鬼滅の刃 雪華ノ乙女   作:アウス・ハーメン

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勢いに乗って、本日2つ目の投稿になります。
藤の花の家紋の家、小休止回です。

今回、本作の伊之助の過去とカンナの過去がチラッと語られます。


第8話 藤の花の家紋の家

 炭治郎たちが鼓屋敷の任務の後に訪れたのは、藤の花の家紋の家であった。

 この藤の花の家紋の家はここ以外にも複数存在する。その家は先祖がかつて鬼狩りによって鬼から命を救われた一族など、鬼殺隊に命を救ってもらった人々が切り盛りしている鬼狩りのある種の休憩所のようなところだ。

 表向きは無償で鬼狩りに尽くしてくれる家となっているが、実際には鬼狩り、鬼殺隊の頂である産屋敷家からの様々の生活、暮らしの支援への見返りとして彼ら鬼殺の剣士たちを支援している。そういう家々である。

 

「ごめんくださいまし~夜分に申し訳ありません、鬼狩りの者です」

 

 カンナが代表して門をたたくと、応対したのは小柄な老婆であった。

 

「鬼狩り様でございますね。どうぞこちらへ」

 

 老婆はひさと言い炭治郎ら鬼殺隊の面々に衣食住全てを融通してくれた。

 炭治郎、善逸、そして伊之助の3人はまずはひさの呼んだ医師から診察を受けるとそのあと湯殿に向かい風呂に浸かった。

 一方のカンナと真菰は先の任務ではこれといった怪我などを負っていないことに加え、特にカンナは先の休息の知らせを運んできた鎹鴉の足に括り付けられていた。鬼殺隊の頭である産屋敷からの密命、それに従いあることを行うところであった。

 それは炭治郎の鬼となった妹、禰豆子の調査である。

 

「悪く想わないでよ、炭治郎」

 

「それじゃ、開けるね」

 

 なお禰豆子の事はすでに真菰も知っており、大好きな鱗滝の頼みもあって一応は黙認していた。

 だが、やはり鬼殺の剣士であるという自身の本分ばかりは曲げるわけにはいかず、禰豆子に関してももし人に危害を加えるのならその時は、炭治郎の姉弟子で同門ということもあり自らの手で頸を墜とすと誓っていた。

 炭治郎が背負っていた箱の扉となっている部分を開くと、中から小柄な幼子のような姿の少女、炭治郎の妹の竈門禰豆子が静かに出てきて。

 

「おはよう、禰豆子」

 

 真菰のその言葉に反応し眠気眼であった眼をしっかりと開いた。

 

「あの日から、それほど変化らしい変化はないわね」

 

「炭治郎と鱗滝さんの話だと、炭治郎が鱗滝さんのところで修業を始めて、最終戦別を突破するまでの2年間ずっと眠ってたって話だよ。それでその間に体質も大きく変化して人を喰らう代わりに、眠ることで体力を回復してるんじゃないかって」

 

 とりあえずこの2年間、禰豆子が人を襲って食ったということはないと真菰からカンナは改めて説明を受ける。

 

「しのぶさんが聞いたら、さぞや興味をそそられそうですね。最も、私からしたら彼女が人を襲っていないということに関しては、当然というところですが……。襲っているのなら私はこの子のみならず、炭治郎の頸も刎ねなければなりませんから」

 

「それが、カンナが果たすべき鬼殺の剣士としての責任?」

 

「理由はどうあれ、この兄妹を見逃すという決を下したのは私……相応の責任を取るつもりよ。最も最初は切腹を考えてたけれど、御館様にこのことを伝えた時に、それだけはやめろと言われたわ。貴重な鬼殺の剣士、それもかつて最強を謳われた雪柱の弟子の一人を失うのは、鬼殺隊にとっても計り知れない損失だと」

 

「御館様もすでに、禰豆子と炭治郎の事は把握してるんだよね」

 

「ええ、そして彼らを受け入れると決断なさっている。けれど他の鬼殺の剣士、特に柱の皆様は、恐らく納得はしない……それを御館様は理解なさってるからこその――」

 

「今回の密命」

 

