エンティティ様といく!   作:あれなん

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〖第2部:1〗雷乃発声

あのクリスマスイブの後、呪術界は大きな変化を見せることはなかった。上層部が少女たちによって一掃されたことは、その時に立ち会った、夜蛾、五条、夏油の3名とそして当事者である上層部たちだけが知っていることだ。つまりはそれ以外の上層部の腰巾着たちにとっては突如、自分たちが担ぎ上げていた者が失踪したように見えた。もちろん袖の下だけで上層部に籍を置けるわけがなく周囲を納得させるだけの実力も不可欠で、それぞれの屋敷には結界も呪具もあっただろう。だからこそ何者かに襲撃を受けた痕跡を発見したとしても、その事実を受け入れることはできず、腰巾着たちはまるでいつも通り、つまりは上層部があたかもそこにいるかのように振る舞ったのだ。

 

上層部の1人だけが失踪したならばこう(・・)はならなかった。他の上層部の会合に長期間顔を出さないとなれば、他の者たちから事情を探られ、あっという間に引き摺り下ろされただろう。しかし、上層部全員の失踪だ。残された者たちは他も同様の状態であることを知らず、自分たちの立場を守ることに奔走した。

 

「へー、経費削減の一環ねぇ……めっちゃ笑える」

 

不自然なほど突然、旅費交通費の削減、接待の禁止と経費削減の通達が五条たちの手元に回ってきた。まるで倒産寸前の企業のような連絡だ。五条は届いた文書をひらひらさせながらわざとらしくそう言う。その真意は夜蛾と夏油にだけに届いた。

別に上層部が居なくなったことを公表してもいいと五条は考えていたが、襲われていることを知りながらなぜ助けに行かなかったのだと、火の粉が飛んでくるのも面倒だ。五条がちょっかいを出さずともどうせ半年とたたずにボロが出る。高専でスピーカーを通して聴こえてはいたが、直接顔を合わせている最中に起こったわけではない。つまり後々誰かに追及されたとしても、あの日の会議中はいつも通りの様子だったといくらでも言い逃れはできるのだ。

 

「夜蛾学長、これまさか生徒たちにも配るつもり?」

 

職員に配り切った後もまだ紙は何十枚も残っている。

 

「あぁ、そう言う指示だ」

 

「えー、紙の無駄でしょ。これで焚火していい?」

 

「悟、校舎燃やさないようにしてよ」

 

夏油がそうアドバイスした。

 

 

 

 

 

男は廃墟を撮ることが好きだった。大学ではオカルトサークルに入った。別に幽霊や都市伝説には興味はなかったが、目的はどうであれ廃墟に行けることには変わりない。その日もサークルの仲間たちと一緒に車で廃墟に向かった。

 

向かっているのは元温泉地だ。随分前に営業をやめ、今では誰も近寄らないという。本当は夜に行く方がオカルトサークルとしてはいいのだろうが、場所が山深くにあり、行きたいと手を挙げた者のスケジュールが合うのが今日の昼しかなかったため、まだ陽が高い時間帯に訪れることとなった。

 

男はどんな場所に行くのだろうかと期待に胸を膨らませていると、甲高い笑い声が助手席から上がり、反射的にその方向を向いた。本当は男3人だけで行く行く予定だった。しかし集合場所に行くと短髪の男が自分の恋人を連れていたのだ。女に足場がいいとは決して言えない場所に行くと説明し諦めてもらおうとしたが、自分も行くと言い張り、短髪の男にべったりと引っ付いている。車を運転するのは短髪の男のため、文句を言えるはずがなく、そのまま女も行くことになった。昨日今日染めたばかりなのか長い茶色の髪からは薬液の臭いが漂ってきた。独特のその臭いと車に染みついた煙草の臭いが鼻に衝き、まだ肌寒い季節だが窓を少し開け外気を入れた。女の鼻にかかった声は時折間延びする。女に倍速再生できるボタンがついているならとっくの昔に押していただろう。

 

金髪はその男を軽薄そうに見せた。男はこのサークルの他にもイベント系のサークルにも入っているようだ。そんな奴がなぜこんなところにいるのかと疑問に思うが態々訊ねるほどのことでもない。話題を提供するほど心は広くないので自然と沈黙が落ちた。

