エンティティ様といく!   作:あれなん

11 / 58
【11】ナイトメア

少女はいつものリュックと水筒の他に装備品が増えたことに喜んでいた。

それは母親から贈られた腕時計だ。決して高価なものではない。1000円しないものだ。つい先日は5時の町内放送も耳に入らないほど何かに熱中しているようで、楽しそうに外に遊びに行くのはいいが親としては心配だ。そのためいつでも時間がわかるようにアラーム機能の付いた腕時計を少女に贈った。

その時計は子供用のためちょっとやそっとの衝撃では壊れない作りだった。唯一の欠点を挙げるとすれば少女の手首にするにはまだ大きいことぐらいだ。そのため腕時計なのにリュックに付けることになったが、成長して自分の腕に着けられる日を少女は楽しみにしていた。

 

自分の時計があるというだけでも少女には喜ばしく、何度もリュックの時計を見、時にはエンティティ様に時間を確認してもらった。

 

少女は前回のエンティティ様によるダーツの旅もどきが楽しかったため、今日もまたお願いしていた。念の為腕時計のアラームを5時に鳴るよう設定する。

 

目を開けると聞いたことも見たこともないスーパーの前だ。やたらと広い平面駐車場にある車のナンバーから山形だとわかる。

 

地域密着型のスーパーはやはりおもしろい。

山形では芋煮というものが好まれているようで、どん兵衛やポップコーンも芋煮味のものが売られている。季節になると芋煮大会も開催されるらしい。その時期にエンティティ様に連れてきてもらおうかとぼんやり考えていた。

山形の人は納豆も好きらしい。納豆汁に納豆餅、納豆と鯖缶を混ぜたタレにうどんを絡めたひっぱりうどんという郷土料理もある。

 

お菓子コーナーに積まれていたオランダせんべいはパッケージに描かれている女の子がかわいい。ベタチョコというコッペパンを半分に切ってチョコレートを塗ったご当地パンもある。昭和39年の東京オリンピックの頃から販売されているロングセラーらしい。

 

どの食べ物も気になったが少女はミルクケーキという御菓子を手に取った。ミルク、さくらんぼ、いちご、ラフランス、抹茶など様々な種類があるが、ここはスタンダードなミルク味にする。

イートインコーナーで買ったものを開けた。「ケーキ」とついているが硬く、見た目は板ガムのように長方形だ。販売している日本製乳は日本で初めて粉ミルクを発売した会社らしい。個包装を開け口に含むと、練乳をぎゅっと固めたような甘く優しい味がする。この硬さも絶妙で、かりかりと噛むと口の中に一気に牛乳の甘さが広がり、飴のように口の中でゆっくり溶かすとじんわりと染み渡る。素朴だけれどしつこくはない。しかしあとを引く甘さに1袋に9本入っていたうちもう4本も食べてしまった。エンティティ様にはいつもの御礼として5本渡すとお気に召したようであった。

 

さあ帰ろうとスーパーの出口に向かっているといい匂いが漂ってくる。どうやら併設されているお店からそれは流れてきているようだ。店員は鉄板の前でなにやらくるくると巻いている。メニューにはどんどん焼きと書かれている。

小麦粉を溶いた生地に紅生姜や魚肉ソーセージの具材を散らし薄く焼き目がついたら生地を裏返し、全体的にソースを塗り、割り箸に巻きつけて棒状にしている。山形ではお祭りのときどんどん焼きの屋台も出るほどポピュラーなものらしい。

 

1本は200円程で、お財布と相談すると丁度1本買えそうだ。明日からもっとお手伝いしようと心に決めて店員に1本求める。出来立てでまだ湯気が立っているものを渡された。生地はもちもちとして甘辛いソースがたまらない。海苔の風味がいいアクセントになっている。少女が食べている間にも店では老若男女問わず様々な人がそれを買い求めている。エンティティ様と半分こしたが、随分とお腹に溜まった。

 

 

