源博雅、現代にて宿儺と再会す。   作:あれなん

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【4】博雅、京に行く(上)

 

 

何度目かになる高専での阮咸の状態確認の時、手持無沙汰になるため宿儺と博雅で思い出話に花を咲かせていた。

すると部屋に阮咸を持った五条が入ってくる。

 

 

「そういえば博雅って今の京都見に行ったことあるの?」

 

「ないな。中学の修学旅行は別のところだった」

五条の質問に中学校が同じだった虎杖も博雅の言葉に頷いていた。

 

「時間あるなら行ってきたらいいじゃん」

 

「いつ?」

そうは言っても行く費用がない。アルバイトもしていない博雅の懐事情は一般的な高校生と同様だ。

 

「今!悠仁も護衛としてついていってね」

 

「「今から!?」」

虎杖と博雅は声を揃えた。

ついでにホテル予約しといてあげるからと言いつつ颯爽と五条は去って行った。

 

 

博雅は急に京都旅行が決まったことは嬉しかったが、全く下調べしておらず慌てて駅の本屋でガイドブックを購入した。ガイドブックを捲りつつ虎杖にどこに行こうかなどと相談していると宿儺が言う。

 

 

「お前が住んでいたところにも行くのか?」

 

「前に調べたが、住宅地になっていてな、俺の屋敷はもう無くなっていたから行っても仕方ないだろう」

 

 

平安の世と現在では街は大きく変わっている。賽の河原も今では「西院(さい)」と名前を変え住宅や店が立ち並び、「京の端」を意味していた「京極(きょうごく)」も今では繁華街だ。そう思うと自分は随分小さい世界で暮らしていたのだなあと博雅はしみじみ思った。

 

 

「人間の住処など壊してやればよいというのに」

 

「前にも言っただろう、時代はかわるのだ。人も建物も何もかも変わる。それに固執してはならん」

そう博雅は宿儺に静かに告げた。

 

 

 

 

 

 

東京から約2時間で京都につく。

仙台から東京までは何度も往復しているが、東京から西となると初めてのことで、新幹線の窓から見えた富士山にひどく感動した。

 

博雅は宿儺にも食べたいものや行きたいところを聞いていたが、あまり関心がないのかすぐに虎杖の中に消えてしまう。

 

 

京都につくと駅の前に立つ蝋燭のようなタワーに驚いた。

やはり博雅の生きていた平安時代とは街自体が随分と大きくなっていた。ガイドブックと格闘しつつ虎杖と決めた目的地行きのバスを探す。やはり観光都市なのか大きなキャリーバッグやリュックを背負った人が多い。飛び交う言語は多種多様で博雅はここは異国かと感嘆した。

 

博雅たちが乗り込んだバスは北に進み、少しひっそりとした神社の前で下車した。

 

 

 

 

――晴明神社

 

ガイドブックに載っていたことに驚いた。宿儺はそのページを見て半笑いしており、宿儺からはじめにここに行きたいとリクエストがあった。

神社自体は晴明が亡くなってすぐに一条天皇によって建てられた。以前の晴明の屋敷跡にあるらしいが、あの晴明とともに時を忘れて眺めた庭は既にない。

 

 

晴明が神として祀られている神社には人が多くいた。周囲の観光客が手を合わせて願い事を言う中、博雅の心境的には墓参りに近いものがあった。

 

神社でそんな気持ちになっている博雅をよそに宿儺は神社内にある銅像を見て珍しく高笑いをしている。虎杖はそんな宿儺を諌め、周りの人に見えない様に隠しているが、当の本人はどこ吹く風だ。

 

 

「…これは…晴明か?」

 

頬の肉付きがよい銅像の説明を読みながら、もう一度像を見上げた。

 

「似てない…気がする」

 

 

晴明は長身で目元は涼しく秀麗な顔立ちをしたいい男だったはずだ。

 

 

まだ笑っている宿儺をよそに神社の敷地内にある桃の像やら一条戻橋を見た。立て看板に晴明が橋の元に式神を置いていたと記載がある。

博雅も晴明の屋敷をおとずれるときに橋を渡っていた。確かに、事前に使いをやり知らせてない時であっても晴明はなぜか博雅が来ることを知っており、からかわれたことを思い出した。

 

 

ひとしきり笑い終わったのか宿儺が随分満足そうにしていた。

 

 

 

 

 

他にも虎杖のリクエストで土産物屋を冷やかしたり八坂神社にも行った。土産物屋の店員に話を聞くとこれでもまだ紅葉シーズンでないため空いている方らしかった。

交通網が発達しており、方違えをせず、徒歩や牛車で時間をかけて行く必要もなく、新幹線で立てていた計画の1日目の予定が随分早く終わったため、2日目に回した場所に行くことにした。

 

 

伏見稲荷に着いたのはもう日が傾いている頃であった。

 

