鬼滅の刃 雪華ノ乙女   作:アウス・ハーメン

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長かった那田蜘蛛山編もこれにて一区切りです。

カンナ込みなので展開が原作から結構変わっています。

それではどうぞ。


第13話 ヒノカミとセッカ

 まるで、幼子の我儘だ。

 最初にあの鬼の言葉を聞いた、私の感想はそういうモノであった。鬼となった人間は、食人衝動に駆られるのみならず、人間であった頃にあった理性よりも心の奥底にある欲望、それに対する歯止めが利かなくなるきらいがある。

 あの鬼もその類なのは明らかだった。しかも外見から察するにまだ親の庇護下にいるべき子供の頃に鬼になったがために、世間知らずな上自分自身の欲への歯止めがなおの事利かないのだ。

 普通、大人の鬼ならばまだ身の振り方を考えるモノだ。だがあの鬼は自分の欲しいモノには素直な一方、気に入らないことにはとことん気に入らないようで、自分の思い通りにならないことをとことん嫌う。

 それはこの鬼の放つ言葉の数々で容易に推察できた。

 

「ちょっと……ちょっと待ってよ、私が姉さんよ、姉さんを捨てないで!」

 

「うるさい黙れ!」

 

 あの鬼が自身の手を横に凪ぐと、少女の鬼の頸がコトンと墜ち、その余波に巻き込まれた森の樹々が一斉に斬り倒された。

 

「結局、お前たちは自分の役割をこなせなかった。いつも……どんな時も」

 

「待って……挽回させ――」

 

「あの子が……本物の絆っていうのが、貴方の一番欲しいモノなの? 累」

 

 あの累という鬼と少女の鬼の会話に、も1体の少女の鬼が割り込んだ。累という鬼に頸を墜とされた少女は猶も青褪めた顔で懇願するような言葉を吐き続けるが、もう1体の方はものすごく冷たい表情をしていた。

 

「あぁ……僕は、あれを見て心底感動したんだよ。彼らの絆……体が震えた。この感動を表す言葉は、きっとこの世にないと思う」

 

 そんな少女の鬼に、あの累という鬼はそう語っている。

 その言葉を全て聞いた後、もう1体の少女の鬼は深い溜息を吐いたのち。

 

「そう……それじゃ、ただのごっこ遊びの役者に過ぎなかった私たちは、もう用済みってことでいいかしら?」

 

 そう冷たく言い放った。

 

「ああ……もういらないよ、お前たちはさ……自分たちだけで生きていくことができるっていうのなら、好きにしたらいい。もう止めたりしないから、どこにでも行くといいよ」

 

「そう、それじゃそうさせてもらうわ」

 

「ちょっと……なに勝手に決めてるのよ……ねえ、私は!」

 

「ああもう、五月蠅いなぁ、早くどっかに行ってよ」

 

 累のその言葉を聞くと、もう1体の少女の鬼は先ほど頸を墜とされた方の少女の鬼の頭と体をそれぞれの手に抱えてその場から走り去ってしまった。

 私はどうにか追おうと立ち上がろうとするも、先ほど負った怪我が痛んで思うようには力を出せなかった。

 

「さっき言ったとおりだ。坊や、話をしないか」

 

「断る!」

 

 2体の少女の鬼がこの場から完全にいなくなったところで、累という鬼が炭治郎にそう話しかけていた。最も、炭治郎は先ほどの少女の鬼たちとの会話から累の話の内容が何なのかはすでに分かっており、即答でそう答えたのだが。

 

「そう、でも君たちはこのままじゃ死ぬしかない。でも唯一それを回避する方法がある。君の妹を僕に頂戴。大人しく渡せば命だけは助けてあげるよ」

 

「断る!」

 

 なおも諦めずに炭治郎にそう提案する累。最も炭治郎の答えも変わるはずがない。

 

「ふざけるのも大概にしろ! 口を開けば家族の絆だと言うくせに、やってることと言ったらその真逆だ! 本人たちの意思は全部無視して、恐怖で縛り付けて自分の思い通りにしようとして、気に入らなければ平気で傷つけて。しかも、いらなくなったら平気で捨てる……ふざけるな!! そんなものが家族の絆なわけないだろ!! 禰豆子は物じゃない、自分の意思も思いもあるんだ!! 禰豆子は渡さない、渡すものか!!」

 

