鬼滅の刃 雪華ノ乙女   作:アウス・ハーメン

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鼓屋敷編中編になります。

相変わらず善逸くんが五月蠅くてカンナのイライラマックスとなっております。
正直書いてて楽しい善逸くんです。


第5話 鼓の鬼

 屋敷から鳴り響いた鼓の音が途切れるとともに、恰も吐き出されるかのように一人の少年が屋敷から飛び出してきた。

 それに気づいた炭治郎は慌ててその少年に駆け寄るも、高所から落下しその身を思い切り地面に叩き付けられたことに加え、飛び出してきた時にすでに体中の至る所に負っていた深手の傷ゆえに、最早その少年の命が助かる見込みはなく。

 

「あ……ああ……やっと……外に……出られたのに」

 

 その言葉を最後に、少年は事切れてしまった。

 

「炭治郎……」

 

 炭治郎と同じく、悲しげな顔の真菰もそばに駆け寄り、一緒に息絶えた少年の身をゆっくりと寝かせてあげる。

 そこでふと、炭治郎と真菰も思い出した。

 幼い兄妹、正一とてる子の兄は鬼にこの屋敷に攫われたと言っていたことを。2人はすぐさま正一、てる子兄妹の方を向くが。

 

「違う……兄ちゃんじゃない、兄ちゃんは柿色の着物を着ていたから……」

 

「そうか……」

 

 不幸中の幸い、彼らの兄、清は柿色の着物を着た少年で、この少年とは別の人だった。

 とはいえ、人の……それも幼い命が鬼によって奪われたことに変わりはない。

 

「戻ってきたら、必ず埋葬します」

 

 炭治郎はひとまず、地面に寝かせた少年にそう語りかけると、表情を険しいモノへと変え、再び鬼が潜む鼓の音の鳴り響く屋敷の方へ視線を向ける。

 今の兄妹の言葉から恐らく、この屋敷に潜む鬼が攫って行った人間の数は一人二人ではないだろう。

 先に真菰とカンナの2人から教えられた稀血、ここの鬼が標的と定めている人間たち。しかし稀血は文字通り稀な血を持つモノの事だ、恐らく狙っていたといってもすべての人間がそうではなく、先ほどの少年もそうではなかったために、鬼にとってはもはや不要な餌として吐き出されてしまったのだろう。

 炭治郎の心の中で沸々と怒りの炎が燃え盛っていた。

 

 このままになどしておけない、早く鬼を滅さなければ彼らの兄も先ほどの少年と同じになってしまう。

 

 そこからの炭治郎の判断は早かった。嘗て彼の師から言われたような『判断の遅さ』はすでに、鬼殺の剣士としての修行を終え、最終選別を生き抜いた炭治郎にはない。

 

「カンナさん、真菰、行きましょう!」

 

「うん」

 

「ええ、このままにはしておけないもの」

 

「はい、善逸! お前も――」

 

無理無理無理無理無理無理、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅうううううううう――――!!

 

 しかし、最初から任務に盛大に拒否反応を示していた我妻善逸は、このような事が起きた後だというのにいや、このような事が起きた後だからこそともいえるが、絶賛、断固拒否の姿勢をその身全てで訴えていたのであった。

 

 

 

 俺の目の前で、人が死んだ。

 また一人、人の命が失われた。鬼の手で。

 

 最初に俺の心を襲ったのは間に合わなかったことへの悔しさだった。

 

 あの時もそうだ。

 

 俺の家族が鬼に襲われ、みんな死んでしまって禰豆子が鬼にされてしまったとき。

 最初の任務の時、婚約者を目の前で鬼に攫われたという人に出会ったとき、その婚約者の人がすでに、鬼に喰われてしまっていたと知ったときにもだ。

 

 俺はいつも間に合わなかった。

 駆けつけた時にはいつも、既に誰かの命が奪われた、その後だった。

 

『違う……兄ちゃんは柿色の着物を着ている』

 

 でも、今回は違う。

 俺一人だけじゃない、俺を鬼殺の剣士の道へと進めてくれた、今では先輩の隊士のカンナさんに、俺と同じく鱗滝さんの下での死ぬほど厳しい修行を乗り越えた、姉弟子の真菰もいる。

 

 絶対にこれ以上奪わせない。奪わせてなるか!

