今回は無限列車編の序盤部分。
煉獄と炭治郎らの邂逅の部分となります。
無限、そう名付けられたこの汽車はそれゆえに人々からは無限列車という愛称で呼ばれている。
近代日本の発展の象徴ともいえる蒸気機関の車両であるここ、だがこの無限列車においては近年あまりに凄惨なうわさが絶えない。
短期間のうちにこの列車に乗り合わせた乗客等が総勢で40名も行方知れずとなっているという。一部の者たちは『神隠しの起きる汽車』とこの列車をそう気味悪がるが、それでも主要の交通機関のうちの1つであるがゆえに、この列車にはこの日も約300名もの乗客が乗り合わせていた。
そしてその中に、この噂を聞き付け、それら事件が鬼によるものと判断した鬼殺隊当主の命を受けた鬼狩りの一人、鬼殺隊最強の剣士である柱の一人、炎柱、煉獄杏寿郎もいた。
「うむ、胡蝶からの鴉より聞いているぞ竈門少年。竈門少年が那田蜘蛛山にて下弦の伍を討伐した際に用いた神楽が、我ら鬼殺隊の使う全集中の呼吸に極めて近しいモノであったがゆえに、その呼吸の秘密を知りたいとのことだったな」
「あ、はい!」
この列車に乗る前、大量の購入していた駅弁を平らげ終えた煉獄はさっそく、今回この列車に乗り合わせることとなった炭治郎の疑問に答える。
炭治郎が聞きたかったことは他でもない、自身の家、竈門家に代々伝わる〝ヒノカミ神楽〟の事であった。
飽くまでも一介の炭焼きの家にすぎない竈門家に伝えられた神楽でなぜ、鬼殺隊で主に用いられている全集中の呼吸の技の様なことができたのか、ここに来る直前に同じく鬼殺隊の柱である蟲柱、胡蝶しのぶに尋ねたが帰ってきた答えは曖昧なモノで、ただひとつわかったことと言えば現在鬼殺隊が使う全集中の呼吸には、その元となった始まりの呼吸があるということ、そしてその呼吸の名が『日の呼吸』であるというモノであった。
今回ここ、無限列車に炭治郎らが訪れたのは、鬼殺隊の中でも古参であり、代々炎柱を輩出してきた煉獄家の煉獄杏寿郎ならば何か知っているのではないかと、しのぶから教えられたためであった。
煉獄は炭治郎の問いを相槌を打ちながら丁寧に聞いていた。
「だがスマンな、生憎だが俺も詳しくは知らん! 日の呼吸、始まりの呼吸に関しては確かに伝承の様なものがあったのは事実だが、どのような呼吸であったのかは、現在までそれが伝えられていない以上、判断のしようもない。竈門少年が父から受け継いだ神楽を戦いに活かせたのは実にめでたいが、この話はこれでお終いだな!」
「えぇ!? もっと何かないんですか?」
しかし煉獄から帰ってきた答えは、しのぶのモノとそう変わらないモノであった。
「炎の呼吸は歴史が古い。そして、炎と水の剣士はどの時代にも必ず柱がいた。炎・水・風・岩・雷は基本の呼吸と言われ、それら呼吸全ての基が始まりの呼吸たる日の呼吸だということだ。他の呼吸はそれらから枝分かれしてできたもの、代表的な例が氷室や蓮刃の雪の呼吸だな」
「はい、それはしのぶさんからも聞きました」
「竈門少年の言うヒノカミ神楽が日の呼吸であるかどうかは、正直直にその技を見ねばわからんことだし、伝承でしかその始まりの呼吸は伝えられていない以上は、それが果たしてそうであるとは確証のしようがない、その理由は分かってもらえたかな?」
更に煉獄はそう補足で説明をしてくれた。炭治郎もそれではそうと納得せざるを得ず煉獄が先に言ったとおり、今はこの話はそれで終わらずを得ないと少々不満はあったモノの理解した。
「そう言えば竈門少年、君の刀は何色だ?」
「あ、えっと俺のは黒刀です」
続いて煉獄は炭治郎に刀の色は何色かを聞いてきた。
「黒刀か! それはキツイな」
炭治郎の言葉を聞いた煉獄はそう思案するかのように腕を組み人事そう炭治郎に告げる。
「キツイんですか?」
「うむ、黒刀の剣士が柱になったのを見たことがない。更には、どの系統の呼吸を極めればいいのか、わからないと聞く!」
「そうなんですか……でも、じゃあもしかして」
煉獄の言葉に炭治郎は一瞬残念そうに俯くが、そこでふとある考えが浮かび、それを煉獄に対し口にした。
「黒刀の剣士は、珍しいけど昔からいたんですよね?」
「ああ、確かに珍しいがいなかったわけではない」