 産屋敷がカンナに下した密命の内容はそれであった。

 産屋敷としては、鬼であるのに人を襲ったことがないという竈門禰豆子とその兄、炭治郎の事を最初に彼らの師である鱗滝からの手紙を受け取ったとき、彼らにこれまでにない大きな可能性を、生まれながらに持つ先見の明により感じ取り彼ら兄妹の存在を黙認することを選んだ。

 しかし、いくら産屋敷が鬼殺隊の多く、柱からも全幅の信頼を得られているとはいえ、鬼の存在を鬼殺隊のうちに入れるというのには相当な抵抗があることが予測された。

 そんな彼らに一応の納得をさせるためには、禰豆子がこれから先も人を襲う、その恐れがないということを証明する他ない。

 

「それじゃ、始めるわよ真菰さん。キッチリ記録を取って頂戴」

 

「わかった」

 

 カンナは真菰にそう指示すると、真菰は懐に忍ばせていた筆と紙、墨を取り出し記録の用意をはじめ、それが完了したのを見計らいカンナは。

 自らの手首を懐に忍ばせていた小刀で斬り、そこから血を滴らせ小刀と共に取り出していた白い布に浸み込ませた。

 部屋には濃い血の匂いが充満する。十分血が浸み込んだのを見計らうとカンナは布を手首から離し、全集中の呼吸で止血を行うともう一つ取り出した布を手首に巻いて処置を施す。

 まだ麗しい少女とはいえ、彼女は鬼殺の剣士。戦いでよく傷を負う彼女にとって、この程度の傷を自らに刻むのも、その傷を手当てをするのもお手の物であった。

 

「私の血も稀血……それもあの少年のモノとは比べ物にならない、鬼にとっては極上の稀血の中の稀血、さぁ……その血に対してどう反応するかしら……竈門禰豆子」

 

 カンナは自身の血が十分に浸み込んだ布を皿の上にのせて禰豆子の前に差し出し反応を伺う。

 同時にカンナと真菰の2人は自身の近くに日輪刀を置き、もし禰豆子が食人衝動に駆られて自分たちに襲い掛かったとき、即座に首を刎ねられるよう備えを行う。

 

「禰豆子……」

 

 真菰は心配そうな顔で禰豆子の様子を窺っていた。

 できることなら、自分の弟弟子の妹の首を刎ねたくは、真菰はなかった。

 耐えてほしいと心の奥底で強く真菰は願う。

 

「うぅ……」

 

 禰豆子はカンナの稀血の血を前に目を見開き、その口からは涎が溢れそれが口枷の竹を伝って垂れ始めていた。

 いくら2年間人を襲わず、体質の変化によって人を襲う可能性が大きく減っているとはいってもやはり鬼は鬼、その元来から持つ食人衝動が完全に消えるわけではなく、何より鬼にとっては極上の餌である稀血を前にはやはりソレは禰豆子であっても顔を見せてしまうようであった。

 禰豆子はしばらく血の浸み込んだ布を見つめていたが。

 

「フッ!」

 

 それから少し経つと禰豆子は頸を勢いよく横へと振るい血の浸かった布から目をそらし、ギュッと鼻を抑えるとそそくさと箱の中へと入っていったのだった。

 

「ハァ―――――」

 

「寿命が少し……縮んだ……」

 

「全くだわ、頼まれてもやりたくないわよこんな実験、いくら密命であってもね、それで真菰さん、記録は?」

 

「ちゃんと取ってるよ、これで……柱の人たちも納得してくれるかな?」

 

「さぁ、そこまでは保証できないわね」

 

 とにかく、今禰豆子と炭治郎の為にやれることはやったとカンナは血の浸かった布とそれを乗せた皿を手早く片付け、鼻の利く炭治郎が気付かないように部屋の障子をあけて換気を行うと、真菰が記録した養子を自身の鎹鴉の足に括り付けて、産屋敷の下へと放った。

 それからしばらく経ち、炭治郎たちが風呂を終えて部屋へと入ってきた。

 さすがに僅かに血の匂いが残ってしまっていたため炭治郎がそのことをカンナたちに聞いてきたが、カンナは先の戦いで少し怪我をして、その手当てをしていたと、先ほど禰豆子への実験で傷つけた手首のを見せて炭治郎たちに説明し、炭治郎たちもそれに納得してそれでその事は終わった。

