思いのほか長くなってしまってますが、次で一応は最後の予定。
今回は善逸の回となります。
彼の勇士? をご覧ください。
「ギィヤァアアアアアアアアアア―――――やっぱり出たぁああああああああああ―――――!!」
炭治郎とてる子が鼓の鬼と遭遇している最中。
「グヒヒヒヒ、子供、子供だ。舌触りがよさそうだ」
善逸ら一行もまた別の鬼と遭遇していた。
しかし、この鬼の力ははっきり言えば〝雑魚鬼〟に分類できるほど弱い鬼で、行動を共にしているカンナ、真菰にとっては取るに足らないほどの鬼なのだが。
「ああもう! 善逸!! しっかり刀抜いて戦いなさい!!」
「そんなに滅多矢鱈に逃げ回られてたら、こっちだって頸狙えない!!」
ここまでこの程度の鬼に苦戦している一番の元凶はこの、我妻善逸にあった。
「ちょっと善逸さん! カンナさん、真菰さんの言う通りですよ! ちゃんと戦ってください!!」
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、絶対死んじゃうって―――――!!」
善逸があろうことか正一少年の手を文字通り、ガッチリ握ったまま一緒に逃げ回るせいで正一と善逸の2人に狙いを定めた鬼の動きがあまりに不規則なモノとなり、元々雑魚鬼とは言えすばしっこい鬼なこともあってか、ベテランであるはずの剣士であるカンナ、真菰の2人でもなかなか首を狙えない状況となってしまっていたのだ。
「ねえカンナ、今更だけど、なんであれで最終戦別を突破できたのかな……善逸」
「知らないわよ……まぁ、今回の最終戦別には鱗滝さんが鍛えた炭治郎や他にもしのぶさん所のカナヲちゃんも参加してたし、他が強かったとかじゃない?」
「でも……」
こうまで矢鱈逃げ回る善逸にカンナは心底呆れ、いつの日にか自分の師範や同じく柱である不死川実弥が口にしていた隊士の質の低下の話に納得まで行くほどであったが。
「善逸、あんなふうに逃げ回ってるけどかなり強いはずなんだよ? それこそあんな鬼程度なら簡単に斃せるくらいには」
「えっ!?」
真菰はそんな善逸の姿に違う疑問を抱いていた。
「さっきだってそう、目にも留まらない舌での攻撃をあの鬼は繰り出してるのに」
「ギャ―――――!! 何それ舌速!! 水瓶パカッて」
「全部の攻撃を紙一重で避けてて、いまだに無傷だし」
「た……確かに……」
言われてみればとカンナも改めて善逸の逃げ方、動きに目をやる。
確かに汚い騒音の域に達するほどの高音を発しながら逃げ回ってはいるが、鬼の攻撃は紙一重ですべて躱し、いまだに善逸自身は元より一緒に連れてる正一少年の体にも、ところどころ逃げたり鬼の攻撃を躱した際に負ったであろう軽い擦傷を除けば大きな怪我はしていない。
普通の癸の隊士ならあの攻撃のいくつかですでに事切れてるところであるのに。
「ギィヤアアアアアアアア―――――ありえないんですけど―――――!!」
そうこう逃げ回っているうちについにその鬼と善逸等の文字通りの鬼ごっこは終わりを迎えた。
善逸と正一少年は近間の部屋に一緒に雪崩れ込むように飛び込み、ここまで全力疾走で逃げ回っていた善逸の足もとうとう限界を迎えたのか、立ち上がれないほどに震え切っていた。
「善逸さん、立って!」
「あぁああああ―――――膝に来てる、恐怖が八割膝に―――――!!」
