天然炸裂する彼女に振り回される幼馴染み。
彼女の周りで起こり始める不可解な出来事。
次々と消えていく幼馴染みたち。
果たして彼らの運命は――――!?
(とはなりません。)
Kahoko side
思い出せない、人がいる。
『香穂子』
薄ぼんやりとしたシルエットの誰かが、
私の名前を呼ぶ。
その声はノイズが入って思い出せないのに。
なぜか、私は。
『キミの音、ぼくは好きです』
私、は……。
「香穂子!」
「っ!?」
瞬間、世界がパッと色づいた。
目の前には、よく見知った顔が4人。
「香穂、大丈夫?ぼーっとしちゃって」
「…あ、真奈美……」
心配そうに顔を覗き込む、
ロングストレートの美女。
森真奈美。私の幼なじみで華道のお家元の一人娘。
文武両道、才色兼備、容姿端麗。
と、まあ本当にスゴい子なのだが。
「疲れでも貯まってるんじゃないのか?大丈夫か?」
「お前すぐ無理するからなー。今日は早めに休めよ?」
「梁太郎…雄一…」
その後ろから同じように
心配そうな顔をしてくれている2人の男性。
土浦梁太郎。幼なじみで、とても頼りになる人。
少し貫禄のある顔立ちと背の高さと口調で、
少し怖がられがちだけど本当にいい人。
高橋雄一。幼なじみで、とてもモテる人。
彼が近くにいると女子の歓声が聞こえるから
結構見つけやすい。たまにすごい過保護。
「…体調管理は基本だろう。しっかりしてくれ」
「……蓮…………」
月森蓮。幼なじみで、とてもストイックな人。
でも彼の厳しい口調は
本当は心配してくれている、と知ってる。
とても優しい人。
一番幼なじみ歴が長いのかな。
「ごめんなさい、心配かけて。
体調は全然なんともないの。
気づいたら…白昼夢見てて…」
私の言葉に、4人は一気に脱力した。
…蓮なんてため息ついた…。
「ほんっと抜けてるというか無防備というか…」
「香穂はたまにボケがひどいからなあ…」
「えっひどい」
「ひどくねぇ、事実だ。
普通の人は話してる最中に白昼夢見ねーよ」
「…むぅ」
「ともかく、今日は早く帰った方がいい。
今は悪くなくても体調が悪くなるかもしれない」
「ええ、楽器店寄りたかったのに」
「「帰れ」」
「……はぁい」
みんなに口を合わせて言われてしまえば、
そうせざるを得ない。
やっぱり過保護すぎると思うのよね…。
「じゃあ真奈美、一緒に帰ろ?」
「ごめんね、香穂。
心配だから一緒に帰りたいのは山々なんだけど
呼び出し食らっちゃってるのよ。寄ってから帰るわ」
「そっか…残念。蓮は先生のとこだっけ」
「ああ。…大丈夫か?」
「大丈夫ですっ。梁太郎と雄一は?」
「俺は部活」
「俺は友達と遊びの約束…なんだけど………断ろうかな」
「え?どうして?」
「今日の香穂、ぼんやりしすぎてて心配」
「もうっ、みんな過保護すぎ!大丈夫!」
疑うような視線を4人から向けられる…ひどい。
私は鞄を手に取り立ち上がった。
「私は本当に大丈夫だから、
みんなも気をつけて帰ってきてね。
ご飯作って待ってるから!」
未だに心配そうな4人に手を振り、教室を出る。
生活感たっぷりの会話。
いつも堂々と話してるから、
誰も気づいた様子はないようだけれど。
まあ、気づかれても大した問題じゃない。
私たちは、幼なじみだけで暮らしている。
もちろん親公認で。
私の家での生活なんだけれども、
親はほぼ海外に飛んでいるので、滅多に帰ってこない。
それに、しても。
駅前への道を歩きながら、
私はふっと彼に思いを馳せる。
顔はわからない。
すごくぼやけていて、本当にシルエットしか。
わかるのは髪が空色のこと、
シルエットが小さな男の子のこと。
蓮かな、とも思った。
けれど彼よりずっと淡い色の髪な気がする。
でも、蓮以外の知り合いであんな男の子は覚えがないのだ。
小さい頃の知り合いにしても…本当に、全く覚えてなくて。
彼が、口を開く。香穂子、と。
声は聞こえない、というより
ノイズがひどくて聞き取れない。
口の形だけ、はっきりと。
それだけの記憶。
それだけなのに、彼のことが。
どうして、こんなにも。
「…っ?」
ぐらり、と視界が揺れた。
あ、れ……。
ガンガンと頭で銅鑼を鳴らされてるような心地がする。
きもち、わるい……。
思わず座り込みそうなのをぐっと堪えて顔をあげると、
こちらを気遣わしげに見ている人と目が合う。
「…あの…」
「……え」
「すみません、座れるところをさがしてるんですが…」
「…悪いんですけど、ボク急いでるので」
「そうですか…すみませ…っ」
あれ、おかしいな。
「ちょ…っ!」
世界が、反転、して。
どこか優しい腕に抱き留められて、私は目を閉じた。
Tetsuya side
「ちょ…っ!」
目の前でぐらりと傾く彼女を慌てて抱き留める。
その顔は、ひどく青白い。
「大丈夫ですか?」
返事はない。
…気絶、してるのか。
失礼します、と一声かけて額に手を当てると
まるで燃えるように熱かった。
なんで、こんなになるまで…。
「…はあ」
よりによって、ボクに話しかけるなんて…。
音楽科に知り合いは…いないし、
さすがに任せるのも……。
仕方ない、か。
これは仕方のないこと、ただの救助。
こんなこと、これっきり、だ。
ボクは彼女をゆっくりとおぶると、
なるべく早足で家路を急いだ。
*suite=洋楽で、いくつかの趣の違う曲を組み合わせた組曲