まさかの2か月ぶりの雪華ノ乙女の更新です。
そして先日、ついに無限列車編のBD.DVDも発売されました。
本作品も無限列車編は佳境となります。
それではどうぞ。
炭治郎と伊之助の2人はそれぞれ車両内と屋根から前方車両へと急ぎ向かう。
そこに近づくにつれ、炭治郎は自身の鼻で確かに、鬼の気配が強くなっていることを感じ取っていた。件の鬼の急所は間違いなく、前方の車両にある。
「おっしゃぁああああ!! このヌシの頭にきたぜぇえええ!!」
一方、炭治郎よりも早くに鬼の急所の位置を感づいていた伊之助は、一足早くに前方車両に到着していた。
「な、何だ貴様は! 出ていけ!」
そこはこの汽車の先頭車両、機関車の運転室であった。運転士が伊之助の姿を捉え彼を外へと叩きだそうとするが、当の伊之助は止まろうとはせず。
「鬼の頸、見つけたぜ!!」
この機関車の床の方へと斬撃を振り下ろそうとする。
だがその時、伊之助に向けて無数の手の形をした肉塊が襲い掛かった。
『水の呼吸、陸ノ型 ねじれ渦』
そこに炭治郎も到着し、伊之助を襲う無数の手をまとめて一閃。
「伊之助! 真下だ、ここの真下が一番、鬼の匂いが強い!」
同時に炭治郎も先ほど伊之助が斬撃を駆けようとしたこの機関車の真下、そここそがこの鬼の急所であると感づいた。
「命令すんじゃねえ、親分は俺だ! わかった」
伊之助も最初は炭治郎に指図されたことに憤慨するもすぐさま刀を持ち直し、機関車の真下へと斬撃をぶつける。
『獣の呼吸、弐ノ牙 切り裂き』
すると機関車の床が切り開かれ、この鬼の急所、巨大な頸の骨があらわとなった。
しかし、そこは元々から用意周到且つ狡猾な鬼。炭治郎、伊之助2人が首を断ち切ろうと攻撃を仕掛けるもすぐさま無数の肉片を盾に自身の頸を守る。炭治郎たちも負けじと攻撃を仕掛けるも、今度は容赦なく。
『血鬼術・強制昏倒睡眠・眼』
今度は血鬼術による妨害が炭治郎らを襲う。
鬼が放った血鬼術は単純明快なモノで、肉塊に無数の目玉をはやし、その目玉と視線があった相手を眠らせるというモノ。幸い炭治郎は先に退治した際にこの鬼の血鬼術に関して既に種を知っているため、眠らされてもすぐさま夢の中で自決し覚醒するが、目を開くとそこには必ず鬼の血鬼術による眼があり、覚醒のたびに再び血鬼術に掛かって再び眠らされてしまうという悪循環が、徐々に炭治郎の思考を奪っていく。
そして仕舞には。
「馬鹿野郎! 夢じゃねえ、そこは現実だ!!」
度重なる昏倒で思考がマヒし危うく現実世界で自身の頸を斬りかけてしまう。
一方の伊之助はというと。
「グワァハハハハ!! 俺は山の主の皮を被ってるからな、恐ろしくて目を合わせらんねぇだろ、雑魚目玉共が!!」
幸いなことにかぶり物のおかげで血鬼術の眼と視線が合うことがなく血鬼術に関してはほぼ通用せずに難なく肉塊を切り開いていっていた。
炭治郎も血鬼術に徐々に慣れてついに。
『獣の呼吸 肆ノ牙 切細裂き』
『ヒノカミ神楽 碧羅の天』
炭治郎、伊之助の斬撃が巨大な鬼の頸の骨を断ったのであった。
「ギャァアアアアアアアアアアアア!!」
頸を断たれたことで断末魔の悲鳴を上げのたうち回る下弦の壱、魘夢という名の鬼。それに伴い列車も激しく揺れ動き。
「マズイ!」
「倒れちまうぞ!!」
ついには客車諸共横転し始めてしまう。
更に炭治郎らを襲った不幸はそれだけではなかった。
「よくも、よくも私たちの夢をぉおおおおお!!」
「えッ!?」
なんとこの運転士もどうやらこの鬼の協力者であったらしく、逆上し手に持っていた錐で炭治郎に襲い掛かったのだ。
激しく動く車両に煽られたうえ、とっさのことであったため炭治郎は避けることも防ぐこともできず、運転士の持っていた錐はそのまま炭治郎の腹部へと深々と突き刺さる。
「ぐッ!」
それでも炭治郎はその場で倒れはせず、車両が激しく揺れ動くの中、乗客と自身を刺した運転士であっても構わず助けようと手を伸ばすも、最後はそのあおりで車両から投げ出されてしまう。
「大丈夫か、三太郎!!」
慌てて伊之助が炭治郎へ駆け寄り炭治郎を抱え起こすが、炭治郎はそんな伊之助に速く乗客を助けに行くように告げる。勿論自信を刺した運転士も助けるように頼むが、伊之助は先ほどの運転士が炭治郎にしたことに憤慨しており、最初は受け入れなかった。
それでも炭治郎が賢明に伊之助に助けるようにといい続け、やっと伊之助は渋々とした様子であったが運転士の下へと向かって行った。
一方の炭治郎はどうにか呼吸を用いて体を動かそうとするも、先ほど負った傷は予想より深く、なかなか思うようにはいかない。
刻一刻と時は過ぎていく、早く乗客を助けなければと強く願うも一向に思うように体を動かせないことに炭治郎は次第に焦りを覚え始めるが。
「ほぉ……厳鉄殿や杏寿郎が買うだけはあるな、全集中・常中を身に着けていたとは」
そこに表れた人物に一瞬炭治郎は驚いた。
「俺が言ったとおりだろ拍治。竈門少年は中々の逸材だと」
炭治郎の下に表れたのは炎柱、煉獄杏寿郎と拳柱の素山拍治の2人であった。
「腹部に怪我を負ってるな、中々に深い傷だ。このままでは危険だが、全集中・常中が使えるのなら話は別だ。これからいう手順に従って、呼吸を整えろ」
「は……はい……」
炭治郎は拍治からの言葉に従い、呼吸を集中させる。
「そうだ、呼吸の精度を上げ、体の隅々まで神経をいきわたらせろ。そこだ、そこに敗れた血管がある。そこだ、集中し、止血しろ」
「ハァ……ハァ……ッ!」
拍治に言われたとおりに呼吸を整えると、腹部から止めどなく零れ落ちていた血は、その流れを止めた。
「止血成功だ」
「うむ! 関心関心、常中は柱への第一歩だ、柱へは一万歩あるかもしれんがな、呼吸を極めることができれば様々なことができるようになる。なんでもできるわけではないがな、確実に強い自分になれる」
「はい、頑張ります」
とりあえずの応急処置が終わり、杏寿郎の口からは炭治郎へここにいた隊士たち、全員の努力の甲斐あって、乗客乗員、けが人こそ多数だが命に別条がない事が告げられた。
それを聞き炭治郎もホッと胸を撫で下ろす。
これにて無限列車での任務は完了し、あとは鬼殺隊本部からの救援を待つのみとなったのであった。
だが……。
「ほぅ……魘夢め、仕留め損ねたか……」
『ッ!?』
「あのお方が、我を派遣させた理由、よう分かった」
炭治郎、杏寿郎、拍治のいるそのすぐ近くに、新たな刺客が現れたのだった。
その新たな刺客たる鬼の両方の瞳にはそれぞれこう刻まれていた。
上弦の参と。
つづく