少女は食べることが好きだ。ご飯もおやつももりもり食べる。餡子系のお菓子も好きだ。洋菓子も嫌いではないがチョコレートはあんまり買わない。なぜかというとこの時期になると父親が仕事関係のお客さんからチョコレートを山のようにもらってくるからだ。それは少女の家だけでは消費しきれないほどで、近所の人に配るのも限界があった。
少女には秘かにやりたいことがあった。エンティティ様やキラーたちにチョコレートを渡すのだ。エンティティ様には色々なところに連れて行ってもらっているし、キラーたちにもエンティティ様のご飯や悪い人たちをもぐもぐするときに手伝ってもらっている。
渡そうと思い立ったはいいが、人からもらった物をそのまま渡すのもなんだか味気ない。折角ならなにか作りたいと思い、簡単なレシピを母親から教えてもらった。
教えてもらったのは炊飯器を使ったチョコレートケーキと、冷蔵庫で冷やすだけのトリュフのレシピだ。
チョコレートケーキは湯煎したチョコレートに卵とホットケーキミックスを混ぜ、炊飯器のスイッチを押すだけで完成。トリュフは湯煎したチョコレートと生クリームを混ぜた後、冷蔵庫で冷やして丸めて粉砂糖やココアパウダーをまぶせば完成だ。
そんななんちゃってチョコレートケーキとトリュフでも少女にとっては心躍り、真剣な表情で作った。炊飯器からあがる蒸気からチョコレートの香りが漂う。炊飯器の前に座り込み、表示されている残りの時間を何度も確認した。出来上がった釜をひっくり返すとまんまるいケーキが出てきた。トリュフは欲張りすぎたためちょっと大きくなったが、まあまあいい出来だろう。
エンティティ様に緊張しながら渡すと喜んでおり少女は胸を撫で下ろす。味見と称して少女も食べてみたが、出来立てのケーキはふんわりと柔らかい。
少し迷ったがキラーたちのトリュフはエンティティ様のご飯の時に直接渡そうと思い、タッパーに入れた。
先程スピリットがエンティティ様のご飯を狩っている間に、少女は段々心配になって形が悪くなってしまったトリュフを入れたタッパーを開いた。見た目は悪いが味は、キラーたちにあげるものと一緒のはずだ。トリュフを1つ摘まんで眺めていると、エンティティ様の脚が少女に催促する。エンティティ様もそのトリュフを食べたいらしい。
「このタッパーのやつは失敗してるやつだからちょっと待って。成功したそっちのやつあげるから」
その言葉に一瞬動きを止めたが、その後も少女が持っている方の失敗したトリュフの方を指す。その強い意思に渋々失敗した方のトリュフのタッパーを渡す。
「あっ…」
エンティティ様はタッパーごと飲み込んでいった。30秒もしないうちに空のタッパーが返される。
「エンティティ様、おいしかった?」
波紋はいつもより大きかった。
「ねえりんちゃん、これバレンタインだからつくったの、みんなでたべてくれる?」
少女はエンティティ様の返事のおかげで自信が湧いた。少女が差し出すタッパーに一瞬スピリットは動きを止めるとにじり寄るかのように近づいた。そしてそのタッパーを慎重に受け取ったあと少女の影に沈む。
無事に受け取ってもらえたことに少女はちょっとほっとした。手作りは嫌がられるかもと心配していたのだ。それにスピリットならきっと他のキラーたちにも渡してくれるだろう。
意気揚々と帰る支度をしていると、影から白い手が伸びる。細く白い手は所々ガラス片が刺さり分断されており、先ほど影に戻って行ったスピリットのものだとわかった。その手は何かを握っているようで少女にさっさと受け取れと言わんばかりに動く。少女はその白い握りこぶしを包むようにそっと両手でつかむと、何かを握らされた。白い手は少女にそれを渡すとすぐに影に戻った。
少女は恐る恐る手を開く。そこには花柄のスカーフに包まれた桜のドライフラワーがある。お返しをもらえるとは思っていなかった少女は慌てて、自分の影を覗き込み御礼を言った。
少女は悩んだ結果、スカーフはいつも使っているリュックに結び付け、ドライフラワーはプラモデルが趣味の父親に頼んでレジンストラップにしてもらった。