エンティティ様といく!   作:あれなん

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【作中で使われている用語】

【いちびる】
調子にのる

【パト】
パトカー

【なんなん】
どうして なんで

【嵐電】
京都府京都市下京区の四条大宮駅から右京区の嵐山駅までを結ぶ京福電気鉄道の軌道路線。北野線と併せて嵐山線、通称嵐電(らんでん)と呼ばれる。基本的にしば漬け色だが交通安全期間にはパトカーの柄になる。よく外装が変わる。路面を走る区間があるが線路に車が入るのが見えると遠く彼方にいても威嚇してくる。唯一市バスに勝てる存在。

【市バス】
京都市バスの略。時刻表通りに運行するため外車だろうが仮免の車だろうが左レーンを走る車には容赦なく距離を詰めてくるプロフェッショナル。圧がすごい。乗用車では確実に負けるので勝負は挑まないほうが吉。黄色信号は確実に進めると思っている。

【パチ】
パチンコ

【シュッとしている】
見た目がいい、立ち振舞いが洗練されている、など包括的な意味を含んだ褒め言葉

【かなん】
いやだ 

【ばあはん】
祖母

【けったいな】
おかしな 妙な 変な 

【せこい】
けち 細かい 



〖小話3〗禪院家の警護のおっさんず2

5月から9月の間になると京都の鴨川沿いにある料理屋や茶屋は川の上や屋外で川が見える位置に座敷を作る。鴨川の納涼床は”ゆか”と呼ばれるが、貴船や高雄では”かわどこ”と呼ぶのが一般的だ。男たちは四条大橋西詰南側にある中華料理を出す店のゆかに来ていた。酒が飲めるならゆかだろうがビアガーデンだろうが餃子の王将だろうがどこでもよかったが目についた店でまだ満員でなかったのがそこだったのだ。あつあつの春巻きをビールで流し込む。キュッと喉が音を立てる。ふと目の端に黒い車が映り、思わず男の1人が他の3人に声をかけた。

 

「おい、迎えが来とるで」

 

「霊柩車やないか。せめて救急車かパトにしてくれ」

 

「最近交差点通った後救急車が礼言うようになったな。あれなんなんや」

 

「どうせキョウイクガ-とか誰かが言いよったんやろ。礼言わんでもええから、はよ行ってくれと思うわ」

 

「そんなんに教育も糞もあるか。いちびっとる糞ガキ一発しばいたった方が効果あるやろ」

 

鴨川に入り遊ぶ子どもや学生を見下ろした。注文していた麻婆豆腐やらエビチリを店員が慎重に運んできた。

 

「そういや、この前から嵐電がパトの柄しとるやろ。あれどうにかならんか?」

 

「まだスピード違反で切符切られたん根に持っとんか。恨むならパトを恨め、嵐電は無実や」

 

「あのとき切符切られんかったら俺はまだゴールドやったんや。あの道、制限速度30キロって頭おかしいやろ。そんなちんたら走っとったら婆の乗ったチャリに抜かされてまうやんけ」

 

「通夜に遅れそうやからってスピード出したお前が悪いんやろが。それで結局間に合うどころか警察と揉めて大遅刻しとるし」

 

「おかげで米つきバッタどもにヤイヤイ言われてしもたわ。そういや通夜の時聴いたんやけど中村のあほ坊、当主になったらしいな。すごいやんけ」

 

「やからあの時、親父さんからしばきかた聞いといた方がええっていうたやろが」

 

「前会ったときぴんぴんしたはったし、忘年会の時にでも聞こと思とったんや。せやけどまだ70なってなかったんと違うか。まだ若いやんけ俺のおかんの方が上や」

 

「お前ンところはまだ長生きしそうやな」

 

「元気も元気。朝っぱらから新台入替の日やからって枯葉マークつけた軽トラでパチ行きよったわ」

 

「あれ枯葉やなくて紅葉やぞ」

 

「なんでや、若葉ときたら枯葉やろが」

 

「枯葉やとまだそんな年寄りと違うってクレーム来たんやろ、知らんけど」

 

「ええやんけ、周りがまだ若いとか言うて甘やかすしそう思い込むんや。ちゃんと”残念やけどもう年寄りです”ってはっきり言ったらなあかん。俺もこの前おかんに言うたんや、もう年寄りなんやしパチ止めたらどうやって」

 

「そんで?」

 

「アンタのオムツ代もパチで稼いだったんやろが!なんや私が負けると思とんか縁起でもないこと言いなや!ってめっちゃ怒られたで。あの調子やと死んでも大安の日はパチするために蘇りそうや」

