連れて帰っちゃメッ!でしょ!黒子くん!!
まあここで救急車呼んでバイバイしたら
物語終わっちゃうから…
きっとすごく近所だったんだよ仕方ない。
香穂子の事だから助けてくださったかたを…て探すだろうけど、さすがに顔も知らん人は探せんでしょ…。
てなわけで黒子くん頑張って香穂子を連れ帰ってきました。
Kahoko side
『ごめん、ごめんなさい…っ』
女の子が、ひとりで泣いている。
あれは…私?
『…わたし、わたしは…っ』
知らない公園で、
なにかにすがり付くように泣きじゃくる私。
まるで何かの映像を見ているかのように、場面は動く。
『………だいじょーぶですか?』
小柄の…きっと、泣いている私と同い年くらいの男の子が
私に話しかける。
靄のかかる姿、ノイズのかかった声。
空色の髪だけが、ゆらゆらと見えて。
あなたは一体、誰なの?
「………だいじょーぶですか?」
「……っ?」
知らないのに、既視感のあるような声。
そう。まるで、夢の中で聞いたかのような。
…誰?
私はゆっくりと目蓋を開いた。
「…よかった。起きましたね。
具合はどうですか?」
「……空、色…」
「は?」
目を開けた先には空色の綺麗な髪と目をした男の子が、
無機質な顔で私を見つめていた。
ぽろりと溢した私の言葉に軽く怪訝な顔をしたかと思うと、
ああ。と声を漏らす彼。
「髪と目のことですか。
そんなに珍しいですか?」
「…いえ、ごめんなさい。
妙な……夢を、見てたものですから」
ゆっくりと覚醒してきた意識の中で、
ぼんやりと辺りを見回す。
どこだろう、ここ…。
「…あの、すみません。どちら様…でしょうか。
それに、この場所は…?」
「ここはボクの家です。
キミ、駅前で倒れたんですよ、覚えてないですか?」
「え……。あ……」
そうだ、確かあの時酷い頭痛がして…
立っていられなくてそれで…。
「もしかして、それで見ず知らずの私を
家まで運んでくださったんですか…?」
「…まあ、無視するのも寝覚め悪いんで」
「………ご迷惑を、おかけしました…。
本当にありがとうございます」
「倒れるくらい具合悪くなるまで、
何で放置してたんですか」
「少し前から悪かった訳じゃなくて、
急に立っていられなくなってしまって…。
本当に、ごめんなさい」
「…まあ、いいですけど。
それより、まだ体だるいですか?」
「え?」
「運ぶ前にちょっと熱測らせてもらったんですけど、
なかなかの高熱だったみたいなんで。
さすがに一人で帰るのはキツそうですね」
「そんな、これ以上ご迷惑をかけるわけには。
すぐに帰りますから」
勢いよく布団から起き上がった私を
激しい頭痛と目眩が襲う。
「…っう……」
「別に帰ってくれるのなら助かりますけど、
一人で帰るのは無理でしょう、まだ。
途中で倒れても知りませんよ」
「…すみません…」
「……もういいですから。ほら、キミの携帯です。
家族の人にでも迎えに来てもらってください。
たくさん着信来てましたし、心配してますよきっと」
「…あ……」
彼に差し出された携帯を受け取り、画面を開くと
案の定幼なじみ達からのメールと電話の履歴が
たくさん来ていた。
…心配、かけちゃったな。
とりあえず、真奈美へ電話を――
「香穂!? 今どこなの!!?」
出るのはやっ………。
コール音すら鳴ってないのに…。
「ええと…人様の家?」
「はあっ!?」
どうやらスピーカーにしているようで、
雄一の声が聞こえた。
…うん、まあ驚くよね。
「…とにかく、無事なんだな?」
「うん、心配かけてごめんなさい」
「変なことされてないよな?」
「変なこと?」
「……まあ、とりあえずは
元気そうな声が聞けてよかったわ」
「うん、ごめんね」
「住所はわかるか?」
「え?ええと…」
「住所はこれです」
「っ!?」
急に隣からにゅっと出てきた手に驚いて後ろを振り向くと、
メモ用紙を差し出す彼の姿。
おずおずと受け取り中身を見てみると、
綺麗な字で恐らくこの家のものと思われる住所が
書かれていた。
…結構、近所なんだ。
「香穂?」
「あ、ええと、住所はね…」
「…OK。わかったわ。
今から蓮と雄一向かわせるから、
家の中に居させてもらって?危ないから」
「あ、うん。わかりました」
「それじゃ、今から向かう」
「くれぐれも!気をつけて待ってろよ?」
「は、はい」
雄一の気迫に押されて思わずうなずくと、
電話はプツリと切れた。
「住所、ありがとうございます。
今から来てくれるみたいです」
「どういたしまして。
…それにしても、なかなか複雑な家庭環境なんですね」
「え?」
「友達と住んでるんですか?」
「ああ…はい。幼なじみと。親公認で」
「どこに住んでるんですか」
「私の屋敷です」
「……………は?
