贄禽塚の鬼編後半こと真章。
一応サイドストーリー的な話なので簡潔に終わらせました。
次回から原作のお話に合流させる予定です。
贄禽塚、一体いつからその里はそう呼ばれることとなったのだろうか。
この塚の里にはある風習が100年近くも昔から執り行われていた。
それは、1年のとある日に、山神様へ妙齢の女性を差し出すというモノであった。
所謂生贄、人身御供である。
だが、その実態は。彼らが言う山神とはもちろん、神などという厳かなモノではなく。
人を喰らう人食い鬼、悪鬼そのものであった。
かよは断片的にではあったが、カナエに自身の生い立ちと自身のいる集落に伝わる風習について、そしてその集落からなぜ、これほどまでに衰弱し、傷を負いながらも逃げてきたのか。
その理由を語った。
「贄禽塚に古くから伝わる風習です。妙齢の女性をある月日の晩、山上様への人身御供に差し出すという……それは、集落で100年にもわたり続けられてきた風習でした。けど、その山上というのはもちろん、神などではありません。アレは、正真正銘の人食い鬼なのです」
「先に私の妹を含む仲間の隊士から聞きました。その鬼は女を死ぬまで犯した後に喰らうと……」
「…………そうです」
かよは再び両手で恐怖に震える自身の体を抱えながらもカナエが先ほど導磨、カンナらからしのぶとともに聞かされた鬼の性質に関しての話を聞き、そう応えた。
「昨年の生贄は……私の親友でした。今でも耳に焼き付いています……親友の死ぬ間際の、悍ましい迄の断末魔を……」
「そして……今年生贄に選ばれたのは……」
「はい……私です」
カナエはその言葉で核心を得た
なぜこのかよという女性が、こうまでも衰弱し傷だらけの姿でこの町に流れ着いたのか。
(しのぶや導磨くんたちの考えたとおりだったという事ね)
「私は……死にたくはない! 鬼に、死ぬまで犯されて最後は喰われるなんて! そんな惨い死に方なんて絶対に嫌! だから、どうか鬼狩り様、贄禽塚の鬼を……鬼を対峙してください!!」
かよは最後はカナエに縋りつくようにして泣き、そして懇願してきた。
贄禽塚に巣食う鬼を滅してほしいと。
正直、今回の任務はきな臭いことだらけだと俺は正直に感じていた。
この山奥の集落、贄禽塚に伝わるという風習、そしてその風習にて山神と伝えられている人食いの鬼。
「ねぇ、しのぶちゃん」
「なんですか? 任務の最中なんですから無暗矢鱈と話しかけないでください。何よりあなたとのお話は私はすごく不快なんです。気色悪いので名前で呼ばないでいただけません?」
「相変わらず冷たいなぁ~」
なお、話す相手のしのぶちゃんの俺への態度が毎回これなのはもう俺は慣れっこだから気にはしていない。
実際に嫌われてるって自覚はあるからね、どこぞの水柱君とは違ってさ。
あ、これ水柱君には言わないでおこう。言ったら言ったで絶対すねるからね。
なんて半ば冗談交じりの事はここまでにして、俺は先ほどまでのやんわりとした表情をやめ。
「今回の鬼に関してだよ」
真面目な顔と声色も低いものに変えて改めてしのぶちゃんに話しかける。
「普通に考えてだけど、贄禽塚の風習は実に100年の歳月繰り返されてきたって聞いてる。そんなに長く、鬼が絶好の餌場である集落を直接襲わないのって、ありえるかな?」
「ッ!?」
俺のこの言葉にしのぶちゃんは目を見開き驚いたような顔に一瞬なったけど、すぐさま元の険しい表情に戻って思案し始めたようだった。
「確かに言われてみればそうですね。贄禽塚の鬼の習性、女を死ぬまで犯してから喰らうという言葉から、女以外は基本喰らわない鬼と思えますけれど、生贄になるのは毎年1人ですよね? 1年に1人というのは、どう考えても不自然です」
「だよね、普通に考えて村の人々に配慮なんてする必要はない。村自体を襲って好きなだけ人を喰ったっていいはず、なのにそんなことはしていない……」
