アズールレーン ダークサイド 悪意に満ちた死神 作:ヴィランコマンダー
今回の主人公は戦闘シーンが無いので仮面ライダーには変身しません。
それではどうぞお楽しみ下さい。
「あ……れ……」
黒鉄の狭隘な一室のベッドで、大鳳は目を覚ます。
目覚めたばかりで焦点が合わず意識がはっきりとしていないが、時間が経つにつれて少しずつ意識を呼び起こし、身体をゆっくりと起き上がらせて自身の記憶を整理する。
「大鳳は、あの時……」
彼女は上司であった指揮官に騙され、単騎でセイレーンが支配する鏡面海域と呼ばれる海域に突入してしまい絶体絶命の危機に陥っていたが、何者かが乱入しセイレーンの艦隊を全滅にまで追い込んだ。
それからの記憶が曖昧になっていた。
「ここは……?」
記憶を一通り整理すると、自身がベッドで寝かされていた事に気づき、部屋を見回す。
鏡面海域で意識を失った筈が、いま自分は見知らぬ部屋に居る。
ということは誰かがここに運んできてくれたのだろうと推測した。
「助けて頂いたのは感謝しますけど、大鳳はもう……」
暗い表情を浮かべ、下を俯く大鳳。
指揮官に暴力を振るわれた挙げ句見捨てられた彼女の心は、深く傷を負っていた。
それが報いなのか、運命なのか、彼女にとって最早どうでも良かった。
兵器として生み出され、最後はスクラップされるだけの自分に、今を生きる意味があるのか。
そう問いかけるように、自身に装着された首輪に手を掛け──る事は無かった。
「首輪が、無い……!?」
愕然とした様子で首をぺたぺたと触る。
人類を護る為に生まれたKAN-SENを制御下に置く為の装置。
一度装着すれば最後、二度と外すことは出来ず艤装を展開した状態ですら破壊する事の出来ない永久の首枷。
それが自身の首に存在しなかったのだ。
故に驚きを隠せずにはいられなかった。
「…………」
何を思ったのか、大鳳はベッドから降りて立ち上がり、目視した出口に向かって歩き、扉に手を掛けて部屋を退出した。
その先には、洞窟のような空間に錆びたトロッコやレール等が彼女の視界に入った。
「ここは……廃坑?」
一目見ただけで廃坑と気づく大鳳。
何年も前から放棄されたような跡があり、彼女は不審に思っていた。
自分を助けてくれた誰かが、こんな場所に居るのだろうかと。
不審に思いながらも、真っ直ぐに続く道に従って廃坑内を歩き続けた。
歩き続けて数分、その道に終わりを告げるように一つの鉄の扉の前に辿り着く。
何故かその扉だけは比較的新しく、新品同様に綺麗だった。
これは紛れもなくの人の手によるものだ。
一度は躊躇したものの、息を呑んで扉に手を掛けて押し出し、入室する。
そこは大鳳が居た部屋よりも広く、所々黒く変色した空間であった。
天井には薄暗い光が灯るランプがぶら下げられ、木製の机や椅子、ベッド等の家具が設置され、離れた位置に設置された作業机には画面三台のデスクトップが起動したまま放置されていた。
確実に、先程まで誰かが此処に居た。
大鳳はそう確信して部屋を見回ると、机に置かれたとある物に目を向けた。
「これは……」
それを手に取り、眺める。
彼女が手にしたのは、黄色のレバーがついたベルトのバックルのような物と赤い鳥が描かれた長方形のデバイスの二つ。
これには見覚えがあった。
想起されたのは、あの海域で助けてくれた謎の人物。
その人物が腰に装着していた物と特徴が一致していた。
他にも蠍が描かれた紫のデバイス、狼が描かれたデバイス、隼が描かれたデバイス等が置かれていた。
「此処は……あの方のお部屋なのね」
次に、机の近くに設置されたゴミ箱を見ると大鳳は二度愕然とする。
何故なら、ゴミ箱の中には彼女の首に装着されていた筈の首輪が真っ二つに破壊されて無様に捨てられていたからだ。