 その後ひさが炭治郎らに食事を持ってきて全員でそれに舌鼓を打った後に、全員揃って布団へと入った。

 

「て、カンナさんと真菰さんも一緒に寝るんですか?」

 

「ええ、一応は貴方たちのお目付け役も担ってるからね私たち」

 

「それに変に意識する必要はないよ……長期の任務の時とか男性の隊士とも一緒に野宿するときとかよくあるし、こういう仕事柄、男女の垣根なんてあまり意味がないしね」

 

「いや、そういう問題じゃないでしょ」

 

 炭治郎お呼び善逸が寝る時も自分たちと一緒にいるカンナと真菰にそう疑問を口にするが、当の2人は全然気にしていない様子だったのですぐに聞くのをやめ、それぞれの修行時代の話を始めた。

 善逸は元々捨て子である日女に騙されて借金をしてしまったときに、それを肩代わりしてくれたお爺さんが鬼殺隊の育手だったようで毎日毎日地獄の鍛錬の日々に明け暮れてたという。

 

「本当さ、あの時はいつ死んだ方がマシってそんな感じの日々だったよ! 最終戦別で死ねると思ったのにさ、運よく生き残るもんだから、いまだに地獄の日々なんだよ!」

 

「けど、善逸そのお爺さんのこと悪く思っちゃいないだろ?」

 

「ん……まぁ、なんやかんやで俺のことずっと気にかけてくれてたし、うまくできた時さ、爺ちゃん頭撫でて褒めてくれるんだ……それ嬉しくてさ、そんな日々だったけど、でも俺、頑張ることができたんだ」

 

「ほら――」

 

「でもだからって酷すぎなんだよ鍛錬の時は! いつも死ぬのがマシだって思うくらいに辛かったんだよ!!」

 

 そんな善逸の半分近く愚痴も籠った言葉に、真菰は炭治郎と共に微笑まし気に、カンナは半分以上呆れた様子で聞いていた。

 

「それはそうとさ、俺は炭治郎が鬼を連れてるのがずっと気になってるんだよ。真菰さんもカンナさんもいろいろ事情を知ってるみたいだしさ」

 

「善逸、分かって箱を護ってくれてたんだな」

 

「まぁ、俺耳がいいからさ、鬼と人間の音って違うからそれで、最初からさ」

 

 炭治郎は善逸の問いに答えるように、自分に起きたことのあらましを話して聞かせた。

 鬼殺の剣士となる2年前に鬼が自分の家族を殺害し、妹の禰豆子が鬼に変えられてしまったこと、そしてその鬼を狩るべく当時既に鬼殺の剣士となっていたカンナが訪れ、最初は禰豆子を殺そうとしていたところを見逃してもらったこと、そして紆余曲折を経て鱗滝の弟子となり修行をはじめ、姉弟子である真菰に出会ったこと。

 話すと一度では語り切れないほど、炭治郎の話は悲しく重いモノであった。

 

「そうか……禰豆子ちゃんっていうのかお前の妹、元の人間に戻れるといいな」

 

「うん……」

 

 善逸の言葉に炭治郎は微笑んで小さく頷いた。

 

「それはそうと、伊之助は鬼殺隊に入る前はどうしてたんだ?」

 

「あ、それ俺もずっと気になってた。なんかカンナさんの話だと前の雪柱の人と一緒にいたって話だったけど」

 

「ああ、いたぜ」

 

 炭治郎と善逸の言葉に伊之助はそう短く答えた。

 一方のカンナはというと、なぜか炭治郎たちとは逆方向を向いて、ふて寝していた。

 炭治郎は匂い、そして善逸は音でカンナと伊之助の間に何か良からぬことが何度もあったのだろうと察する。

 

「俺はガキの頃は猪に育てられてたんだ。だから俺には親も兄弟もいねぇ。他の生き物との力比べだけが俺の生きがいだ。いや、だっただなもう」

 