正一少年は善逸の手を引きどうにか立ち上がらせようとするも、既に善逸の足は限界を超えてしまい立ち上がることができないでいた。
「グヒヒヒ、追いついたぜぇえええ、お前らの脳髄を耳からぢゅるりと啜ってやるぜぇえええ」
「カァッ!」
とうとう鬼に追い付かれてしまった善逸と正一少年。そして鬼が部屋に入りそう発すると同時に、善逸の中に僅かばかりに残っていた責任感と恐怖が一瞬ではじけ飛び。
「ぜ、善逸さん! ハッ!?」
「ぐぅううううう」
「ね……寝ている!?」
善逸は盛大に鼻提灯を吹かしながら眠りこけてしまったのだ。
「ギャハハ、なんだそいつは!」
「うわぁあああああ! 善逸さん起きてよ!!」
これは絶好の機会だと鬼はその伸縮自在な舌を正一少年へと放つ。
「死ね! ギャハッ!」
だが、その舌が正一少年を射抜くことはなく、その下は正一少年に届くはるか前に。
「ぎゃあああああ!!」
切り裂かれていたのだ。
いつまでも自信に痛みも衝撃も走らないことに疑問に思った正一少年は、ゆっくりと顔を上げるとそこには。
「善逸さん?」
先ほどまで無様に逃げまどっていたものと同一の人物とは思えないほどに、険しく力強く正一少年を護るように鬼の前に立ちはだかる、我妻善逸がいた。
〝シィイイイイ―――――〟
善逸の口から独特の呼吸音が漏れ出る。
対峙する鬼も善逸の雰囲気が先ほどまでとはがらりと変わったのを感じ取り。
「今更、なんだってんだぁあああ!!」
今しがたに再生させた舌を善逸に向けて放つが。
『雷の呼吸、壱ノ型……』
『霹靂一閃!!』
それが放たれるよりもはるかに速く、善逸は自身の持つ全集中の呼吸、雷の呼吸による一閃で。
「ぐへっ!」
鬼の頸を一刀をもとに斬り落としたのであった。
これは、一体何が起きたというの?
私が善逸と正一くんの下にたどり着いて最初に得た感情はそれであった。
目の前にいるのは、先ほどとは大きくその雰囲気を変えた善逸と、その足元に転がる先ほどまで彼らを追い回していた鬼のモノの頸。
直前には全集中の呼吸の一つ、雷の呼吸のモノと思われる独特の呼吸音が聞こえ、それと同時に文字通り雷が落ちたかのような衝撃が屋敷全体に走った。
「雷の呼吸、その全ての始まりである壱ノ型……霹靂一閃」
「それにしたって、あの子のアレは」
速すぎる。
恐らく斬られた鬼は自身になにが起きたのかすらわからないうちに頸と胴が泣き別れとなったのだろうと、そう思えるくらいの目にも留まらない速さの剣技であった。
この時はまだ、私はこの我妻善逸という少年をあまりに侮っていたのだと、後々になって思い返すこととなる。
普段は無様に逃げ回るばかりの情けのないどうしようもない少年の彼が、彼の師である桑島慈悟郎すら認めるほどの、雷の呼吸の後継者となるまでに成長したその時に。
「ハッ! ぎゃああああああ―――――!! 急に死んでる!! 何なのねえ!? もう嫌ぁあああああ!!」
しばらくすると善逸が目を覚ました。
正一くんにも色々と事情を聴いたが、どうやら善逸は先ほどまで、本当に眠りこけていたらしい。
なんというかだが、本当この時の私はこんなバカがこの先あの嘗て鳴柱であった彼の師、桑島慈悟朗が自身の後継者と認めるほどの雷の呼吸の使い手となるなど微塵も感じてはいなかった。