破壊する事は不可能の筈が、実際にそれが目の前に捨てられている。
それだけで脳に衝撃を与えた。
「じゃあ、あの方が大鳳の、首輪を……」
彼女は両手のバックルとデバイスを胸に抱きしめる。
次の瞬間だった。
入口の扉が開き、誰かが入室してきた。
入室してきたのは、青年であった。
片手にはザイアサウザンドライバーが握られており、戦闘を終えて実験場から帰ってきたのだ。
青年は入室してすぐに目の前の客人に、大鳳は扉の開く音に反応して振り向き、お互いの姿を目視した途端、時間が静止したかのように部屋は静寂に包まれた。
「っ……!?」
部屋に入室するまでは無表情であった彼は先客が居たことに驚きを隠せず、目を見開く。
フードで隠れているが、額には一筋の汗が滴り落ちていた。
──まずい。
青年は焦燥感に駆られていた。
彼の視界では、大鳳が滅亡迅雷フォースライザーとドードーゼツメライズキーの二つを胸に抱きしめ、こちらを覗く姿が映る。
あれは雷に変身する為に必要な物だ。
あれが無ければ変身が出来ない。
だが問題はそこじゃない。
彼にとって、彼女に自身の姿を見られたことが
額から汗がニ滴、三滴と滴り落ちる。
一刻も早くこの状況を打破しなければと、彼の内心は警報を鳴らしていた。
一方で大鳳の視点では、全身黒ずくめのパーカーにフードを被り、片手に不思議な形をした物を持った青年が部屋に入室してきた。
「あ、貴方は……?」
彼女は勝手に部屋へ入った事を謝罪するよりも先に、その人物に思わず問いかける。
彼こそが自身を助けてくれた人物なのか知りたかった。
すると彼は反応して僅かに顔を上げる。
フードの奥で左の片眼だけが血のように赤黒く染まった眼球が彼女を直視し、鋭い光を放った。
「ひっ……!?」
その眼光によって、彼女は小さな悲鳴を上げる。
あまりにもその眼が恐ろしく、悍ましかったからだ。
深淵から溢れた殺気のような威圧が放たれ、何かに対する憤怒や憎悪、殺意などの感情が宿っている、異常なまでに赤黒く染まった眼だ。
もしかすると勝手に部屋に入った事を怒っているのかもしれない。
大鳳は酷く震える身体を抑え、謝罪を述べようと口を開いた、その瞬間だった。
「……怖いか。俺の眼が」
突如として、フードの中から聞き覚えのある男性の声が発せられると悍ましい眼は閉じられ、眼光が失われる。
彼の眼から放たれる威圧は一瞬にして消え伏せた。
「……これで良いか?」
そう言って彼女に確認を取る。
彼は自身に恐怖していることを感じ取り、対象の眼を閉じて話しやすいように配慮したのだ。
それは自分の眼が恐れられると理解しているからの行動だった。
「あ、え……」
彼の眼が閉じられたことで殺気のような威圧が一瞬で消え失せ、恐怖から解放された大鳳の身体は脱力し、その場にへたり込む。その際に胸に抱きしめていた二つのアイテムが転がる。
それ程までに、彼の眼は恐ろしかった。
「…………」
青年は無言でゆっくりと大鳳に歩み寄る。
それによって、怯えきった様子の彼女は何をされるか分からないという未知の恐怖が襲いかかる。
今まで経験した中で、彼ほど怖いと思ったことはない。
自分は今から彼に殺されるのか、はたまた別の意味で襲われるのか、どちらも大鳳にとっては恐ろしかった。
自身の意思とは無関係に瞳から少量の涙を零し、これから起きる出来事を逃避するように目をぎゅっと瞑り、視界を遮断した。
コツッ、コツッと、足音と気配が徐々に近づき、近くで止まる。
彼女は目を瞑っていて目視できないが、気配からして目の前には彼が居る。
その事は既に察知しており、瞑ったまま何かが来るのを怯えながら待つ。
そうする事しか出来なかった。
「……っ?」
