はい、ハーレムルート一直線です。一夏君は誰か一人を選ぶなんて野暮な真似はしません。彼は、全てを手に入れる器を持った方なのです。
第十話
俺 の モ テ 期 は じ ま た !
そう直感した一夏は、目に見える女性を片っ端から口説き落とすことにした。とどまることのない野獣の眼光! そして、その矛先がとうとうBETAへと及ぶ……
この任務は損害は軽微、撃墜0と言う驚異的な数字を叩き出した。IS部隊の光線級全滅後、航空機による支援と共に戦術機が前線を追い上げる。また訓練ではなかった高高度による突発的な撃墜からの混乱も無く、圧倒していたといっても良い。
「前回の作戦は上層部もかなり高い評価をしてるの。まぁ、特設部隊でもないのに、撃墜0だったのは他に例を見ないから当然と言えば当然なんだけど」
その後数日は基地内は呑めや歌えやの大騒ぎ。ISの修理や部隊の増員なども合わせて、慌ただしいながらも良い状態が続いていた。
「それで、新しい作戦と聞いたのですが」
持ち上げられるのも、少しうんざりしてきたところだ。噂によると戦況も好転してきているということだし、次の作戦と言うのも望むところだ。
「ああ、これから明後日三〇〇〇より、大規模なハイブ襲撃、および内部侵略作戦が発令された」
「……ハイブ?」
BETAの本拠地を襲撃する、それもいきなりすぎる。勿論最終的にはそれも視野に含めて訓練してきてはいるものの。
「ハイブ内部に侵入し、動炉部分を奪取、内部からBETAの動きを弱らせるのがお前達の役目になる」
「ちょ、そんなこと出来るんですか!?」
いくらなんでも、ISとはいえ数で押されればどうなるか分かったものじゃない。それを無理にというなら、評価されたというよりも、邪魔に見られているのではないだろうか。
「……出来る、かどうかはさておき、可能性はある。まずは先ほどの作戦と他の基地の善戦よってハイブ周辺の戦力図が小さくなっていること。進行度4のハイブの前例からすれば、かなり衰弱していると考えていい。そして、何より他国から支援状況もある、なんならIS部隊抜きにしても、この作戦が決行される程度の戦力が集まっているよ」
自分たちの知らない間にそこまで進行している事に驚く。そして同時に、希望も感じる。
「正直に言うと、お前達をハイブの縦穴に放り込むまでなら、間違いなく無傷で出来るの。その先にとなると様々な問題もあるけど……追加のISも二機あるし、戦力的には問題ないってこと」
「つ……追加?」
二人、もしかしてIS計画は他のところでも進んでいたのか。
「私が同行させてもらうことになる」
箒が名乗り出る。
「なっ……」
「急造とはいえ、最新鋭機だからね。適応能力も君達よりはるかに高いから、足手まといにはならないよ。そしてあと一機は、私が行く」
そういえば、一番最初のISの適合者は楯無さんだったか。
「い、いや、指令が自らでて大丈夫なんですか!?」
「今作戦において指令を出すのは私じゃないからね。それに、IS部隊には今まで通りの動きをしてもらうために、箒とは私がパートナーとなって動く。少しは負担が減るはずだよ」
「そう言う問題ではないと思いますが……」
「とにかく、他部隊の援護があるとはいえ、それを期待出来るのもハイブ内部に入るまでだからね。そこから先はIS部隊しか頼るものがないんだから」
そう言って作戦の詳細は追って説明が来る。というよりも、これから打ち合わせだから待っておきなさいとぶっちゃけられる。
「……期待してるわ」
残されたのは、IS部隊と箒の6人。思い返せばまともに箒がIS部隊の面々と顔を合わせるのは初めてになるのではないだろうか。
「……セシリアですわ。よろしくお願いしますの」
気まずい緊張を打ち破ったのはセシリアだった。こういった時に排他的な動きをするタイプだと思っていたけれど、元の世界とは違うし、この何カ月で変わったのかもしれない。
