鬼滅の刃 雪華ノ乙女   作:アウス・ハーメン

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機能回復訓練編・前半です。



本編 第2章
第15話 機能回復訓練 其ノ壱


 機能回復訓練。蝶屋敷での療養生活が藤の花の家紋の家のそれと最も違う、蝶屋敷での療養の最大の肝となっているのがこの訓練である。

 内容は正しく読んで字の如くで、戦いで傷つき治療と療養によってなまってしまった体の機能を、元の状態にまで回復させるための訓練である。最初に蝶屋敷のお手伝いの女の子3人、すみ、きよ、なほが寝たきりで訛ってしまった体をほぐし、続いて反射訓練として1対1での湯呑みの取り合いといったことが行われる。この湯呑みの取り合いで相手を主に行うのは蟲柱、胡蝶しのぶの継子の栗花落カナヲという女の子と同じく蝶屋敷の手伝いで隊士である神崎アオイの2名である。

 そして最後は全身訓練として鬼ごっこを行う、こちらも相手はカナヲとアオイの2名だ。

 他と比べ怪我の程度が軽めであった炭治郎、伊之助、カンナの3人から始められ、そこから数日が経ち最も重症であった善逸も訓練へと参加することとなった。

 なお、善逸は訓練開始日になるまで、げっそりとした顔で帰ってくる炭治郎と伊之助を見て一体どのような非道な訓練が行われているのかと戦々恐々としていたらしいが、いざ訓練が始まるとどうかというと。

 

「お前が謝れ!! お前らが詫びれ!!! 天国にいたのに地獄にいたような顔してんじゃねぇええええ!! 女の子と毎日キャッキャキャッキャしてただけのくせに何をやつれた顔してみせたんだよ土下座して謝れよ切腹しろ!!」

 

 とか。

 

「女の子に触れるんだぞ!! 体揉んでもらって、湯呑みで遊んでるときは手を!! 鬼ごっこの時は体触れるだろうがぁああああ!!」

 

 などと、宣い。その後の機能回復訓練では周囲の者たちが皆引くくらい、気持ち悪いの笑顔で機能回復訓練に臨んでいた。

 

 最もこの時の善逸の大暴走は一部、とはいえ伊之助一人だが彼の負けず嫌いの心を刺激し、2人でどんどん訓練で快進撃を続けていったのだが、ここで2人はついに壁にぶち当たることとなる。

 

「へぶっ!」

 

「ぐぇ!」

 

 カナヲである。

 反射訓練のお湯のぶっかけ競争では目にも留まらない速さで即座に湯呑みを奪われ臭い薬湯をぶっかけられ、全身訓練の鬼ごっこではカナヲの速度に全くついてはいけず捕まえようとしてもひらりと躱され、髪の毛一本にすら彼ら2人は触れることができなかった。

 

「うおぉおおおおおおおお!!」

 

「ッ!!」

 

「スゲェ……」

 

「あぁ……本当だよ……」

 

 ただ一人、炭治郎だけは違った。

 炭治郎もアオイ相手は兎も角、カナヲが相手のときは負けていたのだが、反射訓練では長時間カナヲとの攻防を繰り広げ、全身訓練でも同じくカナヲをあと一歩のところまで追いつめる強さを見せていたのだ。

 

「トンデモねぇな権八郎」

 

「あぁ、とんでもねぇ炭治郎だ……」

 

 炭治郎もそうだがこの栗花落カナヲという女の子、実は炭治郎、善逸、そして伊之助たちと同じ最終戦別を突破した同期の隊士なのだ。同期でありながらずっと先を進むカナヲと、それに食らいつけるくらいの力を見せる炭治郎に比べて、自分たちは全くカナヲに歯が立たなことに、善逸も伊之助も完全に意気消沈してしまう。

 

「なぁ、紋逸……いったい俺らとアイツらと何が違うんだ……?」

 

