幽霊見える系男子と夏油さん(幽霊)   作:あれなん

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五条が戦いに参加しなかった理由:青春アミーゴする可能性があり獄門彊の範囲に近づけない。幽霊が見えないのでどうなっているのかわけがわからず手出ししない方がよさそうだと判断したため。

【簡単な語句説明】

死活等処:僧侶でもないのにその格好をし、人をだまして強盗を働いた者が落ちる地獄。

身洋受苦処:篤志家が出家者や病人に布施した財物を僧侶を装って奪い取った者が落ちる地獄。

黒肚処:仏に属する物品を喰ったり自分のものとした者たちが落ちる地獄。

大鉢頭摩処:出家僧ではないのに僧であると偽り、しかも戒律に従わなかった者が落ちる地獄。



【20】夏油は試した

 

 

枝を折ったときのような音が耳に届く。押し殺した声とともに少年の上腕骨が内から皮膚を突き破った。

偽者は少年の腕を掴んだまま男に視線を向ける。男の攻撃を頭をわずかに傾けて避けた。偽物の側頭部と左肩を掠める。左腕がだらりと垂れた。

 

偽物が少年ごと引きずるようにして獄門彊の範囲内に入る。攻撃を加えている男もそれに追随するが、少年を盾にされ攻撃に精度がない。

 

刻一刻と獄門彊の時間が迫っていた。獄門彊が徐々に開く。誰を封じ込めようかと考えているようにも見えた。

 

夏油が偽者の側に立ち、垂れ下がった左腕と透ける自身の左腕を重ねる。血が皮膚の上を流れる。それは虫が這うような感覚に似ていた。久しく感じていなかったものだ。

少年の考えは当たっていた。

 

左腕が自身の意識下から離れたことに偽者は気付いていない。もとは自分のものだった心臓が鋭い拍動を刻み、指先までびりびりと電気のように伝わってくる。蹴られた顔が、脇腹が、全身が熱を持っている。

 

左腕で少年を掴んでいる偽物の右腕を捕まえた。

 

驚いた偽物は少年を手放す。男の判断は早い。獄門彊から伸びる糸を掻い潜り、少年の襟首をつかんで放り投げた。

 

「―――チッ!」

 

男が糸に絡めとられた。自らの頭を游雲で突く。游雲で頭を深々と刺した男は地面に転がった。対象者が死んだため獄門彊は他のものを封印しようと探しているようだった。

 

「伏黒さん!」

 

『…アー、糞。折角身体手に入れたっていうのに、よッ!』

 

そう言いながら男は、自身が放り投げた少年を抱えるとあっという間に偽物との距離を詰め、蹴りを入れる。犬歯、第一小臼歯に第二小臼歯。自分の歯が飛んでくる光景はどこか感慨深い。偽者は突然見えない攻撃を受けたことに動揺するもすぐに体勢を立て直す。

 

 

『――とっておきのをやろう』

 

男が少年のリュックから呪具を取り出した際に落とした宿儺の指を、潜んでいた(むた)が拾うと偽物に向かって投げつけた。偽者が右手で掴もうとするのを左手で口に捻じ込んだ。

 

偽者が宿儺の指を吐き出そうとしているのを左腕を更に押し込むことで阻む。

可動域を超えた下顎骨が外れた。ガコンという音と衝撃の後、宿儺の指は喉や食道を傷つける。

得も言われぬ不快感と痛みがある。ついに胃に落ちていくとそれは段々と熱に変わった。

 

偽者が暴れる。壁や床に何度も頭を打ち付け何回も天地が入れ替わった。

鼻が折れ、流れた血が辺りに飛び散る。焼けるような熱さは寒さに変わる。歯が悴む。

 

少年は与に引き摺られるようにして偽者から距離を取っている。

常人にとって宿儺の指は猛毒だ。呪霊操術とはいえさすがに対象外だろう。押し込んだ腕の隙間から胃液が出ていたがすぐに血に変わる。涙腺を通り目や鼻からも血は流れている。

 

偽物は何度も額を床に叩き付ける。割れた額から垂れた血が視界を遮る。次第にその勢いも落ち力も抜けるとゆっくりと壁に凭れかかるように身体が傾いた。

 

荒かった息が糸を吐くように細くなる。やがて動きは緩慢になった。

口の端から血が一筋垂れた後、完全に沈黙した。

偽者から離れるとだらりと左腕が地面についた。

 

周囲に目を配る。少年は白い顔で折られた腕を押さえ、真っ直ぐにこちらに視線を向けている。

 

『汚ねェ泥試合だな』

 

『黙れ』

 

男の言葉を受け流し、少年の腕を圧迫して止血を試みる。流れ出している血は暖かい。

少年に大丈夫そうか聞くが、緩慢に首を振るだけだ。

 

