幽霊見える系男子と夏油さん(幽霊)   作:あれなん

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【8】少年は企む

最近少年は考え込むことが多くなった。

荷物を抱えて戦ったことがあるか聞かれたので、おそらくまともなことを考えていないことはわかる。

 

 

 

ある日、少年が朝から落ち着きがなかった。日曜日なのに珍しく早く起き、前にネットで注文していた大きなリュックを背負って出掛けた。Googlemapを見ながら歩く少年の後を夏油はついて行く。電車に揺られ、繁華街がある駅に着いたが途中で花屋に寄った以外には歩みを止めず段々と人気のない方面に向かって進む。足を止めたのは小さな墓地の前だった。

 

「夏油さんも探してくれますか?伏黒家って墓石に書かれているはずなんですけど」

 

『伏黒って…』

 

あの忌々しい男の顔が浮かんだ。

 

なかなかない苗字のためすぐに見つかる。墓参りをする者がいないのか水鉢は乾ききっており落ち葉が入っている。少年は近くのバケツを拝借し、墓を清めた。花屋で購入した菊を花立にバランスよく活ける。

よしっと一言呟き、リュックの中を漁ったかと思うとマイナスドライバーを出す。少年は墓の下部にある石の板を外そうとドライバーを雑に隙間に捻じ込んだ。

 

 

『!!、ちょっとまって!!頼むから待って!』

 

「なんですか急に…」

 

『それは私が君に言うべき言葉だよ』

 

「?…見ての通りですが」

 

『』

 

この少年はこんなにも非常識だっただろうか。衝撃的すぎて固まっている間にも少年は問答無用とばかりに板を外そうとしている。

 

「あっ…外れた」

 

そういうと少年は外れた石板を横に置き、腕を穴奥に突っ込んで何かを探す。しばらくそうしていたかと思うとずりずりと音を立てて、袋を引きずり出した。

 

「ほんとにあった…」

 

少年は墓荒しを宝探しか何かと勘違いしているのだろうか。自分が義務教育を終えた後に「墓荒しはギリOK」と義務教育の内容が変化したのか。もしそうであるならば日本の未来は暗いどころかブラックホール並みに混沌とするだろう。「他人の物は盗ってはいけない」どころか「他人の墓は荒らしてはいけない」と注意する日が来るとは思わなかった。

 

『…罰当たりにも程がある!』

 

自身の享年から考えても少年より年長者である。ここは大人の意地を見せるべきだ。この少年には注意できるまともな大人が必要だ。

 

「別に遺骨をどうこうしたわけではないので大丈夫ですよ。お墓も綺麗にしたし」

 

そう言いながら墓から出した袋をリュックに詰め込んでいる。

 

『お墓に入っている人たちも怒るんじゃないかな?!』

 

この少年には常識が通じない。幽霊視点からアプローチをするしかなかった。

 

「お盆でもないので誰もいないですよ。仏教的にはお墓はサーバーであって、本人たちはクラウド上にいるらしいですよ。文句があるならたぶん直接言ってくるのでその時対応します」

 

少年の説明に絶句する。少年は仕事を終えたとばかりに石板を戻し、借りていたバケツやらを返すと駅に向かって歩いていく。

 

『今ならまだ戻れるから!返した方が良いって!』

帰り道で必死に説得するが梨の礫(なしのつぶて)だった。

 

 

 

 

『おー見つかったかよ』

相変わらずソファーに寝っころがりながら男が言う。

 

「あったよ、伏黒さん」

 

『――お前が青に妙なことを吹きこんだのか』

 

目の前の男はやはり害でしかない。ちょっと抜けている程度で済んでいた少年がここまで非常識になってしまうとは嘆かわしいことだ。

 

『チッ、うっせえな…』

 

「伏黒さんが言ってたのってこの中にある?」

 

そう言いながら少年は墓荒しでゲットした袋の中身をテーブルに広げた。

 

ナイフに銃、メリケンサックに鎖鎌、多種多様の武具がある。全て呪力が籠っている。

 

『…これは…』

 

「伏黒さんと取引して隠し持っていた道具の場所を教えてもらったんですよ」

 

『テメェも使ってなかった呪具どっかに隠してんだろ?どうせ使えねぇんだから錆びる前に出せよ』

男にそう嫌味混じりに言われる。

 

『…いったい何に使うのか教えてくれないなら私も教えることはできない』

確かに百鬼夜行のとき持ちきれないからと隠したままの呪具はある。

 

「備えあれば憂いなしなので」

少年はこれから紛争地にでも向かうつもりなのだろうか。

 

『…君に扱えるのかい?』

根本的な問題を少年に訊ねる。

 

「無理です。人も殴ったことないですし」

 

『だろうね』

きっと菜々子たちよりも細い少年の腕を見た。

 

『アー、めんどくせえな、おい、くそガキに触ってみろよ』

先程まで黙っていた男が言う。

 