しかし、彼女が予想していたようなものはいつまで立ってもやってこない。
それを疑問に思い、恐る恐る目を開ける。
「……大丈夫か?」
大鳳が目を開けた先には、彼が手を差し伸べる姿があった。
予想外の行動に、彼女は彼の手をじっと見つめたまま呆気にとられる。
自分は彼に殺されるのか、もしくは無理矢理襲われるのかと思いきや、へたり込んだ自分を心配して手を差し伸べただけだった。
ほんの一瞬だけ安心感が大鳳の胸に飛び込んだが、いつまでも呆気にとられる訳にはいかないと思い、ハッとして意識を取り戻す。
「は、はい……」
そう返事をして彼の手を取り、立ち上がる。
先程の恐怖が身体に染み付いているのか、腕や足に上手く力が入らずバランスが崩れてしまうが、彼が瞬時に自身の胸に引き寄せたお陰で、床に倒れることは無かった。
「あ、ありがとうございます……!」
「……っ、気にするな」
彼が大鳳に触れた直後、何故かぎょっとした反応を見せるが、直ぐに平然を装う。
「……一度、椅子で休め」
そう言って、片手で近くの椅子を引いて大鳳を座らせた後、机を挟んだ向かいの椅子に移動──する前に床に転がった二つを拾い、画面三台のデスクトップが設置された作業机の前まで移動し、持っていた物を机に置いてから向かいの椅子に座った。
そこからは二人が向かい合ってから特に会話もなく、再び時間が静止したかのように静寂に包まれ、先程よりも長く続いていた。
「……身体の調子はどうだ?」
先に沈黙を破ったのは青年だった。
大鳳に、体調が優れているかどうかを問う。
「あ、はい。おかげさまで良好です」
「……そうか」
大鳳の返答を聞いた彼は、一言だけ口にする。
フードの中では、どこか安心した様子で彼女を見つめていた。
「あの、貴方様がたい……私を助けて下さったのですか……?」
次に大鳳が問うと、彼は頷く。
あの時と姿は異なるが、声からして間違いなく自分を救ってくれた人だと結論づける。
同時に、彼女の頭の中には疑問が浮かんでいた。
まず彼は何者なのかという、真っ先に浮かぶ疑問であった。
自分と同じKAN-SENでもなければ、セイレーンでもない。
今の姿とは違えど、彼は恐らく人間。
だが、あれは確かに海面に足をつけていた。
KAN-SENは自身の保有する艤装、もしくは艤装の一部を展開する事によって海面に足をつけ、海上をスケートのように航海する事が出来る。
セイレーンも同じように自身の艤装を保有している為、それが出来るのはどちらかしかない。
しかし、彼はどうだろうか。
あのようなKAN-SENは見たこともなく、新型のセイレーンとも思えたが、明らかに敵対している様子があった為、その線は無いだろうと判断した。
それ以前に男のKAN-SENやセイレーンなんて聞いたことがない。
もしくは、第三勢力の可能性も考えられる。
だからこそ疑問に感じた。
彼は一体何者なのか、と。
疑問は肥大化するばかりなのだが、まずは先に礼を述べようと口を開く。
「えっと、助けて頂きありがとうございました。私は装甲空母、大鳳と申します。恐れ入りますが、貴方様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「……黒堕悪斗」
「黒堕、悪斗様ですね。貴方様は一体、何者なのですか?」
その問いに、悪斗と名乗った彼は僅かに俯き沈黙する。
その時間は剣呑な雰囲気に変わり、嫌な質問をしてしまったのだろうかと大鳳は不安に思った。
恐らく彼は用心深い。
そうやすやすと答えるような方ではないと直感的に感じたのだ。
この質問によって、彼が破ってくれた沈黙が再び発生した事で、彼女にとって気まずい空気が漂っていた。
「も、申し訳こざいません! 出過ぎた真似を……!」