「まさかですけど導磨さん? 鬼が自分の意思で人食いを行わずに、何者かが鬼に餌として生贄を与えたるなんて、考えてます?」
しのぶちゃんの問いに、俺は不敵に笑って是と答えた。
「…………」
「おかしい話じゃないだろ? 炎柱の煉獄殿が助けた小芭内くんの家がその代表の様なものだ。贄禽塚にはね、きっといるんだよ、そんな連中がね……」
「悪趣味ですね」
俺の言葉に応えたのはしのぶちゃんではなくカンナだった。
「悪趣味どころじゃありませんよそれ。そういう人たちって本当、頭どうかしてるんじゃないでしょうか?」
勿論、しのぶちゃんも辛辣ながらもそう口にする。
うん、それに関しては流石の俺でも肯定せざるを得ないね。
だが、実際にそんな人間がいるのも事実だ。
鬼を頼りにして生計を立ててるような家など鬼とよく言えば共生していると言えるが、そういった家は実際は鬼の気まぐれでその家の人々が生き永らえさせてもらってるだけでいつでも鬼の気まぐれで餌食になる、そんな場合が大半だ。
だが中には鬼と一緒に平気で殺人を楽しむような、そんな正しく人の皮を被った鬼ともいうべき様な人間がいることがある。
「贄禽塚の鬼の件は、恐らく俺の見立てだとこっちの可能性がありそうなんだよねぇ~」
「なぜです?」
「だって、そうじゃなかったらこんなきな臭いような風習が100年も続くわけないじゃない。さすがの俺たち鬼殺隊、鬼狩りだって馬鹿じゃない。鴉は日本全国、四六時中ありとあらゆる地に出向き鬼の情報を集めてるんだから、100年の間に必ず見つけられる。なのに、今もこうして残っているってことは?」
「鬼に文字通り、力を貸してる人がいるということですか?」
「それもかなり、友好的にね」
俺はそれだけ語ると、まだ夜の闇が支配し続ける森の中を目的地である集落めざし駆け抜けていく。
俺たち集落に着くころにはすでに日は落ち辺りは夜の闇に包まれていた。夜は正しく、鬼にとって絶好の時間。
だがそんな夜中に集落の一部は眩く煌めいていた。
「あそこに人が集まっているみたいですね」
しのぶちゃんがその場に駆け抜けて聞こうとするのを。
「ッ!? 何を……」
俺はすぐさましのぶちゃんの羽織を掴みとめた。
「こんな時間に集落の一同がそろってるなんて、どう考えてもまともなことをやってなんていないよ」
「まさか、それでは……」
「あの子の代わりくらい、すぐに見つかるだろうからね……」
「師範、どうします?」
俺の言葉にしのぶちゃんは顔を顰めカンナは次の指示を仰いでくる。
最も、次の行動手順は考えてるからね。
鬼の気配はかすかだが、カンナも柱の俺やしのぶちゃんが辿れないほどではないし、村と共生関係にあるのなら、ねぐらもここからそう離れてはいないはずだ。
「カンナちゃんはこっちの方角、しのぶちゃんはあっちの林の方角から、俺はここの山道の方から向かうよ」
「三手に分かれるんですね」
「ああ、すでに鬼の気配は把握してるだろ? そこで堕ち王、もしかしたら即、戦いになるかもしれないから十分に注意してね2人とも」
「言われるまでもありませんよ」
「了解です」
その言葉を合図にしのぶちゃんとカンナの2人はその場から姿を消し、少し遅れて俺も山道を一気に駆け上がり、鬼のねぐらへと急いだ。
山道を駆け抜け少しばかり進むと、小さなお堂の様な小屋が見えてきた。
周囲には祠も何もない極めて簡素な造りだが、入口は厳重に施錠がなされている。だが、その小屋からは、異様なまでの、鬼のモノの気配が肌に感じ取れるくらいに漂ってきていた。
「当たりのようだね……」
「イヤぁあああああああ!!」
俺がそう口にするや否や、小屋の中から妙齢の女性のモノと思われる悲鳴が聞こえた。
(血の匂いはしない、鬼の習性から考えるのなら、まだ……フッ!)