「ああ、知っているとは思うが篠ノ乃箒だ。よろしく頼む」
箒がセシリアに、手を差し出す。一拍置いてようやく握手を求められていると気付き、手を差し出す。
「私は、凰鈴音よ。よろしく」
そういうと人懐っこい笑顔で鈴音が近づく。それに、よろしくと箒が返すといきなり質問をぶつける。
「それで? 一夏とはどういう御関係なの?」
次に挨拶しようと待っていたラウラ、シャルル、それとセシリアも凍りつく。散々恋人がどうのこうのと野次ってきた癖に、実際目の前にすると気まずくて仕方ないんだろう。そして、何を言おう、俺もこの世界において箒との距離の取り方はまだ分かっていない。
「幼馴染さ、ただの、とは言わないがな」
少し苦笑いで返し、俺の方をちらりと見る。これでいいんだろう、そう言われた気がした。
「言ったろ、幼馴染だって」
含むところはあるけれど、間違いではない。思ったよりも女子トークが盛り上がったせいか、どこか俺は居づらい雰囲気になってしまい、気付かれない様に部屋を出る。
許可を得て外の大きな桜の木の下出て数分、鈴音が来た。
「なんで勝手に出てってんのよ」
「あ、鈴も居づらくなったのか?」
「……なんであんたと同じ扱いな訳?」
と言いながら微妙な表情をしていた。似たような居心地の悪さを感じていたんだろう。
「……なんで、あんなこと聞いたんだよ」
正直に言うと、聞いて欲しくなかった。どうしたらいいのかなんて、俺が分からないから。
「そりゃあ、気になるでしょう? 此処に来た時からずっと探してた相手なんだから。どうせ特別任務っていうのも、彼女に関わることだったんでしょ」
図星なんでしょ、指差される。自分でも驚いていたのを指摘されてどうにも返事をしづらい。木を背に座ってる俺の反対側に、鈴も座る。
「はっきりしなさいよ、あんたが迷ってどうするの」
何をはっきりさせるのか。俺と箒の関係か。それは勿論、元の世界でもこっちの世界でも多分、幼馴染だったんだろう。だが、その先は? 元の世界の俺は箒をどう思っていた? この世界で、箒と俺はどんな関係だったんだ?
「色々と突然だったから、気持ちの整理がつかないんだよ……それに」
「それに?」
どうせ鈴の事だ。恋愛ごとに絡めてくるに違いない。
「今はまだ、IS計画の方に集中したいからな」
「何よ、男らしくないわね」
容赦がないな、それがまた良いところだと思うけれど。
「……悪かったな、唐変木で」
「自覚があるんなら、なんとかしなさいよ。待たされる方の身にもなりなさい」
そう言って基地の方へと戻っていく。一つ溜め息をつく、きっとこのままではいけない。多分、鈴は勘違いしているから。
「鈴! お前も特別なんだからな!」
そのまま返事もなく行ってしまった。どちらにしても、今はどうしようもない。
部屋をノックする音がする。いつも通りの訓練と明後日に控えている作戦のシミュレーションで疲れてはいて気だるげに返事をするとセシリアの声が聞こえた。
「い、今大丈夫ですの?」
「……いいよ」
体を起こして扉を開ける。
「すみません、お休みのところを」
謝罪の後に部屋をきょろきょろと見回して、小さくガッツポーズをする。何か見つかったのだろうか。
「まぁ、立ち話もなんだし」
そう言うと中に入る。特に何もない部屋だが、なんだかんだ言ってこの部屋にこそこそと来る人間は多い。と言ってもIS部隊の面々だけだが。
「一夏さんは今度の作戦のこと、知ってたんですの?」
「いや、俺も知らなかったよ。楯無さんも上層部がここまで動くとは思ってなかったらしいし」
余り話す機会がないので詳しいことは聞けていないが、苛立たしそうにそう愚痴っていたので間違いではないだろう。
