エンティティ様といく!   作:あれなん

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〖22〗水始涸

 

 

 

「ねー、エンティティ様もう行こうよ」

 

飽きてきた少女がそう言うと、もう30分も模型の前に居座っているにもかかわらずエンティティ様はちょっと待てと指示をした。

 

少女たちがいるのは埼玉県にある忍城(おしじょう)だ。同県内にある川越氷川神社や東武動物園にはいったことがある人は多いが、忍城に足を運んだ者は少ないだろう。ここに来たのには理由があった。エンティティ様がとある歴史映画にハマったのだ。その舞台となった場所がこの忍城だと知ると少女を引き摺る様にしてエンティティ様は朝から埼玉にやってきた。

 

エンティティ様と一緒に観ていた少女も確かにその映画はおもしろいと思った。しかし休日の早朝に人を叩き起こす程ではない。寝ぼけ眼で時計を見ると新聞配達の人しか活動していない時間帯だ。そんなに早く行ってもどこも開いてないと説得し、二度寝を決め込んだ。次に目を覚ますと、エンティティ様は少女がまだ布団に入っている状態にもかかわらず牛乳がかかったコーンフレークをずいと差し出す。周囲に目を遣れば今日着る服が用意され、リュックに入れるハンカチはアイロンがけまでされていた。

 

城は利根川と荒川に囲まれた湿地帯にあった。現在は埋め立てられているが当時城の周りには水堀と沼地が広がり、難攻不落の城と言われていた。それを更に有名にしたのは1590年の石田三成が行った水攻めだ。忍城を水攻めにするため総延長28㎞の堤をたった5日程で築き、川の水を引き入れる。周囲を豊臣軍約2万人が囲む中、城内には500人程の家臣と2500人程の民、合わせて約3000人が残った。圧倒的に数は不利であったが、城が水害に対して強い構造をし、城内には十分に食料も備蓄していたことが功を為す。水攻めをしても本丸は沈まず、豊臣秀吉が唯一落とせなかった城として知られるようになった。

 

忍城は姫路城などと比べると随分とこじんまりとしている。水攻めに耐えた忍城は明治維新の際に取り壊されたため現在あるものは再現されたものだ。それでも下から見上げると立派で、どこかわくわくとしてしまうのは観た映画の影響かもしれない。城の中は郷土博物館になっており、城の歴史だけでなく行田の特産品の足袋についての歴史も知ることができる。最上階から望む景色はよく、街を見渡すだけでなく筑波山や男体山、少し遠くに富士山も見えた。

 

ウォーキングマップも用意されているためマップ片手に街中を歩く。散策していると“ゼリーフライ”という文字が飛び込んでくる。ゼリーをフライするとはなんとアメリカンな…と思いつつ怖いもの見たさで店を覗いた。蛍光色のものを想像していたが、その正体は小判型の狐色をした揚げ物だった。話を聞くと小判の形をしているため“銭富来(ぜにふらい)”と呼んでいたのがいつの間にか”ゼリーフライ”となったらしい。地元の学校では給食でゼリーフライが出、街の軽食屋や食堂、豆腐屋でも1つ100円ほどで販売されている。

 

揚げたてのゼリーフライを頬張る。素揚げのため衣はついていない。ソースがたっぷりとかけられているが、見た目と違い優しい味が口に広がった。ベースにおからとじゃが芋が使われている。じゃが芋は丁寧に潰されており口当たりがいい。普通のコロッケにはないもちもちとした食感なのはおからの割合が高く、あっさりとしていた。これだけおいしいと言うのにそれに加えておからを使っているためヘルシーらしい。朝食がコーンフレークで、少し物足りなかった少女はあっという間に食べた。

 

元は忍城の外堀だったという水城公園に立ち寄った際、公園の向かいにある和菓子屋に目が留まる。(おし)藩の石高が10万石であったことに因み、まんじゅうに十万石の焼き印を押しているらしい。それを知ったエンティティ様の猛プッシュに負け、少女は十万石まんじゅうを買い求めた。

 

「…うまい、うますぎる」

 