機嫌を損ねてしまったかもしれないという不安と微かな恐怖が大鳳を突き動かし、咄嗟に謝罪を口にした。
やはり、あの眼による威圧感が忘れられずにいた。
すると悪斗は溜め息をつき、口を開く。
「……謝る必要はない。俺は──
悪斗が自身を
「
「……そうだ」
復唱する大鳳に、悪斗は肯定する。
だが、彼女は
それを具体的に聞こうとするが、彼の片方の黒眼が「これ以上は詮索するな」と言わんばかりに睨んでいたので、やはり聞いてはいけないことだったのだろうと思い、口を慎むことにした。
「……話を変えよう。これからお前はどうするつもりだ?」
「え……」
話題は大鳳の今後について振られる。
彼女は前の上司によって捨てられた身であり、単騎調査を依頼されたあの海域でセイレーンに襲われ、沈む筈だった運命を悪斗が救ったことにより、命は助かったものの既に行く宛は無かった。
仮に上司の元へ戻ったとしよう。
彼女の存在を邪魔とした彼が快く迎え入れる訳がない。
再び同じような依頼を出すか、或いは即刻に処分するかのどちらかだろう。
散々、殴る蹴るの暴行を加えただけでなく、彼女の善意で作った料理も簡単に捨て、挙げ句の果てには不要と判断し、スクラップという形で排除しようとしたのだから。
「……」
最早、そんなことは大鳳にとってどうでも良かった。
自分の慕う上司に捨てられたという事実が、彼女の心に深く傷を負わせていた。
もう自分を必要としてくれる人は居ない。
今まで自分はなんの為に戦ってきたのか。
この世界で自分が生きる価値はあるのだろうか。
それが引き金となり、こう思ってしまった。
──いっそのこと、死んでしまおうかな、と。
その瞬間、机がバキャン、と痛々しい音を立てて二つに分断された。その衝撃によって置かれていたプログライズキーが飛び散り、床に落下した。
「…………」
机が分断された原因は悪斗が片腕を振り下ろし、豪快に破壊してしまったからだ。
薄い板のように容易に破壊した彼の表情は憤怒に満ちており、赤黒く染まった眼球が再び目を覚まし、大鳳を睨む。
「っ……!?」
大鳳はその場で顔面蒼白になる。
急な彼の変貌に頭が追いつかず、思考が彼の眼球によって蛇に睨まれた蛙の如く硬直し、再び恐怖が襲いかかる。
先程と比較すると、あまりにもかけ離れた威圧が放たれ、恐ろしく悍ましい。そんな言葉すら凌駕しているだろう。
それは最早、一体の怪物のようであった。
悪斗は椅子から立ち上がり、破壊した机を迂回して大鳳の元にゆっくりと歩み寄る。
その姿はまるで、怪物が何かを求めて彷徨うようにも見えた。
「ひっ……!?」
大鳳は恐怖心に支配され、絶望に突き落とされたような感覚に陥っていた。
何故、彼がこちらに迫ってきているのか、自分が何かしてしまったのだろうかと硬直した思考を叩き起こし、必死に働かせる。
けれど思い当たる節が無かった。
最終的に出した結論はそれを無意味と判断し、思考を停止した。
もう疲れてしまった。
何もかもがどうでも良い。
自分は兵器なのだ。
兵器は兵器らしく、深海に沈むべきだった。
捨てられたこの身に、価値なんて無かったのだ。
目の前が真っ暗になり、暗闇が大鳳の意識を蝕飲み込む。
生きることを諦めた彼女は生贄のように、この身を悪斗に捧げることにした。
だがせめて、痛みを感じさせないように、一瞬で終わらせてしてほしいと、心の中で願った。
直後、ギュッと温かく柔らかい何かに包まれたような不思議な感覚によって、暗闇に飲み込まれた大鳳の意識を解放した。
「っ……?」
気がつくと、大鳳は悪斗に抱きしめられていた。
片手で後頭部をゆっくりと撫でられるというおまけ付きで。
艷やかな長髪を欲望に満ちた手つきではなく、絹を扱うような繊細な手つきで優しく触れる悪斗に、困惑した。