買ったガイドブックの表紙の風景が美しく行ってみたいとどちらともなく言っていた。

観光地のためこの時間であってもまだまだ人は多い。連なる朱色の鳥居が見事で、虎杖も博雅も上を見ながら奥に進んだ。

 

ふと気が付くと先に歩いているはずの虎杖の姿がない。二手にわかれる道があったためそこできっと違う方に自分が進んでしまったのだと思った。

所々に灯されている明かりと朱色が間近に見えるせいか、暗さを感じなかった。

 

 

 

背負っていた阮咸が不意に鳴る。

 

ケースの中で絃が引っかかったのかと思いその場に座り込んで慌てて出したが、特にそんな様子はなかった。

阮咸の異変に首を傾げ、念入りにチェックしていると、白い脚が見える。人ではない。獣の脚だ。

 

その脚に沿って視線を上げると博雅の前に白い子狐が座っていた。奈良で鹿が飼われているように、稲荷神社だからきっと狐を飼っているんだろうなと博雅は納得した。それにしてもここまで人に警戒をしない狐も珍しい。きっと餌付けをして慣れさせているのかもしれない。

 

 

「すまんな。俺はいまなにも食べ物をもっておらんのだ」

 

 

子狐の期待の眼差しにどこか申し訳なくなり、博雅は謝った。

出したままの阮咸をケースにしまい、再び背負う。

 

 

「鳥居が二手に分かれていたところで別々の所に入ったようでな、一緒に来ていた友人とはぐれてしまったのだ。地図を見たところ、つながっているようだからこのまま進もうと思う。お前も来るか?」

 

1人の寂しさに狐にそんなことを言っていた。周りに人気がないことも理由の一つだった。

博雅のそんな思いを知ってか知らずか博雅が立ち上がり歩きだすと狐も同じようについてきた。狐の小さい歩幅に合わせ博雅も歩調を緩める。

 

見渡す限り人がいないため何となく博雅は狐に昔の話をした。

 

 

「俺は古い友人に会いに来た。あの男は狐だなんだと昔は周りからは恐れられていた。昔もすごかったが、今では俺の想像よりもはるか彼方雲の上にいる人物になっておってな。俺はそれが誇らしい。

 

――だが少し寂しくもあるのだ。友の出世を素直に喜べんとは、俺はなんとひどい男だろうか」

 

 

そんなことをほろほろ溢していた。

 

既に道の中腹まで来ているというのに虎杖とはまだ会えず、仕方なくその場で待つ。もうしばらくすると来るだろう。火が灯された提灯から柔らかい光が零れ、あたりをぼんやりと照らす。

 

 

「あの男は、晴明は、よい男であったが少々意地が悪くてな、俺が混乱するから待てといっておるのにすぐに呪の話をする。それに帝のことを「あの男」などと呼んで、傍にいた俺の方がひやりとした」

 

 

おどけたように言う博雅を子狐は瑠璃玉のような真ん丸の目で見つめる。

 

 

「晴明に会えるとは思ってもいなかったが、もし、また晴明と会えたらどんな話をしようかと考えておったのだよ。あの時の阮咸が今も俺の元にある話も、呪術高専というところに行った話もいくつもあるのだ。――お前も友がいるだろう?大切にしておくのだぞ」

 

 

狐の瞳の中にはゆらゆらと提灯の光が揺れている。

 

 

 

 

 

「あーーー!こんなところにいた!!」

 

割れんばかりの声が響く。

その声の方向を見ると息を切らした虎杖が走り寄ってきた。

 

 

「急にいなくなるからめちゃくちゃ探した!」

 

「すまんな、虎杖。しかし、俺は動き回っておらんぞ?むしろここにずっといたが…」

 

「マジ!?俺この道何周もしたんだけど!?2時間もここにずっといた?」

 

「2時間?下からのぼってきて30分も経っていないだろう?虎杖が反対方向からくるかと思ってな、ここで子狐に話し相手になってもらっていたのだ」

 

「狐?」

 

「さっきまでそこにいた…のだが…」

博雅が指差した先には既に子狐の姿はなかった。

 

 

「おい、博雅。お前狐に化かされたのではないか」

宿儺が出てきて博雅に言う。

 

「俺がか?何も悪いことはしておらんが…」

 

「悪いこともいいことも関係ない。狐はおもしろいとおもえば誰でも化かすぞ」

 

「まぁ、虎杖には悪いが、俺としては良い話し相手になってもらっただけだ」

 

 

のほほんとしている博雅に対して虎杖は走り回って疲れ切っていたため、五条が取ってくれたホテルに直行した。

予約してくれたビジネスホテルのツインルームで虎杖は既に爆睡している。

 

 

 

「…博雅、狐には触れたか?」

急に虎杖の頬に現れた宿儺は博雅に聞く。

 

「狐にか?触れておらんが…あそこで飼われているとしても不用意には触れない方が良いだろう」

 

「そうか」

そういうと少しにやつきながら虎杖の中に消えた。

 

 

 

 

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