柱に就任した隊士は屋敷を設けることができる。だが、炭治郎は屋敷の建設を保留にした。何故なら、屋敷を持つこと自体が思い付かなかったからだった。一先ず炭治郎は怪我を癒すために蟲柱・胡蝶しのぶの屋敷『
そして炭治郎は蝶屋敷に到着した。隠の人(女性)は玄関で声を出すが、誰も出なかった。そこで仕方なく中庭の方へ回った。その間炭治郎は筋肉痛で一歩も動けず、隠の人(男性)に背負われたままだった。因みに禰豆子が入っている箱は隠の人(女性)が背負っているため、置いてきぼりにはならなかった。もっとも響鬼がいたので置いてきぼりにはならなかったのは別の話である。
中庭に到着すると、しのぶの
「胡蝶様の申し付けにより参りました。お屋敷に上がってもよろしいですか❓」
隠(女性)がカナヲに質問するが、カナヲは答えなかった。だが、炭治郎の姿を見るや慌てた顔になり
「炭治郎大丈夫❗❓」
と炭治郎を背負っている隠(男性)の所へすごい速さで迫った。
「ごめんカナヲ、今筋肉痛で動けないんだ。屋敷に上がってもいいかな❓」
炭治郎は痛みを我慢して笑顔を浮かべ、カナヲに上がってもいいか聞くと、
「えぇっ大変❗すぐ人を呼んでくるから❗」
そう言って屋敷の中へ駆け出していった。その後すぐに髪を蝶の髪飾りで左右に縛っている女性が隠に声をかけ、病室に案内をした。炭治郎を背負っている隠はその後を追い、箱を背負っている隠はカナヲが戻るのを待つことになった。何故なら
「すみません。カナヲが戻って来たらその箱をカナヲに預けてもらえますか❓」
そう炭治郎にお願いされたからだ。炭治郎はカナヲなら禰豆子を任せられると信じているための処置だった。炭治郎たちが離れていった後、カナヲがしのぶと似た羽織を着ている女性を連れて中庭に戻るが、炭治郎たちはおらずそこにいたのは箱を背負っている隠一人だけだった。
隠は事情を説明し、炭治郎からの伝言を伝えると、屋敷を後にした。
女性に案内されて到着した部屋はベッドが等間隔で並べられている大病室だった。病室に入ると同時に誰かの叫び声が聞こえ、視線を向けると善逸が騒いでおり、少女を困らせていた。
案内をした女性は善逸を叱り、スタスタとその場を少女と共に去った。炭治郎は背負われたまま善逸に声をかけると、善逸は炭治郎に気付き炭治郎(を背負っている隠)に抱きついた。しかも鼻水を垂らしながら。
抱きついた際にまたもや騒ぎ出すが、先程の女性が睨みを効かせ黙らせた。炭治郎は村田隊士と伊之助のことが気になり、善逸に聞くと善逸は
「村田って人は知らないけど、伊之助なら隣にいるよ」
そう言われて善逸の隣のベッドを見ると、伊之助が寝ていた。炭治郎は伊之助の所へ行こうとするが、身体が動かず、善逸がいるベッドに倒れこんだ。炭治郎は伊之助が無事で涙を流す。そして別れた後何があったのか聞こうとしたが、伊之助は喋らなかった。
善逸の話によると、喉を圧迫され声が出しづらくなっているらしく、殆んど喋れなくなっていたそうだ。だが、完全に喋れなくなった訳では無く、"渇れ声で声量は小さく"なら喋れるそうだった。
すると廊下からドタドタと走る音が聞こえ、廊下の方を向くと箱を背負ったカナヲが一人の女性を連れて慌ただしく入ってきた。
「カナヲ❗廊下は走っちゃいけません❗」
先程の女性がカナヲを叱るが、カナヲは女性を無視して炭治郎の方へ向かい彼を抱き締めた。全身筋肉痛並びに肉離れを患っている炭治郎は抱きつかれた途端に激痛が全身を走り、珍しく悲鳴を上げた。カナヲは炭治郎の悲鳴を聞いて更に慌ててしまい、連れて来られた女性は
「あらあら~、カナヲがこんなに慌てるなんて。表情が豊かになって、お姉ちゃん嬉しいわ~」
とほんわかとカナヲを見ていた。