 

「蘇らんようによく焼いてもらわなあかんな。火葬する時、焼き加減注文できたらええんやけどな」

 

「試しにレアでって頼んでみ」

 

「半生で出てくるんか。誰が見たいんやそんなん」

 

「まためんどいのが、おかんは家の墓に入りたない言うとるしどうしよかおもってな」

 

「最近はやりの海に散骨派か?」

 

「俺のばあはん何十年も前に死んどんやけど、家の墓に入るとなるとばあはんと同じところに入ることになるし、それが嫌やって言うとんや」

 

「なんや嫁いびりでもあったんか」

 

「いや、それはなかってん。むしろ仲良くてな、ばあはんが死ぬ前におかんに糠床を託したんや」

 

「糠床は毎日世話せなあかんからな」

 

「やけど、そんなんよう世話せんって、ばあはんの棺桶にこっそり入れて一緒に焼きよったんや。ばあはんは食べるんが好きやったしって棺桶に弁当何個か入れたんやけど、その弁当箱ぱんぱんに糠詰めてな」

 

「さすがお前のおかんや」

 

「そう言えばお前の親父さんの葬式の時も親父さんが作った模型を全部棺桶に詰め込もうとして式場の人に止められとったな」

 

「式場の人が無理です!って言っとんのにお前のおかんがまだいける!って隙間に捻じ込んどったのはおもろかったわ。できたらもっかい見たい」

 

「おとんの葬式は大変やったな。経あげる坊さんはボケとるし、おかんはおとんと一緒にプラモデル焼こうとするし。中村の親父さんの葬式が羨ましかったわ。俺も自分の葬式ではあんな風に偲ばれたい。あんなせわしないんは嫌や」

 

「そしたらお前のおかんより長生きせなあかんな。家にあるいらんもん棺桶に詰められて一緒に焼かれるで」

 

「お前ン家のテレビの前に並んどった軍手加工した人形持たされるんとちゃうか」

 

「あんなけったいなもん持たされても困る。下手な呪物よりタチ悪いやろ。そういや、中村の親父さんの葬式で喪主しとったん、ほんまにあのあほ坊やったんか?前見たときと違ごてシュッとしとったで」

 

「親父さんの顔に似んでよかったなぁってみんな言っとったわ」

 

「でこに大きい傷跡できとったけど、逆に男っぷりが上がっとったやんか。

女遊びだけは気ぃつけときやってアドバイスしといたら”慣れてるのでご心配なく”っていっちょまえに言うとったわ」

 

「あんなちゃらんぽらんやった息子がまともになって死んだ親父さんも喜んだはるやろ。他の家とも上手いことやれとるみたいやし」

 

「人から聞いた話なんやけど、伏見の娘さんとあほ坊見合いするらしいで。上手く行ったら上層部の一員になるかもしれんな」

 

「まだ死にかけがようけ残っとるし、上層部に入る頃にはよぼよぼの爺になっとるわ」

 

「知らんのか?上層部におった人らがここ最近持病やらなんやらで次々辞めたり代替わりしはってん。死にかけ集団からちょっと死にかけ集団に若返って、平均年齢が引き下がったんや」

 

「やから警護しとるとき家の中が慌しかったんか。上層部が1人代わっただけでも大事(おおごと)やのに一気に何人も代わったらそらてんてこ舞いやわ」

 

「上層部に入れるほどの家が代替わりするんやったら祝儀に数百万は包まなあかんやろ。財務のおっさんがストレスで倒れるのもしゃーないな」

 

「どうせ貯め込んどんやから大盤振る舞いしてもええのにな。不幸事で金ばら撒くより吉事でばら撒く方がまだ気分ええやんか。せやけどあのあほ坊が上層部入りか。伏見家の力も使ったらあほ坊に票が集まるのは確実やろな。

……ちょっと待て、ひょっとしてそうなったら俺らも祝儀包まなあかんのか?俺金持ってへんぞ!」

 

「向こうも俺らに期待してないやろ。この前の中村の親父さんの葬式でも香典に5,000円しか包んでないんやし」

 

「お前5,000円やったんか、俺1万円包んだで」

 

「はーー!嘘やろ!?あれほど5,000円で統一しとこって決めてたやんか!」

 

「そうしよと思てたんやけど、一応世話になってたしと思ってな」

 

「そんなずるすんなや!お前らも5,000円包んだやんな!?」

 

「俺はこいつと連名で5,000円にしたし2,500円や」

 

「それは流石にせこい」

 

 

 

 

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