Serenade of azure   作:yurarira

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香穂子ちゃんは周りの心配をガンガン煽っていくスタイルなので、みんな過保護になっていく……。

でも仕方ないよね、上目遣い黒子くんなんてかわいいに決まってるもんね!!!仕方ないね!!!!



住んでみなくてもagiato~「お、おまた…げほっ、お待たせ、しました…」~

Kahoko side

 

 

 

 

 

「……ふう」

 

 

 

ぼふっとベッドに倒れ込む。

…今日は色々あったなあ。

 

 

黒子くんと再会して、

黄瀬くん、火神くんと会って…。

 

濡れた髪を頬に感じながら、

うとうとと意識が落ちてくる…。

 

 

………髪、乾かさなきゃ……。

 

うつらうつらとしていた

私の意識を引き上げたのは、小さな振動音。

 

 

 

「…んん?」

 

 

 

音源へ手を伸ばし引き寄せると、

そこには着信中を告げるスマートフォン。

 

誰だろ?知らない番号だ。

 

 

……………あ。もしかして。

 

3人ほど思い当たった私は、

そのまま通話へと切り替えた。

 

 

 

「はい、日野です」

 

「あ!香穂子っち!!」

 

「…黄瀬くん?」

 

 

 

通話口から聞こえたのは

どこか緊迫した様子の黄瀬くんの声。

 

 

…どうしたんだろ?

 

思わず上体を起こして背筋を伸ばす。

 

 

 

「マズい事になったんス!」

 

「………?」

 

「黒子っちが…」

 

「え…?」

 

 

 

嫌な予感が駆け巡り、さあっと血の気が全身から引く。

 

そんな私を落ち着けるかのように、

黄瀬くんは少し声を落ち着けて喋りだした。

 

 

 

「あ、いや。黒子っち自身はなんともないっス。

 安心して。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……黄瀬くん。なんで電話してるんですか」

 

「あ」

 

「…黒子くん?」

 

「はい。お騒がせしてすみません」

 

 

 

昼に聞いたときと同じ声音に、

思わずほっと肩を撫で下ろす。

 

…よかった、なんともなさそうで。

 

……でもそれなら、一体なにが…。

 

 

 

「あの、どうしたんですか?」

 

「黄瀬くんが大騒ぎしてるだけで、

 大したことじゃないんで気にしないでください」

 

「いやいや!かなり大事じゃないッスか!」

 

「?」

 

「実はね、香穂子っち」

 

「ちょ、黄瀬くん」

 

「黒子っちの家が…というか、

 アパート全体が火事になったんス」

 

「え!?」

 

 

 

慌ててカーテンを開けると…、ほんとだ。

 

黒煙が上がってる…。

 

 

 

「それで、ものは相談なんスけど…」

 

「ちょっと黄瀬くん。勝手に…」

 

「わかりました、そっち向かいますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…えっ?」」

 

 

 

 

 

 

「すぐ向かうので、ちょっとだけ待っててください」

 

「ちょ、待っ!」

 

 

 

どこか慌てた様子の黄瀬くんとの通話を切り、

私は急いで身支度を整える。

 

 

ええと、確かこないだ貰った紙がここに…あった。

 

なんとなく場所は覚えてるし、わからなくなったら

あの煙を頼りにすればたどり着けるだろう。

 

 

紙を手に取り部屋を飛び出すと、

目を見開いた真奈美とすれ違う。

 

 

 

「か、香穂!?

 こんな時間にどこ行くの!?」

 

「ごめん、真奈美!すぐ帰るから!」

 

「そんな格好で!?せめて上着くらいは…

 って、もういないし…」

 

 

 

ごめんね真奈美。帰ったら話すから。

 

家を出て、門を開ける。

ええと確か…こっち!