その後炭治郎を伊之助の隣のベッドに寝かせ、着ている服を隊服から病院服に着替えさせたが、カナヲが着替えを手伝おうとし、炭治郎が顔を赤くした。カナヲはなぜ炭治郎が顔を赤くしたのか分からず、そのまま服を脱がそうとした所に隠(男性)が遮り、彼が炭治郎の着替えを手伝った。
そしてようやく着替えが終わり、炭治郎はベッドに横になり炭治郎を背負っていた隠は用が終わったので帰った。
カナヲは禰豆子の箱を炭治郎の側に置き、甲斐甲斐しく炭治郎の看病をした。それを見ていた善逸は嫉妬の匂いを炭治郎に向けていた。
それから暫くすると、しのぶが実弥を連れた隠数人と慌ただしく入ってきて、炭治郎はカナヲに支えられながら上半身を起こすと、炭治郎には目も合わせず善逸を睨んだ女性とカナヲが連れて来た女性に声を掛けて病室から出ていった。カナヲは炭治郎の方を向いて首を傾げるが、炭治郎には覚えがあった。
先程の柱合会議の時、師匠である響鬼が彼の腕の骨をへし折ったからであった。実弥は柱の中でも上位の実力を持つのだが、響鬼の前ではただの一隊士でしかなかった。だが腕を折っただけでは実弥は気絶はしない。なので響鬼は腕を折ったと同時に手刀を彼の首に『何度も』落として意識を刈り取ったのだ。この行動は速すぎて炭治郎でも見切れなかったほどである。
しばらくしてしのぶが炭治郎の側までやってくると、無言で青筋を浮かべて笑っていた。炭治郎は彼女から濃厚な怒りの匂いを感じ、顔を青ざめてガタガタ震えていた。無論炭治郎の側にいたカナヲも炭治郎の背中に隠れ彼と同じように震えていた。
「竈門炭治郎君、私の今のこの気持ち、一体どこに向ければいいのでしょうか❓」
炭治郎とカナヲはまるで般若が目の前にいると錯覚するほどの怒りだったので、二人は同時に千切れ飛ぶ位の勢いで首を左右に降った。だが、
「あらあら、カナヲとこんなに仲がいいなんて。どうやってカナヲを"誑かした"のでしょうか❓」
怒りの匂いが更に濃厚になり、空気が震え、とうとう窓ガラスに罅が入ってしまった。だがそんな空気を霧散させる『救世主』が現れた。
「胡蝶(落ち着け)。(綺麗な顔が)台無しだ」
水柱の義勇だった。彼はしのぶの肩に手を置いて、しのぶを慰めていると
「相変わらず言葉足らずなんですから。でもそのおかげで怒りが吹っ飛びました」
「カナヲ、炭治郎君。先程は八つ当たりな行動をしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ、謝るのはこちらの方です❗俺の師匠がとんだご無礼を」
炭治郎は激痛に耐えながらしのぶに頭を下げる。それを見たしのぶは先程の怒りは何処へやら、すっかり機嫌が直っていた。
「貴方に幾つか言わなくてはなりません。先ずは禰豆子さんのことです。いくら猛士の方々が言っても物的証明が無くては誰も信用はしません。なので後日、ここ蝶屋敷でその証明をすることになりました」
「もちろん炭治郎君、貴方も参加しなくてはなりません。これは承諾してくださいね。次にカナヲのことです。カナヲは私たちに黙って最終選別に赴きました。それまではカナヲは一人では決められず、姉から貰った硬貨で決めていました」
「ですが、最終選別から帰ったら硬貨に頼らず自分で決めて行動をしています。炭治郎君、貴方、カナヲに何をしましたか❓」
炭治郎はしのぶに言われ最終選別の時を思い出していた。カナヲに出会った後、カナヲが投げていたコインを見つけ、当人に聞いていた。カナヲは小さい頃、親から虐待を受けていた。当時のカナヲは自身の身を守るために心を閉ざしてしまった。そして遂に親に売られ橋を渡っている時に出会ったのが、当時花柱だったカナエと当時カナエの継子だったしのぶだった。
