先の事なんて何一つ決まってない。そもそも続きを書くかも分からない。
「うぅー、寒っ」
ついつい、そんな言葉が口から溢れ出てしまう。やっぱり、春が始まっているとは言え、まだ3月。寒い事には変わりない。
学校帰りに、いつもの待ち合わせ場所で人を待ちながらスマホをいじる。夕方だと言うのに、この時初めてソシャゲのログインを行うのがいつものルーティン。
その日のログイン報酬だけを貰って、タスクを切る。所為、ログイン勢と言うやつだ。
まぁ、たまにハマって狂ったようにやる時もあるがな。
それにしても、もう3月か……
今月の終わりには幼なじみの誕生日がある。
「バイト増やそうかや」
多分、彼女
こういう時ぐらいカッコつけたいのが世の男というものだ。多分。
「天音。待たせてしまいごめんなさい」
そんな事を考えていると、目の前から俺の名前を呼ぶ、もう随分と聞き慣れた声音が聞こえてくる。
スマホに落としていた顔を上げると、そこには待ち人であり、先程ちょうど話に出た幼なじみの片方がこちらに向かって歩いている。
「紗夜」
氷川紗夜。長く伸ばされたアイスグリーン色の髪。垂れているものの、キリッとした力強い黄緑色の瞳。贔屓目なしにしても、彼女は美人の部類に入るのだろう。
幼なじみの双子の姉で、花咲川女学園に通っている彼女は、高校は違えど俺と同じく1年生。いや、来月にはもう、お互い2年か。
「どのくらい待たせてしまったかしら」
「いや、今来た所だから気にすんな。それより寒し早く帰ろ」
「ええ。そうね」
俺はそう言うと、紗夜の手を握る。世間一派で言う所の恋人繋ぎ。
ここまで話せば、どんな馬鹿でも分かるだろう。そう、俺達は付き合っている。
世の男性諸君の夢をこわすようで悪いが、幼なじみだからと言って、付き合ってもいない15、16の男女が一緒に帰るなんて、そんな夢物語はありえない。
「でも、その前にちょっと待って」
「ん?」
紗夜はそう言うと、俺のネクタイを軽く引っ張り、半ば無理やり俺を屈ませると、鞄から取り出した長いマフラーでお互いの首を巻いていく。
「これで寒く無いわね」
そう言って小さく微笑んだ彼女が可愛くて、きっと今の俺の顔は真っ赤に染め上がっているのだろう。
「そう言えば最近バンドの方はどうなんだ?」
照れくささからか、話題を変えたくて俺は無理やり話を持ちかける。
その言葉を聞いた瞬間、一瞬紗夜の空気が重くなったのを感じた。
しまった。チョイスミスったな……
「……やめたわ」
「え、また?」
「しょうがないじゃない。あの人達は向上心に欠けるわ。私は仲良しこよしのバンドがしたいわけじゃないの」
「まぁ、価値観は人それぞれだし、紗夜が合わないと思ったならそれでいいんじゃない? 俺はいつもの言ってるだろ?」
「後悔のない選択を。でしょ?」
「そういうこと」
高校生になってからバンドを始めて、紗夜はもう何度バンドを辞めただろうか。3回、いや4回だったか。
何にせよ、普通に考えたら多すぎる回数だ。
紗夜のギターの腕前は本物だ。それこそ多くのバンドが欲しがるほどに。
努力して努力して、後ろから迫り来る天才に捕まらぬよう努力して。それでも納得しない彼女は、完璧を求めるあまり、息が詰まるほど努力する。
紗夜の理想は遥か高みにある。
青春目的でやっているバンドが悪いわけではない。
ただ、紗夜とは合わないと言うだけ。
1年前には気づいていた。あの出来事で彼女が1部の記憶を無くした時には気づいていた。
氷川紗夜はギターの呪いに取り憑かれている。