「結局のところ、犯人の目的ってなんなんでしょうか?」
その日の相談者を見送った後、少年自身の部屋でぽつりと溢した。
『前も言ったけど、私の術式目当てでしょ』
「いえ、それは過程のひとつでしかないですよ。夏油さんの体と術式を使って何を成したいんでしょうか。繁殖行為をして術式を持つ子供を作りたいとか?」
『』
自身の体と貞操をこれほど心配したことはなかった。
カムバック体。
「あと五条さんが見せてくれた画像って映っているのは夏油さんだけでしたけど、まるで誰かと話しているような感じでしたよね」
『写真や映像に映らないもの…幽霊か呪霊と話している…?』
「呪霊も写真に写らないんですか?まぁどちらにしても人間以外と夏油さん…区別がつきにくいので画像の夏油さんのことを「偽者さん」と呼びます、は手を組んでいるんじゃないでしょうか」
『呪霊と手を組む?何のために』
「だから最初の疑問に堂々巡りしてしまうんですよ。仮に話していたのが呪霊とすると、呪霊と偽者さんはなにをしたいんでしょうか。
それに美々子さんたちも彼らと共にいる、その指示に従っているのであれば生前の夏油さんが掲げていた大義と今の偽者さんがしようとしていることはそこまで違わないんじゃないでしょうか。急に大義が方向転換してしまったら従っている人たちは戸惑いますし、空中分解することもある。しかし現時点ではそうなっていない。あるいは偽者さんのことを夏油さんだと思っている?」
『それはないと思う。伊達に美々子たちと何年も一緒に過ごしていない。なにか他に目的があるのかも知れない。
…大義か……私は非呪術師たちの抹殺と呪術師だけの世界の創造を目指していた…』
言ってしまってから気が付いたが少年は非呪術師だ。
「へーそうなんですか」
『反応が軽すぎないかい?成功していれば君も死んでいたのかもしれないんだよ』
「まぁその時はその時なので」
『…話を戻すけど、つまりまだ美々子たちはその大義を果たそうとしている?』
「大義はどうであれ、次に何かしようとする場合、もし僕が偽者さんなら夏油さんがしなかったことをします。同じ手は使えないですし。そこにわざわざ夏油さんの体を使う理由があるんじゃないかと思うんですよ」
『私がしなかったこと…』
「夏油さんは具体的にどこでなにをしようとしていたんですか」
『京都と新宿で百鬼夜行すると宣戦布告しておいて…高専を襲撃……』
ここまで言いにくいことはあっただろうか。
「この時代に百鬼夜行とは随分ファンキーですね。
…ところでなんで宣戦布告なんてしたんですか。突然襲撃するからこそ相手に大きなダメージを与えられるのであって、わざわざ準備する時間を与えるだなんてまったく、何考えているんですか」
『私の計画にケチをつけたのは君がはじめてだよ。しかも完全に思考が襲撃する側になってるし…高専を襲撃したのはちょっとした目的もあったんだ』
「目的?」
『ある生徒が持っていたものが欲しくってね』
「…その人しかいない時に全員で襲撃かけた方が確実じゃないですか?」
『そこまで内部情報知っているわけじゃなかったんだ』
「情報は力です。スパイとか使わなかったんですか。戦国時代でも風林火山で有名な武田信玄は歩き巫女という女性の忍び集団を作って全国各地の情報を集めていたんですよ」
ため息交じりにそう少年に言われる。
「次は宣戦布告はしないでしょう。あとは呪術師に対しての攻撃…は夏油さんもしていたんですよね。五条さんとは戦ったんですか?」
そう言いながら少年はルーズリーフに書き留めた宣戦布告に大きく×印を付けた。
少年にとっては宣戦布告はナンセンスだったようだ。
『悟とは直接は戦ってない。私に止めを刺したのは悟ではあったけど。悟は呪術界の切り札と言ってもいい。直接ぶつかるのは初めから計画に入れていなかった』
「五条さんがそこまで力があることについては皆知っているんですか?」
その言葉に頷いた。
「確か五条さん瞬間移動できましたよね。だとしたら、襲撃してもすぐに現場にきてしまう…五条さんとの戦闘をしなくていい方法……拘束、監禁とかどうでしょう」
『無理だと思うよ。そんなことしてもすぐに術式で解いてしまうから』
「五条さんが切り札であるならば、直接戦う前に使えない状態にしてしまった方が早いんですが」
『それは前にも考えたけど、そんなことどうやって…』
「人質とか
『わからないな。…直接本人に聞いた方がいいかもね』
それもそうかと少年は思ったのか悟に電話を掛けた。
「もしもし、どしたの、またなんかあった?」
「五条さん、何か弱みってありますか?」
少年も大分疲れてきたらしく、単刀直入にそう告げた。
「は?」
「で、簡単にまとめるとあの傑の体使っている奴に利用されるかもしれないから僕の弱みがあれば聞きたかったってこと?なんで敵側の考えを読み解こうとしてんの」
また何かあったのかと思ったのか悟が飛んできた。
少年からあの質問に至ったまでの経緯を聞き、納得したようだった。
悟の方でも動いていて思い当たることがいくつかあったようでしばらく考え込んでいた。
「僕を監禁ねぇ…無理じゃない?」
「動けなくしなくてもいいんですよ。ドラえもんにでてきたような四次元ポケットみたいな秘密道具使って帰ってこれなくしてもいいんです。もっともゴルゴンの首のようにその場に留められて手出しができなくなるような道具が理想ですけど」
「本人目の前にしてひどくない?」
『気にするだけ無駄だよ』
「でも偽者さんは確実に五条さんをどうにかする方法を考えていると思いますよ」
「道具ねぇ…ちょっと調べてみるよ」
そう言って悟は帰って行った。
「夏油さんちょっと聞いてもいいですか?」
『?…なんだい』
「前に夏油さんが襲撃したときっていつですか?」
『クリスマスイブ』
「…」
少年の何とも言えない表情に何を考えているのかを
『…違うから、断じて恋人がいる人たちに嫉妬してたわけじゃないから』
「じゃあなんなんですか」
『呪霊は負の感情から生まれるって言ったよね。だからそんなイベントがあるときは呪霊も力を増すんだ。だからその日にしたんだよ』
「へー」
少年の軽い返事が聴こえた。
『本当だって!』
「じゃあ次、偽者さんもそんなイベントの時になにかするかもしれませんね」
少年の言葉は棒読みだった。