Serenade of azure   作:yurarira

1 / 14
投稿の仕方まだよくわかってないので、
手探りでがんばります。


儚い少女と空色少年のoverture~「「またね」」~

 

それは忘れ去られてしまった幼い記憶────……

 

 

 

 

 

「……っ、うっ…ぐずっ…」

 

 

 

公園で泣く小さな女の子。

 

 

彼女は、コンクールを抜け出してきてしまっていた。

 

 

 

「…も、やだぁ…………わたし……できない…っ」

 

 

 

女の子の頭の中を駆けめぐるのは、色々な音の数々。

 

先ほどのコンクールで見た、数々の演奏者の顔。

 

 

……大好きな、人の顔。

 

 

 

「…う、うゎぁぁ…っ」

 

 

 

(怖い、やだっ。大好きなはずの音楽が…怖い…っ)

 

 

 

「……っ、くしゅんっ」

 

 

 

あふれ出る涙を紅葉のような手で拭っていると、

彼女は突然可愛らしいくしゃみをした。

 

 

 

「……寒い…」

 

 

 

それもそのはず。

 

今日は世間にクリスマスイブと呼ばれる日。

 

コンクールだった彼女は、

ドレスに薄いカーディガンを羽織っただけの格好だからだ。

 

 

 

だがそんな格好でも唯一、

大事に抱え込んでいたものがあった。

 

 

 

「…………」

 

 

 

そっと地面にそれを置いて、

少し躊躇してからそのケースを開ける。

 

 

 

「……っ」

 

 

 

そこには小さなヴァイオリン。

 

 

丁寧に手入れがされているらしく、

ボディーに傷は一つも見当たらない。

 

 

…だが、弦が一本切れてしまっていた。

 

 

予備の弦は持っている。

 

 

なのに、彼女はそれを張り替えようとはしない。

 

 

 

「……っ、ごめんね…っわたし、

 わたし…最後まで弾けなかった!

 あなたが、頑張ってくれたのに…」

 

 

 

そう、彼女のヴァイオリンは

演奏中に弦が切れてしまったのだ。

 

 

頭が真っ白になってしまった彼女は、

そのまま舞台裏へと引き返して……

 

そして、コンクール会場を飛び出してきてしまい今に至る。

 

 

 

 

彼の演奏を、聞いていられなかった。

 

 

 

「…わたし、わたしは…っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だいじょーぶですか?」

 

 

 

 

「え……?」

 

 

 

女の子がゆっくりと俯いていた顔をあげると、

そこには女の子の視線に合わせるように、

同い年くらいの男の子がしゃがみこんでいた。

 

 

 

「…あ…………」

 

 

 

空色の綺麗な瞳。

 

そして空色の綺麗な髪は、

彼女に幼なじみのことを思い出させた。

 

 

今頃はきっと必死になって

彼女を探しているであろう幼なじみより、

少し色の薄い髪をしたこの子を見ると、

綺麗な色だと思った。

 

 

しかし、彼女はすっと視線を地面に落とす。

 

 

 

 

「…大丈夫、です。気にしないでください」

 

 

 

 

 

 

 

今はその色を見たくない。

 

 

そんな彼女の様子に、気づいたのか気づいてないのか、

彼は話を続けてきた。

 

 

 

「それって楽器ですよね?えーと、確か……」

 

「………」

 

「……あ、そうだ、ヴァイオリンだ」

 

「………」

 

「当たってますか?」

 

「…はい」

 

 

 

(この人、誰なんだろ…。

 わたし、今は誰ともお話ししたくないのに…)

 

 

 

「ぼく、音聞いたことないんです」

 

「え?」

 

 

 

ぱっと目線を上げた女の子に、無表情で男の子は続けた。

 

 

 

「ヴァイオリンの」

 

「…ふぅん」

 

「弾いてみてくれませんか?」

 

「え……」

 

 

 

ほとんど無表情に言われて、女の子は凍りつく。

 

 

だが、彼の瞳の奥が輝いているように見えるのは、

きっと気のせいではない。

 

 

 

「…わたし、下手ですよ。

 わたしなんかより、他の人の聞いた方が絶対…」

 

「でもぼくの周りに、

 ヴァイオリン弾ける人なんていません。

 ぼくは、キミのヴァイオリンが聞きたいんです」

 

「わたしの…ヴァイオリン……」

 

「はい、キミのです」

 

「わかっ、た…」

 

 

 

子犬のような目をした男の子に言われ、

女の子は驚いたように、

 

…でも、幾分か表情を和らげてから頷いた。

 

 

 

「じゃあ、あの、弦張らなきゃなので、

 ちょっと待っててください」

 

「はい」

 

 

 

女の子が予備の弦を取り出し、新しく張り直しているのを、

男の子は飽きもせずにじっと見つめる。

 

彼女がどこかを触る度に興味津々のようだ。

 

 

 

「…はい、できました」

 

「……すごい、そうやって張るんですね。

 しかもすごく早い」

 

「…慣れて、ますから。

 なにかリクエストとか、ありますか?」

 

「なにが弾けるんですか?」

 

「えーと、有名な曲なら楽譜なくても弾けると思います。

 1フレーズだけ」

 

「…えーと、じゃあ…おまかせします」

 

「え、えぇっ…。えーと……あ、それじゃあ…」

 