 

 

住所と記憶を照らし合わせながら、私はまた走り出す。

 

 

 

「…っ、は…、体力無さすぎ…っ!」

 

 

 

今にも倒れそうな体に愚痴をこぼしつつ、黒子くんの家へ。

 

…あと、少し…っ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Tetsuya side

 

 

 

 

 

「き、切れたッス…」

 

「……嘘だろ…」

 

「大丈夫ッスかね?こんな時間に…」

 

「…彼女の幼なじみの過保護っぷりが、

 よく理解できました」

 

「……オレもッス」

 

 

 

あれじゃ心配にもなる。確かに。

 

黄瀬くんとふたりでため息をつきながら、

未だ燃え続けるアパートへと目を向けた。

 

 

 

「それにしても、ホントに怪我なくてよかったッスね」

 

「焦げ臭いってすぐに気が付けたのが

 よかったんでしょうね。まあ、さすがに

 荷物をまとめる時間までは無かったのが残念ですが」

 

 

 

今出てきた人で最後みたいだ。

 

死傷者が居なかったのは幸いなんだろうけども、

色々燃えてしまったのはかなり痛い。

 

 

 

「……あれじゃあ中の物は丸焦げッスよねえ…。

 無事なのは着てた制服だけか…」

 

「あとは部室にある部活着と、バッシュと……

 これ、ですね」

 

 

 

家を出る直前に、

慌ててポケットに突っ込んだそれを取り出す。

 

ほぼ無意識だったけど、

一番失くしたくないものだったのかもしれない。

 

 

黄瀬くんはボクの手の中を覗いて、不思議そうに呟く。

 

 

 

「なんッスか、それ?」

 

「弦です。

 まあ、切れちゃってるのでもう使えないですけど」

 

「弦?楽器のッスか?なんでそんなもの…」

 

「お守りみたいなものなんです」

 

「へえー…?」

 

 

 

黄瀬くんは意味を理解しかねたように眉をしかめると、

まあいっか、と呟き、なにかに気づいたように声をあげる。

 

 

 

 

「あ」

 

「?」

 

「香穂子っち来たッス」

 

「…………あ」

 

 

 

黄瀬くんの視線の先へ目を向けると、

息も絶え絶えになった女性が

ふらふらになって歩いてくる姿が目に入った。

 

……走ったのか。

 

 

 

「お、おまた…げほっ、お待たせ、しました…」

 

「だ、大丈夫ッスか?」

 

「だ、いじょぶ、です…」

 

「……全くそうは見えませんけど」

 

 

 

時々吸った息にむせながら、肩で息をする日野さん。

 

 

……体力ないくせに無茶するから…。

ボクも人のことは言えないですけど。

 

 

 

「っ。ほんとに、わたしは、大丈夫です。

 それより、お怪我とかは…」

 

「それは大丈夫です。燃え広がる前に気づいたんで」

 

「……よかった…」

 

「それより当面の問題は、黒子っちの住む場所ッス!」

 

「黄瀬くん、だからそれは」

 

「どうするんスか?」

 

「……なんとかなりますって」

 

「決まってないじゃないッスか!」

 

「あの……失礼ですがご両親は…」

 

「…だいぶ前に父は亡くなって、母は海外へ。

 なので一人暮らししてました」

 

「……そう、でしたか。すみません」

 

「いえ。昔のことですから」

 

 

 

荒い息を整えた肩を落とし、俯く彼女。

 

…本当に、気にしなくていいのに。

 

 

 

「……本当はオレの家に

 しばらく来て貰えれば一番よかったんスけど…」

 

「黄瀬くんだって色々事情があるでしょうし、

 難しいなら本当に大丈夫ですから」

 

「でも、それじゃ本当にどうするんッスか黒子っち。

 火神っちの家もダメなんでしょ?」

 

「……」

 

「………あの!」

 

 

 

おもむろに声を張り上げ、片手を勢いよく上げる日野さん。

 

……嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の家はどうですか!」

 

「絶対ダメです」

 

 

 

 

 

 

 

「即答!?」

 

「なんでッスか!?」

 

「むしろなんでいいと思ったんですか?

 年頃の女性の家ですよ?」

 

「私は気にしませんよ?」

 

「ボクが気にします」

 

「でも他にも森っちとか、

 他の人もいるんじゃないんスか?」

 

「だとしてもダメです。

 そこまでの負担もかけられませんし」

 

「でも私は黒子くんに…」

 

「ボクが助けたのは、ほんとに数時間のみです。

 それに対して今回は、

 いつまで厄介になるかもわからない。

 お礼だと言っても明らかに不釣り合いでしょ」

 

「そんなこと……」

 

「あります。第一キミは厄介事を引き受けすぎです。

 あの人たちにまた怒られますよ」

 

「………そんなこと…」

 

「あるでしょう」

 

「…………むう」

 

「…でも黒子っち、

 選んでられる立場じゃなくないッスか?」

 

「うぐ」

 

 

 

黄瀬くんのくせに

痛いところをついてきたな。

 

黄瀬くんのくせに。

 

 

 

「他に行く宛もないじゃないッスか」

 

「…………」

 

「ここは香穂子っちの厚意に

 甘えといた方がいいと思うッスけどねー」

 

「…………………」

 

「…そう!そうですよ黒子くん!