「もう紋逸に改名しようかな……さぁな、俺が逆に聞きたいくらいだよ」

 

 それからさらに5日が過ぎるが、一向に善逸も伊之助もカナヲ相手にはまったく勝ちが見えてこない。一方の炭治郎はメキメキに力を付けていき、現在はほぼカナヲと互角の戦いを繰り広げていた。

 

「クッソォオオオオオオオオオオオオオ!! あぁもう、なんで炭治郎はあんなに強くなってて、俺らはそこまで変わってないわけ!? 俺たちと同じ時間寝て! 俺たちと同じ時間に訓練に来て! ここ5日ずっと一緒の生活してるよね!? いったい何が違うわけ!? ねぇ、何が違うのさぁ!!」

 

 善逸はいつになく焦っていた。これが炭治郎も含む、3人みんな負けてるのならここまで焦らなかっただろう。きっと途中で諦め機能回復訓練をサボっていたところだろう。

 

「ちっくしょぉおおおおおお!! あの女相手ならまだしも、権八郎まであんなに強くなってるなんてよぉ!! 俺は絶対に負けねぇからなぁ!! 絶対に勝ってやらぁああああああああああ!!」

 

 伊之助も本来負け慣れていないため、本当だったら不貞腐れていたかったが、相手が自分が絶対に負けたくない炭治郎ならば別だ。

 

「紋逸! 絶対権八郎に勝つぞ!」

 

「当然だぁゴラァああああああああああ!! 炭治郎ばかり美味しい想いされてたまるかぁああああああああああ!!」

 

 2人は普段の2人とは思えないほど、いつになくやる気となっていたのであった。

 

 

 

 

 善逸と伊之助がいつになくやる気になっている一方で、炭治郎は炭治郎でこちらも必死に頑張っていた。

 

(よし、前よりもずっと全集中の呼吸を維持できるようになっている、いい調子だぞ! 今日もカナヲには勝てなかったけどだんだん追いつけるようになってる!)

 

 実は、炭治郎は初日の機能回復訓練の後、2人とは別に一人でコツコツと特訓を重ねていたのであった。炭治郎がこの短期間でめきめきと実力をつけているのにはきちんと理由があった。

 

(すごい……すごい子だったカナヲは。同じ時期に隊士になったのにあんなに速くて強い! 俺は、まだまだ弱い! 弱いままだ! 十二鬼月相手にあそこ迄ボロボロにやられてしまうほどに)

 

 元々炭治郎は努力家な上に直向きな性格であった。何より炭治郎は悔しかったのだ。

 

(それに、カンナさん……本当だったら頸を墜としていたはずの鬼の禰豆子を助け、俺を鬼殺隊の道に進めてくれたあの人……。俺なんかよりも長く鬼殺隊にいて、ずっと強いあの人からすごく悲しげな匂いがした。詳しい理由は俺にはわからないけど)

 

 自分よりもずっと強いはずのカンナ。妹の禰豆子を見逃し、自分を鬼殺隊へと誘ってくれたカンナが、那田蜘蛛山での戦いでは自分のせいで傷を負ってしまったことが。そのカンナが、理由は分からないが悲しい匂いを漂わせていたことが。炭治郎にはどうしても我慢ならなかったのだ。

 

(カンナさんは、お姉さんを亡くしたって言ってた。同じ鬼殺隊のお姉さんを……きっとあの悲しい匂いと無関係じゃない!)

 

 カンナの発していた悲しい匂い炭治郎には覚えがあった。鬼に大切な人を殺されてしまった人が発する匂い。

 

(でも! 俺はあんなふうに悲しむ人を、これ以上出したくない! でも今のままじゃダメだダメだ!!)