悟は偽者の、私の死体に近づきじっと見下ろしている。

 

少年の、男の攻撃に巻き込まれ切れた額と骨が突き出た腕は残念ながら反転術式で治療されなかった。呪術師の治療が優先となり、また呪霊による被害ともいえない傷だったためだ。

 

 

 

 

 

病院で目が覚めた少年は一瞬驚いたかと思うと頗る怪訝な顔を見せた。

 

『どうしたんだい?幽霊でも見たような顔して。まぁ私、幽霊なんだけど』

 

時間を持て余し、練りに練ったジョークをかますが乗ってこない。どこか身体が痛むのかと心配すると少年は否定した。

 

 

『与太話』

 

死活等処(しかつとうしょ)

 

『……宵越し』

 

身洋受苦処(しんようじゅくしょ)

 

『……よ、よこ』

 

黒肚処(こくとしょ)

 

『……よ、よ、よ、四つ又』

 

大鉢頭摩処(だいはちずましょ)

 

『嫌がらせがすぎない?』

 

「暇だからしりとりしようって言い出したのは夏油さんじゃないですか」

 

『選ぶ言葉もっとあるだろ』

 

これでも教祖として信者を説得するために仏教やらキリスト教やらの教えやらは一通り目を通していた。だからこそ言葉がよりヒリヒリと刺さった。

しりとりは高専時代に死ぬほどやった。必勝法もいくつかある。「よ」攻めを躱し、得意な「る」攻めに持ち込むべく手を打った。

 

「どうします?ギブしますか」

 

『よ、よ、よ……代々木ゼミナール!』

 

「るるぶトラベル」

 

『』

 

「――――この部屋、酒クッサ!」

 

ノックもせず部屋に入ってきた男が関西の人間であることは放った言葉で分かった。部屋が酒臭い原因はあの男(伏黒 )だ。少年のスマホを勝手に使いAmazonでビールやウイスキーを注文し病室で呑んでいる。少年の寝ているベッドの下には空き缶でいっぱいになったゴミ袋が転がっていた。

 

「おいそこのチンチクリン。甚爾くんどこにおるんや」

 

不躾なその言葉に少年は目を瞬かせる。

 

『アー、そいつは相手にすんな。時間の無駄だ』

 

「伏黒さん目当ての方のようですが…」

 

『適当に流しとけ』

 

「なぁ、甚爾くんどこにおるか、――はよ教えろや」

 

先程まで耳をほじっていた男が少年に詰め寄る袴の男の頭を面倒くさそうに掴み力を込める。俗にいうアイアンクローだ。

 

「ッ!!!!!イッタ!!割れる!頭パーンってなるから!パーンって!!!」

 

『試しにやってみせろよ』

 

「おひさーー!青くん、元気?……これどういう状況?」

 

「勝手に来て1人芝居をはじめられたんです」

 

「お前!!嘘言うなや!!!なんかしとるやろが!イタタタタ!!」

 

「部屋に突然入ってきて芝居をした挙句脅すなんて最近の当たり屋は進化が著しいですね」

 

少年はわざとらしく両手を見せた。男が関西弁を話す男の頭を離す。こちらを睨みつけていたが、現れた五条に分が悪いと悟ったらしく距離を取った。窓ガラスに映った自身を見て男が叫ぶ。

 

「――――この手の形、甚爾くんやん!」

 

「手の跡で人を識別する人初めて見ました」

 

『あいつが特殊なだけだ』

 

『大分気持ち悪いんだけど』

 

「甚爾くん!!どこ!?俺や!直哉や!どこ隠れとん!?はよでできて!!!」

 

部屋が混沌としてきた。

 

『あーもー面倒くせェ』

 

そう言って男は袴の男の延髄に蹴りを入れ、そのまま床に転がす。

 

『そんなとこ放置せずに窓の外に放り出せ』

 

「夏油さん、ここ5階ですよ」

 

「傑はなんて?」

 

「その人窓から捨てろって言ってます」

 

「まーいけるでしょ」

 

「この部屋の窓から落としたら僕が容疑者になるじゃないですか」

 

「窓開けて空気の交換してたら男が急に部屋に入ってきて窓からダイブしたっていうことでいいじゃん」

 

「その人1人でここまできたんでしょうか?」

 

『あー?誰か連れてきてんだろ』

 

「それなら急に倒れたとか適当に理由付けて持って帰ってもらったほうがいいですね。取り敢えず廊下にでも出しておきましょうか。五条さんお願いします」

 

「えー、靴が汚れるから嫌」

 

「僕にその人運ぶ体力ないので」

 

『蹴り出せば?というか気絶させた奴が責任もってやれ』

 

『ダリィ』

 

「しょうがないなぁ、特別に僕がしてあげるよ」

 