 

 俺はもう一度、さっき鼓の音と、鬼のモノと思われる咆哮の聞こえた屋敷に目を向ける。

 

「もしもの時のために、この箱を置いておく。何があったとしても君たちを護ってくれるから」

 

 俺は、禰豆子のいる箱を正一くん、てる子ちゃん兄妹の側においてそう彼らに告げた。

 最初の任務の時も、禰豆子はちゃんと、俺がそういうまでもなく人を護ってくれた。鱗滝さんが予め掛けていたという『人間はみな家族、慈しみ護ろ者』という暗示の効果ともいえるが、その直後に出会った、鬼でありながらもその鬼の首魁、鬼舞辻無惨と敵対している鬼、珠代さんと愈史郎さん2人の事も、家族の誰かと、人と同じように認識していたことで禰豆子自身の意思もあるのだと、俺は信じている。

 だからきっと大丈夫、禰豆子はちゃんとこの2人を護ってくれる。

 俺はその後、カンナさんと真菰、そして今、俺の羽織を全力で掴んできている善逸を引き摺りながら、その屋敷の入り口に向かって歩みを進めた。

 

 屋敷の入り口、それ自体は普通の家屋のそれであった。何の変哲もない玄関のつくりだ。

 だが、俺の頭の中でずっと、あの少年の最後の言葉が引っかかっていた。

 俺が最初に任務で出会った鬼は、地面や壁、至る所に沼のような穴を作り、その中から相手に奇襲をかける血鬼術を使用していた。今回の鬼も恐らくのあの少年の言葉から、一度この屋敷に入った人間を何らかの形で外に出さなくするような、そんな血鬼術を使う〝異能の鬼〟の可能性が大いにある。

 

「炭治郎、慎重にね」

 

「うん、わかってる」

 

 真菰からも注意がなされ、俺は自身のよく聞く花はもちろん、耳、目、五感のその全てを研ぎ澄まし鬼の気配を探る。

 

「なぁ、炭治郎……カンナさん、真菰さん……守ってくれるよな、俺を……守ってくれるよな?」

 

「……善逸、申し訳ないが……俺は前の戦いで肋と脚が折れて、まだ完治していない」

 

 悪い、善逸。

 さっきからお前からそんな風に懇願するような匂いがしていたのは分かってたけど、俺の今の状態はこの通りだ。

 一応姉弟子の真菰、そしてカンナさんもいるが鬼の能力を考えると、恐らく分断される可能性もありうるしそんな状態では正直、俺自身を護るので戦いではいっぱいいっぱいになるだろうから、善逸は善逸で自分の身は自分でキッチリ守ってもらわないと困る。

 

「えええ―――!! 何折ってんだよ骨!? 折るんじゃないよ骨!! 骨折れてる炭治郎じゃ俺を護り切れないだろ!!」

 

 まぁ、そう言ったら言ったで盛大に抗議して来る善逸だけど、そんなこと言われたって鬼との戦いで、それも怪我の1つも追わずに戦い抜ける人間なんているわけないだろ。

 それにおまえだって一応は選別を突破してるんじゃないのか。

 

「自分の身くらい、自分でちゃんと守りなよ」

 

「そうね、というかまず鬼を倒す、倒さない以上に鬼殺の剣士の基本よそれ」

 

 あぁ、真菰とカンナさんからもものすごく冷たい匂いがするぞ善逸。でも言ってることは間違ってないからな。俺も鱗滝さんから最初のうち、耳にタコができるくらいに言われてきたんだからなソレ。