 

運転している短髪の男とルームミラーを介して目が合うと、肩を竦められる。オカルト好きには珍しい爽やかさがある。交友関係は広く、この車も友人から借りたと話していた。

 

温泉地に続く道は車では通れないほど細く、進入する者を阻むようにチェーンが掛けられている。仕方なく車を道端に停め、徒歩で進んだ。案の定、足が痛いなど茶髪の女が言い出し、歩く速度を落とす羽目になる。誰も利用していない道の轍には草木が生い茂り、蔦が途中にあった橋に絡み付いている。使われていないバス停は風雨に晒され盛者必衰を悟らせた。男は一心不乱に写真を撮った。金髪の男もカメラを向けていた。倒壊寸前の建物もあれば、辛うじて形は保っている場所もある。おそらく民家だったのだろう。もういまでは生産されていない模様入りの擂りガラスや欄間の細工を何枚も写した。昼間とはいえ、管理されていない木々は好き放題に育ち、日光を遮る。しっとりと水気を含んだ空気が漂っていた。

 

大きな旅館は更地になっていたが、その旅館が使っていた小屋だけが残されている。小屋の中では源泉が今でも流れており、もう誰にも使われることのない源泉が滾々と湧き出ている様はどこか寂しさを感じさせた。

 

ふと人影が見えた気がした。

何かあったときのことを考え全員で固まって行動しているため、一緒に来た他の3人ではないことは確かだ。一番奥まったところにある建物を見に行こうとしたときだった。何故だか肌が粟立つ。指先が微かなひり付きを感じた。金髪の男も同様に何かを感じたようで、2人して歩みを止める。しかし短髪の男と女は何も感じていないようで奥に進んで行ってしまった。

 

後を急ぎ足で追うと、2人が立ち竦んでいる。2人の視線の先には壁が崩れ落ちた民家があった。その中に誰かがいる。形容しがたい物体を複数人で取り囲む。何をしようとしているのかと思い、じっと見ているとそれぞれが手に持っているナイフを突き立てた。その物体から絶叫が挙がる。決して動物の声ではない。人間の声に近い、低くひしゃげた声だ。その声は離れたところにいる男の腹に響くほどで思わずたじろいだ。

 

囲んでいる者たちはそれが可笑しいようで、時折抵抗するそれに歓声を挙げながら嬲る。ナイフを差し込んだかと思うと、その傷口に手を入れ皮を剥いだ。ある者はそれの腕を取り、本来の可動域と逆の方向に曲げる。瞼を削り取り、眼球が剥き出しになると隙間にナイフを差し込み、それを掻き出そうとする。

誰が一番大きな咆哮をそれに上げさせることができるか競っている。そのことに気が付くと思わず後ずさってしまう。落ちていた枝が踏まれたことで軽い音を立てた。大した音ではない。きっと日常の中では有り触れた音だっただろう。しかし低い地響きのような声が満ちる空間ではよく聞こえた。

 

聞こえていた叫び声が止む。足元に落とした視線を上げるとその者たちはこちらを向いていた。全員深いフードの中に仮面をつけていて表情は窺えない。しかし空気は張り詰め、いい状況でないことは瞬時に理解できた。

 

「ッ! 走れ!!」

 

怒号に近い誰かの声に弾かれるように走る。

どこかに隠れようという考えすら思いつかないほど必死だった。

 

全員が駆ける。足を雑草に捕られ転げるが痛みに呻く時間さえ惜しく、這うように走った。迷うほど道は複雑ではないことだけが救いだ。橋を渡りきり、あとは車に飛び乗るだけというところで車が動き出す。

 

「っ!清水先輩!!待ってください!」

 

金髪の男がそう叫ぶ。キーを持っていた短髪の男、清水はこちらをちらりと見たがすぐに目を逸らしスピードを上げ、走り去った。

 

「糞っ!!ふざけんな!!!」

 

思わず口から悪態が出る。道端に落ちていた石を車の方に投げるが掠りもしない。道路の真ん中で息を切らしながら途方に暮れる。しばらくすると金髪の男が口を開いた。

 