何となくCMの真似をしたが確かにおいしい。

まんじゅうは俵形をしていてやや小ぶりだ。もっちりしっとりとした生地は真っ白くきめ細やかで米粉を多く使っているのか米の優しい香りがほのかに漂う。使った中の餡はしっかりと詰まっているが甘さ控えめでさっぱりと食べることができる。どこか上品で、なめらかなこし餡が口の中でさっと溶けていく。

 

十万石まんじゅうでエネルギーチャージをした後、忍城の外堀を利用して作られた水城公園や石田三成が陣を置いた丸墓山古墳に足を延ばす。陣を置いただけあって肉眼でも忍城が見える。歴史を辿り、当時の情景に思いを馳せるのも風情があった。

 

 

 

 

 

 

東京校の1年生3名は任務のため埼玉県にきていた。連続怪死事件が発生し、その被害者全員が埼玉県内の同じ中学に在籍していたと判明したためだ。原因と推定される橋に向かい、呪霊と対峙するところまでは順調だった。しかし突如虎杖と釘崎は呪霊、あるいは呪詛師と思しき者2体によって別の場所に引き摺り込まれる。自らの血を使う2体の攻撃に負傷するも、2人は呪霊たちを圧倒した。

青い肌の呪霊は地に伏す。それでも釘崎に一矢報いろうと襲い掛かった。それも予見していた釘崎が止めを刺そうとあげた腕にナイフが掠める。

釘崎は咄嗟に身を後ろに引くがアスファルトに当たったナイフは跳ね返り、釘崎たちを様々な方向から襲う。1つ躱してもきりがない。何本ものナイフが肌に線を残していく。木の陰に隠れてもナイフは縦横無尽に虎杖たちを切り付けた。

 

ナイフが飛んできた方を窺うと男が立っている。やけに目立つ服装でどこか浮世離れした雰囲気がある。呪霊たちの仲間かと思ったが、呪霊たちにもナイフは容赦なく降り注ぎ、容赦なくその身を削っている。

先程まで虎杖と対峙していたモヒカンの呪詛師が、倒れている呪霊を守る様に立ち塞がった。虎杖たちにしたように自らの血を浴びせ掛けるが、痛みを感じていないのか男は薄気味悪い笑みをより深くする。逆に雨のように降ってくるナイフを浴び、呪詛師は地面に膝をつく。

 

その隙を狙い怪我を覚悟で虎杖は男と距離を詰めた。拳を振りかぶる。

 

「はいストーップ」

 

その気の抜けた声の持ち主は虎杖と男の間に現れた。

 

「―――あッぶね!!」

 

「あ、ごめん」

 

「いや、後ろ!後ろ!」

 

虎杖は少女にそこが危険だと知らせようと少女の背後に立っている男を指し示す。しかし「うちのキラーだけど…」と少女は平然と言い、虎杖は言葉を失った。

 

「その2人にちょっと用事があるからもらって行くね」

 

少女のその言葉と同時に影は地に伏した呪霊たちを飲み込んでいく。

 

「今そいつらと戦ってんだけど!」

 

「あー、夜蛾さんには言っとくから大丈夫」

 

少女はどこ吹く風だ。

 

「違ェ!こちとら不完全燃焼だっつってんだよ!」

 

釘崎のヤンキーさながらの物言いに、少女が提案した。

 

「キラーでいいなら出すけどどのキラーがいい?」

 

「やっぱいいわ」

 

 

 

 

 

 

<おまけ>禪院家のおっさんず3

【作中の語句説明】

 

【狆】

犬種

 

【鴨川デルタ】

京都市出町柳にある東から流れてくる高野川と西から流れてくる賀茂川の合流地点にある三角州の通称。川の端から端へ渡るための飛び石があり、昼間は子どもたちが、夜は酔っ払って羞恥心をどこかに置き忘れてきた大学生を含む大人たちが遊んでいる。昼の達成率は9割を超えるが、夜は半分に落ちるという。水浸しで店に入るわけにもいかないので、さっさと家に帰りたい場合はわざと川に落ちるのもあり。

 

【ひらパー】

ひらかたパークの略。現在まで営業し続けている遊園地の中で最も古い歴史を持つ。しかしひらかたパークよりもひらパー兄さんの方が有名。その影響は関西圏では非常に大きく、イケメンアイドルに一切興味がないおっさんでもなぜかひらパー兄さんだけは認識できる。