外に出るとすぐに空気がしっとりとしたものに変わった。近くに有った縁側に腰掛ける。

どうやらエンティティ様のご飯の時間らしい。午前中ずっとお手伝いとして庭の草むしりをしており、この日少女は疲れていた。満腹感も相まって堪らなく眠い。座っていてもうつらうつら船を漕ぐほどで、エンティティ様に5時になったら起こしてほしいとお願いし横になる。

 

 

眠った少女の影から男がゆっくりと現れる。それは少女を一瞥すると静かにその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

伏黒は散々であった。北海道の仕事を受けた後からおかしなことばかりが続く。北海道の任務も建物に入った記憶はあるが、その後の記憶がすっぽりと抜けている。気が付けば建物の1階で座り込んでいた。

 

異変に気がついたのはそのすぐ後だ。

まず、女にモテなくなった。(たか)っていた女にアパートから追い出され、以前であれば簡単に引っかけられていた女にもスルーされる始末だ。

武器庫代わりに使っていた呪霊も行方不明だ。あれには禪院家から拝借し(パクっ)た特級呪具の游雲や天逆鉾(あまのさかほこ)などすべての呪具を入れていた。金があればホテルや漫画喫茶で眠ることもできるが、商売道具(呪具と武器)もなく持っていた金も尽き、今や素寒貧だ。

 

調子も最悪だった。夜は明るくしないと眠れない。前までは部屋の電気を消して寝ていたが、なぜかそうしようとすると動悸がして寝るどころではなくなってしまう。住む家もなく、夜に眠れず、昼間に公園かどこかのベンチで横になるが、これでは体が持たない。

それに、暗殺の仕事を受けようとするとなぜだか胃のあたりがむかむかとする。仕方なく報酬がいい暗殺ではなく、呪霊をちまちまと祓うしかなかった。仲介人である孔から高額な仕事を持ちかけられたが、手元に武器がなく、暗殺となると胃がムカつく現状では無理だとパスした。ここまで来ると宿無し金無し女無しの3重苦だ。もう自棄になるしかなかった。

 

渋々、記憶の片隅にあったアパートに行くと自分に似た顔の子どもが不審者を見る様な目をして自分を見ていた。

安い呪具はすぐに壊れてしまう。伏黒は小銭を貯めて呪具を買い、その呪具を使って呪霊を祓うというサイクルを繰り返し、やっと2級程度なら十分対応できる呪具を手に入れた。

伏黒にとってここまでの道のりは過酷だった。呪具を買うために趣味のギャンブルで気晴らし(散財)をすることもできない。相変わらず女の1人も引っかからないのでこのアパートから出ることもできない。テレビを見ながら横になっていると自分によく似た子どもに塵を見るような目で見られた。

 

武器庫代わりの呪霊が居ないのは本当に面倒だと伏黒は実感していた。肩にかけたバッグが鬱陶しい。歩くたび呪器同士が擦れる音が耳に障った。

 

伏黒は今回の仕事となる廃村に着く。到着したばかりではあったがもうやる気さえない。伏黒の後ろで土を踏む音が聞こえた。

 

 

 

 

 

ここ数年この業界に異変が起こっている。呪霊がいないのだ。そこにいた形跡は確かにあった。しかしその呪霊の残穢が残されているだけでいつの間にか消えている。現場から他者の残穢も発見されているがその足跡はぷっつりと途絶えている。

任務数は例年の半分以下にまで減少した。呪術師たちはこの異常事態に戦々恐々し、上層部の御前会議は紛糾する。また、呪霊を祓って金を稼いでいる呪術師は飯の種に困った。

それ以上に困ったのは呪詛師である。人を呪い殺すことを生業にしている者たちに然程影響はなかったが、どちらかというと呪霊を祓うことをメインに生計を立てている者は呪術師同様、仕事を求めて奔走した。

 

こんな状況になると呪術師と呪詛師の仕事の取り合いである。

公的な信用があり詳細な要望まで叶えることを謳う呪術師。依頼から着手までの早さと廉価さを謳う呪詛師。上級呪霊については対応できる術師が少ないためそこまで価格に変化はなかったが、低級呪霊を祓う案件は需要と供給のバランスが崩れ、遂には価格崩壊が起こる事態になった。

 

