病院の独特の消毒液の香りにうんざりしつつ男は病室の扉を開いた。もう他の2人も来ていたようで、ベッドで片足を吊っている男を囲んで話している。
「
「無理したら一気にガタくる歳になってしもたってことや」
「もうすでに持病持ちの奴もおるしな」
「誰か病気してたか?」
「はげ散らかした奴と痔持ちの奴おるやんけ」
「…はげって俺のことちゃうやろな」
「そやけどお前が足の骨折るなんて、そんな強い呪霊やったんか?」
「いや、家の階段踏み外してん。古い家やし階段が壁みたいに急やろ。手すり掴んだはずがスカッと空ぶってしもたわ」
「気持ちは
「俺なら嫁にプロポーズする前の日に戻って、あいつだけは絶対にやめとけってどついてでも止める」
「結婚して1日で嫁が豹変したんは鉄板のネタやな。見た目は嫁やけど様子がおかしい、これは呪霊か呪詛師の仕業やろかって夜中に俺に電話してきたんは何年経ってもおもろいわ」
「ホンマにびっくりするくらいの変わりっぷりやってん。
「まんまと嫁の罠にかかりよってからに」
「そういえばお前ンとこの嫁はんおらんけど今日仕事か」
「いや、旅行」
「亭主入院しとんのにキャンセルせんと旅行いったんか!」
「いや、俺、ホントやったら足の骨折っただけやし別に入院せんでもよかってん。せやけど嫁が先生にこの人、体が資本やしちゃんと診てやってください、って言いよったんや」
「ええ嫁さんやんか…」
「そんでな、診察室から出たら、あんたの御飯作らんでええんやから旅行いってくるわってどっかいきよってん」
「病院はペットホテルとちゃうんやぞ」
「いや、俺が怪我した時みたいに嫁の実家に預けられんだけまだましやんか。めっちゃ肩身狭いで。テレビのチャンネルも勝手に変えられへんし、怪我が治るのと胃に穴開くのどっちが早いか競争やったで」
「あの時はじめてお前に同情したわ」
「嘘言うなや、毎日嫁の実家から脱走して近所の喫茶店に入り浸ったとったやないか。暇やしちょっと来てくれって何回呼び出されたことか」
「煙草吸えて時間潰せる店があそこしかなかってん。せやけどあそこのコーヒー最初から最後までおいしなかったな。普通の値段取りよるくせに、どしたらあんなんができるんか今でもわからんわ」
「近所の猫の糞でも入れとったんやろ。まぁ、嫁が勝手に遊びに行くぐらいならまだええ。急に優しなってきたら終いや」
「出てくる飯がいつもより塩辛なってきたら完全にアウトやな」
「……あいつ、病院食、味気ないかもしれんしってごま塩と
「保険金殺人事件が起こる日も近いな。完全犯罪や」
「俺もお前の嫁はんに便乗して保険金かけといたるわ」
「なんぼ」
「100円」
「やっす!もう一声くれや」
「大盤振る舞いして108円」
「軽減税率適用されとるやんけ」