 私は炭治郎の言葉に強く頷いた。

 炭治郎の言う通りだ。あの鬼がこれまで、他の鬼たちと築き上げたモノは到底、家族の絆などとは、いや最早絆などと言えるモノでは到底ない、ただの恐怖による支配、従属だ。

 だから、あんなにあっさり他の鬼たちはアイツを置いて逃げたのだ。アイツの、累の言う通りの絆があったのならそうアイツが言った所でこの場に残り、あの鬼と共に戦うことを選んだだろう。

 だがそうしなかった時点で、もうあの鬼の言う絆とやらは最初から無いのだと証明された。

 

「そう……それじゃいいよ、殺して奪うから」

 

「俺がその前にお前の頸を墜とす!」

 

「威勢がいいね、できるならやってごらん」

 

『十二鬼月の僕に勝てるならね』

 

 そう言って再び炭治郎が累に対し刀を構える。私もどうにか立ち上がり、刀を構えなおした。

 相手は腐っても十二鬼月。だがここで負けるなんて考えは、私も炭治郎にもありはしない。

 あんな馬鹿なガキに、誰が負けてなどやるものか。

 

 

 

 十二鬼月、そう呼ばれる鬼の力は極めて強大だ。上弦は言わずもがな、下弦でも一般の鬼殺隊士が相手にするには荷が重い相手だ。

 この下弦の伍、累もまたそんな十二鬼月の1体。当然そんじょそこらの雑魚鬼など比較にならないほどに多彩な血鬼術を持ちその力も極めて大きい。

 〝お前の頸を墜とす〟そう豪語したはいいが炭治郎にとってやはり、十二鬼月である累は相手にするには荷が勝ちすぎる相手だ。

 すでに炭治郎の日輪刀は折られ、そも身にはいくつもの傷が付けられ、疲労も相当溜まっている。

 

 だが、それでも炭治郎は諦めてはいなかった。

 ここで負ければ禰豆子はあの鬼にいいように利用されるだけだ。幼子の我儘の如く自身の妹をよこせと言ったあの鬼、そんな鬼に負けるなど、炭治郎にとってあっていいはずがなかった。

 炭治郎は起死回生の思いを込めて、水の呼吸の最後の型を繰り出す。

 

水の呼吸、拾ノ型 生生流転

 

 一撃、二撃、三撃、四撃と回転しうねる龍の如きこの技は、その回転を重ねるごとにその威力を増す。

 すさまじい硬度を誇る累の糸だったが、その技の四撃目でついに炭治郎は切り裂くことができた。

 

「ねえ、糸の強度はこれが限界だと思ってる?」

 

血鬼術、刻糸牢

 

 だが、累の攻撃はまだ終わってはいなかった。炭治郎の眼前には正しく蜘蛛の巣の如き血濡れの糸が広がる。

 〝ダメだ、この糸は切れない〟一瞬、炭治郎は本当に死を覚悟した。この糸によって自身は文字通り細切れにされるのだと。

 だが、その糸が炭治郎を細かに刻まんとしたとき、突如、その糸は炭治郎の目の前で凍結し、砕け散った。

 

「なに!?」

 

 あまりに一瞬であったため、炭治郎もそして累も何が起きたのか、その瞬間は分からなかった。炭治郎が次に見たのは、累の懐に入ったカンナの姿であった。

 

雪の呼吸、漆ノ型 雪華ノ乙女

 

 カンナが繰り出したのは雪の呼吸の漆ノ型。壱から陸までしかない雪の呼吸の型。この型はカンナ自身が生み出した、カンナだけの型であった。

 瞬く間に放たれる6連撃の斬撃、1つの斬撃が振るわれるたびに、カンナの周りを雪の結晶が煌びやかに舞う。その技を繰り出すカンナの姿は、恰も舞を舞ってる雪の精霊、そう見間違うか如く美しいモノであった。

 

「がぁ! バカな、体が凍る……!」

 

 だが、それでも累を完全には御することはできず、反撃に放たれた最硬度の糸がカンナに一斉に襲い掛かる。

 

「カンナさん!」

 

 炭治郎がカンナの名を叫ぶが、カンナはピクリとも動かない。炭治郎はすぐさま、匂いでカンナの状態を知った。

 そう、この時カンナは完全に意識を失っていたのだ。今の技、雪華ノ乙女はカンナのその身にも相当な負荷をかける技だったのだ。その技を怪我と疲労がたまった状態で咄嗟の判断で放ったが故にカンナの肉体はその反動を諸に受け意識を奪われ身動きを取ることができなくなったのだ。

 このままでは確実にカンナの命が奪われる。

 

(どうすればいい! どうすれば、カンナさんを!!)