 

 

 

 

呪術師家系の子どもは幼稚園や保育園に通わないものが多い。本家やそれに近い家の嫡男になると小学校、中学校も行かせず家庭教師を雇い勉強をさせていた。しかしそれも必要最低限で大半の時間を呪術の鍛錬に費やしている。

分家のそのまた分家、あるいは出世に興味がない家なら子どもを学校に行かせているが、それは呪術師の特殊性や呪力について理解できた後の話だ。

教育を受ける権利を子どもから奪うのかと思うだろうが、これには理由があった。

 

非術師家系の子どもなら呪霊が見えるだけだが、呪術師が身近にいる環境で育った子どもは自然と自身に呪力があることを理解し、教える前から中途半端に使えてしまう者も多い。

呪力を纏った拳は普通の拳よりも何倍も威力がある。そんな状態で非術師の子どもと喧嘩してしまった場合、相手の怪我の度合いによっては被害届を出される可能性もあるのだ。

 

そのため呪術師家系の子どもたちは暇を持て余し、同様に幼稚園に行っていない他の家の子どもたちと遊ぶ。古風な家が多く、テレビゲームなど最新のゲーム機はないが子どもの発想は豊かだった。

ただの木の枝でも、勇者が持つ伝説の剣や魔法の杖になる。普通の非術師家庭なら危ないからと止めるだろうが、非術師よりも大分丈夫なのが取り柄の呪術家系だ、しこたま木の棒で叩き合いをしてもけろりとしているし、むしろもっとやれ、負けたら晩飯抜くぞと周囲も囃し立てた。

 

 

 

「鉄坊、どしたんや」

 

「なんやそんな泣きべそかいて。おかんに怒られたんか、(チン)みたいな顔になっとるぞ」

 

男たちがいる待機部屋に入ってきたのは同僚の子どもだった。何かの用事で禪院家にきた母親についてきたらしい。袖で垂れていた洟を雑に拭いながら言う。

 

「おっちゃん……おもろい話、聞きたい?」

 

「お前の話は全部おもろい」

 

「おとんが酔うて大きいサトちゃん人形持って帰ってきた話は最高やったな。あれ結局どうなったんや」

 

「まだ家の玄関にいはる」

その男たちの言葉に機嫌をよくした子どもは話し始める。

 

「この前の夜な、おかんと一緒に寝てたらな、おとん酔って帰ってきはってん」

 

任務帰りに酒を呑んで帰るのはよくあることだ。先週それで酔いつぶれ、鴨川デルタで盛大に吐瀉物を撒き散らした男たちは平然とした顔でふんふんと聞く。

 

「でな、おかんの横に寝たと思たらなんやごそごそしたはるんや」

 

男たちは自然と話に集中する。

 

「忙しないな思てたら「鉄が起きるしあかん」って小さい声でひそひそはなしてな。そいでな…」

 

「おーい鉄!戻ってこい」

遠くから聴こえるその声に男たちは前かがみになっていた姿勢を正し、子どもは目をきょろきょろとさせた。

 

「…おっちゃん、呼ばれたしもう帰るわ」

 

話を途中で切り上げようとする子どもに男が縋った。

 

「そんな殺生なこといわんといてくれ。これからええとこやんか」

 

男の1人が懐を探り、財布から硬貨を取り出す。

 

「100円やるし続き話せ」

 

「俺からも100円やろ」

 

子どもにとって200円は大金だ。200円を握りしめ再び話し出そうとする子どもを見かねたのか、父親である男が部屋に入ってくる。

 

「おい鉄。水虫移るしここ来たらあかんって言うたやろ」

 

「水虫治ったって言うとるやろが」

 

「おとん待ってや。今おっちゃんらと話しててん。お金ももろたしちょっと待って」

 

「もう金もろたんか?」

 

「うん」

 

そう言って子どもは男にぴかぴかの100円玉2枚を見せる。

 

「金もろたまま話さんと帰れ。おかんが玄関で待っとるぞ」

 

「わかった!」

 

そう言って子どもは跳ねるように部屋を去って行く。男たちはやられたとばかりに肩を落とした。

 