「そうだったんですのね。それにしてもいきなりのことなので、正直不安ですわ」
シミュレーションでも成功率は決して高くない。勿論、初めてのことだということもあり、連携も不安定ということがある。それを考えなかったとしても、戦力的に足りているとは言えない。
「それでも、俺たちなら出来るって言われてるんだ。それに答えてやろう」
そうすることで、今までお世話になった人たちへの恩返しにもなると思っている。
「あ、あのですね。此処に来たのは、その……」
セシリアが言葉に詰まる。こうなるとセシリアは偶に言葉を飲みこんでしまって結局言えず終いになることも多かったんだが。
「……篠ノ乃箒さんとは、お付き合いしてらっしゃるのですか?」
「また偉く固い日本語だな、セシリアは」
大抵付き合いが長いとフランクな話言葉になると思うんだけれど、セシリアは日本語を覚える環境が特殊だったのか、これが普通になっている。それが悪いとは思わないが、どうにもこう言われると冗談で返すのが難しくて困る。
「離れてる時期が長かったからかな、前のままの関係って訳にはいかないみたいだ。少なくとも、今は違うよ」
自分な特殊な事情を誤解無く伝えようとするなら、これが今の正直な気持ちだ。勿論、大切な幼馴染ではある。元の世界では魅力的な女性でもあった。だけど、一線を超えた存在だったかと聞かれると分からない。彼女だけが特別と言えるには、俺のいた環境は特別過ぎたんだと思う。
「それはまた……面妖な」
「いや、それはまた違うと思うけど」
使い方も、キャラとしても。
「でしたら、私にもチャンスはあるんですのね?」
チャンスと、言うのか。それはもう、彼女からの気持ちを伝えているのと同じだ。それが分からないというには、彼女と時間を重ね過ぎた。
「セシリアは、それでいいのか?」
チャンスなんて、曖昧なもので。それは勿論、俺も今明確に返事をしろと言われれば、どうしようもない。唐変木と言われようが、甲斐性無と言われようが、だ。
「……一夏さんは迷っているのでしょう? それくらいなら、私もわかりますわ」
「……顔に出てるみたいだな」
「此処に来てからそれなりに経ちますし、隠し事は苦手な一夏さんですから尚更ですわ」
そうか、確かに誰かに隠し事をしようとか、あまり考えた事が無かったな。とりわけ姉から嘘はいけないと、きつく教わったのもあるかもしれないが。
「悩んでくださってるならそれで結構、後の一押しは私がしますの。それでいいんでしょう?」
そのプライドの高さと自信に、俺は何度助けられたんだろうか。彼女に任せれば、隣に立てるように努力すればそれでいい、そう思わせる様な気品に幾度と目を奪われた。
「ああ、頼むよ。セシリアはそうでなくっちゃな」
「ふふっ、一夏さんに頼られるのであれば、仕方ありませんわね」
そう言って、部屋から出ていく。彼女なりの強がりだという事は知っている。彼女自身は他の人と変わらず、そんなに強くない。敢えて違うとするなら、強くありたいと思い、強くあろうとしている、それだけだろう。
「そういうの見せられると、こっちもやらなきゃな、って思うよな」
出来るなら格好いいところを見ていて欲しい、と思う。
シミュレーションの後、芳しくない結果が続き、ラウラに呼び出される。
「……どうしたものかな」
露骨に頭を抱えるが、こればかりはどうにかなるものだろうか。
「楯無博士と箒を加えた事で戦力の増強としては良い。むしろ、よくここまで仕上げたものだとは思うけど、それでも相手が悪いな」
二人の能力はIS部隊の面々と比べてもそん色がない。連携という面で劣る部分はあるが、最新鋭機の性能をいかんなく発揮する箒と経験値での対応能力の高さは頼りになる。
「行きはよいよい、帰りは怖い、だな」
「そもそも帰るというところまで行けないがな」
