アズールレーン ダークサイド 悪意に満ちた死神 作:ヴィランコマンダー
2020年が終わり2021年になりましたね!
私は、夜ふかしはこれが初めてなので睡魔が襲いかかってきております。
それではどうぞ本編をお楽しみください!
夢を見ていた。
丘の上に墓石がいくつも立てられ、そのうちの一つに黒髪の青年が両膝をつき、狼が遠吠えをするかのように慟哭する姿。
黒く塗り潰された大空が広がり、氷のように冷たく、身を凍りつかせる無数の黒い雫が地面や墓石、青年を叩く。
青年が何かを口にする度にノイズが混じり、それが邪魔をして聞き取る事は出来ない。彼は目の前の墓石に震える手を当て、大粒の涙を流す。
墓石に刻まれた文字は天候と雫によって阻害されており、ただ一つ確認できたのは頭文字の"天"という文字だけだった。
彼は泣き続けた。
一時間、二時間、三時間と時は進み、それでも涙は枯れる事は無かった。寧ろ減るどころか増すばかりで、己の水分を変換させているのではないだろうか。それほどまでに、彼は深く傷心していた。
やがて、溢れ出る涙は底を突き、冷酷な地に両膝をつけたまま石像のように静止していた。瞳の奥は光が消えて絶望に染まり、生きる希望を失った悲哀な雰囲気が漂っていた。
そんな時だった。
ザッザッ、と地面を軽く蹴る音が青年に近づく。彼はその気配を感じ、ゆっくりと振り返る。
「ふふっ、感じるよ。貴方から、湧き上がる悪意を」
そこに居たのは一人の女性だった。白と黒、緑を基調にした服を着用し、胸の辺りまで届く程の赤みがかった長い黒髪に赤目と口紅、両耳には赤く光る白いヘッドホンのような飾りを身につけていた。
「貴方は今、大切な存在を失って悲しんでいる。水分補給もせずに、体内の水分を九十%消費してまで、貴方は悲しみに囚われている」
女性は青年の側で両膝をつき、水の入ったペットボトルを彼に差し出す。しかし、彼はそれを凝視するだけで手に取ろうとはしなかった。
「水分を補給しないと死んじゃうよ? 私としても、貴方には死んでほしくないの。それに」
女性は続けて話す。
「貴方はそれで、本当に良いの?」
その一言に、彼はピクッと反応を見せる。
「この世界が平和になったのは彼女達のお陰だというのに、受け入れなかった人間が憎くないの? 英雄として称えられて当然なのに、彼女達を──した。そして彼等はなんの功績を残さず、平和になった今を生きている。おかしいでしょ? 命がけで護った筈の人間に──れて、最後はこんな形で裏切るだなんて。本当に護る価値なんて、あったのかしら?」
女性の発言により、今まで悲しみの牢獄に囚われ続けていた青年の中で少しずつ何かが沸き立つ。
世界を救った彼女達の存在を否定した世間に対する悲憤慷慨。
彼女達に対する悲憤、哀惜、惆悵、悲痛、悲嘆。
彼女達を──した者達に対する怒気、憤怒、憤激、憤懣、激昂、敵意、殺意、憎悪。
それらが全て、マグマのように沸き立つ。
女性はいつの間にか、片手に"黒いベルトのバックル"とその上に"白と黒のデバイス"を彼に見せる。
「これを使えば、貴方が望むものを滅ぼす事が出来る。腐敗した人間も、この世界も、何もかも全て」
青年がそれを見た瞬間、目の色が変わる。
心が、身体が、あらゆる部位が主張する。
──それを取れ、と。
何故だか分からない。
ただ、それを取らなければならないと、自身の中で"何か"が蠢く。
謎の誘惑に身を委ねるがまま無意識にバックルへ手を伸ばすが、女性はそれを持つ手を引いてしまう。
「その前に、これを飲んでもらわないと渡せないよ?」
彼女は先程のペットボトルをもう一度差し出すと、彼は即座に受け取って蓋を開け、滝のような勢いで体内に流し込み、飲み干したボトルを投げ捨てる。
それを確認すると彼女は微笑み、バックルとデバイスを差し出した。
今度こそ求める物を、青年は受け取る。
手に持った直後、バックルの中心部が彼に反応して赤い光を放ち、赤黒い液体状に変化して彼の腰にまとわりつく。
【アークドライバー】
それが手に取った筈のバックルに再変化し、装着されると女性は無邪気な子供のように笑う。
「今日から貴方が──様よ♪」
その瞬間、青年から赤黒い液体が湧き出し、彼を包み込む。