 

「炭治郎」

 

「ッ!? 真菰」

 

 しかし、炭治郎一人での特訓はすぐに行き詰まりを見せ、どうしたモノかと悩んでいるとき、たまたまカンナの見舞いに来ていた姉弟子の真菰に声をかけられたのだ。

 

「真菰、実は……」

 

 そこで炭治郎は自分たちが今行っている機能回復訓練での事を真菰に話した。

 そう、炭治郎も最初の時はカナヲに全敗だったのだ。全くカナヲの腕の動きが見えず薬湯はかけられるは全身訓練でもカナヲ相手には指一本触れることすらできないほどに圧倒されていた。

 自分はもっと強くなりたい、おまけに自分の相手は同じ時期にあそこまで強くなっているカナヲ。絶対に何か強くなるための秘訣の様なものがあるはずだと炭治郎は考えに至ったのだが、それがわからない。

 しかし姉弟子の真菰ならそれを知ってるのではないのかと、そう思ったのだ。

 

「カナヲがあんなに強い理由……」

 

「うん、そうなんだ。しのぶさん……蟲柱様の継子だってのは聞いてるんだけど、その理由がいまいちわからなくて、一応自分なりに鱗滝さんから教えられたことを繰り返しやってはいるんだけど……でも全然しっくりこなくて」

 

「まるで、狭霧山で鱗滝さんが出した課題に挑んでるときのようだね」

 

「そう……そうなんだよ! 俺は強くなりたいんだ。もっとたくさんの人を護れるようになりたい! でも今もこうして、同じ時期に隊士になった女の子にすらいいように弄ばれてる。いったい何が足りないのかなぁ……」

 

「そうだね」

 

 そんな風に直向きに頑張っている炭治郎に、真菰も姉弟子として何か助けになればと思い少しだけ助言を行った。

 

「強さの秘訣……もしそれがあるとすれば、カナヲは全集中の呼吸の〝常中〟を身に着けてるからかも」

 

「全集中の呼吸の、〝常中〟?」

 

 炭治郎にとっては初めて聞く言葉であり首をかしげると。

 

「うん、読んで字の如くだよ。全集中の呼吸を四六時中やる技で基礎体力が飛躍的に上がるんだ。これ、一応全集中の呼吸の基本の技だって言われてはいるけど、会得するのにはかなりの努力が必要で一般の鬼殺隊隊士でも使える人は極々限られてるんだ」

 

「全集中の呼吸を……四六時中!?」

 

 炭治郎が考える全集中の呼吸はただ使うだけでも肺に相当な負担がかかりまともに息もできなくなるほどきつく辛いものであった。

 

「あれを四六時中って……」

 

「うん、常中は柱への第1歩とも言われてて柱のみんなは普通にやれてるよ。きっとカナヲも蟲柱、しのぶ(柱)の継子だから早いうちに教えてもらってたんじゃないかな?」

 

「基本の技……でも、それじゃなんで……鱗滝さんは教えてくれなかったんだ?」

 

「言ったでしょ? 初歩の技だけど会得するには相当な努力が必要で普通の隊士でも使える人はほとんどいないって。それに無理にやろうろすると確実に肺を痛めるから、体の出来上がっていない炭治郎に教えるのはまだ早いってそう判断したんだよ」

 

「そうだったのか……」

 

 要は自分はまだまだ未熟者なのだと炭治郎は一瞬落ち込みそうになるが。

 

「でも、それなら今からでも更に鍛えるまでだ! 真菰ありがとう! 俺頑張るよ」

 

「うん、私もあの時と同じように時間を見つけて炭治郎の特訓にも付き合うよ」

 

「本当!?」

 

「もちろん、私は炭治郎の姉弟子だから」

 

 そうして炭治郎はこの短期間のうちに、まだ完全ではないとはいえ以前よりもずっと長く全集中の呼吸を維持できるようになり、カナヲに肉薄できるほどにまで成長していたのだ。

 

 

 

 炭治郎たち(実際は善逸が参加し始めて)が機能回復訓練を初めて10日が経とうというある日、炭治郎は同じく蝶屋敷で療養中のカンナのもとを訪れていた。

 