明らかに憤怒に満ちていた彼がこんなことをするのは、流石に予想外であったからだ。
破壊された机のように、自分もあのようになるのかと思いきや、そんなことは無かった。
──温かい……。
そう心の中で呟く。
今まで感じたことの無かった人肌の温もりが、大鳳の傷ついた心を癒やし、安らぐような温かさがあった。
頭を撫でられている手も同様の温かさを感じ、それによって恐怖心は消失していた。
「……すまなかった。大鳳」
突然、悪斗が口を開いたことで大鳳は顔を見上げると、フードで隠れていた顔が見えるようになり、無表情ではあるが何処か沈んだ表情を浮かべていた。
両眼とも開かれた状態であり、隻眼が顕になっているが先程のような威圧感はなく、不思議と恐怖は感じなかった。
「セイレーンの脅威から人類を護る為に誕生したお前が、護るべき相手に傷つけられて、裏切られて、痛かったな。苦しかったな。辛かったな」
大鳳の辛い経験を自分のことのように痛み、苦しみ、悲しみを嘆き、彼女の頭を優しく撫で続ける悪斗。
何故、彼はこのような行動をとったのか、それが大鳳にとって不思議だった。
彼とは初対面であり、知り合いでもなければ何か特別な縁がある訳でもない。
ましてや、出会ってすぐにこんなことをする人間を、大鳳は知らない。
それも当然だ。
彼女の上司であった指揮官のような、KAN-SENを人としてではなく兵器や道具として扱い、暴力を振るうような人間しか知らなかったのだから。
大鳳はそんな人間しか知らない。
だが、彼女を抱きしめている彼はどうだろうか。
彼からはそのようなものを全く感じない。
寧ろその真逆なのだ。
彼は自分を、人として扱っている。
ただそれ以上に、いつまでもこの温もりを感じていたい。
大鳳はそう求める。
「辛い思いをさせて、すまなかった。俺が少しでも早く行動していれば、大鳳が傷つかずに済んでいたのかもしれない。これは俺の自惚れだ。本当、本当にすまなかった」
大鳳を抱きしめる力が強くなる。
これ以上は傷つけさせない、離さないといった強い意思が籠められ、その力が腕に表れている。
そして最後に、悪斗は自身を見上げる大鳳に目を合わせ、
「生きていてくれて、ありがとう」
彼女が生きていることに、感謝を述べた。
「っ……」
大鳳の頬に一筋の雫が伝う。
それは痛みや苦しみによるものではない。
生まれて初めて言われた言葉に脳が、心が反応した。
今まで囚われていた暗闇の中に一筋の光が差し込んだような、神秘的な何かを感じていた。
今まで兵器や道具として、一度たりとも人間のように扱われたことがない。
傷つき、苦しみ、機械のように成果を出すだけの生涯。
失敗すれば殴られ、蹴られ、怒鳴られるのは当たり前だった。
故に、こうして優しくされた事自体これが初めての大鳳は、新鮮な気持ちに感じていた。
それを与えてくれた青年の名は黒堕悪斗。
唯一大鳳を人間として認識し、彼女を救った
「う……っぐ、ひぐっ……!」
大鳳の涙腺が崩落した。
無理矢理堰き止めていた感情が暴発したのだ。
もう止めることは出来ない。
今は只、彼の胸の中でひたすら泣き喚いた。
大鳳が泣き止むまでの間、悪斗は安心した表情を浮かべながら彼女の頭を優しく、丁寧に撫で続ける。
この日、悪斗の言葉によって大鳳の心は救われた。
上司であった指揮官に掛けられた呪縛から、解放されたのだ。
もう過去の事などどうでもいい。
あの指揮官に忠誠を誓うのは、もうやめた。
自身を大事にしてくれる人に、出会えたのだから。
──やっと会えましたわ、大鳳の指揮官様♡
今、この瞬間から大鳳は過去を捨て、悪斗と共にすることを選んだ。
全ては自身を救ってくれた彼の為に。
この命に懸けて護ろうと、心に誓ったのだった。