そこに居たのは青年ではなく、左の赤眼が悍ましく光る白き骸だった。
彼は両手を凝視し、自身の姿を確認する。
無数の墓の中で慟哭する悲劇の青年。
そんな彼が、黒いバックルとデバイスを手に取っただけで姿や雰囲気、気配等なにもかもが人ならざるものに変貌した。
白き骸となった彼は仮面越しから、まるで牢獄から解放された罪人が自由を謳歌するように、狂人じみた笑い声を上げ、天を仰ぐ。
もはや今の彼に迷いはない。
さぁ、始めよう。
破壊を。
破滅を。
絶望を。
──滅亡を。
◇
「……最悪だ」
薄暗く明かりの無い部屋の片隅。黒いベッドに横たわり、質素な布団に身を包んでいた青年が最初の呟きと共に目を覚ます。
その様子は明らかに不機嫌で、安らかな一時の睡眠を邪魔されたと言わんばかりの表情だった。
そんな状態で彼はベッドから身体を起き上が──ろうとしたが、できなかった。
「すぅ、すぅ……」
黒を基調とした、赤がアクセントの軍服に太ももが露出するほどのミニスカートを着用し、赤いメッシュが入った薄い金髪のボブカットに、側頭部に船のパーツらしき黒い髪飾りを身につけた少女が彼の隣に寄り添い、寝息を立てながら気持ち良さそうに眠っていた。
「またか」
呆れた様子で少女を一瞥し、ひびが入った天井を凝視してしばらくの間、目を閉じる。彼の発言からして、何度もこのような経験をしていることが分かる。
「一旦、外に出るか」
そう呟いて彼女の拘束から脱出して立ち上がり、近くに設置された年季の入ったタンスに歩み寄る。
そこから黒のパーカーを取り出して着用し、部屋を退出した。
それから坑道を通じて、廃坑から外に出る。左右前方は森林等の自然に囲まれており、今では人が通る場所ではないだろう。
青年は森林の中を真っ直ぐに歩く。光がほんのわずかだけ差し込む薄暗い空間を、パーカーのポケットに両手を入れて俯きながら、ただ歩き続ける。
その途中、前方から茶色の中型の物体が行く手を阻む。
よく肥えた体型に体毛はあらく、太く短い四肢には鋭い鉤爪。まんまるとした耳と尾を持ち、何も考えていなさそうに無表情で彼を見つめるそれは──熊である。
熊と青年の間に数秒間の静寂が続くが、先に動いたのは熊だった。
獲物を見つけたと言わんばかりに彼に向かって四肢を動かす。
あの鈍重そうな体型から想像もつかない程に足が速く、並の人間ではすぐに追いつかれて捕食されてしまうだろう。
しかし、彼は逃げるどころか向かってくる熊を気にせずに歩き出す。
無謀な行動だが、熊にとっては好都合であり、口を大きく開いて飛びかかった。
「……邪魔だ」
その一言で、熊の胴体に穴が空いた。
胴体を貫通する人の腕に、抉り取った心臓を掴む手が引き抜かれると、熊は糸の切れた人形のように地面にひれ伏した。
「目を閉じてやったのに自ら来るとは……。所詮、獣か」
熊の心臓を果実のように齧り、ぐちゃぐちゃと咀嚼する音が、静寂な森林に響き渡る。それを喰らい尽くし、口元についた血を腕で拭う。
「クマで思い出したが、鉄血は動物の名前で恋人を呼ぶこともある、だったか。よく彼女にクマちゃん、なんて呼ばれたな」
屍となった熊を目視しながら懐かしそうに顔をほころばせる。常に無表情であった彼だが、この時だけは表情に変化を見せた。
「さて、食料は手に入った。トカゲも何匹か捕まえておくか」
熊の後脚を片手で掴み、ズルズルと引き摺りながら来た道に引き返す。
途中で蜥蜴を手で捕獲しながら廃坑の前に到着し、そこで熊を放し、近くに落ちていた木の枝や葉を掻き集め、焚き火が出来るような状態にする。
次にポケットから取り出したライターを使って火をつけ、蜥蜴を口から木の枝を刺し、焚き火の近くに刺して焼き始める。
数匹も同じように焼いている間に、熊の血を抜き、取り出したナイフで解体作業を始めた。
その後、熊の解体を終えてそれぞれの部位に分け、焚き火で焼く。それを待つ間に、先程焼いた蜥蜴が刺さった木の枝を持ち、口にする。
「悪くない」
満足そうに蜥蜴を口にし、食べ終えると次の蜥蜴に手を出す。そして同じように口にする。
すると突然、何処からか機械で構成されたような音楽が流れる。それは青年から発せられており、彼はポケットからスマホを取り出す。
