鬼滅の刃 雪華ノ乙女   作:アウス・ハーメン

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前の投稿から1か月かかってしまいましたが無限列車編の3話目となります。


第20話 鬼の列車

 魘夢は俗に眠り鬼と呼ばれる鬼である。

 その名の通り獲物となる人間を眠らせ、緩慢な夢へと溺れさせた後にその者の精神を破壊して喰らうのを好む。

 その方法は今回、炭治郎らに施した精神の核の破壊の他にもいくつかあり魘夢が最も好んでいた手が、幸福な夢を見せたのちに、悪夢を見せるという方法だった。

 幸福の絶頂にあった人の心が悪夢によって一気に絶望の底へと落ちる、その際の変化はより人の血肉の味を際立たせる絶好の調味料となるのを魘夢は知っていた。それ以上に魘夢にとって人が希望から絶望へと転じるさまを見るのが最高の娯楽であった。

 

血気術 強制昏倒催眠の囁き

 

 魘夢の血鬼術が炭治郎を襲う。

 魘夢の血鬼術は手の甲にある口から放たれる不可視の思念の波動であった。それに中てられたものは容赦なくその場で昏倒し眠りに落ちる。

 しかし炭治郎は眠ることはなかった。すでにその血鬼術を破る術を炭治郎は心得ていた。

 

「言うはずがない……」

 

 それ以上にこの時魘夢は炭治郎に掛けた術を完全に誤っていたのだ。

 

「あんな侮蔑の言葉を、俺の家族が言うはずがないだろ!!」

 

 魘夢が術を放った時に見せたのは悪夢であった。

 勿論、それは一般で言えばの話だ。炭治郎は魘夢の術が自身に掛かるたびに家族から侮蔑の言葉をかけられるさまを見せられていた。

 しかし、それは炭治郎の心を折るどころかむしろ、炭治郎の怒りの炎に油を注ぐだけであったのだ。

 

「俺の家族を……」

 

 炭治郎は知っていた。自分の家族は誰よりも優しく、誰よりも強くそして、誰よりも自分と妹を愛しているのだということを。

 そんな家族が自分と妹、たったの2人、遺していってしまった家族に対して言うはずがないのだ。

 

『お前が死んでいればよかったのに』などと。

 

「俺の家族を、侮辱するなぁああああ!!」

 

 それは正しく炭治郎にとって許しがたい侮辱であった。

 

(こいつ)

 

 魘夢の頸に、炭治郎の日輪刀の刃が食い込み、その勢いのままに刎ね飛ばした。

 

「ッ!?」

 

 しかしその時炭治郎が感じ取ったのはあまりにも大きな違和感であった。

 

(手応えがほとんどない!?)

 

 少なくとも十二鬼月、下弦の壱である鬼の頸にしてはあまりにも手ごたえがなさ過ぎたのだ。

 先の那田蜘蛛山で戦った十二鬼月、下弦の伍の頸は相当な硬度であったというのに、それよりも強いはずの下弦の壱の頸が、あっさりと日輪刀の一閃で刎ね飛ばせるなどというのはあまりにも不自然であった。

 まさかと炭治郎が思うよりも先に。

 

「あぁ……あの方が『柱』に加えて『耳飾りの君』を殺せって言った気持ち……すごくわかったよ」

 

 魘夢の頸が飛んでいった方向から聞こえた声が炭治郎の懸念が現実であったのだというのを教えた。

 

「存在自体がなんかこう、癪に触ってくる感じ」

 

 炭治郎が振り向いた先にいたのは、頸の先を正しく根のごとく列車の屋根へと張り巡らせた魘夢の姿であった。

 

「フフフ、素敵だねその顔。そういう顔が見たかったんだよ」

 

 驚く炭治郎を嘲笑うかのような顔で魘夢はそう口にする。

 

「頸を斬ったのにどうして死なないのか教えてほしいよね? いいよ、俺はいま気分が高揚しているから、赤ん坊でもわかるような単純な事さ。〝それ〟がもう本体ではなくなっていたからだよ」

 

 魘夢の口から語られたこと、それはある程度は炭治郎も予測していたことであった。

 本来であれば急所であるはずの鬼の頸。それを刎ねたというのに当の鬼本人が死なない理由。考えられる理由は大体はそういうモノだ。

 問題はではその本体は一体どこにあるのかということだが、その答えは他でもない。

 

「君たちがすやすやおねんねしている間に、俺はこの汽車と〝融合〟した」

 

 魘夢自身がその口で語ったのだった。

 

「この列車全てが俺の地であり肉となった。その意味は分かるよね? 今この列車に乗る200人余りの人間は俺の体を強化するための餌。そして人質……。守り切れるかな? 君一人でこの汽車の端から端までうじゃうじゃいる人間たちすべてを、俺にお預けさせられるかな?」

 

 その言葉を言い残し、〝魘夢の頸であったモノ〟は列車の屋根にとけこむように姿を消した。炭治郎は慌てて刃をそれに向かって振るが、空振りに終わる。

 

(まずいぞ! 俺一人で守れるのは2両が限界だ! それ以上の安全は保証できない!)