上級呪霊討伐の任務自体も数が減っている。それに比例して1級呪術師である五条や夏油は随分と暇になっていた。時間を持て余しすぎて地獄の桃鉄99年をしたし、今更学生らしく机に齧り付いて勉強するのも嫌なので、他の呪術師の任務に勝手についていき茶々を入れるという遊びをし始めた。茶々を入れられた呪術師から2人の担任である夜蛾にクレームが届き、2人は雷を落とされたが梨の礫である。

 

夏油はその日は珍しく単独任務であった。一緒に任務にあたる予定の呪術師たちが前日に食べた牡蠣に中り、現在進行形でトイレの住人になっていると補助監督から聞かされ、夏油は心の中で手を合わせた。

 

今回の任務の呪霊は2級相当で1級呪術師の夏油にとっては役不足だ。もともとサポートとして参加する予定の任務だ。やる気もない。その呪霊が巣食う廃村に続く道で夏油は車から降ろしてもらった。空を仰ぐ。雲が厚くかかっており今にも水滴が落ちてきそうで、陽の光さえ届いていない。嫌な天気だ。

 

廃村の入口にもうすぐ差し掛かろうというところで、今まさに廃村に入ろうとしている男を見つけた。遠目に見ても筋肉質でがたいがいい。男が手に持つ呪具で何となく状況が見えた。

 

呪霊(仕事)を取り合うようになり、呪術師と呪詛師で仕事がバッティングするという問題が度々起こった。

特に今回のような廃村や共同不動産の場合にそれは起こり、1人の所有者が既に高専に依頼をしているにも関わらず、別の者が安く済ませようと呪詛師に依頼をした。

 

その事を踏まえ、相手が呪詛師である可能性を考え夏油はいつでも術式を展開できるように構える。しかし男はそんな夏油に一瞬視線を遣っただけで、廃村の中に入っていった。

 

 

その廃村は四方を山に囲まれ、他の村とも山を2つ3つ隔てたところにある。そこまで大きい村ではないが、村の中央には寺があり、それを囲むように家々が建てられている。きっと人がまだいた頃には、寺は村の集会場のような機能も果たしていたのだろう。踏み固められていた道には既に雑草が生え、民家の石垣の一部は崩れている。

 

補助監督から事前に渡された情報では呪霊は村の端の沼付近にいるらしい。先に廃村に入って行った男の姿は見えない。よほど獲物を取られたくないらしい。それほど金に困っているのか。男から攻撃される可能性も考えて使役呪霊を出していたが、その必要はなかったかもしれない。念の為に沼の方に向かっていたが、その道すがら呪霊が祓われた気配がした。骨折り損の草臥れ儲けかと思い、踵を返したとき異変を感じる。

 

特級相当の気配を感じ、沼に急いで向かう。男が何かと戦っている。しかし呪霊と対峙している男の様子がおかしい。助太刀するべきか迷いつつ慎重に歩みよる。その何かは遠目では見えなかったが、近づくにつれその姿を視認することができた。

 

しばらく様子を窺っていると視界が一変する。白いもやに包まれた様になり、子守唄が聞こえた。

特級の領域展開に入ってしまったのかと考えたが、領域展開であれば特級の生得領域にいるはずだ。周囲を見回すが、異変を感じる前と風景に大きな変化はない。領域展開でないのであれば、何らかの術式かと警戒を強めた。

 

男は特級相手に体術と呪具だけで戦っている。特級の鉤爪の攻撃を刀で弾き、時には特級の腕を蹴り上げ逸らす。特級の攻撃を躱しながら男は何度も攻撃するが、特級には傷一つつかず、よろめくこともない。

 

男と目が合う。にやりと口角をあげると特級を連れたままこちらにくる。男はそのまま夏油を通り過ぎた。仕方なく使役している上級呪霊数体を出し、特級に対峙させた。

 

先に出していた2体を左右から攻撃させる。特級は鉤爪で右にきた呪霊の首を落とした。虫でも払うかの様な軽い動きだ。その手はそのまま反対側の呪霊に向かう。人差し指を呪霊の頭に突き立てる。その指は地面の方向に進む。呪霊の体が左右に分かれた。

