最終話です。随分と長いけど、もう少し書きたいなという部分もあります。とはいえ、マヴラブとのクロス? はこれでお終いです。
一夏はハーレムルートに辿りつけたのか……
最終話
箒ちゃん爆殺! 最終決戦に決着がつき、世界に平和が訪れた……その代償はあまりにも少なかった(困惑)あまりのご都合ストーリーに楯無お姉さんが憤慨!?
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「で、崩落するハイブから仲間全員を引っ張り出して奇跡の生還をした訳なんだね」
一面が真っ白の世界で、楯無さんと対面している。お互い椅子に座っているが、楯無さんがリラックスできるから、という理由だ。
「そうなるかな。俺としては、そのあとの事務処理の方が百倍辛かったけど。基地の引き継ぎだったり、英、米、露、中がISの研究の主権を主張したりさ、まだBETAの方が話が通じるんじゃないかと思ったよ」
ぐったりと力なく椅子にもたれかかる。実際、あの後はBETAと闘う様な作戦には参加していない。他の面子は色々とかりだされているようだけれど、貧乏くじを引いた感じは否めない。
「ようやく私の苦労が分かってくれた? 人の上に立つって、結構面倒なのよねぇ」
けらけらと楽しそうに笑う。彼女は扇子を開いて口元を隠す。そこには愉快と書かれていた。
「それで、君のISは結局なんだったの?」
「ああ、俺が勝手に決めたんだけど、『雪椿』だよ。白式と紅椿のいいとこどりをしたから、機体をイメージしやすい白と赤の名前」
「箒ちゃんのとは違ったのかな」
「あっちは一応紅椿ってことになるのかな。BETAの浸食と独自の進化で俺の知ってるものとは違うみたいだけど」
なるほどねぇ、と頷く。
「ちなみに刀の名前も雪椿だったけど、アレはどういう刀なの?」
「どうもこうも、モノ自体は普通のだよ。俺の剣術のスタイルに合わせて特化させてるだけ」
「それも束博士が作ったの?」
「いや、これは……一応、俺が作った事になるのか」
「要領を得ないなぁ、まぁ、べつにいいけど」
然程気にかけていた訳じゃないみたいだ。
「そう言えば、箒ちゃんはちゃんと篠ノ乃箒ちゃんだったのかな?」
「正確に言うと違うかな。元々、篠ノ乃神社自体が霊魂とかそういうのを集めやすい土地、っていうのは知ってるよね」
「箒ちゃんと束博士の名前の由来だね」
「あの世界では篠ノ乃の家はもう無くなってるから、ハイブがその場所に建てられて、それで集まった魂とBETAの炉心が融合してあの形になったんだって。他の世界の束さん、箒に近い由来をもってはいるけど、そもそもあの世界に束さんも箒もいなかったみたいだよ」
「それじゃ、一夏君は?」
「割と頑張ってたみたいだけど、関係ないところでBETAの犠牲になってた」
「よかったのか、悪かったのか……でも、なんでみつからなかったの?」
「楯無さんの読みが半分当たってましたね。名前が違ってたんで、そもそも織斑ですらなかったみたいです」
「そりゃあ、見つからないわ」
結局、本当のところは箒も俺もあの世界には存在しなかったのだ。それが無理矢理入りこんだ結果、色んな人を巻き込んでしまった。
「それで、箒ちゃんはどこにいるの?」
「いますよ、ここに」
ガントレットを指差す。金銀の鈴と赤い紐で装飾されたそれには、間違いなく魂の鼓動を感じる。
「違う世界の束博士も、こうなることを予想してたのね」
「……いや、さらっと打てるだけの策を雪椿に詰め込んでましたよ。最終的にはあの世界の箒に結末を任せられるように」
あとで自分で調べた結果分かった事だが、俺が箒に敗れた場合、引き分けだった場合、箒が逃げ出した場合等、様々なシチュエーションに対処できるように施されていた。
「まぁ、ISのコアに人の魂をぶち込むなんてよく考えるわ」
「……元々が、そういう存在でしたからね。はっきりとした自意識があるのかはもうわからないですが」
言ってしまえば、雪椿のコアの中に箒がいるようなものだ。束さんはそれが出来るように、雪椿のコアをダブルコアにして、片方を空けておいたのだと、俺は思う。
「ほうほう、それで、一夏君は誰を選んだのかな?」
「勿論、皆ですよ」
「おっ、ハーレムってやつ?」
「これから先がどうなるかは、俺も分からないですけどね。出来る範囲であいつらと付き合って行きたいし……結局のところIS関連になると世話しないと危なっかしいですしね」
「ISの権威って言えば、一夏君になっちゃったからねぇ。博士号とっといてよかったでしょ?」
「楯無さん、最初っから俺に基地の事任せる気だったでしょ」
「さぁね」
扇子には転ばぬ先の杖、と書いてある。もしもの時は、ということでもあったのだろうが、どちらでもいいとなった時には迷いなく押し付けてきた気がする。
「っと、それじゃ俺はそろそろ戻りますよ」
椅子から立ち上がると、あの世界の光が差し込んでくる。
「一夏君が来れば、私は此処にいるからね。出来れば今度は眠り姫も一緒に来てくれるといいかな」
ガントレットの鈴がチリンとなる。
「……こいつの機嫌次第ですかね」
ハイブ侵略作戦から2ヶ月が経ち、IS計画も順調に進んでいた。他国での会議で長らく横浜基地を離れていたのだが、ようやく帰郷する事が出来た。
「局長、起きて下さい」