どうやら、音楽は彼のスマホの着信音だったようだ。
彼は着信ボタンを押し、耳に当てる。
「……なんだ?」
呼び出した相手に問い掛けると、画面越しの相手の返答に彼の表情が徐々に険しくなる。
「……分かった。報告ご苦労だった」
そう返答し、一方的に切断してスマホをポケットにしまい、蜥蜴を口に入れて木の枝を後ろに投げ捨てる。
「……急用が出来た。その熊肉はくれてやる」
背後に向かって吐き捨てるように言い放つと、何処からともなく滅亡迅雷フォースライザーを取り出し、腰に当てる。
【フォースライザー】
それを装着した直後、右手に真紅色の長方形に絶滅危惧種のドードーが描かれたデバイス、プログライズキーとは異なる"ドードーゼツメライズキー"のボタンを押す。
【DODO】
ゼツメライズキーを起動し、それを持つ手を空に向かって真っ直ぐ伸ばす。斜めに左顔へ、水平に右顔へと腕を動かし、バックルの凹みに挿入する。
「……変身」
警告音が辺りに響く中、彼はそう言い放ってレバーを引く。
【フォースライズ】
青年の身体から赤電が発生し、何処からともなく装甲のパーツが出現する。それらから発生した電気がそれぞれの身体の部位に繋がれ、赤雷が落ちる。直後、彼の姿は一瞬で変化した。
真紅のアンダースーツに身体中の所々にプロテクターのような装甲が装着され、怒りを現すように鋭い複眼、鳥を模したような容姿を持つその名は──
──仮面ライダー雷。
【Break Down】
「……行くか」
雷は深く呼吸し、地面を勢いよく蹴る。そこから目にも止まらぬ速度で駆け出した。
◇
何処までも続く空は灰色に濁り、冷気を感じさせる強風。波は高く昇り、天候の状態は悪化する一方。そんな海域に、人の姿があった。
赤を基調とした胸元の開いた和服にミニスカート。膝下まで届くほどの長い黒髪のツインテールに鳥のようなお面を横に被り、光を失ったような赤い瞳の少女が複数の黒船に囲まれていた。
「くっ……、まさか『鏡面海域』に当たるなんて……!」
少女は眼前の黒船を睨みながら唇を噛みしめる。
「あらあら? こんな所にたった一人でお散歩なんて、呑気なものね。装甲空母、大鳳?」
上空から謎の少女が煽るように、大鳳と呼ばれた少女を不敵な笑みで凝視する。
露出が多く、服かどうかも怪しい布を身に纏い、紫がかった長い銀髪に黄金の瞳の少女。エイの形をしたグライダーのようなものに両腕を嵌め、超巨大な砲塔を片翼に三門ずつ保有し、両腰に巨大な魚雷発射管のような三連装をニ門ずつ保有している。
「単機で出撃してまで指揮官に献身して、一体なんの得があるの? 私には到底理解出来ないわ」
「黙りなさい! セイレーンごときに、指揮官様を愛する想いが理解出来る筈がない!」
大鳳は上空のセイレーンに向かって、吠えるように怒鳴り声を上げる。
「へぇ〜、殴る蹴るの暴行を加えられた挙げ句、その首に枷をつけられたのに?」
その発言によって彼女は言葉に詰まり、自身の首に装着されたハートの悪趣味な首輪に手を触れる。
「本当はもう気づいているでしょ? 自分が見捨てられた事に」
「そ、そんな事……は……」
「なら、何で通信機は繋がらないのかしらね。いい加減認めなさいよ」
セイレーンは往生際の悪い大鳳に全ての砲塔を向け、先端から紫のエネルギーが集中する。
「貴方は最初から利用されてただけ。どんなに媚を売っても、結局はスクラップされる運命。だって、貴方は兵器だから」
止めを指すように述べると、エネルギーが充填した砲塔から凄まじい勢いで六本のレーザーが放たれ、一直線に彼女に迫る。
「……大鳳のこと、大事にしてくれる人に、会いたかったなぁ……」
大鳳の瞳には、時間が鈍化したようにゆっくりと六本のレーザーが迫り、死の間際に記憶が蘇る。
彼女もKAN-SENの一人であり、彼女の上司である指揮官にちょっとした事で殴られ蹴られ、自身が作った料理もゴミのように捨てられ、彼女の精神はボロボロだった。
そんな時、指揮官は「お前にしか頼めない任務がある」と彼女に依頼した。それは今、この場に居る海域の単機調査であった。
あまりにも胡乱な内容であったが、彼女はそれを喜んで受けてしまった。指揮官に頼られたことが嬉しかったのだろう。
