自身が他の人と物の見え方が違うことに気が付いたのは幼い頃だった。
その日は自分の祖母の葬式だった。祖母の棺桶の横でまだ祖母が立っているのになぜ母親が泣いているのか理解ができなかった。
自分と目があった祖母は一瞬驚いた顔をしたが人差し指を立てるジェスチャーをしており、漢字もまだまともに書けない年齢であっても祖母の言いたいことはわかった。
幽霊はいろいろなところに立っている。
電柱の後ろ、歪んだガードレールの傍、古ぼけた集合住宅の駐車場。そういうところに立っているのは大方血にまみれてちょっとグロい。
人についている幽霊も見かけた。
小さい子供の後ろで転げないかハラハラ見守る男性。終電の車内で立ちながら今にも寝そうな男性の頭を心配そうに撫でる年老いた女性。
次第に姿だけでなく幽霊の声も聞こえるようになった。
自身の死を悲しむ声や人との別れを惜しむ声に恨む声。自身が見守っている人を励ます声。
目が合っても幽霊は追いかけて襲ってくるということはあまりない。もし追いかけられても塩を撒いて神社に逃げ込めばどうにかなった。大体が目が合うと驚き話しかけてくる。
その情報は僕にとって有益なものだったりする。
自身が幽霊が見えることを嫌がっていない理由の一つだ。
『そこの通りに変なのいるから、今日は違う道通って』
「ありがとう、美和ちゃん」
毎日通る通学路でよく話しかけてくる美和ちゃん(幽霊:享年15歳)にそう言われ小声で礼を言って迂回路に変更をする。
こう言われるとき、素直に聞いておいた方がいいことは既に経験済みだ。無理矢理進んだときはラリった薬物中毒者に遭遇して鬼ごっこをする羽目になったので、大人しく聞いておくことが吉だ。
その御礼として幽霊対象のお悩み相談室をしている。
自分を殺した人に復讐してくれといったものは受け付けないが、墓参りや代筆で手紙を出したりといったことは受け付けている。
対価は様々だ。ある幽霊は次の日のテスト問題を教えてくれたし、別の幽霊は自販機の下に落ちた500円玉の存在を教えてくれた。
相談室で話を聞いた幽霊の口コミが他の悩める幽霊を呼び、案外繁盛していた。土曜日限定1日3名様ずつ(幽霊限定)。
「次の方、どうぞー」
幽霊でも個人情報は大切だと思うため、ちゃんと1人ずつ部屋に入ってもらい話を聞く。待っている人は廊下に並んでもらっている。
『……ここで、悩みを聞いてくれるって聞いたんだけど本当なのかい?』
袈裟を纏った片腕のない男性が入ってきた。最近のお坊さんは随分ファンキーだ。
お坊さんにしては長髪で最近のお坊さんは頭髪自由なのかと思った。頭を丸めなくていいなら将来お坊さんという手もあるなと考えていた。
「はい。手紙を出したいなら代筆も可能です。切手代は負担あるいは対価を払っていただくこととなりますが」
『対価?どうやるんだい?』
「自販機の下のお金の場所を教えてくれる方もいますし、テストの問題を教えてくれる方もいます」
男性は少しの間考え込み切り出した。
『――君に戦う方法を教えてあげようか』
「あっ結構です。では次の方―」
『ちょっと待って!払うから!』
「ではあなたのお困りごとはなんですか?」
『私の悩みは――』