フレームアームズ・オルガール   作:左巻キ

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ひとつの話につき前後編ずつで投稿することにしました。理由は1話でまとめきると文字数がとんでもないことになってしまうからです。ご了承ください。
あと今回はオルガが死にます。


#2 彼女等について

轟雷のことで一頓着あったものの、何とかオルガ達は彼女を充電させることができた。

それから少しして、ベッドの形に変形している充電くんから起き上がった轟雷が言う。

 

「あの、やっぱりパーツを装着させてほしいです」

 

「ええー?」

 

雑誌を読んでいたあおが嫌そうな声を上げた。

すぐ傍で携帯ゲームの通信対戦で遊んでいたオルガと三日月は静かにその話に耳を傾ける。

 

「組み立てたパーツを装備して、初めてわたし達は『フレームアームズ・ガール』となるのです」

 

「ふれーむあーむずがーる?轟雷ちゃん人形とかじゃないの?」

 

「そのまんますぎる名前だな」

 

「いえ、わたしはAS搭載型ロボットです」

 

「えー、えす?」

 

轟雷の口から出た聞き慣れない単語に、あお達は首を傾げた。

そのまま轟雷が話を続ける。

 

「わたし達には『アーティフィシャル・セルフ』、通称ASが搭載されています。初期段階で一般常識と人間の十歳程度の知能が入力済みですが、マスターと関わっていくことで新しい情報を学習できるのです」

 

あまりにも難しく長ったらしい話に、オルガ達の頭のハテナマークが大きくなった。

 

「つまり、私が轟雷の先生ってこと?」

 

「その通りです」

「なんだ、その新しい情報って?」

 

ゲームを一時中断してオルガが尋ねると、轟雷は彼の顔を見て答えた。

 

「感情…だと聞いています」

 

「感情?」

 

「はい」

 

あおが復唱し、轟雷がそれに大きく首肯する。

確かに、現在の轟雷には感情というものが備わっていないように見える。

外見は小動物的な可愛らしさのある美少女だが、中身はまるで機械そのものといった印象を受けた。

 

「やっぱ作らなきゃダメ?」

 

「はい」

 

「そういうもんなの?」

 

「そういうものなんです」

 

轟雷に迫られ、あおは溜め息をこぼした。

細かい作業は苦手と言ったが、こうも強くせがまれては四の五の言っていられない。

成り行きとはいえ、彼女のマスターとなったからには避けては通れない道のようだ。

 

「はあ~…しゃーない、やってみます」

 

「俺も手伝うぞぉ」

 

「うん、やろう。俺達みんなで」

 

オルガと三日月も協力し、ひとまず箱からランナーを全て取り出し重ねてテーブルに置いた。

 

あおがランナーの一枚を手に取り、轟雷に尋ねる。

 

「コレちぎっていけばいいんだよね?」

 

「ストップ!ニッパーを使ってください」

 

唐突に轟雷から「待った」がかかり、困惑したような表情を見せるあお。

 

「ニッパー?」

 

「工具です。このような」

 

そう言いながら轟雷は両手でハサミのような形を作り、さながら某宇宙忍者のようなジェスチャーであおに伝えた。その様子を見てオルガが思い出したように言う。

 

「あぁ、グシオンが持ってたみてえなやつか」

 

「なるほどね」

 

三日月もそれを思い出したのか、納得したような声を上げている。

オルガ達が言っているのは、転生前の世界で鉄華団の一員だった昭弘・アルトランドの乗機、ガンダム・グシオンリベイクフルシティの装備であるシザーシールドを差している。

尤も、あれは敵を切断するのではなく挟み潰すものだったのだが。

 

「でもどうすんだ?あおの家にニッパーなんかあるわけねえだろ」

 

「遠回しにわたしのことバカにしてない?」

 

「すいませんでした」

 

オルガが余計なことを呟き、あおに睨まれる。

オルガに頭を下げさせた後、あおは立ち上がって玄関へと歩いていく。

三日月はそれを目で追った。

 

「どこ行くの?」

 

「管理人さんなら持ってるかなって思って」

 

「俺が行こうか?」

 

「いいよ、すぐ行ってこれるから」

 

そこであおは足を止め、振り返って轟雷を見ながら呟いた。

 