 

『呼吸だ……』

 

 ふと、考えを巡らせていた炭治郎の脳裏に、今はなき彼の父の言葉が蘇る。

 

『炭治郎……息を整えて、ヒノカミ様になりきるんだ』

 

 瞬間、炭治郎が繰り出したのは。

 

ヒノカミ神楽、円舞

 

 水の呼吸とは違う、正体不明の技であった。

 その威力たるや、水の呼吸の最後の型、生生流転を軽く上回り、累の放った糸を容易く断ち切った。

 

「炭治郎!?」

 

 炭治郎が糸を斬るとともにカンナは気がついた。

 

(よかった、カンナさんの意識が戻った。だが、ここで止まるわけにはいかない! 水の呼吸からヒノカミ神楽の呼吸に無理やり切り替えたんだ! その跳ね返りが来る!! やるなら今しかない!!)

 

 だが、炭治郎はまだ止まらない否、止まれなかった。呼吸を途中で無理やり変えた以上、今動きを止めれば炭治郎のその身にはその事での反動が確実に襲う。そうなれば炭治郎はかなりの時間動けなくなる。カンナも今の技でフラフラな状況だ。

 累の方もまだ終わりではないと更なる糸を放つ。だが、それを知っても炭治郎は止まらない。炭治郎は最早相打ちとなってでも、相手の頸を刎ねるつもりでいた。

 炭治郎のその身を累の放った糸が今まさに、その命を奪わんと襲い掛かったその時、禰豆子が再び炭治郎の前に立ちはだかり、その糸から炭治郎を庇う。

 

「禰豆子!」

 

「君は……また……」

 

 炭治郎を庇ったことでその身は再び血濡れとなる禰豆子だったが、次の瞬間。

 

血鬼術、爆血

 

 禰豆子を刻んだ糸が激しく燃え上がった。それだけでなくその炎は糸を伝わり累のその身すらも焼いていく。

 

「今だ!」

 

 その瞬間、累の間合いに炭治郎が入り。

 

「俺と禰豆子の絆は、誰にも引き裂けない!!」

 

 彼の頸を刎ね飛ばした。

 

(そんな、嘘だ……僕が……十二鬼月の僕が……こんな奴らに頸を……)

 

 累の心が最初に感じ取ったのは屈辱であった。十二鬼月にまでなった自分の頸が、こんな弱小な隊士の手で刎ねられたという許しがたい屈辱。

 

(これが……本物の絆……家族の絆)

 

 だが、次に感じたのは。それとは全く異なる感情であった。

 

(僕が……本当に欲しかったのは……)

 

―――――

―――

 

 

 下弦の伍、累は人間だったころは極めて病弱な少年だった。ある雪の日、他の子どもたちが元気に雪遊びをしているところを見た累は、自分も一緒に遊びたいとその下へ向かおうと1歩を踏み出したのだが、即座に足が縺れてその場で倒れ伏してしまったのだ。

 しかも、その拍子に自身が患う病の発作まで現れてしまい、結局それはかなわなかった。

 

 なんで自分はこうまで体が弱いんだろう。なんで自分は他の子どものように遊ぶことができないのだろう。

 累はずっと孤独だった。それ以上に悲しくて悔しかった。自分の体が弱いために、他の子どものように元気じゃないために両親には負担をかけ、心配させてばかりだった。

 

 だが、そんな累に転機となる出来事が舞い降りた。

 

『可哀そうに、私が救ってあげよう』

 

 鬼舞辻無惨、彼との出会いであった。彼に血を与えられた累は、鬼となり強靭な体を手に入れた。日の光に当たれないこと、人を喰わねば生きていけないこと、それらは累にとっては些細な事だった。

 強い体を手に入れられたこと、これまで出来なかったことができるようになったことが誇らしくて、嬉しかったのだ。

 

 だが、彼の両親はそのことを喜びはしなかった。

 そして――。

 

『なんてことをしたんだ、累!』

 

 ある日、累が人を喰っているところを彼の両親が見てしまった。

 母は泣き、父は涙で濡れた顔で、累に包丁を向けた。

 

『大丈夫だ、累……一緒に死んでやるから』

 

 咄嗟だった。累はただ、死にたくないという本能から、両親を殺めた。

 

『すべては、お前を受け入れなかった両親が悪いのだ。己の強さを誇れ』

 

