炭治郎が炎屋敷を訪れてから早十日が過ぎた。炭治郎は未だ杏寿郎から許可をもらってはいなかった。
何故なら、炭治郎は八連勝までは順調に取れるのだが、"その先"が問題だった。炭治郎の相手、九人目は槇寿郎であり、もし槇寿郎に勝てたとしても、最後の十人目が杏寿郎なのだ。
つまり、炭治郎の連勝記録は大体八か九でストップしていたのだ。
そしてこの日も、炭治郎の相手は槇寿郎だった。今回もきっと同じ結果…と思われた時、槇寿郎の胴を狙った横振りを炭治郎はバックステップで避け、着地と同時に膝を曲げて体を屈め、まるでバネのように弾け飛び木刀を槇寿郎の喉仏に突き立てた。
「一本❗それまで❗この模擬戦、『鬼柱・竈門炭治郎』の勝ちとする❗」
炭治郎の勝ちが決まった瞬間、稽古を中断して見ていた隊士たちがまるで自分が勝ったかのように騒ぎだした。
「竈門少年、見事十連勝を成し遂げた❗今日はここで疲れを癒し、明日出立すると良い❗」
実は炭治郎と槇寿郎の稽古は『十戦目』だったのだ。何故十戦目の相手が槇寿郎なのか❓その答えは槇寿郎本人が最後の相手を申し出たからだった。
炭治郎は頚の動き"だけ"で返事をし、その場にへたり込んだ。
炭治郎は千寿郎と『何故かいた』アオイに担がれて用意された部屋に連れて行かれた。
何故アオイが炎屋敷にいるのか❓その理由はカナヲからの手紙だった。
カナヲはそれぞれの柱稽古に参加した日と終わった日にしのぶ宛に手紙を書いていた。そしてカナヲは炭治郎よりも三日程早く杏寿郎の稽古が終わったので、『誰か炭治郎の側にいて欲しい』としのぶに相談をしていたのだった。
そしてしのぶの任命で来たのがアオイだった。
アオイはここぞとばかりに炭治郎の世話をした。
炭治郎『だけ』の食事を用意したり
風呂で炭治郎の背中を流したり(流石にこれは炭治郎当人に止められました。)
寝る時は一緒の布団に入って添い寝したり
アオイは充実した感じだったが、炭治郎は気が気では無かった。炭治郎も年頃の男であり、美人に該当するアオイの行動にいつタガが外れても可笑しくは無かった。
けど炭治郎は『俺は長男だから耐えられる筈だ❗』と"何度も"言い聞かし、耐えきったのだ。
そして翌朝、炭治郎は槇寿郎、杏寿郎、千寿郎の三人に見送られ、鴉の案内の下炎屋敷を後にした。
炭治郎が実弥の家である『風屋敷』へ向かっていると、"下から"善逸がいきなり現れ、炭治郎に助けを求めた。
どうやら実弥の稽古が辛すぎるため逃げて来たようだ。しかし善逸の逃亡もここで終わる。何故なら実弥が善逸を追いかけ、彼の頭を鷲掴みにしたからだ。
「選べェ、訓練に戻るか俺に殺されるかァ」
実弥が出した選択は『どちらを選んでも地獄』だった。
尚も騒ぐ善逸を実弥は気絶させ、炭治郎に運ばせる。
「お久しぶりです。柱合会議以来ですね」
「話し掛けんじゃねェ。俺はまだお前を認めた訳じゃねェ」
「俺のことは認めなくても、"玄弥だけ"は認めてあげてください。あいつ、貴方に追い付くために"色々"努力をしているんで」
炭治郎はそれだけ言うと、実弥を追い抜き屋敷へと急いだ。
そして実弥の稽古が開始された。内容は只ひたすら実弥に打ち込むという単純な"打ち込み稽古"だった。だが内容が単純でも実際はえげつないものだった。
反吐をぶちまけて失神するまで"休憩無し"と言った過酷なものだった。しかも炭治郎にはやたら当たりが強く、油断しているとすぐに大怪我を負ってしまう程だった。
炭治郎はボロボロの体を引き摺って廊下を歩いていると、廊下の先から実弥と玄弥の声が聞こえた。
「待ってくれ兄ちゃん❗」
「何のようだお前ェ。俺は今忙しいんだァ、邪魔すんじゃねぇよ。とっとと失せなァ」
「だから待ってくれよ兄ちゃん❗俺、兄ちゃんに謝りたくて頑張ってここまで来たんだ❗だから」
「"だから"何だって言うんだァ❓いいから失せろォ」
玄弥は何度も実弥に話をしようとするが、実弥な冷たくあしらう。
「そんな…、俺…、"鬼になって"まで頑張ったのに…」
この玄弥の言葉に実弥は驚いた。
「お前ェ…。今、何つった❓鬼に…なって、だとォ❓」
「❗❓、そうだよ、俺は兄ちゃんに謝りたくて鬼殺隊と同時に猛士に入ったんだ。兄ちゃんに、これ以上、傷ついて、ほしく、ないから」
実弥の質問に玄弥は泣きながら答えた。その泣き顔を見て実弥は先程の炭治郎の言葉を思い出していた。
『俺のことは認めなくても、"玄弥だけ"は認めてあげてください。あいつ、貴方に追い付くために"色々"努力をしているんで』
実弥は目を瞑り、深く深呼吸をする。そして目を開き玄弥の方を向くと
「ったく、デカい図体してメソメソ泣いてんじゃねぇよ"玄弥"。兄ちゃんがいねぇと何もできねぇのかよォ」
玄弥を優しく"抱きしめた"。玄弥は顔を上げると、そこには優しい笑みを浮かべた実弥の顔があった。
「兄ちゃん…❗」
「良く頑張ったなァ玄弥。呼吸が使えないのに、よくここまで来れたなァ」
実弥は玄弥の頭を撫でながら讃えた。
「さァ玄弥、そろそろ戻りなァ」
実弥は玄弥の背中を押して先に行かせた。そして後ろを振り向き
「竈門炭治郎ォ、そこにいんのは分かってんぞォ。隠れてねぇで出てきなァ」
「❗❓」
実弥に言われて驚いた炭治郎は廊下の陰から出る。
「ど、どうして分かったんですか❓」
炭治郎は何で分かったのか聞くと
「阿保かオメェは、気配殺さねぇから丸分かりだっつーの」
実弥の答えに炭治郎は苦笑いを浮かべた。
「オメェのお陰で玄弥とは少しは"仲直り"できそうだァ。そのことは感謝はするぜェ。だが勘違いすんじゃあねぇぞ、まだ全部認めた訳じゃねぇからなァ」
実弥は頬を指で掻きながら炭治郎に礼と注意を言った。
「はい❗認められるよう頑張ります❗"婚約"した禰豆子と玄弥のためにも❗」
炭治郎はそう言って実弥を追い越し、玄弥の後を追った。
「オイちょっと待てェ❗"玄弥が婚約"ってどういうことだァ❗❓」
実弥は炭治郎の言葉を聞き逃さず、先に行った炭治郎を追いかけた。