「カンナさん、よかったお怪我の方もだいぶ良くなってるみたいで」

 

「ええ、どうにかね」

 

 それぞれ近況を軽く話した後、カンナはもうじき自分の機能回復訓練が始まるのでよかったら見ていかないかと炭治郎を誘った。

 

「良いんですか?」

 

「真菰から聞いたわ。全集中・常中の訓練を真菰と行っているのでしょう?」

 

「あ、はい! 全集中の呼吸を四六時中やる……初歩の技術だっていうのに、俺は全然できなくて……鱗滝さんの所にいた時のように真菰から色々と手ほどきを受けているところです」

 

「できなくても無理はないわ。確かに全集中の呼吸の初歩の技術ではあるけど、同時に奥義とも言われてるくらい会得は難しい技術だからね。ほとんどできないのが当たり前なのよ」

 

 カンナは炭治郎にそう励ますように言うが、炭治郎がそのことに納得していない様子なのはすぐにわかった。

 

「でも、ちゃんと覚えたい、使えるようになりたいというのなら、私の機能回復訓練を見に来ると良いわ。きっと何か修行の糸口を掴めると思うから」

 

「分かりました。それじゃ学ばせてもらいます!」

 

 カンナの言葉に炭治郎は元気よく返事をすると、カンナに連れられ炭治郎は彼女が機能回復訓練を行っている修練場へと足を踏み入れた。

 

「お疲れ様、用意はできてるわよカンナちゃん。それと……炭治郎君は今日は見学かしら~」

 

「あ、はい! カンナさんの訓練から色々と学ばせてもらおうかと思いまして!」

 

「フフフ、頑張ってるのね、炭治郎君は。しのぶもそう思わない?」

 

「ええ、本当に頑張り屋さんです。炭治郎君は」

 

「いえ、その……ありがとうございます」

 

 カンナが機能回復訓練を行う修練場にいたのは蟲柱の胡蝶しのぶとその姉カナエと数名の隠たち、いずれも女性であった。山育ちな上に田舎者の炭治郎にとって、これほどの女性たちしかもいずれも美人に囲まれることなどなく終始緊張していたのだった。

 しかしカンナが訓練を始めると先ほどまでの緊張などどこかへと消し飛んだかのごとく、真剣にカンナの訓練の様子を見つめていた。

 

(すごい……さすがだ、カンナさん)

 

 カンナの訓練内容はまずは隠たちによる柔軟、その後は反射訓練として湯呑みの取り合い、最後は全身訓練の鬼ごっこと炭治郎たちが普段やってるのと全く同じ内容であったが、その訓練の様子は傍から見れば最早異次元としか言いようがないほどのモノであった。

 

(それにしてもカンナさん、柱だっていうしのぶさんはもとより、カナエさんもなんて早さなんだ。全然目で追えない!)

 

 カンナは反射訓練においてはしのぶにこそは負けたものの、カナエが相手の時は勝ち星を挙げ、全身訓練ではカナエ、しのぶの両方を相手に見事勝利を収めていた。鬼殺隊最高位の剣士だという柱、その一つである蟲柱のしのぶ、それに食らいつけるどころか勝ち星すら上げるカンナ。何よりも炭治郎が驚かされたのはしのぶの姉だというカナエの強さだった。カンナ相手に反射訓練、全身訓練いずれも敗北したとはいえ、それでも長時間の攻防を演じられるほどの力量を見せていたのだ。

 

「すごい、カンナさんとしのぶさんもだけどカナエさんも」

 

「それは当たり前ですよ」

 

「えッ!?」

 

「胡蝶カナエ様は元は柱、花柱であったのですから」

 

 炭治郎がカンナの訓練の様子を見ながら一人ごちっていると隠しの一人が炭治郎にそう説明した。

 

「カナエさんも!?」

 

