幽霊見える系男子と夏油さん(幽霊)   作:あれなん

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【23】夏油は心配する

 

夏油は夜蛾のありがたい説教に、取り返しのつかぬ罪を悟り己の愚かさを思い知ったことで滂沱の涙を流した……なんてことはなく、今度からは夜蛾にばれないようにやろうと思い改めただけだった。

 

首都高でカーチェイスをしても警察に捕まらなければゴールド免許を維持できるように、夜蛾は幽霊の夏油が見えない。つまりは少年がチクらなければ無問題ということだ。

 

はじめは夜蛾の説教を真面目に聞いていた夏油だったが、3分も経つ頃にはすっかり飽きていた。最後らへんは胡坐をかいて窓の外にいる鳥を見つけては「あ、あれはここらへんに多いシジュウカラっていう鳥でね、「ツツピー、ツツピー」って鳴くんだよ」などと少年に教えてくる。

 

そんな夏油に対しひとしきり言いたいことを言い終えた夜蛾は、ため息をひとつつくと夏油がパチッた職員の様子を見に席を立った。五条は興味がないのかそのままソファに腰を下ろしたままだ。

 

「青って学長と僕の対応に差が随分あるけど、なんで?」

 

「信用できそうかどうかじゃないでしょうか」

 

『むしろなんで同じ対応してもらえると思ったんだ』

 

「僕、これでも年上よ?もっと年長者を敬ってくれてもいいんじゃない?」

 

「年齢はひとつの指針にはなります。しかしひたすら動かず食って寝てを繰り返しても年は取るので年長者=敬うべき人間というのはいかがなものかと思うんです」

 

「もしかして僕のこと嫌いなの?!こんなにイケメンで最強なのに…?」

 

「五条さんが、というよりも老若男女問わず人類みな平等にうっすら嫌いですね」

 

「傑―――!この子、ちゃんと教育して!」

 

嘆く五条をみて夏油はむせるほど笑った。教育なんてとうの昔に諦めている。人間あきらめが肝心だろう。

 

「もう夜蛾さんとの面談が終わったので帰っていいですか?」

 

「あ、この際だし生徒たちも紹介しとこうかな。ちょっと待っててよ」

 

「関わるつもりがないのでご遠慮します」

 

「君にはなくても僕らにはあるの。突然ビックリ人間に遭遇して困惑するより事前に顔合わせしといた方がいいでしょ」

 

「僕は平穏を望む類の人間です。危険なところに行く予定はないです」

 

「とか言いながら渋谷きてたじゃん」

 

『いい子たちだから大丈夫だよ。折角だし会っといたら?』

 

「誰と比べて「いい子」なんですか?」

 

『高専時代の悟』

 

「判定ガバガバですね」

 

「傑はなんて?」

 

「高専時代の五条さんよりいい子だから大丈夫、と」

 

「え~、傑ひどーい!!僕だって悪意があったわけじゃないのに!」

 

『悪意はないけど悪気はあったよね。硝子には2人そろってクズどもって呼ばれてたし』

 

「なるほど、遊んでてたまたま壊してしまうタイプですか?」

 

『うん。遊んでて壊した後、反省するどころか脆いのが悪いって文句言うタイプ』

 

「THE 傲慢って感じですね」

 

「あ、また傑が僕の悪口言ったでしょ」

 

「正解です」

 

傑なんてゴキブリ食べて触覚生えたくせに、頭にホウ酸団子つけてるくせに、などと夏油への悪口を言いながら五条は会議室を出ていった。夏油は五条にケツキックを入れたが幽霊のため当たり前に通り抜ける。

 

『悟が戻ってくるまでの暇つぶしに、私の呪術師として駆け出しの頃に受けたトラウマの話でもしてあげよう』

 

「暴露療法なら専門家がいるときにしてください」

 

『いいじゃないかちょっとぐらい聞いてくれても』

 

「三島由紀夫は「やたらに人に弱味をさらけ出す人間のことを私は躊躇なく「無礼者」と呼ぶ」と言っています。つまり夏油さんは無礼者ということでいいですか?」

 

『よくない。……手紙書いてくれた時はそんなこと言わなかったのに急に突き放すなんてひどくない?』

 

「僕は夏油さんの代筆として手紙を書いただけで基本的にカウンセリングは行ってません。………それにしても呪術界というものは面白いですね」

 

『そう?上には悟が言うところの「腐ったミカン」しかいないけど』

 

「上層部による腐敗は呪術界に限らずどの組織でも普遍的でしょう。しかし長年に亘って形を保っているというのは素晴らしいです。大概空中分解などで分裂しそうなものですが」

 

『いーや、たぶんゴタゴタは実際は起こってると思うけど?』

 

「ポーテューズ的に言うならば ”1人殺せば人殺し、数千人殺せば英雄" 。それに”勝てば官軍負ければ賊軍”ということわざが合わさると、どうなると思います?」

 

『…”どうせ殺す(ヤる)なら大勢を”?』

 

「……………なんでそんな力技な発想になるんですか」

 

流石に短絡的だったかと頭を回転させる。

 

『”数千人殺した英雄でも負ければ戦犯”?』

 

「ほぼ正解です。”自身の行為を正当化させたいなら勝ち続けなければといけない”。最悪ドローに持ち込む。特に戦争なんて最たる例ですね」

 

『……で、言いたいことは何?』

 

「歴史を作り、あるいは改変することができるのは常に勝者だということです」

 

『それはそうだけど』

 

「まあでもそれも皆が情報を発信する手段を得たことで難しくなりつつあります。

以前は政府による検閲やら言論統制でどうにかなっていました。呪術師に関しての情報の隠匿も同じくそれで十分対応できていたんだと思います。

しかし現代社会においては何気ないSNSの投稿などを誤魔化すことはできても誰かが故意にネットの掲示板に付け火して回ると対応しきれていない」

 

『あ、禪院家賠償責任事件(そこ)に繋がるんだ』

 

「今回の対応を見るに、今回は無理やり鎮火させたようですけどまだ燻っています。呪術界の言論統制能力と有象無象が発信できるネットとは随分と相性がよくないようです」

 

『……何企んでる?』

 

「企んでるというほどではないのですが、将来に向けての可能性は多い方がいいと思いまして」

 

『将来は幽霊に協力してもらってステルスインサイダー取引するって言ってなかった?』

 

「収入源と娯楽は少しでも多くあった方がいいでしょう」

 

『もしかしてどこかの家を強請ろうって魂胆?危険だとおもうけど』

 

「いやだな、そんな危ない橋を僕が渡ると思いますか?

それに前から言ってるじゃないですか臭いものに蓋をするという考え方は好きじゃないって」

 

『――――呪術界の批判や不安を煽ることを口にするのはおすすめしないよ。特に高専内では。…………壁に耳ありクロード・チアリっていうからね!』

 

「…?、誰ですかそれ」

 

『………ジェネレーションギャップ!』

 

つい低い声で言ってしまったためギャグでもかまして場を和ませようと思ったが、全く通じないとは思わず愕然とする。自分の世代には通じていたはずなのにと夏油は臍を噛んだ。

 

ノックもなくドアが乱暴に開く。五条が手をポケットに入れながら部屋に入ってきた。

 

「青、おまたせー!」

 

「五条さん、夏油さんにさっき「壁に耳ありクロード・チアリ」って言われたんですけど、誰ですか?」

 

恥の上塗りもいいところだ。それを聞いた五条はびっくりチキンのような鳴き声を上げて床に沈んだ。

 

 

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