「俺の100円…」

 

「ちょうどええとこやったのに」

 

「すまんな。かわりに村上のおばはんからもろたコロッケやろ」

 

「いらん」

 

「それあんまおいしない…」

 

「タダでもろとるくせに文句いうなや」

 

「タダでもろたもん全部有り難がると思たら大間違いやぞ」

 

「今治タオルがもろて喜ぶギリギリのラインやな」

 

「タオルより自分で選べるカタログギフトの方が俺は嬉しい」

 

「それは反則や。誰でも嬉しいやろ」

 

「そう言えば鉄最近呪力使えるようになったらしいやんか。小学校の入学に間に合うかもしれんな」

 

「俺がその日をどれだけ心待ちにしとることか。鉄と一緒におったらどこ行ってもあれ買うてくれこれ買うてくれうるさくてたまらん」

 

「イオンで遊ばしといたらええやんか。イオンは最高やぞ。長いことベンチおっても席料取らんし、家追い出されても野ざらしにならんですむ」

 

「家追い出されたらて言うけど、毎日イオン行っとるやんか。イオンの他に自慢できるもんないんか」

 

「そう言うお前はひらパーが家から近いて自慢しとるけど1回行ったきりやろが」

 

「あそこは外から来た人が金落としていくとこや。外貨稼いでくれとるから俺はええ」

 

「外貨!嘘言うな。ひらパー目当てに日本に来る奴見たことないわ」

 

「枚方以外は外国や」

 

「範囲せっま…」

 

1人の男が待機部屋に入ってくる。酷く怒った様子で足音も荒い。

 

「あー、腹立つ!!こんな時期にやることとちゃうやろ!」

 

その荒い足音に3人は一瞬身構えたが、すぐに力を抜く。男のその言葉に他の3人は怒りの原因がわかった。例の件に納得ができておらず、抗議しに行っていたらしい。

 

「中村のあほ坊が言いだした子どもの勉強会の話か。子どもらで交流できるんはええことやと思うけどなぁ。時期が微妙やな」

 

「呪物保管してた家が次々襲われとんのに子ども余所に預けれるか?」

 

「俺は鉄が昼間の数時間でも家におらんなら嬉しい。家でゆっくりできる時間が増えてええわ」

 

「そっちの件やなくて、俺が言うとんは来年の警備の採用枠の話や」

 

「あー、来年の枠減らすとか減らさんとか言う話か」

 

「枠の数は一緒やけど、数枠お偉いさんのところの親戚入れるって聞いたで」

 

男たちは一応警備としての誇示があった。警備と名がつくからには雇われるのは腕に自信がある者ばかりで、御三家と縁が薄い者たちにとって蜘蛛の糸に近かった。そのため毎年倍率は高く、男たちも必死にその試験を潜り抜けたのだ。

 

「あんなボンクラどもよりうちの犬の方がよっぽど使えるで」

 

「…お前ン家犬()おとったか?」

 

「この前嫁が勝手にもろてきた」

 

「犬はええぞ、餌やるだけでも懐いてくれるし。名前もう決めたんか」

 

「茂」

 

「えらい凛々しい名前やな、柴か」

 

「いや、プードルの小さいやつでメス」

 

ほら、と言いながら見せてきたスマホの画面にはちんまりとしたティーカッププードルが映っていた。

 

「もっとええ名前あったやろが」

 

「完全に名前負けしとるやんけ」

 

「ほんまお前センスないんやから嫁はんに名前考えてもらえ」

 

「お前らなんで俺が小遣い減らされたときも、家から締め出されたときも何も言わんかったくせに、犬の名前くらいでそんな文句言うてくるんや」

 

「お前がケツしばかれようが、小便漏らそうがどうでもええ。犬が可哀相やんか。仮に自分の名前クッキーとかプリンとかに改名せえ言われたらどうするんや」

 

「死ぬ」

 

「そう言うことや」 

 

「ほんならお前ら俺の代わりに名前考えてくれ」

 

「マロン」

 

「チョコ」

 

「紗代子」

 

「最後のやつはあかん。前の嫁の名前やんけ。夜寝れんなるしやめろ」

 

 

 

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