「…そんなにパーツ付けなきゃダメ?」

この期に及んでまだ組み立てを渋っているようだったが、

その場で三人の視線が突き刺さり、結局あおは管理人室までニッパーを借りに行かざるを得なくなってしまった。

 

***

 

「あったあった~。これでしょ?」

 

しばらくして家に戻ってきたあお。

リビングに入るなり、右手に持ったグリップが緑色のニッパーを見せびらかす。

それを見て、轟雷が目を見開いて驚嘆した。

 

「そ…それは、コトブキニッパー!!」

 

「へ?」

 

「あぁ?なんだそりゃ」

 

先程までとは明らかに違う轟雷の様子に、オルガとあおはただただ困惑するしかない。

そんな二人を特に気にせず、轟雷がコトブキニッパーについて熱く語り始めた。

 

「それは至高のニッパーとも呼ばれる伝説の名品です。

その切れ味はまるで日本刀の如く、軽く力を加えるだけでプラモデルのパーツを切断、断面は平らにして滑らか。

通常のニッパーで見られるようなパーツが白くなるようなことはほとんどありません。

それは、刃物産地の名工によって生み出される薄い刃と必要強度の絶妙なバランスによる片刃構造によるもので、

鋭い刃を片方のみにし、もう一方をまな板にすることによって、切断するパーツを…」

 

「あーわかったわかった。つーか何で管理人がそんなプラモ専用みてぇなニッパー持ってんだ?」

 

あまりにも轟雷の説明が長く口調にだんだんと熱が入ってきているので、このまま話を聞いていては日が暮れると考えたオルガがなんとか遮って止めた。

轟雷には一般常識と十歳程度の人間の知能が入力済みだと言っていたが、

この細かすぎてモデラーにしか伝わらないような知識は明らかに一般常識とはかけ離れており、十歳児の知能でもない。

付き合いきれないといった表情であおがランナーからパーツを切り出そうとすると、また轟雷からストップがかかった。

 

「パーツは説明書にある番号順に切り取って、パーツごとに組み立ててください」

 

「あぁ、そうなの?」

 

気を取り直して説明書を読みながらあお、オルガ、三日月の三人でパーツを組み立てていく。

途中で何度も轟雷の注意が入ったが、何とかほぼ全てのパーツが組み上がり、彼女に装着させられた。

完全武装した轟雷は、如何にも兵器と美少女の融合といった雰囲気が出ていた。

全身に取り付けられた装甲と、肩にある戦車の砲塔を模したようなキャノン砲が実に男心をくすぐる。

しかし、仕上げのパーツを取り付けようとした時にうまくパーツがはまらず、無理に力を入れた勢いで外れたパーツが宙を舞った。

 

「「「あっ」」」

 

「何やってんだァァァァァァ!!!」

 

リビングにオルガの絶叫が響き渡った。

 

***

 

その後、全員で飛んでいったパーツを部屋中探し回ったものの全く見つからず、あおは途方に暮れていた。

 

「うーん、無いな~…」

 

「ぼやいてても仕方ねぇだろ。ミカ、あっち探してくれ」

 

「わかった」

 

オルガが指示を出し、三日月がそれに応える。

先程からこんな調子だが、一向に見つかる気配が無い。

それもそのはず、件の飛んでいったパーツはあまり目立たないほど小さいので、それも捜索を難航させる要因のひとつになっていた。

「はぁ~…まぁいっか!」

 

「よくありません!」

 

開き直るあおだったが、それを轟雷が諌める。

 

「え、いいじゃん何かちっさいやつだったし」

 

「もう少し探しましょう」

 

「ええ~…?」

 

「ああ…そうだ。俺達が組み上げてきた轟雷のパーツは、全部無駄じゃなかった。これからも俺達が立ち止まらない限り、道はつづヴゥ゛ゥ!」

 

オルガが轟雷に便乗してちょっといい事を言おうとした瞬間、

彼がガサゴソと漁っていた棚の上から写真立てが落下し、角がオルガの脳天に勢いよく突き刺さった。

 

「だからよ…止まるんじゃねえぞ…」

 

希望の華(フリージア)を咲かせながら床に崩れ落ちるオルガ。残る物など何も無いとしても、今は信じた道をただ進まなくてはならないのだ。

 

「あの…オルガは大丈夫なのでしょうか?先ほども三日月に撃たれていたような…」

「あぁ、あれはオルガの得意技みたいなものだから大丈夫」

 

