Kahoko side
「どうぞ。ここが私の家です」
門を開け振り返ると、黒子くんは目を見開き、
私と屋敷とを見比べていた。
……口がほんの少しだけ開いてる…。
私は思わず笑みを浮かべ、彼へ言葉を続ける。
「黒子くん。大丈夫ですか?」
「…え、ああ、ええと…すみません。
あまりに大きくてつい…」
「そうですか?…ふふ」
「門と玄関の距離がかなりあって、
こんな…背の2倍は余裕であるような
門構えのお宅なんて、そうあるもんじゃないですよ。
……ていうか、なに笑ってんですか」
少しぶすっとした表情で軽く睨んでくる黒子くんに
余計笑いが込み上げてきて、思わず声を立てて笑ってしまう。
「…悪かったですね。小市民で」
「ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃ。
あまりに驚いてらっしゃったので…
まさか、黒子くんのそんな表情が見られるなんて
思わなかったから」
「…はあ、いいですよ、悪気がないのは分かってますから」
「ふふ、すみません」
段々と近づいてくる我が家に、ゆっくりと深呼吸。
…覚悟はしておかないとね。
「?どうかしたんですか?」
「あ…えっと。
たぶん高確率で怒られるので…心の準備を、と」
「…なにやらかしたんですか?
もしかして、ボクを迎えること
勝手に決めたからとかじゃ…」
「い、いえ!黒子くんのことは大丈夫です、本当に。
そうじゃ、なくて…ええと…」
「………?」
「……なにも言わずに、飛び出してきた、ので」
おずおずと告げる私に、
黒子くんは小さくああ、と呟きふっと微笑んだ。
…なんだか少し、
真奈美がなにかを企んだときの笑顔に似ているような。
「それは怒られますね。むしろ存分に怒られてください」
「え、ええっ!?」
「キミは本当に、ボクから見ても危なっかしすぎるんで。
一度それはもうこっぴどく怒られた方がいいと思います」
「い、意地悪…」
「意地悪で結構です。ほら、風邪引く前に入りますよ」
恨めしそうに軽く睨む私をいなして、帰宅を促す黒子くん。
……何枚も上手な気がしてならない。
私はゆっくりと息を吸い込み…吐いて、意を決して扉を開けた。
「……た、ただいま」
「…お邪魔します」
私と黒子くんが言葉を発した瞬間に聞こえたのは、
廊下を走るバタバタとした音。
……ああ、来た。来てしまった…。
言い訳を考える暇もなく、大きくなる音。
そして現れたのは──。
「香穂ぉっ!!!」
「きゃぁああっ!?」
姿を見た瞬間に感極まった様子の雄一が
勢いを殺さずに抱きついてくる。
支えきれるわけもなく、その場に座り込む私。
…そして現れる幼馴染みたち。
「…やっと帰ってきた」
「あ、あはは…ごめんなさい真奈美、説明も無しに…」
「怪我は?」
「ううん、大丈夫だよ」
私の言葉にやっと安心したかのように、
はあーーと大きく息を吐く雄一と真奈美。
それを見た蓮はため息をつきながら、私へと向き直った。
「色々と言いたいことはある。…が…」
「……は、はい」
言葉を切った彼は、ため息とともに伏せていた視線を
真っ直ぐと私へと向ける。
…正確には、私の肩のあたりへ。
「…その学ランは?」
「……あ」
「………ボクのです」
軽く片手を挙げて会話に混ざり込んだ黒子くんに、
真奈美たちは動きを止め黒子くんを見やり…。
一瞬、時が止まる。
「っ、きゃぁああ!!?」
「うおっ!?」
「お、お前、こないだの…!」
「……っ、いつから、そこに…」
「きゅ、急に大声出さないでよ…。びっくりした…」
「これ結構、いつものことですよ」
「ええ……」
しれっとそう告げる黒子くんに、思わず苦笑を漏らす。
…本当に、影が薄いんだなあ…。
「…っ、少しは普通に出てきなさいよ!」
「出てくるもなにも、最初から居ましたよボク」
「え…、マジで言ってる?」
「大マジです」
「……心臓に悪い」
「そう言われましても」
「…ていうか、誰だ?お前」
「「あ」」
ひとり、不審そうな目を向ける梁太郎。
…そっか、梁太郎は会ったこと無いんだった。
「梁太郎、そんな警戒しなくて大丈夫だよ」
「…香穂の言うことじゃ、
いまいち当てにならねえからなあ…」
「ひ、ひどい!」
「その意見には全面同意するけれど。
…大丈夫よ、本当に。こいつ知り合いだから」
「ほら、話したろ?香穂を匿ってたヤツのこと」
「……私、悪いことなんてしてないよ雄一…」
「え?」
「…その場合は助けた、だろう」
「…………………あ、そっか」
「あんたって本当、変なとこ馬鹿よね」
「おい」
「事実でしょう?」
にこりと笑顔を浮かべる真奈美に、
ぐっと言葉に詰まる雄一。
……真奈美に口で勝てるわけがないじゃない…。
「…てことは、その時の?」
「うん。私を助けてくれた人だよ」
「…そうだったのか。悪かったな、不審者扱いなんてして」
「いえ。気にしてないんで」
「そ、そうか。本当にすまんな」
「………それよりも、真奈美」
「ん?なあに、蓮」
「なぜ君が彼のことを知っているんだ?
会うのは初めてだろう」
「…そういや、そうだよな。
こういう時一番に警戒するのお前じゃん」
蓮と雄一の疑問に満ちた視線に真奈美は、
ああ、となんでもないことのように口を開いた。
「私、今日彼と彼の友人に会ったのよ。香穂と帰ってる時」
「……………………どこで?」
スッと低くなる雄一の声音。
……………あ。
言われてみればおかしな話だ。
部活にも入ってない私たちが帰り道に彼と会うなんて、
それこそよほどの偶然でもないと難しいだろう。
……今まで、普通科と関わりもないのに。
真奈美もそれに気づいたらしく、頭を抑えた。
「……やっちゃった…」
「…どこで、なにがあったら、帰り道にばったり
今まで関わりの無かったヤツと会うんだよ。
ほら、さっさと言え」
いつもよりも幾分と低い声音で問い詰める雄一に、
真奈美は降参のポーズをして話し始めた。
「……駅前にストリートバスケできるとこあるでしょ?
あそこよ。
何人かでやってるとこに彼を見つけた香穂が
走っていったから、その時に」
「………………香穂」
「…………は…はい」
低い声音のまま呼ばれた名前に、思わずぴっと背筋が伸びる。
…う…怒られる…!
「あれほど男には気を付けろって言ってんのに、
何でお前は突っ込んでくわけ!?馬鹿か!!!」
「ご、ごめんなさいぃっ!!」
予想どおり落ちてきた雷に、私は目を瞑り頭を下げた。
*gluhend=熱烈な。激しい