作戦内容としては、炉心部分への突入、占拠、戦線維持を成し遂げなければならない。占拠までの成功率は8割程度、大型に囲まれたり、予想外の戦力さえなければ特に問題にならないと思われる。
「味方部隊の到達まで持たせる事が出来ない、な」
炉心をどうやって戦場として有効に活用するか、になる。これまで、G弾で奇跡的に無傷だった炉心を活用するケースはあれど、意図的に奪取できた記録はない。占拠までいってしまえば恐らく、敵の猛攻は必至だろう。
「高機動部隊も、防衛戦になると実力を発揮できないだろうしな」
武装なども考えて、白式も切り込み役としては充分に働いてくれるだろうが、遠距離砲撃や面による制圧攻撃はあまり向いていない。かといって、手に入れたはいいが、数分で取り返されました、じゃ話にならない。
「占拠出来なければ破壊、なら話は早いんだが、破壊は駄目となると……」
戦力が足りない。足りないと嘆くだけなら誰でもできる、と言われそうだが、別部隊の動きを変更するという方向でも考えなければいけないだろう。
「そこで一夏に頼みがあるんだが」
楯無さんの部屋まで来て、今日何度目かの溜め息をつく。
「頼みごとって、進言を俺にしろってことかよ」
今まで基本的には楯無さんの命令を変えられたことはなかった。勿論異論を挟む事は幾度かあったけれど、結局のところ全体を通してみると彼女のやり方が一番良いと、納得できるだけの論理を展開してきたからである。
「とはいえ、この時間がないときに出来ません、って言う訳にもいかないしな」
出来ない事を出来ますとは言えないから、結局これ以外の選択肢がない。ただ、楯無さんを捕まえられる程暇な状況じゃないのも問題だ。訓練に参加するのも俺達の十分の一にも満たない。
「通信で何度か伝えようとしたが、他の対処に追われているようで、自室に直接いける俺に頼るしかないってのはわかるが」
それで何か変わるのか、IPを鳴らす事三度、返事はない。局員に聞くと部屋に戻ったと聞いたのでいるはずだが。
「……開いてるな」
なんとなく罪悪感を覚えながらも、ロックが掛かっていない扉を開くと、机に突っ伏している楯無さんがいた。
「楯無さーん、生きてますか~?」
数秒間の沈黙。
「……いっそ、ころして~」
どうやら連日の疲労で精魂尽き果てたらしい。
「言ってる場合ですか、起きて下さい」
働きづめで申し訳ないとは思うが、それで作戦が回らないなら、言わない方が問題になってしまう。
「はぁ、何かあった訳? 見れば分かる通り、楯無さんは絶賛爆睡という名の仮眠をむさぼっていたのですが」
「爆睡を仮眠というのはどうか、と思いますが。寝てないんでしょ」
「20分前に仮眠をとったわ。それより前の記憶はないから聞かないで」
栄養ドリンクの山と整理の中途半端な山積みの書類、正直この状態でIS乗るのかと思うと不安になる。
「用件だけ言いますね。次の作戦、戦力が足りません」
「足りないってことはないでしょ、私も出るんだから」
即答だ。その自信は頼もしい限りだが、流石に楽観的すぎるだろう。
「突入、占拠まではシミュレーションを煮詰めれば成功率9割は出来ると思います。しかし、その後の戦線維持となると弾薬や地形利用、援軍が来るまでの時間の不明瞭な部分を合わせて、現状の戦力では無理です」
「あ~……あ~、なるほどね」
「何かお考えですか?」
「そもそも、戦線を維持する必要はないわ。最初から私はそのつもりがなかったんだけど、上の思惑で出来るならそうしろってなってるだけ」
それならまだやりようはある。ただ、どこまでが妥協点なのか、ということが重要になる。
「今回の作戦だけど、機密事項だから胸にとめておいて。篠ノ乃箒を炉心に連れていくことが目的なの。彼女の感応能力を改めて精査する必要があるんだけれど、BETAの炉心で活用することが必要になってくる。要はその間の護衛が出来れば問題ないの」