4つの肉塊が地面に転がる。情報の処理が間に合っておらず溢れた臓腑がまだ拍動している。そのリズムに合わせて血が拡がった。

地面に潜ませていた呪霊を出す。特級を丸呑みできた。そのことに一息つく。普通の呪霊であればたちどころに胃液で溶けるだろう。使役していた1級2体を失ったのは痛いが、これを仕留めることができたならいい方だ。

呪霊を戻そうと指示を出すが、動かない。呪霊の腹から5本の刃が生えた。

 

 

「嘘…」

特級は丸呑みされる前と全く変わっていない。それどころか呪霊の腹を引き裂いて出てきた後、楽しそうに鉤爪を擦り合わせ音を鳴らしている。呪霊がこちらに向かう。

 

先ほどより距離が近づき、特級の表情がわかった。

赤く焼け爛れている顔。鋭い瞳に射抜かれる。自然と指先が震えた。

 

移動に使っている呪霊を出し飛び乗る。一旦距離を取る必要があった。廃村の入口までの道の途中で男を見つける。思わず声を掛けた。

「こっちに特級を(なす)り付けておいて散歩とは優雅だね」

 

「あ゛?」

 

 

 

 

 

対峙していた呪霊を呪術師に擦り付け、伏黒はとぼとぼ歩いていた。頭の中をかき回されたような頭痛がする。呪霊と戦っているときは子供の歌声が聞こえて吐きそうだった。意味の分からない既視感が気持ち悪い。さっさとこんなところから撤収しようと廃村の入口まで来るがおかしい。壁がある。思わず悪態を吐いた。

 

渋々道を引き返していると呪術師に声を掛けられる。まだあの特級は祓えていないようだ。呪具でも持ってたら借りよパクろうと思ったがないらしい。使えない。

 

再び子供の歌声が木霊する。来た。鉤爪は血を滴らせている。金属同士が擦れる音が響く。

 

張り詰めた空気。

 

電子音。

 

奥の民家からそれは聞こえる。随分と場にそぐわないポップさだ。

しかしその音が鳴ると、途端に先ほどまで聞こえていた歌声も鉤爪が擦れる音もぴたりと止んだ。

 

何かがこちらに近づいてくる。

「…ねえおじさん、バターサンドのひと?」

 

その声に血が凍った。

 

その子どもを視界に入れた瞬間、失っていた記憶が走馬灯のように蘇る。押し寄せる記憶の濁流に、胃からせり上げてきた物を地面に吐き出した。

 

陽炎。鐘。鎌。消える男。子ども。

 

暗転。

 

雨。苔の匂い。祭壇。半分腐った化け物。香炉。黒い液体。フック。痛み。血。黴。緑の液体。叫び声。水飲み場。悲鳴。嗚咽。鍵。緑の液体。地面にあいた穴。

――自分の呪霊を掴んで佇む化け物。

 

自分がなぜあの日から家中の電気をつけていないと眠ることができないのか。なぜ武器庫代わりの呪霊が居ないのか。その理由がわかった。

 

「…マジかよクソ……」

口を拭い、虚勢を張ることで手いっぱいだった。

 

子どもは呪霊に向かって駆けて行く。

 

「ごめんね、今日はなにもあげられるものもってないの。それにもう5時だからかえらなくっちゃ」

そう言って少女は慌てた様子で男と共に煙のように消えた。

 

あっという間のことで、残された2人は立ち竦む。

 

 

「――あの女の子に会ったことがあるのかい?」

 

「…だったらなんだ」

 

「高専ではあの子について情報を集めている。協力してほしい」

 

「パス」

 

「謝礼も払うよもちろん。これくらいだけど」

 

「…いいぜ」

提示された随分と気前のいい金額を見て伏黒は意見を翻した。

 

 

高そうな車に長時間乗せられ伏黒がたどり着いたのは呪術高専内の会議室であった。事前に連絡がされていたのか会議室には職員が揃っている。

 

「ここの教員の夜蛾だ。あの子どもと前にも遭遇したと聞いた。その時のことを教えてほしい」

 

「話の前に金が先だ」

手渡された封筒の中身を確認してにんまりする。

 