すみません、もう一回言ってもらってもいいですか」
「え?だから私の屋敷です。
空き部屋がたくさんあるので、
使った方が屋敷のためにもいいですし」
「………別世界の人ですね、ほんと」
「え?そうでしょうか…」
「少なくともこのアパートの一室が家のボクからしたら、
本当に世界が違いますよ。
うちの学校の音楽科はお金持ちが多いって
本当だったんですね」
「え……。あの、同じ、学校…?」
「はい。まあ普通科ですけど」
「き、気づきませんでした…」
今着てるのは私服だし…。
会ったときはそんな余裕なかったから…。
「まあ音楽科と違って、
普通科の男子の制服なんてそこまで特徴無いですからね」
「でもそれにしても…」
「まあ、そんなことはどーでもいいですよ。
それより、そろそろ外に出ておいた方が
いいんじゃないですか?」
「え?あ…はい、そうですね」
布団を畳み、近くに置いてあった鞄を手にとって、
私は深々と彼に頭を下げる。
「本当に、お世話になりました」
「…いーえ。ほら、
ボクも一緒に待ちますから早く出てください」
「えっ。そんな、いいですよ。
たぶんすぐ来ますしそんな…」
「この辺最近ごろつき多いんです。
また妙なことになりたくないんなら、
大人しくボクと一緒に待っててください」
「…はい」
言い方は、あれだけど…。
すごい、優しい人。
「本当に、ありがとうございます」
「…もういいですってば。何回目ですか」
「でも、本当に。
あなたに助けてもらわなかったらどうなってたか」
「……大袈裟な人ですね」
何度も頭を下げる私に、
彼はふっと表情を和らげた。
「…っ」
「?どうかしましたか?」
「い、いえ…」
あんなに、優しい顔するんだ。
あれ、おかしいな。熱が上がった気がする。
彼はすぐに無表情に戻ってしまったけれど、
なんで、こんな落ち着かない気持ちに…。
「…誰か、走ってきましたけど。
あれが幼なじみですか?」
「えっ?」
彼が指差す方向を向くと、確かにそこには
走ってこちらに向かってくるひとつの影。
……ひとつ?
「あれは…雄一?あれ、蓮と一緒にって…」
「―――香穂ーーっ!!」
うん、間違いない。雄一だわ。
…蓮はどこに…………。
目を凝らす私の横で、彼がぼうっと口を開く。
「…か、ほ………」
「え?」
「……あ、いえ。お名前、かほって言うんですか」
「ああ、それは愛称で…ってごめんなさい。
私、自己紹介してませんでしたね」
改めて彼に向き直り、もう一度ゆっくり頭を下げる。
「音楽科、1ーAの日野香穂子です。
ヴァイオリンを専攻しています」
「……丁寧に、どうも」
彼が、軽く頭を下げるのと同タイミングくらいで、
雄一が息を切らせながら到着した。
「…はあ、はあ…」
「お疲れ様。走ってこなくてもよかったのに」
「や、走ったのは香穂の姿が見えてからだから」
「それならなおのこと…、
それより蓮は?一緒じゃないの?」
「えっ!?アイツ、ついてきてない!?」
「…今のとこ、他に人影は見えませんね」
「うわ、マジかー。やっちまった……
――って、おわっ!!?
お前いつ来た!?てか誰だよ!?」
彼に驚いたのか、見事なまでにのけぞる雄一。
…体柔らかいね……。フィギュアスケートみたい…。
「最初からいましたけど」
「私と一緒に、待っててくれてたんだよ」
「……全く気づかなかった……。
…って、おい待て香穂」
「ん?」
「てことは、人様って…コイツ?」
「こら。助けてくれた人にコイツとか言わない」
「別にいいですけど」
「よくないです!」
「んなことはどーでもいいから!