「となると、占拠自体が目的じゃないんですね。となると、一時的でも目標周辺のBETAを殲滅、一定時間の経過で退路の確保でいいですか」
「そうね、部隊の再突入の経路を確保する、に変更しておいて。実際にはどれくらいの時間がかかるかは分からないけど、十分もあれば足りると思うわ」
しかし、箒の能力がそれほどまでに重要なのだろうか。
「いいえ、能力の検証自体はそれほどじゃないわ。IS部隊の能力の証明とハイブの奪取が今作戦の重要部分になるから、私達はどちらかというとおまけなの」
とはいえ、作戦の要であることは間違いないから、失敗は許されないけどと言う。
「……作戦の変更伝えてきます」
「はーい、一応言っておくけど、箒ちゃんの部屋にはいっちゃ駄目よ?」
「分かってますよ。そりゃあ、会いたいとは思いますけど、押しはいって嫌われたら元も子もないですから」
既に机にうつぶせになって寝る準備をしている楯無さんが疲れた声で返す。
「ちょっとくらい強引なくらいがいいものだけどね」
「……善処しますよ」
作戦内容の変更や、各位への通達を終え、改めてブリーフィングを行う事にした。
「集まるのは俺とラウラだけなんだな」
「問題ないだろう、他の連中も整備やらで忙しいからな。割く人員は少ない方がいい」
書類に目を通しながらラウラが答える。ややぶっきらぼうだが、こういった時の状況把握に関しては俺よりも全然頼りになる。それでも、彼女は彼女で自分の機体の整備にも向かいたいはずなのだが。
「それに関してはお互い様だろう。作戦内容の変更に関してはもう少し早ければ良かったんだが、文句も言えんからこれでいいだろう」
翌日のシミュレーションの変更自体は、書類は作成してあるから整備班に投げれば朝一で調整出来るし、正式な内容として前の作戦が決定していた訳ではないから、申請をあちこちに回さないといけないということもない。
「占拠の目的が拠点としての利用ではなく、新型の運用試験目的とはな。無論、維持できれば越したことはないが、これならまだ少しは希望が見えてくるか」
「問題は撤退のタイミングだけど、正直目的を達成次第、退路を確保しておくべきだと思う。この部隊が継続戦闘能力が高い訳じゃないから、一度戻って本部隊と合流して、その先頭に再配置するべきかな」
俺の言葉を聞いて一考し、ラウラが答える。
「そうだな。再突入経路の確保に尽力する方が効率はいいだろう」
幾つかあったプランの中から候補を絞り、○と×を付け書類を整理していく。
「……ところでだな」
「どうした、ラウラ?」
無言でペンをいじる。書類に目を通すふりをして、周りをきょろきょろ見渡す。どうにもまぁ、分かりやすい仕草だ。
「箒の事だな?」
「なっ!? エスパーか!?」
「俺よりも顔に出やすいんじゃないか? こと作戦とか戦闘になるとポーカーフェイスなんだけど」
ばつの悪い顔をする。
「……言う通りだな。この手の話題になるとどうにも歯切れが悪くて、自分でも問題だとは思う。ただ、どうしてもお前の気持ちを聞いていないと、後悔になると思ってな」
分かっていない。後悔が無いなんて嘘だ。ここで選択権を俺に渡してしまう時点でらしくないのだ。
「俺はラウラのことが好きだよ」
「ぶっ!?」
書類を手からぼとぼとと落とし、錯乱しながら書き集める。集めるのを手伝って、散らからない位置に整理してから話を続ける。
「……冗談もほどほどにしておけ」
「冗談も何も、さっきの反応で分かると思うんだけど。ラウラは俺の事を諦める理由が欲しいんだろ?」
睨みつける表情が険しくなる。
「知った様な口を聞く。女だらけの部隊で舞い上がっているのか? 今ならまだ、冗談ということにしておいてやってもいいぞ」