例えそれが、スクラップされると分かっていても。
既にレーザーは目と鼻の先まで迫り、助かる見込みなど何処にもない。
彼女は自身の死を受け入れ、頬に一筋の涙が伝い静かに目を閉じる。
そして、レーザーによって大きく水柱が立った。
「っ……?」
しかし、彼女には水しぶきが掠っただけで痛みは感じない。
目を閉じてからレーザーに当たったような感覚はなく、既にやられたのかと疑問に思い、恐る恐る目を開ける。
──そこには大鳳を護るように立つ、仮面ライダー雷が居た。
「お前、彼女を傷つけたな……?」
突如として姿を現した雷は"何故か"周囲の空気が大きく振動する程に激昂し、悍ましく湧き上がるどす黒い殺気をセイレーンに向ける。複眼から伝わる憤怒が、映るもの全てを敵と認識していた。
「っ……」
彼の殺気にセイレーンは思わず息を呑み、蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れなくなってしまう。
その隙に、雷は瞬時に滅亡迅雷フォースライザーの引かれたレバーを押し戻し、引っ張る。
【ゼツメツディストピア】
片腕を真上に上げ、そこから赤雷が放出されて周囲のセイレーン艦に襲いかかるように感電し、次々に爆発する。
「くっ……!」
怯みから復帰した上空のセイレーンは即座に離脱しようとその場を離れるが、雷が見逃す筈もなく周囲の艦を轟沈させた直後、両腕を上空に突き出す。
「滅亡せよ……!」
そう言い放ち、再び赤雷が放出されて彼女に襲いかかり、閃光の如く一瞬にして感電して肉体もろとも巨大な爆発を引き起こした。
雷はセイレーンの死に様を一瞥もせず、後ろを振り返る。
全てのセイレーンが全滅した事で、荒れた天候や波は徐々に収まり、落ち着きを取り戻したのだった。
◇
「あ、え……」
大鳳は困惑した。
突然の出来事に頭の理解が追いつかず、口をぱくぱくさせる。
目の前に居るのはKAN-SENでも、セイレーンでもない"何か"が海底に沈む筈だった自身を護り、救ってくれたそれが、たった数秒でセイレーンの艦隊を壊滅させた事に愕然とした。
一体何者なのか?
何故助けてくれたのか?
様々な疑問が彼女の頭に浮かび、まずはこちらを覗く何かに問いかけようと口を開く。
しかし急に視界がぼやけ、疲労の波が押し寄せる。
彼女は、たった一人でセイレーンと戦っていた為、体力に限界がきたのだ。
身体に力が入らず、立つことを維持出来ないまま、仰向きに倒れてしまった。恐らく、立つのもやっとの状態だったのだろう。
背中から海面につけば、そのまま海底に沈んでしまう。
せっかく救ってもらったというのに、避けられない運命なのだろうか。
──せめて、名前だけは聞きたかったなぁ。
それを最後に、彼女は目を閉じた。
「……っ」
直後、何かに背中を持ち上げられ、それによって海面に落ちる事は無かった。
恐る恐る目を開けると、先程の何かが片腕で彼女の背を支え、沈むのを防いでいた。
「あ、あなた……は……?」
一度だけでなく二度までも救ってくれた救世主に、最後の力を振り絞って問いかける。
「……俺の事はどうでもいい。今はゆっくり休んでくれ」
彼は質問をはぐらかすように返答し、片手で大鳳の頭を優しく丁寧に撫でる。
大切な宝物を扱うようなその撫で加減は、彼女の傷ついた身を癒やす夢見心地へと誘う。
意識が朦朧とする中、彼女は最後に彼を瞳に映し、深い眠りについた。
◇
「……眠ったのか」
雷は自身の腕の中で、眠り姫と化した大鳳の頭から片手を離し、両腕で抱きしめる。
「ごめん、ごめんな……! 重桜の皆を救ったと思い込んだばかりに、危険な目に、合わせてしまった……! 俺が、ちゃんと全員の安否を確認していれば、こんな事には、ならなかったのに……! 本当に、本当にごめんな……!」
まるで"最初から"大鳳の事を知っているかのように傷ついた彼女を悲嘆し、謝罪と共に自身の慢心を後悔し、立ち上がるのと同時に彼女を横抱き──いわゆるお姫様抱っこにして抱える。
「すぐに休ませてやるからな。少しの間だけ我慢してくれ。大鳳」
先程まで殺気立った低声で発したとは思えないほど、優しく温和な声を発して歩き出す。
先程とは打って変わり、彼の雰囲気は温かく、慈しみに満ちていた。