その光景を心配そうに眺める轟雷に対し、三日月は全く安心できないフォローを入れる。

三日月とあおは既にオルガの死に芸には慣れているらしく、オルガに目もくれずパーツを探して忙しなく手を動かしている。

そこで死に体だったオルガが膝に手をつきながらようやく立ち上がった。

 

「好きでやってるわけじゃねえぞ…」

 

なんとも言えない顔のままオルガが呟く。

その後も色々な家具の隙間などを捜索するも、例のパーツは影も形もない。

あおが一旦休憩しようかと思ったその時、轟雷があおに呼びかけた。

 

「あお、この奥に何か落ちてます」

 

見ると、轟雷がキャスター付きの引き出しの奥を指さしていた。何やら黄緑色のバインダーのような物が隙間から覗いている。

近くにいた三日月がそれを取ってあおに手渡した。

 

「はい」

 

「ありがと!あっ、これおばあちゃんが送ってくれたアルバムだ」

 

***

 

その後、オルガ達は一旦パーツの捜索を中断して、休憩がてらアルバムを見ることにした。

ページをめくると、色々なあおの子供時代の写真が出てくる。

オルガと三日月はそれらを見て、微笑ましい気分になっていた。元々彼らには親と呼べるものが存在しなかった為、少しあおが羨ましくもあった。

 

「これはどなたですか?」

 

轟雷が写真のうちの一枚を指してあおに尋ねる。

中心に幼少期のあおと成人の男女が立っている写真だった。

 

「ちっちゃい頃のわたしとパパ、ママ」

 

「ご両親はここに一緒に暮らして…」

 

「ないない!ママはパパの海外赴任について行っちゃってる。わたしは高校受かったし、一人暮らしすることにしたんだー」

 

「そうなんですね」

 

あおがおどけたような表情を浮かべる。

寂しいなどのそういった後ろ向きな感情は特にないらしい。

 

「ま、一人じゃできねえことも結構あるみたいだけどな」

 

「うん、俺達があおを支えてあげないと」

 

「そこ!余計なこと言わなくていいの!」

 

オルガと三日月が口々に呟き、それをあおが焦るように怒った。そんな彼らをよそに、轟雷は他の写真に興味を引かれている。

やがて一枚の写真に目が留まり、それについてまたあおに尋ねる。

 

「あの、これは何を…」

 

右側に写っているあおが泣きじゃくっており、それを母が慰めているような状況の写真だった。

確かにこれを見ただけでは何があったのかが分からない。

 

「あぁ、ハチに刺されて泣いてるんだ」

 

「泣いている…」

 

あおが軽く説明する。

その後も轟雷は気になる写真について片っ端からあおに訊いてきた。

 

「ではこれは?」

 

「これは…アイスを落としてぶーたれてるとこかな」

 

「ぶーたれる…ではこちらは?」

 

「ええーなんだろ、笑ってるとこだね」

 

「笑っている…なぜ笑っているのですか?」

 

「えー?知らないよ、覚えてない」

 

「では、このあおの表情はどんな感情なのですか?」

 

「え?うーん…」

 

あおが答えに困り唸っていると、オルガが会話に口を挟んでくる。

 

「人間ってのはな、楽しい時とか嬉しい時に笑うんだ。お前にもそのうち分かる」

 

「楽しい時、嬉しい時…それはどういった時の感情なのでしょうか?」

 

「はい、キリが無いからおしまい!」

 

強引に会話を遮り、あおがアルバムを閉じる。

轟雷はもっと聞きたげな目をしていたが、これ以上はオルガでも返答に困る質問が飛んでくるかもしれない。

 

「何故ですか?」

 

「なぜなに訊かれてめんどくさい!なんか轟雷まるで…まるで…」

 

そこで言葉が続かず、あおは押し黙ってしまう。

 

「まるでどうしたんだ?」

 

「いや、なんかデジャブったんだけど…」

 

その時、唐突に三日月が言ってきた。

「ところで、もう夜だけど飯買いに行かなくていいの?」

 

「えっ!?」

 

「何だと!?」

 

あおとオルガが窓の方へ振り向く。

見ると辺りは既に日が落ち、すっかり暗くなっていた。

パーツひとつを探しているだけでこんなに時間が経っているとは誰も思っていなかったのである。

 

「なんかお腹空いてると思ったよ!ちょっと行ってくるね!」

 