「もしかしたら、その黒刀こそが日の呼吸への適性を持った人の証なんじゃ……これは俺の感覚ですけど、ヒノカミ神楽と水の呼吸、あ、俺の師の鱗滝さんが水の呼吸の使い手だから俺も水の呼吸を使ってるんですけど、水の呼吸の時よりもしっくり来たというか、かなり威力が出た感じがしたので」
「うむ……」
炭治郎が口にしたのは今炭治郎が持つ黒刀、その日輪刀の色が日の呼吸に適性のある者たちの色なのではないかという事だった。煉獄も炭治郎が言わんとすることは理解ができ、その言葉を聞いた後ある提案をした。
「ならば、俺が鍛えてやろう。俺の継子になると言い竈門少年! 俺は知らないことだが、俺の家にある書物、代々炎柱達が受け継いできた書がある。もしかしたらそこに、日の呼吸や竈門少年の家に伝わる神楽に関して、何か載ってるかもしれん」
「良いんですか?」
「ああ、俺は歓迎するぞ!」
煉獄からの思わぬ提案に炭治郎は一瞬心が躍った。
ただでさえ、柱の継子になど、なれる機会はないうえに、炭治郎にとってはずっと心の中で引っかかっていたヒノカミ神楽の秘密、それを知ることができるかもしれない、正しく一石二鳥ともいえるモノだった。
「とはいえ、今は目の前のい事を片付けねばならん! 継子の件、我が家の書の件何れもそれが終わってからだな!」
「あ、そういえば今は任務の途中なんでしたっけ……」
一瞬気持ちの弾んだ炭治郎であったが、煉獄の言葉でなぜ彼と自分たちが今、ここにいるのかを思い出す。
「ああ、この列車で短期間のうちに40人以上の人が行方知れずとなっている。数名の隊士を送り込んだが、全員がその消息を絶った! だから、柱である俺が来たということだ!」
そう、鬼殺隊の柱である彼、煉獄杏寿郎がこの無限列車に乗っていたのは何も観光が目的ではない。
他ならぬ鬼殺の任務の為であり、炭治郎らもその任務に事実上加勢するという形でここにいるのだ。
「えぇえええええええ!? ここ、ここに鬼が出るの!? 鬼がいるところに移動してるんじゃなくてここに!?」
なお、その事をこの直前まで知ることがなかった炭治郎の仲間の隊士のうちとある1名がその話を聞き大騒ぎとなり、今すぐ降りると駄々をこね始めたのだが。
「切符、拝見いたします」
その後すぐにこの列車の車掌さんが現れ乗客の切符の確認にやってきた。
「何ですか?」
「車掌さんが切符を確認して、切込みを入れてくれるんだ」
列車を利用したのがこれが初めての炭治郎は一体何が始まったのかと首をかしげていると即座に煉獄が炭治郎にそう説明し車掌さんに切符を差し出し彼が言う通り、車掌さんはその切符を確認した日に切り込みを入れた。
「ッ!?」
同じように善逸、伊之助の持つ切符にも車掌さんが切り込みを入れ炭治郎の番となった。炭治郎は一瞬妙な気配と匂いを感じ浮心がるも他の仲間たちがやったように切符を車掌さんに差し出し切りこみを入れてもらう。
「拝見いたしました」
その直後であった。
「うわっ!」
「きゃあああ!」
車掌さんが入っていた方向にある扉の近くから乗客たちの悲鳴が聞こえてきたのは。
「車掌さん、危険だから下がってくれ。火急のことゆえ、帯刀は不問にしていただきたい」
そこにいたのは見るからに凶悪で気味の悪い容貌の異形の鬼。しかし幸いにもまだ周囲の乗客には襲い掛かっているそぶりはなく。
「その巨躯を隠していたのは血鬼術か、気配も探りづらかった。しかし! 罪なき人々に牙を剥こうものならは……この煉獄の赫き炎刀がお前を骨まで焼き尽くす!」
更に鬼の気配をいち早く察知し既に刃を抜いた煉獄が鬼の前に立ちはだかっていた。
『炎の呼吸・壱ノ型 不知火』
煉獄へと雄叫びを鬼が上げたその刹那、空かさず刃を抜いた煉獄が鬼の懐へと入り、その巨躯にある頸を一閃し斬り落とした。
「す……スゲェや兄貴!! 見事な剣術だぜ、オイラを弟子にして下せぇ!」
「いいとも! 立派な剣士にしてやろう!!」
「オイラも!」
「おいどんも!!」
「おう! まとめて面倒見てやる!!」
『煉獄の兄貴! 兄貴!』
意外なほどに呆気なく終わった任務、炭治郎らは歓喜の声を上げ煉獄と共にその勝利を分かち合った。
―――――
―――
―
先頭車両のその真上で1体の鬼が不敵な笑みを浮かべそこにいる。
「フフフフフ……夢を見ながら死ねるなんて、幸せだね」
その瞳には下弦の壱と刻まれている。
月明かりが照らす夜の闇の中、疾走する無限という名の汽車のその上で、十二鬼月、下弦の壱、その名を魘夢という鬼は一人、そう呟いていた。
つづく