そう言って悟は床に倒れている男を廊下まで蹴り出した。

 

「五条さんはどうしてこちらに?」

 

「青に出頭命令でてるんだけどどうする?」

 

「器物破損もしてないですけど。駅壊したの五条さんですし」

 

「しれっと罪をなすりつけた!」

 

「人聞きの悪いこと言わないでください。僕がしたのはせいぜい銃刀法違反と不法侵入ぐらいです」

 

「偽者殺してんじゃん」

 

「いえ、僕は案を出しただけで実行してないです。それにタンパク質不足だったようなので丁度良かったじゃないですか」

 

「出頭が嫌なら、ちょっと書いてほしい書類があるんだけど」

五条が人差し指と中指で挟んだ紙をひらひらさせる。

 

「書類ですか?」

 

「そうそう、報告書なんだけど。渋谷で何したのかサラッとでいいから書いてよ」

 

『そのサラッとが難しいんじゃないか』

 

「……僕、今のところ特定の宗教法人に加入する予定はないので…」

紙を受け取った少年が「等級」「所属」と書かれた箇所を見て言う。

 

「大丈夫大丈夫!一応そういう括りになってるけど今なら入会金とかお布施とか取らないから」

 

「言い方が新興宗教のそれなんですけど」

 

「えーとまず名前どうする?偽名でもいいよ。「幽霊みえるくん」とかいいんじゃない?」

 

「ではゴーストバスターズで」

思わぬ単語に夏油は反論せざるを得なかった。

 

『それだと私がバスターズされちゃうんだけど!』

 

「ゴーストがバスターズするので間違いでもないでしょう」

 

『そう…なの、か…?』

 

「等級はナシでいいとして、術式名は?どんなのにしとく?」

 

高専に所属している呪術師であればそれ専用の用紙があり、名前を記入するだけでいいのだが、少年の場合は対象外らしく、A4用紙の半分を占める記載事項欄を埋める必要があった。

 

「それ必要あります?」

 

「あるでしょ!呪術界からしたら君はチュパカブラ的な存在だからさ、どんな術式持ってるか教えるってことは「手の内晒してますよー敵意ないですよー」って言ってるようなもんだし」

 

「五条さんはなんて申請してるんですか」

 

「僕?無下限呪術と六眼」

 

『私は呪霊操術だよ』

 

「でしたら僕というよりも主に夏油さんと伏黒さんの力なのでそこに焦点を当てた方がいいかもしれません。破戒僧とヒモ…共通点ありますかね?」

 

「高専襲撃ブラザーズとかいいんじゃない?」

 

『あんな奴と同列にされたくない』

 

「傑めちゃくちゃ嫌な顔してるでしょ」

 

「アルミホイルを奥歯で噛み締めた時のような顔されてますね」

 

「しかし夏油さんたちが満足して成仏する可能性も考えるともっと自由度があるほうがいいかもしれません」

 

「……マジ?傑成仏すんの?!いつ!?」

 

『満足するどころか胃に穴が開きそうなんだけど』

 

「成仏にはまだ道が長いそうです」

 

「……ふーん。ならいいや。で、なんかいい案ない?」

 

「もう面倒なので「素行不良集団」とかでよくないですか」

 

「ウケる」

 

『全くもってよくない。あいつと一緒にしないでよ』

 

 

 

 

 

 

「……名がゴーストバスターズ、能力が“みんなちがってみんなクソ”。却下だ」

 

「えー!イイじゃん!」

 

ぶすくれる五条を余所目に夜蛾は渡された報告書を突き返した。夜蛾も好きで却下しているわけではない。むしろ先日の渋谷の事件でやることは山ほどある。多少の誤字脱字であれば報告者に直させる時間を惜しみ、夜蛾が修正しているほどだった。

報告書内の情報不足で追記を求めることは有れど、提出者の名前と能力名を見ただけで却下するのは初めてのことだ。

 

 

「これだめだってー」

 

「誤字脱字がないか確認したはずなんですけど」

 

「氏名欄見ただけで却下されちゃった」

 

「面倒なので別紙参照とかで誤魔化せませんかね」

 

『氏名欄で別紙参照とか見たことないよ』

 

「もしかして漢字じゃないとダメとかあるんですか」

 

「あーそうかも。大体皆術式名の登録は漢字だね」

 

「先にそれ言ってくださいよ」

 

少年は二重線で訂正しさらさらと書き加えた。

 

少年が書き直した報告書は五条がその足で夜蛾の所に持って行った。

 

「足でドアを開けるなとあれほど言っているだろう」

 

「今回のは自信作!」

 

「名が”外道”、能力が”不謹慎”………なぜこれで通ると思ったんだ」

 

夜蛾は今日も頭が痛い。

 

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