 

 

肩当てをきちんと当て直し、

姿勢をきちんと作った彼女は一息吐いて。

 

ゆっくりと、弓を引く。

 

 

 

「あ……」

 

「……」

 

 

 

1フレーズだけ弾き終わった彼女がゆっくりと姿勢を戻して

彼を見ると、彼は目を大きく見開き彼女を見つめていた。

 

どこか、きらきらしているようにも見える。

 

 

 

「…どう、ですか?」

 

「…きらきら星、ですね」

 

「え? あ、はい…っ」

 

「とても…、綺麗でした。驚きました。

 ヴァイオリンの音ってあんなに綺麗なんですね」

 

「……はい」

 

 

 

それを聞いた彼女の顔がまた少し緩む。

 

 

どうあっても、やはり彼女はヴァイオリンが好きなのだ。

 

 

 

「それにキミの音も優しかったです」

 

「え?」

 

「柔らかいって、言うんでしょうか。

 キミの音、ぼくは好きです」

 

「わたしの…音……?」

 

 

 

(わたしなんかの音、好きって言ってくれるの……?)

 

 

 

「はい、こういったのもスポーツと同じで"こせー"が出る。

 違いますか?」

 

「…違いません。スポーツ、やってるんですか?」

 

「はい、楽しいですよ」

 

「…わたし、体力ないので無理です」

 

「ぼくもそこまでないです」

 

「えっ」

 

「でも好きなのでやってます。だめですか?」

 

 

 

(好きだから……やってる。

 ……そう、わたしもお母様たちと合わせるのが大好きで…

 ヴァイオリンも大好きで……)

 

 

 

「…あの?」

 

「……め、…ゃ…い」

 

「え?」

 

「だめじゃないですっ。わたしも、わたしもそうですっ」

 

「……良かった」

 

 

 

男の子はふわっと笑う。

 

女の子も釣られて微笑む。

 

 

そんな2人の間を寒風が通り抜ける。

 

 

 

「…くしゅんっ」

 

「…だいじょーぶですか? そのかっこ、寒そうですね」

 

「…ヴァイオリンだけ持って、

 抜け出して来ちゃったんです」

 

「え」

 

「…あれ以上、聞けなくて」

 

 

 

泣きそうに顔を歪める女の子に対して、

男の子は何も聞かずに手を伸ばす。

 

そして頭をぽんぽんと撫でた。

 

 

 

「…何があったのかはわかりませんけど、

 キミはキミだと思います」

 

「……あり、がとう…」

 

「でも流石に風邪引いちゃいますね。

 …えーと、あ、そうだ」

 

 

 

男の子は自分に巻いていたマフラーを取ると、

女の子の首にぐるぐると不器用に巻き付ける。

 

 

 

「これで、寒くないです」

 

「でもこれじゃ、あなたが風邪引いちゃいます!」

 

「ぼくはキミより暖かいかっこしてるので、

 だいじょーぶです」

 

 

 

確かに男の子の格好はタートルネックに、

ズボン、ダウンと風を通しそうにない真冬の格好に反して、

女の子はドレスに薄地のカーディガンのみ。

 

まあ、それはコートを置いてきてしまったせいなのだが…。

 

 

 

「でも…」

 

「じゃあ、演奏料です」

 

「え?」

 

「さっき、ぼくに

 ヴァイオリン聞かせてくれたのでそのお返しです」

 

「……でも、そんな演奏…」

 

「じゃあ、切れちゃってたのください」

 

「…え? あの、この弦のことですか?」

 

「はい、今日の思い出にしたいです」

 

「思い出…?」

 

「はい、思い出です。

 なんとなく、これ持ってたら

 またキミと会えそうな気がするし」

 

「……わたしも」

 

「?」

 

「わたしも、またあなたと会いたいです。

 ……だから。良かったらこれ、どうぞ」

 

 

 

そう言って彼女は、切れた弦を笑顔で彼に差し出す。

 

男の子は嬉しそうに受け取ると、

失くさないようにぎゅっと握りしめた。

 

 

 

「ありがとうございます」

 

「また会えた時に、このマフラー返しますねっ」

 

「あ、それはあげます」

 

「え」

 

「ぼくはこの弦貰ったので」

 

「…ふふっ、わかりました」

 

 

 

そんなとき、ふわり、と何かが2人の間を舞う。

 

 

 

「わ、ゆき、だぁ……」

 

「本当だ……って、あ」

 

「?」

 

「ぼく、天気が崩れる前に帰って来いって、

 お母さんに言われてたの思い出しました」

 

「…じゃあ、お別れ…ですね」

 

「だいじょーぶです。ぼくたちはきっとまた会えますから」

 

 

 

 

弦をちらつかせて大事そうに手で握る彼に、

彼女も笑顔で巻かれたマフラーに手を添えた。

 

 

 

「…はいっ」

 

「キミも早く戻った方がいいです。

 心配してる人、いるはずです」

 

「…あ……」

 

「早く戻ってあげてください」

 

「はいっ、…えっと、それじゃあ…」

 

 

 

 

 

「「またね」」

 

 

 

 

 

少年と少女は、めいっぱいの笑顔を向けた後、

それぞれの待つ人がいる場所へと走り出した。

 

 

 

 

 




*overture=序曲
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。