 無惨は、放心する累にそう優しく、だが同時に甘く囁いた。

 

 ―――違う、僕はずっと、そう思い込んできただけだ、そう思わなければ気が狂いそうで仕方がなかったから。

 

 今際の際となってやっと、累は思い出したのだ。

 自分の心の奥底に閉じ込めていた真実を、自分が本当に欲していたものは何かを、自分がしたかったことはなんだったのかを。

 

「…………」

 

 崩れ始めた累の体、鬼が消えていく、その時に発する肺のような匂い、その中から炭治郎は彼が抱いた悲しみとそして、後悔の念を感じ取った。

 気が付くと炭治郎は彼の、累の体をまるであやすかのように撫でていた。

 

(暖かい……陽の光のような優しい手……そうだ、僕は……)

 

 そんな炭治郎の姿を首だけとなった累は静かに見つめていた。そして、その温もりは累の、なくしていた記憶の全てを思い出させた。

 

(僕はただ、謝りたかったんだ……)

 

 あの日、累は自らの手で家族との絆を断ち切ってしまったのだ。両親は、最後の最後まで自分を愛してくれていた。

 自分が犯した罪もその全てを背負って、共に死のうとしてくれていたのに。本物の絆、欲してやまなかった家族との絆を累はずっと持っていたのに。

 

「山ほど人を殺したんだ……僕は父さんと母さんと同じところには……いけないよね……僕は、地獄に行くよね……」

 

 累がそう静かに呟いた、その時だった。

 

『行くよ、地獄でも』

 

「ッ!?」

 

 累の耳に、忘れてしまったはずの、懐かしくて優しい声が響いた。

 

 

 

 累は、いつの間にか真っ白な世界で一人しゃがみ込んでいた。そんな累の側には、自分がその手で殺めてしまったはずの父と母が、優しげな顔で自分の肩に手を添えていた。

 

「父さんと母さんは、累と同じところに行くよ」

 

「ごめんね、累、貴方にそんな悲しい罪を背負わせてしまって……丈夫に生んであげられなくて」

 

「父さん……母さん……違う、違うよ! 父さんも母さんも悪くない、悪いのは全部僕だ、僕が悪かったんだ! ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 累は、両親に抱えられて大声で泣いて、そして謝った。

 

 やがて彼ら3人のその身を劫火が包み込む、だが、3人はそうなってもいつまでも互いを抱き合ったまま、決して離さなかった。

 

 

 

 

 

「終わった……斃した……」

 

 戦いが終わり、カンナはへなへなとその場に座り込んだ体に負った傷も多く、疲労も困憊であった。そんな中、炭治郎は独り言のように静かに、既にはいとなって消えてしまった累の着物に触れながら呟いた。

 

「カンナさん……鬼って、何なんですか……」

 

「炭治郎?」

 

「人を喰らう……醜い生き物ですか? ……違う、鬼は……辛くて、虚しくて……悲しい生き物だ」

 

 カンナにとって、鬼殺隊にいる多くに人にとって、鬼は憎むべき存在だ。醜く受け入れがたい化け物だ。

 誰もが鬼に大切な人を殺された。カンナは両親とそして姉を奪われた。炭治郎だって、たった一人、鬼に変えられた妹以外の家族を全て殺された。

 

「俺は……人を喰らった鬼を……殺された人々の無念を晴らすためなら、俺は躊躇わずに刃を振るいます。これ以上に被害を増やさないために、これ以上の悲しみを増やさないために……けれど、でも! ……鬼は、みんな元は人間だったんだ……鬼は……人間なんだ……」

 

 だが、カンナはその炭治郎の言葉に、何も答えることはできなかった。

 

 

 

 鬼が人を喰らう、だから自分たちはその鬼を滅するために刃を振るう、だが、その鬼が元は人間なら、鬼を斬る自分たち鬼殺の隊士たちもまた、本当なら地獄に堕ちるべき者たちなのではないのだろうか。

 

 その問いに応えられる者は果たしているのだろうか。

 

 少なくとも、炭治郎とカンナの2人にとって、答えることのできない問いであった。

 

つづく




カンナの放った漆ノ型、当初は白魔ノ吹雪という名で考えていましたが、一考した結果本作のサブタイトルの雪華ノ乙女へと変更いたしました。

雪華こそこそ話

カンナの好物は豆大福だ。
豆大福を見るとものすごく目をキラキラさせて、リスみたいに口一杯にほうばるぞ!

カンナ:そんな情報いります!?
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