「俺も行くぞぉ!」

 

言いながらあおとオルガが立ち上がり、玄関の方へ歩いていった。

その時、あおの服の隙間から何かが零れ落ち、床に転がった。

 

「ん?」

 

「あぁ?」

 

手に取って注視すると、それはまさにあお達が探していた轟雷の装甲パーツだった。

 

「なんだよ…結構見つかんじゃねえか…へっ」

 

「服に引っかかっていたようですね」

 

「あはは…」

 

***

 

あおとオルガが買い出しに出かけている間、轟雷は先程のあおのアルバムを開いて写真を眺めていた。

 

「泣いている…ぶーたれる…笑う…」

 

独り言を言うと、彼女は自分の頬を弄ったり口角を指で無理やりつり上げたりし始めた。

 

「どうしたの?」

 

その様子を見て三日月が問いかけてきた。

轟雷は彼を一瞥すると、写真を見つめながら呟く。

 

「わたしはもっと感情を知りたいです。泣くや笑うといった感情がどういうものなのかを」

 

「感情…俺にはよくわかんないけど、自分が感じたことをそのまま表に出せばいいんじゃないの?」

 

「自分が感じたことを…そのまま…」

 

三日月が言うと、轟雷は顎に手を当てて思案する。

その時、玄関のドアが開いて「ただいまー!」という声が聞こえてきた。

やがてバッグを肩から下げているあおとレジ袋を両手に持ったオルガがリビングに入ってくる。

 

「わかったよ轟雷!さっきデジャブってたのはわたしが小さい頃のことだ!」

 

入室するなり、あおが自分を指さしながら轟雷に言う。

その言葉の意味が分からず、轟雷は首を傾げた。

 

「わたしも小さい時はママの家族アルバム見ながらこれ何あれ何ーって質問責めにしたな~って。それと轟雷が重なったんだね」

 

腕を組みながらうんうんと頷くあお。

そうしていると、あおがおもむろにバッグから何かを取り出した。

テーブルに置かれたそれは、綺麗な狐色をした三個のいなり寿司だった。

 

「ここのおいなりさん美味しいんだよ~!あとこれも買っちゃった!」

 

そう言うとあおは得意げに何かの箱を掲げてみせる。

箱の中からは「Happy Birthday」と書かれたチョコのプレートが乗ったショートケーキが出てきた。

 

「じゃじゃーん!誕生日ケーキ~」

 

「…?」

 

轟雷がまた首を傾げる。するとあおとオルガがいなり寿司を頬張りながら言った。

 

「今日が起動日ってことは、今日が轟雷の誕生日ってことだよね」

 

「あぁ、そうだな。言っとくけど、これ言い出したのはあおだぞ」

 

「今日が…四月十八日が、私の誕生日…あおが決めてくれた誕生日…」

 

轟雷は無意識的に自分の顎に手を当てる。

その時、あおが笑顔でフォークを手渡してきた。

 

「おめっとさーん!」

 

「鉄華だ…いや、俺達はお前を歓迎する」

 

「うん、おめでとう」

 

あおだけではなくオルガや三日月も顔を綻ばせ、拍手して轟雷の誕生日を祝ってくれる。

轟雷はフォークを受け取りながら、自分の胸に何か暖かいものが芽生えるのを感じていた。

フォークを持ったまましばらく轟雷が硬直しているのを見て、あおが眉を八の字にして言う。

 

「もしかして、フレームアームズ・ガールって食べ物食べない?」

 

「はい」

 

「ありゃ、それは残念…」

 

「いえ、この感情は『残念』ではないような気がします」

 

「え、そうなの?」

 

「はい」

 

「…まぁ、いいじゃん」

 

そう言いながらあおはいなり寿司を手に取って美味しそうに頬張り、続けて言った。

 

「いつか分かるんでしょ?そのASで」

 

「先は長ぇかもしれねぇが、全員で辿りつくぞ。その答えにな」

 

「知れるといいね。轟雷の知りたい事、全部」

 

オルガと三日月もあおに便乗する。

 

「…そうですねっ」

 

胸の奥に、言葉にできない暖かさが広がっていく。

その感覚に戸惑いながらも、轟雷は小さく微笑んだ。

 




次回はスティ子とバーゼ回に入ります。
ここから原作展開の改変要素が強くなりますので悪しからず。
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