「……ここで留まるわけにはいかない。道に沿って歩こう。車が通れば乗せてもらえるかもしれない」

 

今いるのは人気のない山中だ。それは望み薄なことは言っている金髪の男もわかっているだろう。しかしその薄っぺらな希望に縋るしなかった。

 

女は恋人に見捨てられたことがあまりにショックだったらしく口を開かない。

 

「…あいつら何だったんだ。しかもあの化け物…あれ普通の動物じゃないよな…」

 

「はぁ?脅かさないでよ…ナイフ持ってたけど、それだけじゃん」

 

思わず出た言葉をさっきまで黙っていた女が拾った。短髪の男といた時と違い随分と物言いは刺々しい。

 

「……あいつらが囲んでたやつなら俺も見えた」

 

金髪の男にも同じものが見えたらしい。確認されるように訊かれ、首を縦に振った。人によって見えていたものが違うのか。そのことについて考えようとするが疲弊している頭ではまともな答えは出せそうにない。

 

「…もうやめてよ、はやく帰りたい……」

 

女のその言葉には同意するしかなった。

 

 

何十分、何時間歩いただろう。時折、後ろや周囲を見回し、さっきの奴らが来ていないか確かめたが、影さえ見つからなかった。スマホを掲げて電波が入らないか確認するが、アンテナが1本立ったり消えたりを繰り返し安定せず、電話を掛けることも試したがダメそうだった。もう少し街に近づけば安定するだろう。まだ4月のはずだが、自然と額からは汗が流れ落ち袖で何度も拭った。足は棒のようになり、茶髪の女はヒールで長時間歩くことが辛くなったのか、もう裸足だ。疲れと緊張からか誰も口を開かない。

 

もうすぐ大通りに続く道が見えてくるはずだ。カーブの手前でどこからか焦げ臭さを感じ、全員で顔を見合わせる。カーブを曲がり切るかどうかというところで見知った車を見つけ、それに走り寄る。

 

車はガードレールを巻き込んで木に衝突していた。ブレーキ痕から察するにスピードを出し過ぎてカーブを曲がり切れなかったようだ。

 

金髪の男はすぐさま動いた。運転席で気を失っている短髪の男を外に引き摺り出すと、車から距離を取ったところに寝かせる。怪我人を動かすわけにはいかず、電波が入らないかとスマホ片手にうろついていると、カーブの先で電波が安定する場所を見つけ、救急と警察に連絡を取ることに成功した。

 

「救急も警察もあと1時間もすれば着くらしい」

 

金髪の男の近くに座り込んだ。どっと疲労感が押し寄せてくる。黙っていると気が遠くなるような気がして口を開いた。

 

「…上林ってそんな性格だったんだな」

 

「?」

 

金髪の男、上林が頭に疑問符をつけ男の方を向く。

 

「いや、見た目的にはお前が一番他のヤツ見捨てそうだし、ちゃらんぽらんそうで…」

 

先程自分たちを見捨て車で逃げた清水に視線を遣り言葉を発したが、言っていることの酷さに途中で気が付き、言葉の最後が消え入る。

 

「見た目?」

 

「だって髪も格好も派手だし、他のヤリサーにも入ってんだろ…」

 

「服は貰った。髪は知り合いの美容師の実験台。他のサークルには入ってない。このサークルだけだ」

 

「…嘘だろ、大学の近くの居酒屋、俺あそこでバイトしてんだけど、前に何回かサークルの打上げに参加してただろ」

 

店名を言うとやっと理解できたようだった。

 

「タダ飯食わせてくれるって言われたから行った」

 

「お前、もしかして……貧乏?」

 

「違う。もらえるもんはもらうだけだ」

 

「…そういえば、あの化け物一体なんだったんだろうな」

 

「………わからん」

 

「…まぁいいや、今度メシいこうぜ」

 

「お前の奢りなら行ってもいい」

 

「……やっぱ貧乏じゃねぇか」

 

まぁ、今日の御礼として学食ぐらいなら奢ってやってもいいかと男はぼんやり思っていた。

 

 

 

 

 

