※下品注意
不慮の事故によって己が“宿儺の器”という“宿儺の指”を食べても死なない存在であることを知った虎杖悠仁は、ここ数日新しい知識を覚えることで必死だった。呪術界というものの存在さえ知らず、呪霊のじゅの字も知らずに生きてきた人生だ。とりあえず呪霊がいたら
東京都立呪術高専と言う何とも胡散臭い名前の学校に入学することが決まってから五条に呪術と呪術界について教えられたが、専門用語が多くいまいちイメージを掴みきれていない。夏油から“サルでもわかるじゅじゅつかい”という本を始め呪術に関する書籍を山のように渡され、休み時間の度にクラスメイトの伏黒恵と釘崎野薔薇に何度も質問をしては頭を捻っていた。
高専では呪術師として必要なスキルをメインに学び、その他の授業についてはほどほど程度に教えている。別に真面目に授業を行っていないというわけではない。むしろ京都校よりしっかりと行っている。五条以外の東京校の教員の間では第2の五条を生み出してなるものかという一種の使命感があった。
しかし時代の流れだろうか、生まれついての力によって苦労している生徒はいても、気に入らない教師に向かって1ヶ月前に牛乳に浸け発酵させた雑巾を投げつけたり、高専最寄の床屋の“バーバー”という看板の文字を“ババー”に変えたり、ママチャリでスピード違反をして休日に夜蛾を交番に呼びつけるような生徒は1人もいなかった。多少血の気が多い生徒もいるが、学級崩壊するような事態に陥ったことはあの学年を除き、1度もない。
そのため任務の疲れで授業中に眠りこける者がいても温かい目で見逃した。時々言い合いをしているのを見かけるが、学級崩壊寸前の怒涛の時代を乗り越えてきた教師陣には微笑ましい光景だ。
高専の時間割は体術などの実践的な訓練が多い。その日も体術と術式の訓練が連続している日だった。 虎杖は天性の運動神経で身体を動かすことは得意中の得意であったためなんとかなっていた。しかし、走ったり投げたりといった動きはいいとしても、呪具の扱い方や受け身の取り方は一から学ぶ必要があり、夏油は時間ができると虎杖に指導をしていた。
「――そんで!?その時夏油先生どったの!」
「簡単だよ。呪霊を使役する術師は近距離が苦手という認識を逆手にとって一気に間合いを詰めて体術で伸したんだ」
「うぉ――!カッケェ!」
「なになに、何の話してんの?」
「悟も話してあげたら?危なかった時の話」
休憩時間を使って、夏油は生徒たちに自身が危ないと感じた場面とその際の対処などを話している。それを生徒たちは、自分ならどうするかなどを考えつつ楽しそうに聞いていた。
「五条先生も話してくれんの!やった!」
虎杖が目を輝かせながら言う。五条も皆が休憩している木陰に腰を下ろし話し始めた。
「別にいいけど。えーと、…学生のとき、海外任務があったんだけど、深夜に何か寝つきが悪くて街を散歩してたら女の人に声かけられて」
「学生のときに海外任務!すっご!」
きっとジェイソンステイサム、いや、ジェームズボンドにも負けない経験をしているだろうと虎杖は興奮する。その女は妖しげな情報屋か、助けを求めてきた哀れな依頼人か、はたまた邪悪な呪詛師かと想像を膨らませた。
「一緒に来てっていうから、まぁいっかと思ってついて行ったら近くの宿に入って」
「うんうん!」
「そういう雰囲気になったからとりあえず服脱がせるでしょ。スタイル抜群で胸なんてこォんなに大きくて、尻の形も抜群だったからテンション爆上がりだったんだけど」
「…うん?……」
「ノリいいなーと思ってたら、…ツイてんのよ、
「…えッ…」
「しかも僕のよりめっちゃデカいの!」
「……」
「しかもあっちタチらしくって」
「…」
「あの時ばかりは流石の僕も逃げたよ。傑が泊まってた部屋に押し掛けたぐらい怖かった」
「」
「…………私は危なかった時の話を頼んだんだけど」
「どこからどう見たって危ないでしょ!だってズボンのチャック上げるどころか半ケツのままアムステルダムの街中全力疾走したもん。まさに生命の危機!」
生命の危機というよりもケツの危機だ。笑えるどころか耳を傾けていた生徒全員がドン引きしている。話を強請った虎杖もそういう年頃ではあるため猥談は嫌いではないが到底真昼間に皆が、しかも女子がいる場所で聴く内容ではない。
「あれ、ウケない?伏黒と硝子は腹抱えて笑ってたんだけど。僕が押し掛けて説明した時、傑も爆笑してたじゃん」
生徒たちの冷ややかな視線に気が付いていないのは五条だけだ。巻き添えを食らった夏油は顔を覆った。