 

 この列車は8両編成でおまけに乗客は自分たち含め200人余り。炭治郎1人では2両までしか守るには限界であった。炭治郎は残る仲間たちと禰豆子にこの列車の人々を護るように叫ぶがその直後に。

 

「おぉおお、うおぉおおおおお!! ついてきやがれ子分ども!!」

 

『爆裂覚醒』

 

 炭治郎の仲間である猪頭の少年、嘴平伊之助が屋根を突き破ってその姿を現した。

 

「伊之助!」

 

「猪突猛進!! 伊之助様のお通りじゃああああ!!」

 

「伊之助! この汽車はもう、安全な所がない!! 眠っている人たちを守るんだ!!」

 

 炭治郎は伊之助の姿を確認すると大声で彼に今の状況を伝える。

 

「この汽車全体が鬼になっている! 聞こえるか? この汽車全体が鬼なんだ!!」

 

「ッ!! やはりな……俺の読み通りだったわけだ、俺が親分として申し分なかったというわけだ」

 

 炭治郎の声が聞こえ状況をすぐさま理解した伊之助は飛び出してきた列車の中へと戻る。列車の中に戻ったとき、伊之助が目にしたのは座席が悍ましい肉塊へと姿を変え乗客を飲み込まんとしている様であった。

 

獣の呼吸、伍ノ牙 狂い裂き

 

 伊之助はすぐさまその肉塊へと斬撃を加える。

 

「どいつもこいつも俺が助けてやるぜ! 須らくひれ伏し、崇め称えよこの俺を!!」

 

 同じころ、別の車両では禰豆子が乗客を護る為に戦っていた。禰豆子の血鬼術、爆血は鬼の組織のみを焼くことができる優れモノだが、同時にあの技は禰豆子の体力も相当量奪ってしまう諸刃の剣でもあった。それを本能でわかっているため禰豆子は鬼化した爪による斬撃のみで肉塊を切り裂いていたのだが、不意を突かれて両腕を肉塊に掴まれてしまう。

 

雷の呼吸、壱ノ型 霹靂一閃・六連

 

 その禰豆子の危機を救ったのは善逸であった。

 善逸は禰豆子を救ったその勢いのまま、更なる斬撃で乗客たちを襲う肉塊も根こそぎ切り裂いていった。

 

「禰豆子ちゃんは、俺が守る」

 

 なお当の善逸はこの時起きてはおらず。

 

「守る……フガフガ、プピー」

 

 絶賛居眠り中であったりする。

 

 列車内を突如響き渡った落雷の如き轟音で炭治郎は伊之助に続き善逸も戦闘を開始したことに気付く。しかし、肉塊の量はあまりにも多く炭治郎は今自分自身のいる車両の乗客を護るので精一杯であった。

 

(まずいぞどうする! 連携が取れない。後ろの車両の乗客は無事だろうか……くそ! 狭くて刀も振りづらい!)

 

 オマケに狭い車両の中、それも乗客を傷つけずに肉塊のみを断つというのは想像するよりもはるかに難しい。炭治郎の心の中では焦りの感情がどんどん膨らんでいっていた。

 

「焦ると余計に刃の流れが乱れるわよ、炭治郎!」

 

「ッ!?」

 

雪の呼吸、陸ノ型 雪華ノ舞彩・風魔

 

 突如、自身へと書けられた声と同時に放たれた過冷却の凍気で目の前にある肉塊の全てが凍り付く。炭治郎はこの技に見覚えがあった。

 

「カンナさん!」

 

「無事だったようね、炭治郎!」

 

 炭治郎の前に表れたのは那田蜘蛛山での戦いの際共に戦った氷室カンナであった。

 

「時間がないから手短に話すわ。今この列車には貴方たちと同行していた炎柱の煉獄さんの他にもう1人、拳柱の拍治さんもいる。既に御二方は後方の車両の乗客たちを守る為に行動を開始しているわ」

 

「拳柱……拍治さんもこの列車に!?」

 

「ええ、その煉獄さんと拍治さんから通達。8両編成のこの列車のうち5両を煉獄さんと拍治さんで、残る3両は私と善逸、禰豆子で守るから貴方と伊之助の2人はこの列車と融合した鬼の頸を探すようにと」

 

「頸、でも!」

 

「どのような姿、形になろうと自身の急所までは消すことはできないわ! 私のみならず煉獄さんたちも急所を探りながら戦う。貴方も気合を入れなさい!」

 

「は、はい!」

 

「分かったら、早速行くわよ!」

 

 カンナはそう言い残すと目にも留まらぬ速さでその場から姿を消し、善逸、禰豆子のいる工法の車両へと向かって行った。同時に再び列車内を轟音が轟く。

 

(すごい、今の音は煉獄さんと拍治さんか!? それにカンナさんも那田蜘蛛山の時と比べ物にならないくらいに速くなってる。て、感心している場合じゃないぞ、やるべき事をやるんだ!)

 

「伊之助!」

 

「分かってる!! とっくの昔にカリナのやつに指図されてる!! 俺はすでに全力の漆ノ型で見つけてるからな! この主の急所を!!」

 

 カンナを見送った後に炭治郎は伊之助を探そうと大声で伊之助の名を叫ぶと、伊之助の声が列車の上、即ち屋根の方から聞こえた。伊之助は既に自身の漆ノ型で鬼の急所の位置を把握しており、それが前方の先頭車両にあると炭治郎に言った。

 

「石炭が積まれてるあたりだな! 分かった、行こう! 前へ!!」

 

「おうよ!!」

 

 炭治郎と伊之助の2人は全速力で鬼の急所があるとされる前方、先頭車両へと向かって行く。

 

つづく

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