桜がまだ咲き切らない4月1日。少女は無事に希望していた高校に入学した。

まだ馴染んでいないセーラー服は全体的に黒を基調にしており、母親にはコケシ度が増したと笑われる。折角だからとちょっと背伸びして運動靴ではなく革靴を買ってみたが、慣れるまで時間が掛かりそうだ。

 

入学式はエライ人たちが長々と檀上で話しているため退屈だ。どうせ真面目に話を聞いても腹が膨れることも偏差値が上がることもない。入学式が終わればものの1分で話の内容をきれいさっぱり忘れているのだから、現地集合・三本締め・現地解散でいいじゃないかと少女はつくづく思っている。

唯一良かった点を挙げるとするならば、出席番号順、つまり苗字順に並んでいることだろう。これが背の順であれば問答無用で少女は列の一番前に据え置かれ、舟を漕ぐことも叶わなかった。

 

入学式の次の日にオリエンテーションや部活動の紹介がある。サッカーや野球など定番の部活もあれば、中学校の時にはなかった弓道部というものもあった。

ちょっと悩んだが結局少女は部活動に入らなかった。近所の家の草むしりをしてお小遣いを稼いだり、旅行雑誌を読んでどこに行こうか決めたりと案外多忙なのだ。しかし写真部の紹介を聞いているときにあることを思いつく。少女は高専にルーズリーフや便箋に数行、時折1行の日報を提出しているが、段々と億劫になってきていた。朝はほとんど寝ぼけているため記憶もなく、休日はさておき平日は特に書くこともない。撮った写真を日報として提出すればその問題は万事解決するのではないか。寝ぼけていてもボタンぐらいは押せるだろう。

 

そうと決まれば善は急げだ。チェキ本体は昔、誰かが持っていたのを見て自分も欲しくなり、誕生日に親に強請って買ってもらったはずだ。きっとクローゼットの奥深くに眠っている。高専側の要望で始めたのだから高専側にフィルム代を負担してもらうのが筋だ。そう思い、チェキフィルムの型番と理由を日報に書いておくと次の日には高専の郵便受けの上に置かれていた。

 

弾むような気持ちでカメラを構える。フィルムの無駄遣いをしないように慎重に撮る場所を選ぶ。やり直しができないとなるとちょっとでもいい景色が取りたくなるのは人間の性だ。行った廃墟だけでなく、買ったお菓子なども記念に撮っておこうかと考えていた。

 

エンティティ様のご飯の後、スーパーに行き、店内を見て回る。鹿児島県に焼酎の蔵元は100以上あり、銘柄となると1000を超える。県民の消費量も凄まじく、全国の年間焼酎消費量は成人1人当たり8.16ℓだが、鹿児島県は24.45ℓと3倍近い。居酒屋でも「とりあえず生(ビール)で!」とオーダーするのではなく「とりあえず(芋焼酎を)ボトルで!」ということもあるらしい。そのためスーパーのお酒のコーナーには焼酎がずらりと並ぶ。少女はその威圧感にちょっとびっくりした。

 

鹿児島ではさつまあげも良く食べられているが、他の都道府県と決定的に違うのは鳥刺し(鶏のたたき)があるということだろう。スーパーだけでなく居酒屋でも人気メニューの1つで鳥刺し専門店は何店舗もある。どの店でも鳥刺しの表面は軽く炙られているが中は明らかに生だ。

 

鶏の消化器官にはカンピロバクターなど、食中毒の原因となる細菌がいるため加熱して食べるのが常識だ。しかし、鹿児島では生食用鶏肉に関する独自の取扱基準を設けているため生で食べることが叶うらしい。少女が覗いたスーパーでも鳥刺しは飛ぶように売れている。にんにく醤油のたれにつけて食べるのがおすすめらしい。食べてみたいがおやつにしては重い。家に持って帰って食卓に並べようものなら母親にこんがり焼かれるか、電子レンジ行きになることは目に見えた。仕方なく諦め、御菓子のコーナーに歩みを進める。

 

少女の家の近くのスーパーでも販売されているボンタンアメは鹿児島の企業が作っている大正13年生まれのロングセラー商品だ。ボンタンアメのように知っているものもあれば見た目ではどんな味なのか想像がつかないものもある。

 