「違うよ。なぁなぁで終わらせたくないのは俺も同じだ。俺の気持ちは決まってるよ、皆それぞれ良いところはあるし、女性として魅力的だと思う。だけど、今急いで結論を求める必要なんてないと思ってる」
「……優柔不断だな、らしいと言えばらしいが」
「作戦が決まったから、っていうのも自分らしくないしな。結局これが終わったら、誰かと別れるっていうつもりもないし」
「確かにそれはそうだが……どうなるか分からない重要な作戦の前で身辺の整理は重要じゃないのか?」
頭を少し掻く。
「言いたい事は分かるけど、俺の中では整理できてるつもりだよ。皆には迷惑かけるかもしれないけど。次を絶対に作る事、それだけは譲れないけど」
「それで、私の事が好き……というのは、その……女性としてだな?」
「あ、その、そうだな」
「なんだその反応は!?」
机を叩いて立ち上がる。まぁ、ああ言っておいてこの反応はそうだろうね。
「女性としてって言っちゃうと、色々グレーな部分がある気がしてちょっと、なぁ」
体のラインとか、見た目とか、そう言った部分を含めると『それがいい!』タイプの紳士に見られかねない。
「……そういうことでもあるか」
膨れた顔も、可愛い。そう思うなら、それでいいのか。他人にどう思われるかなんて、それこそ関係ないのだ。
「言っておくけど、ラウラだけが好き、って訳じゃないからな。誰が一番っていうのは……本当に決められないことだから」
「それは最低だと思うんだが……」
「俺も、そう思う」
だけど仕方がないのだ、一人を愛するなんて選択肢がないんじゃないかって言うくらい、良い人がいすぎるのが問題なのだ。
「分かった、まだ私にもチャンスがあると思っておく。きっぱり割りきってしまった方がいいと思っていたが、これはこれで、悪くはないな」
「そう言ってもらえると助かるよ」
それなら、と言わんばかりにラウラが迫ってくる。
「……嫌いじゃないなら、構わないだろう?」
上目遣いで迫ってくる様子は、とても愛らしくて、つい抱きしめたくなる。幼げなのに、どこか妖艶な魅力がある。
「本当に、抜け駆けが好きなんだな」
行動力があるとでもいうべきか。何にせよ、自分も近づいて唇を重ねる。触れるだけじゃなく、むさぼり合うように、手を回して舌を絡める。と同時に突き離される。
「だっ、誰がそこまでしろと言った!!??」
「……いいかなぁ、って」
「良くない……こともないけど」
大胆だけど初体験みたいな反応、この初々しさがまた、彼女の魅力でもあるんだ。
「勘違いしないでよね。俺に選択権があるんだから」
「ばっ、馬鹿にして! お前なんか知らん!!」
そういうと書類をぱぱっと集めて出ていってしまった。やっぱり、こういうのも満更じゃないのだ。
「ラウラも俺も、だな」
昼の訓練を終えて、皆が食事をとるために移動する。普段であればIS部隊全員で喋りながらお食事会の予定だったのだが。
「御馳走様ですわ」
「御馳走様、先に失礼するぞ」
「ごちそうさま、あ~忙しい」
早々と食事を終えて去っていく三人。
「……慌ただしいな、シャルは?」
「僕の方はそこまでじゃないかな。どっちかというと、一夏と話をする時間を少し貰いたいんだけど、いいかな?」
俺も別に普段以上に忙しい訳じゃない。浮ついた雰囲気にのまれそうになるが、昼休憩の時間はまだたっぷりとある。
「場所を少し変えよう。周りに人がいない方がいいから」
トレイを持って足早に歩き出す。
桜の木の丘は丁度いい日差しで休憩するには絶好の場所になっていた。と言っても、こんな時期に外に出て一息休憩する人間は、自分たちを除いてはいない。
「……話って、なんだ?」
「う~ん、昼休みもそう長くないし、本題を話そうか」
そう言って、一呼吸置く。
「あの時の約束、覚えてる?」