しのぶは『この子を買う』と言って懐に入れていた金をバラ巻き、カナヲを連れていた男がかき集めている隙をついてカナヲを奪い取り、屋敷に連れ帰った。そして風呂で身を清め、綺麗な服を着させてもらったが、カナヲの心は閉ざされたままで、何一つ自分で決められなかった。
それを見たカナエはカナヲに表と裏が彫られたコインをカナヲに渡し、一人の時はこれで決めるように言った。それからはカナヲは一人の時はコインを投げてどうするかを決めるようになった。だが、最終選別の時、カナヲはコインを"投げずに"誰にも言わず出ていった。
最終選別の最中、炭治郎はカナヲからコインを借りて指で弾いた。
「表にしよう。表が出たらカナヲは心のままに生きる❗」
そして落ちてきたコインをキャッチして手の甲に乗せ、手を被せた。被せた手を退けるとコインは表を出していた。炭治郎は喜び、カナヲは驚いていた。何故なら、コインを弾いた手は小細工はしていなかったから。カナヲは何故表を出せたのか聞いてみると
「偶然だよ。表が出るまで何度でも投げ続けるつもりだったから」
そう炭治郎は答えた。そしてカナヲを両手を包むように握り
「カナヲは心の声が小さいからよく聞こえないんだと思うよ。人は心が原動力だから心の声が聞こえればきっと今以上に強くなれるよ」
そう言ってカナヲにコインを返した。カナヲは戻ってきたコインを握りしめ、炭治郎に寄りかかった。
炭治郎はそのことをしのぶに言うと、しのぶはぽかんと呆けてしまい、カナヲは恥ずかしさの余り顔を赤くして、頭を炭治郎の背中に押し付けていた。その隣で聞いていた善逸は『とんだ女誑しだ❗』と嫉妬の匂いを増幅させており、当の炭治郎は訳が分からず、首を傾げていた。しのぶは我にかえるとコホンと咳払いを一つして
「では次が最後です。と言っても質問ではありません。炭治郎君、柱就任おめでとうございます」
しのぶが言ったことにカナヲは驚き、善逸は『柱とは何なのか』分からず、頭に『❓』を浮かべていた。
「柱とは鬼殺隊の中で最も強い九名の称号です。その強さは折り紙付きで難しい任務をこなしたり、強い鬼を倒したりしています。柱になるには、『階級が甲であること』と『鬼を五十体以上、または十二鬼月を倒すこと』です。そこにいる冨岡さんと私も柱です。そして炭治郎君は異例の『十人目』の柱なんですよ」
善逸の疑問にしのぶが答えた。善逸は納得したと同時に驚いた。
「えっ炭治郎、俺と同期なのにもう柱になったの❗❓」
善逸が驚くのも無理はない。何故なら炭治郎の階級は自分と同じ癸だと思っていたからであり、炭治郎自身も階級は癸だと思っており、癸と階級を言っていたほどなのだ。
「そうみたいなんだ。もらった階級が癸じゃ無かったからびっくりしたよ」
炭治郎はそう言いながら苦笑いを浮かべた。その後少しして実弥が目を覚ましたと聞いて炭治郎はカナヲの手助けを借りながら実弥の所まで向かい、実弥の前で土下座して謝った。流石の実弥も
そして後日、蝶屋敷に全ての柱が集まり、『禰豆子が人を襲うのか襲わない』のか検証をした。内容は『試験管に入れた実弥の血を嗅がせる』と『義勇の腕を目の前で傷つける』の二つだった。陽光が入らないように光を閉ざした部屋で、最初に義勇が禰豆子の目の前で自ら腕を切り、更にしのぶが実弥の血が入っている試験管のコルク蓋を取り、血の匂いを嗅がせ禰豆子の反応を見た。
すると禰豆子は口から涎を垂らし、人喰い鬼としての反応を見せるが、左近次の暗示と自身の強靭な理性で鬼の本能を抑え込み、顔を背けた。これで禰豆子が人を襲わないと証明された。因みに最初は実弥が自身の腕を切る予定だったのだが、片腕が使えない状態なので却下された。
その後義勇の腕を治療するしのぶの姿を禰豆子はずっと見ていた。