 私の家はもう全然全く本当に!

 無問題なので、安心して来てください!」

 

「………………」

 

 

 

彼女の家にだけは絶対に行きたくない。

 

…行きたくない、のだが。

 

 

 

「ほらほら黒子っち。

 香穂子っちもこう言ってることだし

 意地を張るのもよくないッスよ」

 

「そうそう!黄瀬くんの言う通りですよ!

 気になるなら条件とかつけます?」

 

「あ!それいいッスね!

 それなら交換条件だし、

 黒子っちも気兼ねないッスよね!」

 

「…………………………………」

 

 

 

この状況を打破できるような言葉が

思い付かないのもまた事実。

 

 

……ボクは深くため息をついた。

 

 

 

「………すみません。お邪魔します」

 

「はい!」

 

 

 

それはもう嬉しそうに微笑む彼女。

 

…くっそ。

 

 

 

「……それで?条件はなんですか?」

 

「…え?……あ、ええと…」

 

 

 

ぶっきらぼうに尋ねると、

きょとんとしたあとに、困りきった顔で眉を下げる彼女。

 

……そうだろうと思ったけど。

 

 

 

「……考えてなかったんですか?」

 

「うっ」

 

「それじゃあ条件になりませんね?」

 

「ううっ」

 

「で、でもほら黒子っち!

 今お邪魔になるって言ったじゃないスか!

 もう条件は無くてもいいんじゃないかなー…なんて……」

 

「日野さんだけにそんな負担をかけられないんで、

 条件がないならこの話は無しに…」

 

「お、思い付きました!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼!お昼一緒に食べましょう!」

 

 

「……は?」

 

「お昼…ッスか?」

 

「お昼ご飯!食べましょう!一緒に!」

 

「…それが、条件ッスか?」

 

「?はい」

 

「……………………はあーーーーーー…」

 

 

 

深いため息をつきながら思わずしゃがみこむボク。

 

上から焦った日野さんの声が聞こえてくる。

 

 

………本当に、キミって人は…。

 

 

 

「…黒子っち、

 この子いつかどっかに拐われない?大丈夫?」

 

「……さあ。拐われそうですよね」

 

「そんな小さい子供じゃないんですから…」

 

 

 

最近の小さい子供の方がよほど…という言葉は

彼女の沽券のために口のなかに留める。

 

彼女のあまりの…スゴさというか、

寛容さに立ち上がる気すら起こらない。

 

 

ボクはしゃがみこんだまま、日野さんを見上げた。

 

 

 

「それで、本当にそれでいいんですか?」

 

「…っ」

 

「?日野さん?」

 

 

 

みるみるうちに赤く染まっていく彼女の顔。

 

……?どうしたんだろう。

 

 

そのままの体勢で首を傾げると、彼女は口元を手で抑える。

 

…すごい小さい悲鳴が聞こえた気がする。

 

 

 

「か…」

 

「か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っ、かわいい!!」

 

 

 

 

 

「は!?…って、うわっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急に抱きついてきた彼女を受け止めきれず、

そのまま座り込むボク。

 

どこか甘い石鹸の香りがふわりと漂う。

 

 

いやいやいやいや待ってくれ、なんだこの状況。

 

 

自分の耳が赤くなっていくのを感じる。

 

まずい、これはまずい。

 

 

 

「か、かわいいってなんですか!

 てか急に抱きつかないでください!」

 

「だって!黒子くんわんちゃんみたいで!」

 

「……ぶはっ。黒子っち、お揃いッスね!」

 

「違います!というか日野さん、離れて!!」

 

 

 

このままだと色々とボクがやばい。

 

彼女の肩をぐいっと押すと、

日野さんは少し寂しそうに離れた。

 

 

やっぱり彼女は、一度こっぴどく

幼馴染みに怒られた方がいい。絶対に。

 




*agiato=安楽な
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