約束と言うのは他の何をおいても、シャルルの事を守るという約束だろう。あの時の彼女には少々無責任なことを言ってしまったと、今なら思う。ああすればよかった、というのはないんだけれど。
「ああ、覚えてるよ」
「そう、なら次の作戦、どうするの?」
成功確率は出来る限り高める努力はする。だが、これまでの作戦とは違う。俺の考えていたものよりも遥かに、大規模な作戦だ。彼女を守り切れる根拠など、ない。
「……そっか。なら違う部隊に配属されるように言ってみる。不参加って訳にはいかないだろうけど、もっと安全な部隊に……は?」
思いっきりグーで殴られる。助走付きで軽い彼女の体重でも、その場でとどまれずによろけるくらいの威力はあった。
「こんなことになるとは思ってたけど、言いたいのはそれだけ?」
「……また、間違えたかな」
腰に手を当てて、溜め息をつく。
「うん、いつもそうだね。一夏は僕の心をよく間違えるから」
「……思い当たり過ぎて、何も言えないな」
シャルルはそっと近づいて、殴った頬を見る。塗り薬を塗る。なんだ塗り薬まで用意してたのか。
「あの時と気持ちが違う、っていうのは分かるよね。確かに僕も死にたくはない。だけどそれ以上にここまで来て、皆と一緒に闘えないのはもっと嫌。もしも、私の知らないところで、誰かがいなくなったって後で知るなんて、死んでもごめんなんだよ」
寂しそうな顔つきで治療を終える。
「だからね、あの時の約束は忘れていいんだよ。一夏におんぶにだっこで、負担全部押し付けちゃっていたいなんて、もう思ってないから」
「ああ、一緒に行こう。隣にいてくれるか?」
そこでまた少し離れる。
「勿論、僕からもお願いするよ、一夏」
新しい約束、前のものよりももっと曖昧でどうしようもないものだけど、それでも、これだけは守らなくちゃいけないと思うもの。
「ちなみにだけど……他の誰かとこういう話、した?」
そうですよね、わかってますよね。
「セシリアと鈴とラウラ、だな」
それを聞いて複雑な表情をする、シャルル。
「一応、僕が最後って言う訳だね。まぁいいや」
そっと口づけを交わす。
「こういうのは初めて?」
「……二度目だ」
ラウラとしていてよかった。思ったよりも戸惑ったりしない。
「むぅ、残念だなぁ。それにしても、あんまり動揺してないみたいだけど?」
「そうだな。シャルルはこういうの好きだろ? 人を驚かせるというか、サプライズみたいなの」
「まぁ、そうだけど……後もう一つ聞きたい事があるんだけど」
まただな。
「篠ノ乃箒さんとのことなんだけど、一夏とはどういう関係なの?」
「言っただろ、幼馴染だよ」
これ以上に言えないし、言うつもりもない。
「それは分かってるんだけど。それだけじゃないよね。別に隠してる事を全部言えってことじゃないんだけど、ただの恋人にしては反応が変だし、かといって本当にただの幼馴染でもないでしょ?」
「……言う通りだけど」
「むしろ、彼女が此処に来て、少し居づらい様な、そんな感じがするよ。私達よりも距離を取りたがる相手なんて、相当複雑なんじゃないかな」
確かに、箒に関してはどう接したらいいのか分からなくなってるくらいには複雑だ。
「困ってるんだったら、相談して。言えない事はそのままでいいから、何かできる事ないかな」
「ど、どうしてそんなに突っ込んでくるんだ」
文字通り押し掛けてくるその様子は、どちらが困っているのか分からないほどだった。
「だって一夏、これだけ言っても自分でなんとかしよう、と思ってるでしょう?」
その通り、出来るなら他人に迷惑をかけずにいられたら、と思ってはいる。他人に頼られるのは存外に悪いものではないのに。
「今は、少し待ってくれないか。言われた通り、全然考えてなかったからさ、どう頼ったものか、分からないからさ」
「……それじゃ、悩みが整理出来たら僕に相談する事、いいね?」