 最初に出会った時もそうだけど、お前少しは周りの迷惑ってことも考えろな。それに、俺はずっと匂いでわかってたけど善逸、お前は強いんだぞ。もっと自信を持っていいんだぞ善逸。

 だがそうはいっても当の本人にはそんな自覚がないのか、相変わらず善逸は俺や真菰、カンナさんに大泣きしながら縋りついてばかりいた。

 そんな善逸を相手にしていると、玄関口からこちらに走ってくる2つの人影が目に入り。

 

「ダメだ! こっちに入ってきちゃ!」

 

 それが先ほどの正一くんとてる子ちゃん兄妹だとわかりすぐさま俺はそう叫んだ。

 この屋敷はもう鬼の縄張りだ、さっきの少年の言葉からもこの家それ自体に鬼の血鬼術による仕掛けか何かがあるとみていい。そんな中に普通の人、それもまだ幼い子供が入ってくるなど自殺行為だ。

 

「貴方たち、なんで入ってきたりしたの!?」

 

「危ないんだよ、この中!」

 

「でも、お兄ちゃん、お姉ちゃんたち、あの箱なんかカリカリ音がして」

 

「だ、だからって置いてこられたら切ないぞ! アレは俺の命より大切なモノなんだから」

 

 俺、真菰、カンナさんが2人にそう声をかけたその時だった。

 突如として家全体がきしむような、ミシミシといった音が鳴り響き、それに驚いた善逸が大声を上げてかがんだ、その拍子に善逸の尻が俺とてる子の2人に当たり、俺は近間にあった部屋にてる子と共に押し込まれてしまった。

 

「あ、ごめん。尻が――」

 

 さらに、善逸のその謝罪を聞き終わる前に。

 

 ポンッ!

 

 先ほど、屋敷の外で聞いた鼓のような軽い音が響き渡り、気が付くと俺とてる子以外の、真菰やカンナさん、善逸、そして正一の姿が忽然と消えていた。

 

 

 

 迂闊だったと私は今になって後悔した。

 こういう類の血鬼術は以前にも目にしたことも、自らが受けたことも散々あったというのに、警戒が疎かになりすぎていた。

 今回の鬼の血鬼術、あの息絶えた少年の発した最後の言葉から、空間そのものを操る類の血鬼術なことは、炭治郎や善逸の様な隊士になったばかりの人間ならともかく、既に場数を多く踏んでいる私や真菰なら本来すぐに気づかなければいけないことなのだ。

 故に鬼のねぐらであるこういった屋敷に入る際も警戒に警戒を重ね、慎重に慎重を期すべきであった。

 何より一般人が決してこの屋敷に踏み入らないように、せめて隊士を一人くらいはお目付け役においておくなど措置もすべきだった。

 

 今回のこの事態は正しく、それら取るべき警戒を怠った結果招いてしまったモノだ。

 

ギャァアアアアアアアアアア―――――死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、こりゃ死んじゃうよぉおおお、炭治郎がっどっかに消えたぁああああ!! 俺のせいだよちくしょおおおお!!

 

 あぁ、それにしてもこいつが五月蠅い!!

 少しは静かにしてくれないかしら、気が散る。

 

「うるさいよ、善逸……少し静かにしてくれないかな、気が散って仕方がないんだけど」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 まぁ、私がそういう前に真菰さんが、凄まじい迄の怖い笑顔で善逸をそう制して黙らせてくれたからよかったが。

 

「てる子、てる子!」

 

 問題は先ほどこの屋敷に入って来てしまい、いましがた炭治郎とともに消えた妹のてる子ちゃんの事が気になって不安に駆られてる兄、正一くんの方だった。

 だが、それもすぐさま杞憂に終わった。

 

「あまり声を出さない方が良いよ。鬼がこっちに気付いて襲ってくるかもしれない」

 

「あ、はい分かりました!」

 