「はい、わけあって今は柱を引退なされ蝶屋敷の手伝いをしておりますが、元は鬼殺隊花柱、相当な手練れの方でおりました」

 

「そうだったんですね」

 

 ならあの強さも納得だと感じる炭治郎。

 

「ええ、他の柱の方々とは異なりお優しい方で、我々隠しの者たちのことも常に気を使ってくださるお方でした。もちろん、蝶屋敷の手伝いをするようになってからもそれは変わってはおりませんが」

 

「あらあら、二人で楽しくおしゃべりかしら?」

 

 炭治郎がそう隠の人と話していると、先ほどカンナとの反射訓練で掛けられた薬湯を落としに湯殿に行っていたカナエが返ってきて2人に声をかけた。

 

「これはカナエ様、はい、炭治郎殿にカナエ様について少しばかり」

 

「そうなの、おかしなことは言ってないかしら?」

 

「もちろんでございます。カナエ様がとてもお優しい方であるとそう教えて差し上げただけですよ」

 

「フフフ、ありがとう」

 

「それでは、そろそろ交代の時間ですのでこれにて失礼いたします」

 

 隠の女性はそう言い残すと炭治郎とカナエの側から離れていったのであった。

 

「あの、カナエさんも元は柱だったんですね」

 

「フフフ、もう昔のことよ」

 

 隠の人がいなくなった後、炭治郎は何気なくだがカナエにそう聞いた。

 

「でも、カナエさんはすごいですよ。柱だっていうしのぶさんも、カンナさんもすごいけど、今日の訓練だって俺なんかとはもう全然違いましたから」

 

「そうかしら、でもこれでも全盛期の半分も力が出せていないのよ? 常中だってもううまくはできないしね」

 

 憂いが混じったような表情でカナエはそう炭治郎に語る。

 

「あの、カナエさん? もしかして、カナエさんって泣いてますか?」

 

「え?」

 

 思いもよらない突然の問いに目を丸くするカナエ。

 

「あ、すみません突然変なこと言って! カナエさんから、なんだかすごく悲しいような、それこそずっと泣いているような……そんな匂いがしたもので」

 

 一方の炭治郎も自分は何を言ってるんだと言わんばかりの慌てっぷりでどうにかその理由を説明するが、炭治郎の言葉にカナエは神妙な面持ちになり黙ってしまう。炭治郎はやはり変な事を聞いてしまったのかとオロオロとしていたが、しばらくしてカナエはゆっくりとだが、炭治郎に話し始めた。

 

「そうね……炭治郎君の言う通りかもしれないわ……私がなぜ柱を引退したのか、炭治郎君はそのわけを知っているかしら?」

 

「あ、いえ……」

 

「そうね、誰も話してはいないから当然だわ。私はある鬼と戦ったの。私の親友……当時の雪柱の子と一緒に」

 

 雪柱、カナエの口からその言葉が出た途端、炭治郎は自身の心臓が一瞬大きく脈打ったのを感じた。

 

『私の姉は、柱だったわ……先の雪柱……。私の姉は氷室つばき……先代の雪柱で、とても綺麗で、強い人だったわ……それに誰よりも優しい人だった、それこそ鬼にまでも同情の念を抱くくらい……でも、もういないわ……私の姉は……鬼に殺された』

 

 炭治郎は、那田蜘蛛山の戦いに赴く前に療養のため立ち寄った藤の家紋の家でカンナ自身から聞かされたのだ、自身の姉がかつて雪柱であったと。

 

「カナエさん……その雪柱の人の名前って……」

 

「氷室つばき……カンナちゃんのお姉さんよ……炭治郎君、その口ぶりだと知ってたのね?」

 

「はい……今回の那田蜘蛛山での戦いの直前……藤の家紋の家でカンナさんが教えてくれましたから……詳しいことは知らないんですけど……」

 

 氷室つばき、その名前を聞いた途端、再び炭治郎は自身の心臓が大きく脈打つのを感じた。

 