また新しい約束だ。嬉しい様な悩ましい様な、それでもこういう風に支えてくれる人間や理解してくれる人はありがたい。
「一番に相談しにくるよ」
「えへへ、約束だからね」
ついに明日、作戦の決行だ。深度4に達したハイブの中に進行する作戦はそこまで多くはない。成功した例は、片手で数え切られる程。
「……参ったな」
あと数時間後には作戦が始まるというのに、一睡も出来ていない。
「しないって言うならまだしも、しようとして出来ないのは不味いな」
部屋の明かりを消し、薄い布団に潜りこんでから十数分、一向に眠れる気配はない。そんな風に考えていると、部屋の扉からノックが聞こえる。
「どうぞ、開いてるよ」
ゆっくりと扉が開くと現れたのは篠ノ乃箒だ。
「……休んでいるところ、すまない」
申し訳なさそうに頭を下げる。箒にこうやって謝られるのはいつぶりだろうか、元の世界でも、強情なところがあったから、少し違和感がある。
「やめてくれよ、俺は箒に来ないでくれと頼んだ事はないだろ」
「……ありがとう。失礼するぞ」
座る場所がないからベッドの上に座らせる。行き場もない俺は机に腰掛けた。
「わ、悪い。その、座る場所を占領してしまって」
「いいよ。案内したのは俺の方だし、さっきまで俺が寝てた場所で良ければ、いくらでもどうぞ」
「わ、私はむしろ……」
そこから先は言い淀んでしまった。何か言いたい事があるという風でもなかったので、気にしない事にしておこう。
「で、何か用事があったんじゃないか? それとも、明日の任務が怖くなったか?」
「……両方だな。用事は一つだが」
そう言って、箒が話を始める。
「一夏は知ってると思うが、明日の任務は私がハイブ中心部、炉心に辿り着くことが目的だ。だけど、それが私は怖いんだ。一夏と出会った時の様に、変わってしまうんじゃないか、って」
それもそうだ。この世界の箒は、影響を受けやすい。その鍵の一つは俺らしい。箒自身が気付いているかは分からないが、今の箒の人格が作られたのは俺の記憶から、もしくは俺がいた世界の記憶が流れ込んでいる可能性があるといってた。ハイブで発見された箒には、何か縁があるかもしれない。
「大丈夫さ。箒は変わることが怖いかもしれないが、それは誰だって同じだよ。俺だって此処に来る前はこんなことしてるなんて考えもしなかったけど、今はそう悪くないと思ってる。他の皆だってそうださ。変わる前と後、良い事と悪い事同じくらいあるものだよ、きっと任務が終わった後は少し混乱するだろうけど、過ぎればまた今と同じくらい……いや、もっと良い状態だと思えるようになるよ」
根拠はないが、きっとそうなると思っている。いや、そうなるように努力すれば、報われると信じている。
「……本当にそうだろうか?」
「俺たちなら出来るさ、俺だって、箒だって、他の皆だって変わってく。昨日より明日が良い日になるように頑張ってるんだから」
そういうと不安は少し安らいだのか、部屋に入ってきた時よりもずっと、落ち付いているように見えた。
「すまない、いや、ありがとう。一夏も不安で眠れなかっただろうに、助かったよ」
「眠る気が無かっただけだよ、気にしないでくれ」
痛いところをつかれて動揺したが、取り繕えそうもなかった。きっと、言ってる事は本当なんだろうけど、俺も顔に出てるんだろう。
「また明日」
「また明日」
長々と読了ありがとうございました。
本当の一夏達のキャラ崩壊はこれからだ!
タヒ ぬ が よ い
ということで、本格的に違う人だコレ、になってまいりました。
ラブコメって難しくて恥ずかしいね、妄想してる間は2828出来るのになぁ。
かなり進んできてますので、後もう一息だと思います。
ここまで全部読んでくれていらっしゃる方がおられましたら、言葉もありません。ただただ感謝です。
最終決戦とかいいつつ、途中にerer挿む予定。