竹の茶色い皮で巻かれており、大きさは500mlのペットボトルぐらいあるだろうか。「あく巻き」という商品で、家庭で自作する人もいるらしい。ポップの説明欄には洗ったもち米を1晩灰汁につけ、竹の皮で包んだ後に長時間灰汁で炊いた、あるいは蒸したものだと書かれている。作る工程で砂糖を入れないため甘さはなく黒砂糖やきなこをかけて食べるのがメジャーのようだ。包丁がないと食べることが難しいため今回は見送ることにした。

 

結局、少女は「げたんは」という御菓子を手に取った。一番小さいパックなら300円もしない。入学祝を祖父母からもらっているため普段よりちょっと豪遊するつもりだ。今日の予算はどんと500円だ。げたんはを買ってもまだ200円残っている。いこ餅やかからん団子、両棒(じゃんぼ)餅というものもあったが予算オーバーしてしまう。銘菓コーナーを覗くと白く四角いものが目に留まった。

 

げたんはの見た目は黒っぽいが黒棒でもなくかりんとうでもない。遠くから見ると三角形のように見えるが、上が少し欠けていて台形になっている。生地は1㎝くらいの厚さだ。それがパックの中に5枚ほど並んでいた。触るとそこまで硬くないことがわかる。

一口齧って感動する。甘党大歓喜の逸品だ。少女もエンティティ様も例に漏れなかった。上の方を齧るとしっとりとしつつも生地の柔らかさを感じることができる。しかし下の方を食べると固まった黒糖がシャリっとしており、食感の変化をもたらしているのだ。小麦粉と重曹、黒砂糖を混ぜて焼いた生地を更に黒砂糖で作った糖蜜にくぐらせて作る。ほとんど黒砂糖からできていると言っても過言ではない。黒棒とは違い乾燥させていないため、手に取ると糖蜜がつき、齧るとじゅわりと糖蜜が口に広がっていく。確かに甘いが、齧るところによってシャリッとしたりふんわりとしたりと微妙な違いを楽しむことができた。

 

十分にげたんはを堪能した後、げたんはの残りのお金で買った物を取り出す。真っ白いそれは「かるかん」というらしい。餡子入りのものもあったが何となく餡子が入っていないものを手に取ってみた。包装を取り、持つとふっくらとしていることがわかる。さっき食べたげたんはよりもずっと弾力がある。蒸しパンともちょっと違う気がする。食べるともっちりとしているが軽い食感で素朴な甘さがいい。かるかんは米粉と山芋で作られているらしくそのもっちりとした弾力はこれかと納得した。

 

ちょっと時間があったので天文館という繁華街を歩いていると面白いものを見つけ足を止める。人目を引くそれの場所をカメラに収めようとしたが、1人で撮るのもなんだか味気ない。ふといい考えを思いつた。

 

 

 

 

 

 

「……なんだこれは」

 

朝の職員会議の前、夜蛾がそう呟いているのが耳に届き、近くにいた五条たちは夜蛾の手元を覗き見た。クリスマスから始まった少女の日報はいつもルーズリーフに数行、なにもないときにはノートの切れ端に「特になし」と書いたものが高専の郵便受けに入っている。しかし夜蛾の手にある物は写真の様だった。3枚ある内の2枚はどこかの廃墟の写真だ。調べればどこなのかすぐに判るだろう。

 

問題は残された1枚だった。”殺し屋参上”と描かれたどこかの店のシャッターを背景に、少女を真ん中にして4人がその両脇に立っている。少女がカメラを持って自撮りしたのか、目から上しか写っていない。深くフードを被り仮面をつけた少女以外の4人に見覚えがあった。たしかこのフードの者たちはクリスマスに新宿で暴れまわり、捕まえた呪霊で遊んでいたはずだ。インパクトがあるシャッターにおもしろがって撮ったのかもしれないが、事情を知っている夜蛾は全く笑えなかった。ブラックジョークにも程がある。

 

「あってんじゃん」

 

五条が飄々と夜蛾の内心を代弁した。

 

 

 

 

 




ということで第2部はじめます。

”殺し屋参上”のシャッターで有名な永田シロアリビルは再開発の為、2019年に解体済みです。ご了承ください。
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