俺は迷うことなく、その小屋の扉を自分の日輪刀である銀白色の鉄扇で破り、小屋の中へと入った。
小屋の中では先ほどの女性が、異様な姿の鬼に腕を掴まれ服を破かれている最中であった。
『雪の呼吸、弐ノ型、細雪』
恰も舞を踊るような華麗な動きで即座に鬼と女性の間に入ると、間髪を入れずに俺は鬼の胴へと3連撃の斬撃を喰らわせた。
「ああ……」
「大丈夫かい? 俺の名は導磨、今日はいい夜だね~」
一応の決まり文句名折れの名乗り。
最もこの女性にそんな名乗りを聞いてる余裕はないし。
「君も、そう思わないかな、贄禽塚の鬼……」
贄禽塚の鬼、その姿は全身が文字通り毛むくじゃらで手足は異様なまでにやせ細り、顔がある辺りには大きな目が書かれた札がはられていた。
「ぐぅううう……」
「異形の鬼か……」
鬼は、元は人間だったものたち、その成れの果てだ。
なった当初はまだ元の人間の姿を保っているが、時が経つにつれその姿は異形なモノへと変わり、中にはそれが元は人であったとは思えないほどにまで変貌する者たちもいる。
「とはいえ、その細腕に足……まともに人を喰えていなかったからかあるいは……」
「ガァアアアアアアアアアアアアア!!」
そう考えてる暇も与えずに件の鬼は俺に向かってくる。
「けど、俺だけを相手にしてるなんて思わないことだね」
『雪の呼吸、参ノ型、風花一閃』
天井裏から、俺の継子のカンナが勢いよく俺と鬼との間に割って入り、居合の要領で鬼に一閃を喰らわせた。
しばらく鬼の体は動き、オレとカンナを襲おうとするそぶりを見せていたのだが、すぐにその動きは緩慢なモノになり、傷口の細胞が壊死を起こしながら凍結していき。
「哀れな鬼さん、どうか安らかに……」
俺のその言葉を最後にその鬼はその場で倒れ伏し、以後は一切起きることがなく、徐々にその体は錆色のような色へと染まっていった。
俺とカンナの呼吸『雪の呼吸』の技、その本来の力は鬼の頸を切ることではなく、鬼の細胞を凍らせ壊死させる毒と、衝撃を与えると凍る特殊な水、過冷却水による合わせ技だ。
最も俺もカンナも本気になれば頸を斬るのは容易いが、今回のような異形の鬼の場合頸の位置が非常に曖昧だったり硬かったりで厄介なことがあり、確実を期すならこの方法が一番だ。
「鬼……死んだの?」
女性が恐る恐るそう問いかけてきたので、俺はそうだと答えると、その女性は気が抜けたのかその場で気を失ってしまった。
即座にカンナがその女性の下へと駆け寄り、風邪をひかぬよう、そして敗れた服を隠すように自身の羽織をかけてやっていた。
「少し遅いんじゃない?」
「これでも急いできた方ですよ、師範」
俺とカンナが2人で、傍から見るとのんきと思われるような会話をしてるとその直後に。
「あらあら、もう鬼は滅してしまっていたのですね。さすが御二方、早い早い」
しのぶちゃんが堂々とお堂の表から、しかもその手には何やら、年若い眼鏡の男性が、一言でいうのならボコボコにされた状態で抱えた姿で入ってきた。
「しのぶちゃん? 相手が違うんじゃない?」
「何が違うのですか? 貴方が仰ったではありませんか、ここ、贄禽塚の鬼にはその鬼を支援してる人間がいるのではないか? と、だから私一足進んでこの山の少し奥にある、この集落の管理者の御家に赴いていたのですよ。そしたらですね……本当、あっさり教えてくださいましたよ、ここ贄禽塚の鬼とここの管理者、