「あぁ、確かに会った。北海道の廃ビルであのガキ、今回のとは別の気持ちわりィ化け物連れてたぜ」

椅子に深く腰掛け足を組みながら話す。伏黒の言葉に会議室がざわつく。

 

「その少女が使役する呪霊の件だが…」

 

「呪霊じゃねえ、もっと別なモンだ」

 

「…どういうことだ」

 

「俺は天与呪縛で呪力がねぇ。その俺があの化け物を「蹴れた」。つーことは、あの化け物に身体があるってことだ」

 

「身体がある?…受肉体か…」

 

「ちょいまち、呪力ねえのにどうやって呪霊みてんの。戦う時だけ眼鏡でもかけてるとか?似合わなそーだけど」

面白半分で会議に参加していた五条が茶々を入れる。

 

「五感が良すぎて普通に呪霊がみえる」

 

「きっしょ」

五条の脳天に夜蛾の拳が落ちた。

 

「ぶっ殺すぞ糞ガキ」

 

「それで、対峙したその受肉体の特徴はわかるか」

夜蛾が話の続きを促す。

 

「黒い。キモい。姿を消せる」

 

「はー?意味わかんねえな、アンタ呪霊が見える程五感がいいんだろ?化けモンが姿消しても見えんじゃん」

 

「そこが変だっていってんだろ。呪霊さえ見えるこの俺がなぜか「見えない」って感じたんだぜ。おかげで気色悪くて仕方ねえ」

 

「…認識阻害能力か。あるいは…」

 

「まぁ、感覚的に場所はわかるから俺の敵じゃなかったけどな」

 

そう言うと伏黒は話は終わったとばかりに席を立つ。

伏黒ははなから自分が経験したすべてを話すつもりはない。特にあの影に飲み込まれた後のことについては一片足りとも情報を渡すつもりはなかった。

それは前回と同じような状況に陥った場合、自分が戻ってこれる確率を少しでも高くするためだ。脱出方法を知る者は少ない方がいい。

 

帰りの車も遠慮なく手配させた伏黒は、夜蛾の案内で車まで向かっていた。

 

「夏油から見事な体術だったと聞いた。…ここの職員にならないか」

夜蛾の言葉に伏黒は露骨に嫌な表情を見せる。

 

「非常勤の体育講師はどうだ。生徒を鍛えてくれればいい」

 

「今までどんな仕事してきたかわからねえ奴雇おうなんて頭おかしいんじゃねえか」

 

「――知っているさ「術師殺し」。

我々はあの少女を何としても止めなければならない。判っているだけでも被害者は100人を軽く超えている。その被害者には一般人も呪術師も含まれる。お前が殺してきた数人程度、比ではない。公表していないが、呪霊が消えた現場に少女が使役していると考えられる特級の残穢が残されている。上層部からもこの件の対応を最優先にせよと指示もあった。我々には手段を選んでいる余裕はない」

 

暫くの沈黙が続いた。

ふと、伏黒は会議で突っかかってきたサングラスの学生を思い出した。あの顔には見覚えがあった。五条家の六眼だ。

 

「…あいつも、サングラスのガキもここの生徒か?」

 

「あぁ、そうだが」

 

「鍛えろってことは怪我させても許されるよな」

 

「…そうだ」

 

「―――わかった、その話受けてやるよ」

伏黒は口角をあげた。金をもらって五条のガキを殴れるならこれほどいいことはない。集る女もおらず、自分の子どもも禪院家に売るにはまだ早い。胃のむかつきのため人も殺せないし仕事が減ってきた今現在、鬱憤を晴らすのにちょうどいい。

第一、ここにいればあの子どもの情報が集まる。奪われた特級呪具を取り戻すにはここで情報を集めて真っ先に動く方が良い。

 

「教師用の寮がある。そこに住んでもらうことになるがいいか」

 

「あー…子どもいるけどいいか?」

一緒に住んでいる奴らを思い出す。

 

「何人だ」

 

「2人」

 

「年齢は」

 

「しらねえ」

 

「」

 

 

 

後日、初めての授業で伏黒は五条の頭をかち割る。

五条は反転術式を会得した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。