「つばきちゃんとはね、境遇も似ていて性格とかも似てるようなところがあってすぐに仲良くなったわ。何より私と同じような考えを持つ人だった。家族を鬼に殺されたというのに、そんな鬼に同情し哀れんでいたわ。妹のしのぶとカンナちゃんは、そうじゃなかったけどね。でもある日の晩、ある鬼と戦って、私は肺に大きな怪我を負って、全集中の呼吸はおろか、普通に息をするのすらままならなくなって、もう駄目かって思ったその時に、つばきちゃんが割って入って、最初は善戦していたんだけど、そのあと……不意を突かれてその鬼に殺されてしまった……」

 

 それは、カンナの姉、つばきの死の詳細であった。

 そして、炭治郎は理解した。あの時、那田蜘蛛山でカンナがなぜ、あれほどまでに悲しい匂いを発していたのか、その理由を。

 

「私はね、あれからずっと後悔しているのよ。もう少し私が強かったら、きっとつばきちゃんを助けることができたんじゃないかって……」

 

「カナエさん……」

 

「あの後のカンナちゃんは、本当にひどい状態だった。自分でお姉さんの仇を取るって、それこそ死に物狂いで自身を鍛え上げていったわ。お姉さんが会得していた雪の呼吸を全て極め、その上で自分だけの型まで作り上げた。でも、私はそんなあの子の姿を見ていられなかった。もしかしたらカンナちゃんもつばきと同じように……嫌な考えばかりが浮かんで気が気でなかった……しのぶも真菰ちゃんもきっと、同じ思いだったと思うわ……それ以上に私はカンナちゃんをそうさせてしまう原因になってしまった自分が許せなくて、遣る瀬無くて悲しかった……」

 

 カナエはそこまで語ると、少しだけ笑みを浮かべ。

 

「だからね炭治郎君、私は炭治郎君と、それと禰豆子ちゃんには感謝してるのよ。2年前のとある日から、次第にカンナちゃんは自分の心に余裕を持てるようになってるって、そう感じることが多くなっていったから」

 

「もしかしてそれって、2年前の雲取山でオレと禰豆子が見逃してもらった時……ですか?」 

 

「ええ、あの日冨岡君の代わりに雲取山での任務を終えてから、カンナちゃんの周囲の空気が少しだけ柔らかなモノに変わっているのを感じられるようになってね。最初はなんでなのかなって思ったんだけど、禰豆子ちゃんを見てその理由が分かったわ。きっとカンナちゃんはお姉さんの仇を討つという決意だけじゃなく、その願いも一緒に受け継ごうと我武者羅になっていたんだと思う」

 

「願いですか?」

 

「ええ、鬼と仲良くするっていう、私とつばき、2人の願い。炭治郎君、私はきっとカンナちゃんは貴方の事を誰よりも期待してるんだと思うわ。自分のお姉さんの夢を、願いを託せるんじゃないかって、カンナちゃんは自覚してるかわからないけど」 

 

 カナエはそこまで言うと立ち上がり。

 

「炭治郎君、絶対に禰豆子ちゃんを護ってあげてね、お兄さんなんだから、辛い思いをさせちゃだめよ?」

 

 最後に炭治郎にそう告げると訓練へと戻っていった。

 

(カナエさん、カンナさん……俺、頑張ります!)

 

 カナエの後ろ姿、そしてひたすら訓練に励むカンナの姿を見て、炭治郎はより強く、そう決意するのであった。

 

つづく 




本作の炭治郎は本編の通り原作よりも若干パワーアップしております。
そのおかげで善逸、伊之助は早い段階で「俺たちヤバくね」状態になりました。

カナエさんと本作オリキャラのカンナの姉、つばきとは同期隊士で同じ柱でした。
そしてそのつばきの命を奪った鬼は先のお話で出てきましたが、上弦の弐になります。
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