…にしても、お前ほんっと……。
―――おい、香穂!!」
「!?は、はいっ」
私の肩をがしりと掴んで、
真剣な目で私を見つめる雄一に思わず驚きで肩が跳ねた。
……どうでもよくないのに…。
とは思うけど、
雄一の気迫がそんなことを言える雰囲気ではない。
「いつどこで知り合ったのか知らねーけど、
女1人で男の家行くのは関心しねーぞ?」
「………へ?」
「お前はただでさえ危なっかしいんだから…」
「…んーと、……え?」
混乱する私をよそに、雄一は彼を鋭く睨み付ける。
…なんか、誤解されてるような…?
「お前、どういうつもりだ。香穂を家にまで連れ込んで」
「…色々誤解されてるようなので、弁解しますけど。
ボクは彼女を連れ込んだわけではありません」
「はあ?お前、よくもぬけぬけと…」
「彼女の体調が優れなかったらしくて、
駅前で倒れたんです。
その時近くにいたのがボクだったので」
「うん。私のこと助けてくれて看病してくれてたんだよ」
「……マジかよ。やっぱ一緒に帰ればよかった…」
「…………雄一?それより言うことがあるんじゃないの?」
「…え」
肩に乗っている手を降ろして、
私は雄一をじっと見つめる。
随分と、ひどいんじゃない?
「彼に、謝りなさい」
「えっ」
「何を勘違いしてたんだか分からないけれども」
「いや分かんないんですか」
「彼にすごい失礼なことしたでしょう。謝って」
「う……。や、で、でもこの状況じゃ誰だって」
「あ や ま り な さ い」
「わ…悪かった、な」
「いえ。別に気にしてませんから」
「本当にごめんなさい、
助けてくれたのに嫌な思いさせちゃって…」
私も改めて彼に頭を下げる。
と、聞き慣れた声が後ろからした。
「――――雄一、早とちりしすぎだ」
「げ」
「あ、蓮」
蓮はこちらに歩いてきながら、雄一を軽く睨む。…
…まあ、かなり置いてかれてるものね…。
「あんなに急ぐ必要は無かっただろう」
「…いや、ちょっと。香穂の事だから
外で1人で待つとか言い出しそうだし、
人様がどんな奴かも分からなかったし…。
見えるとこまで来たらなおのこと、
やっぱり1人で待ってたし……」
「真奈美が電話口で、家で待たせてもらえ、
と言っていただろう。
その時特に怪しい感じはしなかった」
「うぐっ」
「…香穂子、待たせてもらうのはどうした。
この時間、体調が優れないのに1人で外は危ないだろう」
「えっ?」
「………」
「あの、蓮?」
「…なんだ」
「私、1人で待ってた訳じゃないよ?」
「…………は?」
蓮は意味が分からない、といった顔で、
真意を探るように私を見る。
………ん?
「……日野さん。多分この人、
ボクの存在気づいてないですよ」
「――――っ!!!???」
「…やっぱ蓮も気づかなかったかー」
「え?え?どうして…」
「ボク、すごく影が薄いらしくて」
「え…蓮、もしかして今気づいたの?」
「あ、ああ…」
嘘…、だって私駅前の時すぐに見つけたような…。
「ボクに気づいて声をかけてくるのなんて、
日野さんくらいですよ。
さすがに駅前で話しかけられた時は驚きました」
「ええ……??」
そんなに…?
気配とか、そんなに敏感じゃないと思うんだけど…。
私が首を傾げてる間に、
雄一が蓮に事情を説明してくれたようで、
蓮は彼に頭を下げた。
「…そうか。すまない、迷惑をかけたな」
「いえ、いいです。彼女からも散々謝られてますから。
……というより、幼なじみ…なんですよね?」
「ああ」
「……過保護過ぎませんか?
まるで保護者みたいですよ、彼女の」
「あっ、それは私も思います!」
彼が呆れたように言った言葉に、私も加勢する。
やっぱりそうよね!
私だってみんなと同じ年なんだし、
自分の事くらい自分で…。
2人はきょとんとしていたかと思うと、
不意に大きなため息をついた。
……え?
「…俺たちがここまで過保護になったのは、
香穂のせいなんだけどな」
「……全くだ」
「…えっ」
「……ああ、なんとなく納得できました。
危機感とか警戒心とか無さそうですよね、この人」
……なんで私、こんなにみんなに呆れられてるの……。
わ、私だって、警戒心の1つや2つくらい…。
いや、3つや4つぐらい!
ある、はず……あるもん!!
心のなかで意気込んで、軽くキリッとしてみるも、
全員から呆れを含んだ苦笑を向けられ、
私はしょんぼりと肩を落とした。
*nocturne=夜想曲