普段からちょっとのことで、こんな大音量の汚い高温というしかないような騒音を響き渡らせ、鬼を前に守るべき一般人がいるにもかかわらず無様に逃げまどい、挙句街道のど真ん中で女の子を困らせ、相棒の鎹鴉、いや雀か彼を困惑させるようなこんな少年が、そんな風に成長するわけがないと、そう思ってすらいたのだから。
けれど、すぐそのあと私は彼を少しばかり見直すことになる。
確かに普段はそんな風に他人を困らせてばかりのこの我妻善逸という少年だが、そんな彼は誰よりも思いやりがありそして――。
誰よりも優しい清らかな心を持った少年なのだと。
一方、鼓の鬼と遭遇した炭治郎も戦いを始めていた。
「腹立たしい、腹立たしい!! どいつもこいつも余所様の家にずかずかと土足で入り込みおって!!」
(くっ! この鬼の血鬼術、空間を操ることができるんだ! さっきからあの鬼が体の鼓を叩くたびに部屋が回転している)
この鬼、鼓の鬼の血鬼術は正しく、体の肩、腹から生えるようにその身をさらしている鼓による空間操作。
それらによって炭治郎は鬼に斬りかかるたびに部屋を回転させられ、構えを乱され中々鬼に一撃を加えることができていなかったのだ。
しかも、中々鬼を斬れない理由はこの鬼の血鬼術ばかりではない。
「ガハハハハッ! 猪突猛進、猪突猛進!!」
鼓の鬼との戦いが始まって早々に、この部屋へと乱入してきたこの猪頭の男、その男の介入もまた、炭治郎がなかなか鬼の頸を切ることができない、理由の一つになっていた。
「くそっ! いったい何なんだ!! 鬼が目の前にいるのに、お前は鬼殺隊じゃないのか!?」
「へっ! お前の言う通り俺も鬼殺隊だぁあああ!! 山の王、嘴平伊之助さまよう! 俺は誰よりも強くなる、そのための踏み台にあの鬼の頸は俺がもらうぜえええ!!」
この猪頭の男、名を嘴平伊之助というのだが、この男は正しく彼自身が発する猪突猛進の言葉通り、無暗矢鱈にそれこそ炭治郎が鬼の方へ向かっているときにさえ鬼へと斬りかかるのだ。
鬼の空間操作の血鬼術に加え伊之助による妨害、その上この鼓の鬼の屋敷に来る前、浅草でとある理由から鬼との戦いになった際に負った怪我もあって炭治郎にとってこの戦いはあまりにも不利な状況となっていたのだ。
「虫め、消えろ、死ね!」
鼓の鬼は今度は自身の腹の方にある鼓を1回、ポンッ、と鳴らした。
すると――。
(なッ!? 畳が裂けた!? 鼓の音と同じ速度で、獣の爪痕のような形に)
先ほどまで炭治郎と伊之助、そしててる子のいたその場所に、獣の爪痕のような跡が走った。
(あの鼓、攻撃の手段でもあるのか!)
鼓の鬼の血鬼術は空間操作だけではなく、今のように獣の爪のような斬撃すらも放つことができるのだ。
今の一撃は間一髪避けることができたが、判断が少しでも遅れていたら今頃炭治郎もてる子もバラバラの肉片に変えられていたことだろう。
「ガハハハ! 面白れぇ!! いいねいいね!!」
冷静に状況を見極めようとする炭治郎とは裏腹に伊之助は猶も鬼へと矢鱈斬りかかる。
だが、その瞬間――。
ポンッ!
再び屋敷全体に鼓の音が響き渡り、炭治郎が気が付いたときには目の前に鬼の姿はもちろん、伊之助の姿もなく。
(また、部屋が変わっている)
それどころか先ほどいたはずの部屋ですらもなくなっていたのだ。
しかし炭治郎はここである違和感を感じ取った。
(でもさっきの鬼、鼓を打ったような動きをしていなかった。最初から感じてたけど、ここは複数の鬼の匂いがする。ということはもう1体……もう1体鼓を持った鬼がいるのか?)
