作ってあるから載せるだけなんですが何となく時間が…。
とりあえずはここまで。
Tetsuya side
「…っとやべ。つい話し込んじまったけど、
そろそろ帰んねーと」
日野さんが肩を落とす隣で、
茶髪の彼が手元の時計を見て慌てたように言う。
「…そうだな。早くしないと、真奈美が心労で倒れそうだ」
「……そうね」
彼女も苦笑しながら頷くと、
再度ボクに向き直り、頭を下げた。
「本当に、色々とお世話になりました」
「いえ、お大事に」
「はい。ありがとうございます」
「んじゃ、帰んぞ香穂」
「きゃっ。ちょ、ちょっと引っ張らないで雄一」
「…雄一、香穂子はまだ熱がある。
無理をさせるな」
「おー、それもそうだな…。
じゃあ香穂、ちょっと止まって」
「?? なあにゆうい…きゃっ」
雄一と呼ばれた茶髪の彼が、彼女を軽々と抱き上げた。
……身長だけは高いですよね。
別に、羨ましくなんて無いですけど。
「ゆ、雄一っ、恥ずかしい、降ろしてっ」
「……………雄一」
「だーいじょうぶだって。落としゃしねーよ。
この時間なら知り合いにも会わねーだろ。
これが一番早い」
「……まあ、それもそうだな。無理は避けた方がいい」
「うう……恥ずかしいのに…」
歩き出した彼らを見て、ボクも部屋へと足を向ける。
扉を閉める前に振り向くと、
彼らがゆっくりと家路へ向かっていくのが見えた。
…まるで嵐みたいだったな。
そう思いながら扉を閉めて苦笑する。
……それに、しても。本当に。
「……まさか、気づくなんて」
彼女が音楽科に居たのは知っていた。
彼女もだけれど、周りの面々が目立つ人だから。
けど、いくら同じ学校とは言え、
音楽科と普通科にはほとんど接点はない。
受けているカリキュラムも違うので合同授業等もないし、
式典は合同だが席も離れている。
知り合いでも居ないと
関わらずに卒業していく生徒もきっと多いことだろう。
だから。彼女とは、会わないと思った。
会ったとしても気づくことはないだろうと。
それなのに。
あの道をあの時間通ったのは本当に、ただの偶然だった。
偶然、前を歩く彼女を見つけた。
踵を返して別の道を進もうとした、
けど妙に重そうな足取りが気になって。
思わず追いかけて、
様子を見守っていただけだったのに、目があった。
そしてキミは、迷わずボクに話しかけてきた。
「…変わらないな」
まあ、もう会うことも…話すことも、ないだろう。
そう自嘲気味に呟いて、つ、と視線を低い棚へ移す。
『わたしも、またあなたと会いたいです。
……だから。良かったらこれ、どうぞ』
「…未だに御守り代わりにしてるなんて。
我ながら情けないな、ボク」
ソレを手に取り、思わず苦笑する。
―――ヴァイオリンの切れた弦。
幼い頃、名前も知らなかった女の子から貰ったものだ。
『音楽科、1ーAの日野香穂子です。
ヴァイオリンを専攻しています』
「…………………」
夢かと思った。
まさかまた、彼女と話せる日が来るなんて、
思ってもいなかった。
もしかして…だなんて、
あり得ない期待すらしてしまいそうになった。
そんなこと、あるはずがないのに。
『テツヤ!』
「…綺麗に、なったね」
彼女だった。
夢にまで見た、彼女だった。
関わらないように、関わりを持たないように。
…変な期待なんて、持たないように。
突き放して去ろうとしたのに。
少しでも、会えたことを嬉しいと思ってしまうなんて。
「……ボクは、ずっと…ずっと、キミに…」
その先の言葉は言ってはいけない気がして、
自然と口をつぐんだ。
棚に寄りかかって座り込んだボクは、
弦を光に透かしてみる。
いつぞやのキミが、笑ってそうしていたように。
「…………香穂子…」
キミが、笑っていてよかった。
幸せそうでよかった。
やっぱりキミには笑顔が一番似合うから。
どうか、そのままのキミでいてほしい。
「………ボクのことは、忘れたままで構わないから。
どうか…………どうかお願いだ、幸せになって」
なにかがぽとりと服に染みを作り、
空気にさらされて頬を冷やした。
*flehend=哀願するような