いや、その男性のまるで懇願するかのような涙がにじんだその目と、恐怖におびえたような表情から大体想像がつくよしのぶちゃん。
それは教えてくれたんじゃなく、力づくで聞きだしたってことだよね。
「ということは……」
「導磨さんの予想、大当たりでしたよ」
しのぶちゃんが言うには、この贄禽塚の管理者である鳥羽家、その先祖が最初に鬼と関りを持ったのは今から100年前だという。
そして、それから100年余りの時の中、鳥羽家はこの集落を支配する口実にその鬼を用い、年に1人、この鬼の餌となる妙齢の女性を差し出すよう集落の人々に伝えていた。
更に集落の収入源は鳥羽家がその鬼がその力を振るい、人々から奪い取った資財などであったという。しかしその資財は全て集落ではなく、鳥羽家の繁栄の為だけに使われ、年々生贄の頻度も増していったという。
さらに時が経つにつれ鳥羽家の人々はより残虐かつ凄惨な生贄の儀式を思いつくようになり、それこそが今、この時代に贄禽塚に伝わる『死ぬまで女を犯してから喰らう』贄禽塚の鬼の伝承となったのだという。
「悪趣味も悪趣味、最早人と呼んだらいいのか私には計りかねるような所業の数々です。まぁ、でもさすがに殺しはしませんよ。物的な証拠は粗方かき集めましたし、御館様にも口添えしていただければ、鳥羽家の悪事は白日の下にさらされることになるでしょう、それにそれ以上の事は私たち、鬼殺隊の範疇を超える内容です」
「まぁ、確かにね」
とはいえ、目的の鬼はこうして存在し、それを俺たちが滅殺した以上、後はこの集落の人々の問題だ。
「それじゃ、この女性を家族のもとに帰したら、俺たちも帰還するとしようか」
「そうですね、少しお腹もすきましたし、帰りがてらに宿場町の方で何か食べていきません?」
「賛成ですしのぶ様、師範もいいですよね?」
「ああ、いいよ」
「それではお支払いはお願いしますね!」
「ご相伴させてもらいます」
「こらこら、御代はそれぞれがきちんと払うこと!」
正直この哀れな鳥羽家の人間がその後集落の人々からどのような目に遭わされたかとか、市井などからどのような咎めを受けたかなどというのは、俺たち鬼殺隊の関わる話じゃない。
夜明けの刻となり空が白んでいく中を俺たち3人は宿場町に向けて歩みを進めていた。
つづく
雪華こそこそ話
贄禽塚の管理者、鳥羽家が鬼と出会ったのは100年前。
しかもその時に無惨とも接触していて、鬼が人から奪った資財の他にも無惨からの支援もあり鳥羽家は非常に大きな家へと繁栄していっていました。
鬼が人を犯していたのも、鬼を介して鬼の素養を持つ人が生まれるかどうかの実験も兼ねていて、鳥羽家は半ば無慚とはビジネスパートナーな関係でもありました。
しかし結果は乏しくはなく、次第に無惨は鳥羽家と贄禽塚への興味を失っていき、鳥羽家は無残との半ば手打ち金代わりにこの鬼を買い受け、その後の贄禽塚の支配力と自分たちの繁栄の為だけに鬼を道具のごとく使い潰していました。
ちなみに鬼の基となった人間は非情に憶病で人間時代は心優しい青年であったため、鬼となって人を喰らっていくうちに完全に人としても鬼としても壊れてしまい、導磨とカンナに斬られた際には『やっと自分はこの牢獄から解放される』と、むしろ殺されたことを感謝していました。