とにかく思考を巡らせ、なぜこんな奇妙なことが起きているのか考える炭治郎だが、その炭治郎の鼻が再び血の匂いを捉えた。
「てる子、俺の後ろにいるんだよ」
「うん……」
炭治郎はとにかく、今いる部屋から出てその匂いをたどる。するとその先にはまた一人、鬼に食い散らかされたであろう人の遺体が転がっていた。
「ッ!!」
(また人が食い散らかされている)
炭治郎はその光景に一瞬目を伏せ。
「どうしたの?」
「大丈夫だよ、ここに鬼はいないから。さぁ、向こうに行こう。ゆっくり、振り返らずに」
今しがた見つけた遺体にも、後で必ず埋葬しますと静かに告げた後、炭治郎とてる子は再び屋敷内を彷徨い歩く。
(これとは別にもう一つ、今まで嗅いだことのない独特の血の匂い、真菰の言っていた稀血。きっとそれだ! 出血量は少ないみたいだ)
そんな中、炭治郎は先ほどの遺体が放っていたものとは違うもう一つの血の匂いを感じ取っていた。
その匂いを辿ってしばらく歩いていると、ある襖の前にたどり着いた。
炭治郎は唇の前に一本指を突き立ててる子に声を出さないように告げると、勢いよくその襖を開ける。
「ッ!?」
するとそこには。
「清兄ちゃん!」
「ッ! てる子!?」
先ほどの鼓の鬼が持っていたものと同じ鼓を持った少年、てる子そして正一少年のもう1人の兄、清の姿があった。
清氏は入ってきたのが自身の妹だとわかると、とっさに叩こうとした鼓を寸でで止め、鼓を置いて妹を抱きしめる。
「よかった、無事だったんだな」
「てる子、その人は?」
「俺は竈門炭治郎、悪い鬼を退治しに来た」
「ここまでずっと、私を護ってくれたんだよ。正一兄ちゃんも別の剣士の人と一緒にいるよ」
「そ……そうか……」
清は安心したようにほっと胸を撫で下ろす。
「よく一人で頑張ったな、さぁ、傷を見せてくれ」
炭治郎はそう言うと自身の懐から、鬼殺の任務の前に自身の師、鱗滝が渡してくれた塗り薬を出し、それを清の傷に塗ってあげる。
幸い清が追った怪我は鬼に連れ去られた際に負ったであろうこの足の怪我以外はないようで、少しだけ衰弱してる様子はあったがいたって健康そのものであった。
「何があったのか、ゆっくりでいい。話してくれるか?」
しばらく経ち清が落ち着いてきたところで、炭治郎は清に一体自分の身になにが起きたのかを聞いた。
「化け物に攫われて、く……く……喰われそうになったんだ。でもそしたらそこに別の化け物がきて……殺し合いを始めたんだ、誰が……俺を喰うのかって……それで最初に俺をさらった鼓を体からはやした化け物がやられた時に、一つ鼓を落として、それを叩いたら部屋が変わって、それで何とか……今まで」
「清君、君をその鬼が攫ったのは、君が稀血だからじゃないか?」
「あ、はい! その化け物も言ってました。俺の事を『マレチ』って」
「炭治郎さん、稀血って真菰おねえちゃんが言ってた」
「うん……」
炭治郎は清から事のあらましを粗方聞き終えると清になぜ自分が鬼に攫われ喰われそうになったのか、その理由を教えてあげた。
それを聞いた清は酷く怯えたが、炭治郎は優しく清を励まし。
「俺はこの部屋をでる」
「えっ!?」
「鬼を退治しに行ってくるから、俺が部屋を出たらすぐに鼓を叩いて移動するんだ。これまで清がやってきたように、誰かがこの部屋に入ろうとしてきたり、物音が聞こえたら間髪入れずに鼓を叩いて逃げるんだ」
「は、はい!」
炭治郎は清にそう言うと今度はてる子の方を向き。
「いいかてる子、今君の兄ちゃんはひどく疲れているから君が助けてあげるんだ。2人がまたはぐれてしまわないようにちゃんと兄ちゃんの側にいるんだぞ」
「う、うん!」
てる子にもそう言葉をかけた。
「俺は必ず迎えに来るから、君たち2人の匂いを辿って、戸を開けるときは名前を呼ぶから、もう少しだけ頑張るんだ……できるな?」
炭治郎の言葉に清、てる子の2人は力強く頷くと。
「よしいい子だ、じゃあ……行ってくる!」
炭治郎がそう言うとそれとほぼ同じくして。
「虫けらがぁ……忌々しい!!」
先ほど炭治郎とてる子が遭遇した鼓の鬼がここから二つ先の部屋に表れた。
「叩け!」
炭治郎がそう言い駆けだすと同じく、清は鼓を叩き、妹のてる子とともに姿を消した。
「忌々しい、腹立たしい、小生の獲物、小生の縄張りで見つけた小生の……稀血の獲物を!!」
「鼓の鬼!」
「ッ!」
「今から俺が、お前の頸を斬る!!」
その鼓の音が正しく、炭治郎と鼓の鬼の戦いの合図となった。
つづく
雪華こそこそ話
カンナは一応は今回の最終戦別を突破した隊士たちの育てに関しては全員知っています。
それを教えたのは彼女の師範、導磨です。