情を崩さない。更なる糸を炭治郎に向けて放つ。

 

水の呼吸、壱ノ型 水面斬り

 

 炭治郎は自身めがけて飛んでくる糸を斬ろうと技を放つが。

 

「ッ!?」

 

 なんと、炭治郎が糸を斬るために振るった刀は、その糸の強度に負けてポッキリと折れてしまったのだ。

 

「炭治郎!!」

 

雪の呼吸、壱ノ型 粉雪

 

 それを見たカンナが即座に炭治郎の前に入り、雪の呼吸の壱ノ型で炭治郎に迫る糸を切り裂いたが、それでもすべては買わせずにいくつかが炭治郎の顔面を掠めてしまう。

 

「がぁ!」

 

「カンナさん!」

 

 だが、炭治郎よりもカンナの方がひどかった。

 先ほど炭治郎をかばうために累との距離を詰めた結果、炭治郎に向けて放たれた糸の多くをその身で受けてしまったのだ。

 炭治郎が負ったのは顔への切創1つくらいであったがカンナはその顔に3本、腕、足に合計7か所の切創を負ってしまった。

 

(くそ! 俺が、俺が未熟だったせいだ。刀が折れた……しかも俺を庇うためにカンナさんが怪我をした! すみません、すみません!)

 

「心の中で誤ってる暇があるのなら、すぐに刀を拾って戦いなさい!」

 

「ッ!」

 

 炭治郎の心を後悔の念が埋め尽くすが、即座に聞こえたカンナの叱咤で炭治郎は我に返った。

 

(そうだ! まだ戦いは終わってない、俺はまだ生きてる!! だったらまだ、あきらめちゃいけないんだ!!)

 

 炭治郎は折れたとはいえ、まだわずかに歯を残している自身の日輪刀を拾い、再び累へと向かう。だが、累もその炭治郎めがけ再び糸を放ち攻撃をかける。

 

(ダメだ、よけきれない!)

 

 累の猛攻は炭治郎の対応速度を超えていた。複数の糸が容赦なく炭治郎へと襲い掛かろうとしたその時。

 

「ッ!? 禰豆子!!」

 

 炭治郎の背負う箱から禰豆子が、炭治郎の前へと飛び出し、代りに糸の猛攻を受けたのだった。

 炭治郎は慌てて禰豆子のその身を抱きかかえ累との距離を取る。

 

「禰豆子……炭治郎を庇って」

 

「禰豆子、禰豆子!! 兄ちゃんを庇って、ごめんな」

 

 炭治郎はそう必死に禰豆子に謝罪する。

 

(あの子供の背負ってる箱から女の子が!?)

 

(でも、あの子、気配が人じゃない、鬼だわ!)

 

 その2人を機の陰から2人の少女鬼が驚いた様子で見つめ。

 

「お前……それ……兄妹か……」

 

「だったらどうした!?」

 

 一方の累は、震えた手で禰豆子を指さし炭治郎にそう問うていた。

 

「兄妹……兄妹……妹は鬼になってる……なのに一緒にいる……妹は兄を庇った……身を挺して……」

 

 わなわなと振るえながらも累はそう静かに、一つ一つ言葉を紡いでいく。

 

「る……累!?」

 

「…………」

 

 そんな累を少女の鬼は震えながらそう口にしながら見つめ、もう片方の少女の鬼は冷めたような視線を彼とその少女の鬼の両方に送っていた。

 

「本物の絆だ、欲しい!」

 

 累の叫びが森の中を木霊する。

 

つづく




雪華こそこそ話
カンナの鴉の名前は斎潔(ゆきよし)、斎潔とは雪の語源とされる言葉の1つ。元はカンナの姉の鴉だった。
なおカンナの本来の鴉はカンナが初任務の時に負傷して引退している。冨岡の鴉に負けず劣らずのおじいちゃんだったのだが、冨岡の鴉、寛三郎と比べるとキチンとした鴉でカンナを相棒以上に、孫のように大切にしてる良い鴉であった。
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