 伊之助はこれまでの自分の身の上を炭治郎と善逸の2人に聞かせる。

 

「縄張りにしてた人間の家にいた時に、その雪柱っていう女が俺のところに来てな、俺を引き取るって言いだしたんだよ。俺はどうでもよかったけどよ、その家のやつらがしきりにそうした方が良いっていうんでさ、その女と力比べをしたんだ。それでな」

 

「「それで?」」

 

「こっ酷くぶん投げられて負けた」

 

 善逸も炭治郎も色々と思考が追いつかない伊之助の身の上話に声を出すことができなかった。

 なんで自分を引き取ると言ってきた人と力比べなどになったのかもそうだが、その雪柱とか言うのが女性で、しかも力比べを挑んできた、当時は子供の伊之助を容赦なく投げ飛ばしたという大胆さにも驚かされた。

 

「なんというか、すごい思い切った人だったんだな、カンナさんの大師匠さんって」

 

「というか、普通ありえるかよ……自分が引き取るって言った子供を、いくら力比べを挑まれたからって投げ飛ばすなんてさ」

 

「まぁ、それで色々あって俺はおふくろの養子ってことになって、そこで鬼の事や鬼殺隊の事も知って、お袋のところで色々と修行して最終戦別に挑んだってわけだ。ちなみにあの刀な、お袋んところの他の隊士と力比べして奪い取ったもんなんだよ」

 

「いや、なにやってんだよこのトンデモ野生児。というかそれで最終戦別行かせる元雪柱って人も何してんだよ。ありえなくない?」

 

「ええ……ありえないわよ……相変わらずだったんだなぁあの人」

 

「ぎょわあああああああ!!」

 

 いつの間にか炭治郎たちの方を向いて、まるで妖怪かと見間違うほどものすごい形相で彼らを睨みつけていたカンナに善逸は驚き汚い高温の絶叫を上げた。

 

「そんなにとんでもない人なんですか? 前の雪柱? て人」

 

「ええ……普通は色々と常識的な行動をとるのに、ところどころどこか、イカレてるとしか言いようがないような行動をとることがあってね‥…私も師範も同じく隊士だった私の姉もね……振り回されてたばかりだったのよ……」

 

「そ……そんな人だったんですね……て、カンナさんってお姉さんがいたんですか!?」

 

 炭治郎はカンナが語った前の雪柱と呼ばれた人の事になんとも言えない顔になるが、その話の中で出てきた彼女の姉の話に耳が傾き、驚きの声を上げた。

 

「……ええ、いたわ」

 

「ッ!?」

 

 だが、姉の事を炭治郎が聞いたとき、炭治郎はカンナからとても悲しい匂いを感じた。

 

「何かあったんですか?」

 

「他愛のない事よ……」

 

 善逸も音でその事がわかり、恐る恐るそう問うと、カンナは再び炭治郎らと反対方向を向き小さくそう口にしたあと、静かに自身の姉の事に関して話し始めた。

 

「私の姉は、柱だったわ……先の雪柱……」

 

「え!? でも前の雪柱は伊之助の育ての親だって」

 

「その人はいまだと先々代の雪柱よ雪音静葉って名前のね。私の姉は氷室つばき……先代の雪柱で、とても綺麗で、強い人だったわ……それに誰よりも優しい人だった、それこそ鬼にまでも同情の念を抱くくらい……」

 

「…………」

 

「でも、もういないわ……私の姉は……鬼に殺された」

 

 カンナのその言葉を聞いた炭治郎と善逸は、これ以上は何もカンナに聞くことはできなかった。

 

 氷室カンナが心の奥底に抱く闇は、彼等では推し量ることが難しいほどに重く深い。

 

つづく




雪華こそこそ話

カンナの血も稀血でしかもそれは不死川実弥の稀血に匹敵するほど
希少な血で鬼にとっては至上のご馳走となっています。
同時にカンナにとっては、自身の家族が死に追いやられるきっかけの一つとなった忌べき体質でもあり、カンナは自身の血が稀血であることをひどく嫌悪してもいます。
その為真菰と違い、鬼である禰豆子に関しても見逃しこそしましたが大きな蟠りの念を抱いています。
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