『は?』

少年もわかっていたのか戸惑う様子はない。

恐る恐る少年の腕に触れた。質感がある。驚きすぎて手を離した。

 

『…(さわ)れる……』

 

『むしろ今までよく気が付かなかったな』

男の言葉に呆然とする。

 

「夏油さん、その道具扱えますか?」

 

少年がそう言った。少年の腕に再度触れながら、テーブルに置かれているナイフの柄を握る。生前の感触と同じだ。思わず男に投げた。

男は身を(よじ)(かわ)す。ナイフはそのまま男が寝ていたソファの背もたれに突き刺さった。

 

『!!あぶねえな!』

 

『どうして避けるんだ。幽霊なんだから怪我しないだろう』

 

『ざけんなクソが!』

 

「もー落ち着いてくださいよ。夏油さん、もし偽者さんが何か起こそうとするなら、きっと10月から1月の間に起こすと思うんです」

 

『?』

 

「僕が偽者さんなら一度に大勢殺せる時と場を選びます」

それは自分も考えた。だからクリスマスイブに百鬼夜行を行った。

 

『俺なら御三家を襲うがな』

男が茶々を入れる。

 

「一応大義名分があるので、呪術師を大っぴらに標的にはしないと思うんです。また政府や企業は襲われないでしょう。まぁ、個人的な怨恨についてはわかりませんが」

 

『国家の転覆が目当てなら国会とかも襲われそうだけど』

 

「仮に夏油さんが政府機関を襲撃して成功したとしましょう。問題はその後なんです。その政府の役割を夏油さんが担えますか?襲撃後の後片付けやら外交問題やらやることは山ほどでてくると思います。それをするなら今の政府を形だけでも残して裏で操った方が何倍も楽なんですよ」

 

『…』

 

「だから、偽者さんも政府機関の襲撃は考えないと思うんです。

…話を戻しますけど、日本で人口密度が高い場所となると東京都内です。さらに都内で人が集まる行事やイベントとなると、お正月の初詣、お花見、花火大会、ハロウィン、クリスマス、年越しのカウントダウン、あとはスポーツの試合で勝った時ぐらいでしょうか」

その言葉に頷く。

 

「天候に左右される花火大会。直前までどうなるかわからないスポーツの試合。初詣やお花見、クリスマスのように人が何か所にばらけるものは恐らく向こう()も候補に入れないでしょう」

 

「そうなると必然的にハロウィンと年越しのカウントダウンが残ります。どちらも渋谷の交差点が有名ですね。そこに事前に張っていたら偽者さんが現れるかもしれません。まあ何年越しのチャレンジになるかわかりませんし、高専をダイレクトアタックする可能性や平日の満員電車で突然…という可能性も無きにしも非ずですが」

 

『渋谷…でも、行ってどうするんだい?君は戦えないのに…』

 

「夏油さん、偽者さんを一発殴りたくないですか?」

 

『もちろん』

今なら一発どころか殴り殺せる自信があった。

 

「じゃあ行きませんか。僕はそれをお手伝いします」

 

 

 

 

そうと決まれば行うことは沢山あった。

 

使わない呪具を生前に隠していた場所を少年に教えた。

人気のない神社の本殿を少年が漁る。ここは高専の頃に任務で来た神社だ。所謂いわくつきの神社であった。呪霊が祓われた今でも誰も訪れていない。もう取り壊されている可能性もあったが、まだ無事だったようだ。

 

蜘蛛の巣を頭に付け、少年が咳き込みながら奥からスーツケースを出してきた。

 

「夏油さん、これで合ってますか?」

 

『うんそれだね』

少年が開ける。中には游雲にはとても及ばないがまだ使える呪具が詰まっている。武器庫代わりの呪霊も使役していたが、それでも限度があるため戦いの前に厳選し、そこから漏れた物はこうしてまとめていた。

 

少年はそれを墓の時と同様にリュックに押し込んでいる。事前に長さがある呪具があることも伝えていたため、少年は用意周到なことに大きめのバットケースも持ってきたようだ。

 

また少年に触れながら戦うことになるため片手で呪具を操る練習が必要だった。ナイフやら片手で扱えるものは問題なかったが両手で持つような呪具はどうするか困った。一瞬少年をおんぶして…と思い提案したが少年に諭され諦めた。確かに傍から見たら少年が宙に浮いているようにしか見えない。

 

 

 

 

『お前みたいな男はただで動くわけがない。何を青に(たか)ったんだ』

少年がいない隙に男に問う。

 

『集った?馬鹿言うなよ。あのガキから取引持ちかけてきたんだぜ?』

競馬番組を見ながら男が答えた。

 

『…青は何をお前に差し出したんだ』

 

『ビール5ケース』

 

『は?』

 

 

 




pixiv投稿分に追いつきました
今後はpixivと並行して投稿予定です

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