 意外とこの子は賢く冷静な子で、真菰さんがそう言うとすんなりその言葉に従ってくれた。とはいえやはり不安は隠し切れない様子だったが。

 

「カンナ、気づいてるよね?」

 

「ええ……」

 

 そして、正一くんと言葉を交わした後、真菰は私も先ほど、屋敷に入る前からすでに気付いていたことを互いに確認も込めて話し合い始める。

 

「この屋敷から漂ってくる鬼の気配、一つのモノじゃない……間違いなくここには複数体の鬼がいるわ」

 

「うん、しかもその内の1体は十二鬼月、下弦くらいの強さを持ってる、そんな気配がする」

 

げぇえええええええ!! 嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょおおおおおおおおおおおお!? そんな何体も鬼がいるとか嘘でしょおおおお!! いや、最初から気づいてたけどさ、俺耳いいからねぇ、気づいてましたけどさ!!

 

 あぁもう、本当五月蠅い、いいから少し黙っててくれないか全く。

 

「少し黙っててもらえませんか善逸さん。それにさっきから死ぬとか何とか、貴方恥ずかしくないんですか? その腰に差してる刀は一体何のためにあるんですか?」

 

「グッハァアアアアアア」

 

 本当、同じ鬼殺隊ながらに恥ずかしい、この正一くんの方がずっと鬼殺の剣士に向いているのではないだろうか、そう思うくらいにこの子は冷静でおまけに善逸相手にこれでもかと鋭い言葉の刃をぶつけてくれる。

 一方の善逸はというと御覧の通り。

 

「正一くんの的確過ぎる言葉が、俺の心に突き刺さるぅうううう!!」

 

 いや、それでそんな風な言葉をはけるって、アンタある意味凄いわよその精神力。

 

 なんてこの五月蠅いなり立て隊士をなだめながらも私たちは先ほどはぐれてしまった炭治郎と正一くんの妹のてる子ちゃんを探すべく行動を開始した。

 とにかく気配を頼りに部屋一つ一つ隈なく探していくほか、今はない。

 私はそう考え手近にあったふすまに手をかけ、それを開いた。

 すると。

 

ぎゃああああああああああああああ―――――化け物だぁあああああああああ―――――!!

 

 そこには猪頭の奇妙な男が一人、荒々しい息を吐きながら立っていた。

 

「えっと……どちらさま?」

 

 私がそう口にするかしないかのところで。

 

「猪突猛進、猪突猛進―――――!!」

 

 その奇妙な猪頭はそう叫ぶと途端に部屋から飛び出し、どこへともなく姿を消したのであった。

 

「なんだったの、アレ……」

 

「こっちが聞きたいよぉおおおおおお!!」

 

 

 

 ところ変わって炭治郎はてる子をその身で守りながらも、今自分たちに起きている状況を冷静に分析していた。

 先ほどは玄関すぐ近くの部屋に2人でいたはずなのに、その玄関があった場所は廊下へと通ずる襖になっていた。

 

「ごめんな、お兄ちゃんと離れ離れにさせちゃって」

 

 炭治郎は状況を確認している、その間も泣きじゃくるてる子をそう言って励ましていた。

 そこはやはりたくさんの兄弟(妹)たとの長男であった炭治郎である、こういった小さな子の扱いはお手の物だ。

 だが、そんな中で炭治郎の他の人よりも一段と利く鼻が、今この部屋の近づく者の存在を捉えた。

 炭治郎がすぐさま、その匂いの近づいてくる方へと視線を向けると。

 

(こいつ……! いくつかこの屋敷に漂っていた匂いの中で、最もきつかった匂いだ。かなりの人を喰っている。これがこの屋敷の主!)

 

 そこにいたのは肩と腹からまるで鼓をそのまま生やした、いかにも鬼といった風体の異形の鬼であった。

 

つづく




雪華こそこそ話

真菰は怒るとカンナですらたじろぐ程に恐ろしいです。
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