「……ん、ついた?」
移動の車両の中、眠ってしまったようだ。まぁ、意識が境界線まで飛んでいたのだから、相当深い眠りだったのだろう。
「一応とはいえ、横浜基地で一番偉いのですから、それ相応の格好をしてください」
新しく秘書として付いたのは、クロエ・クロニクル。ドイツ出身で、ラウラと同様の出自であり、彼女からの推薦もあって引き抜きに近い形で雇うことになった。
「一応……まぁ、確かにそうだからなぁ」
ISの知識と技術で上層部に認めさせたものの、臨時の域を出ない。能力は認められてはいるものの、信用といった部分ではないに等しい。何より、出自も曖昧な一兵卒なのだから。
「ほら、着きましたよ」
「おお、懐かしきかな」
車両を降りると見慣れた横浜基地と変わらぬ門番が出迎える。
「あ……織斑局長!」
「久しぶり。悪いね、今日もIDを持ってきてないんだ」
門番は苦笑する。
「勘弁してくださいよ、もう半年も前のことじゃないですか」
半年前ではあるが、俺がこの世界での初めての経験だ。忘れようにも忘れられない。
「そうだな。お仕事ご苦労様。あ、そうだ、米国で大麦の買い付けに目処がたってな」
「……それが、何か?」
門番はなんのことやら、という表情をする。
「上手く行けばビールが大量に手に入るかもしれん」
「マジですか!?」
「織斑局長!」
「楽しみにしといてよ。絶対とは言えないけど」
開いた門を通って中へ。門番とはそこで別れるが、やはりアルコールから離れて随分と経つのだろう。来た時と表情が随分違っていた。
「……娯楽よりも、食糧の問題が先では?」
「そりゃあね。食べ物も大事だよね」
「分かってらっしゃるなら、無意味に期待させるような発言をするべきではないかと」
クロエは不機嫌になる。仕事はきちんとこなしてはくれるが、どうにも堅物なところはラウラにそっくりだ。
「期待がなければ、仕事も出来ないよ。クーちゃんはそれでいいかもしれないけど、ね」
「私が間違っていると?」
「いいや? 食料とかはクーちゃんに任せてるから安心だから、俺は別の方面をやってるだけ。得手不得手、長所と短所ってことかな」
「……楽したいだけじゃないですか?」
「そうだね、楽しいと良いね」
はぁ、と頭を抱える。これでも、俺の言った事はちゃんと覚えてて、実行する為の算段を立てているのだ。これだけ優秀な部下もそうはいまい。
「前々から聞きたかったのですが、篠ノ乃箒はどういう存在だったのですか?」
彼女がBETAに近い存在であるということ、その為自我を持つと同時に崩壊した、という形で報告してある。
「……天体望遠鏡で人が見れると思う?」
「質問を質問で……まぁ、いいです。不可能ではないとは思いますが」
それをする意味が分かりません、と告げる。
「いやね、BETAの視覚情報の処理を研究するとね、そういう風に見えてるみたいなんだ。人間とは縮尺が別次元らしい、遠くの物は望遠鏡、近くの物は顕微鏡レベルで見れるんだと」
「はぁ、篠ノ乃箒も同様であった、と?」
「推測でしかないけどね。ただまぁ、そんな風に顕微鏡で見て人間が区別がつくかどうか、ってね」
「……現にコミュニケーションはとれていたのでは?」
「今となっては確認しようがないけどね。もしかしたら、本当に『人間なんて区別がつかない』かもしれなかったっていうこと」
「故に最後には反目したということですか?」
自分を利用しようとする人間に反旗を翻したのだと、そう思わないこともない。例え頭の中で理解したとしても感情としてはままならないだろう。
「従いたくない、だけなら闘う理由はないかな。姿をくらまして逃げ切れるだけの知識はあるし、最初から敵対関係ならそもそもISなんて提供しないでしょ」
「他に闘う理由が……だとすれば、一定以上の知識を持つ人間が邪魔だった? そもそもISを提供したこと自体が気紛れだった可能性は?」
「そうだね、気紛れかもしれないね。それにしては複雑すぎると思うけど」
「複雑、ですか?」
「コアネットワークに自己進化プログラム、PIC……こっちならラザフォードフィールドの応用か。絶対防御なんかの肉体保護なんて、最初から人間が使うために考えられてるようなものじゃないか」
「確かに複雑な機能は多くありますが、それの何が問題なのですか?」
「元がBETAの知識にしてはおかしくないか?」
「……あ」
「『BETAが人間のために用意した』か『箒が人間に使える様に組み直した』って考えるべきか。そもそもおかしいのは、自己進化プログラムの方か」
「普通に考えるなら、より良い物に仕上げようとするためでしょう?」
「進化っていうとそういうの想像しがちになると思うけど、多様化と適正化の繰り返しだからね。ホモサピエンスがネアンデルタールを排斥したみたいに」
純粋な上下関係にはなることはないのだ。本来ならば長い時間をかけて結果を求めるものだが。
「コアネットワークによる情報交換で最適化の速度を急激に上げることが出来る、という発表でしたよね」
「そ、必要なものと必要じゃないもの、の情報を共有を図るから、個体数が多ければ多いほど進化の速度も速くなる」
「それの何がおかしいのでしょうか?」
「さっきも言った通り、純粋な上下関係にはならないの。キャパシティはどうしても限界を迎えるから。となると、結論としてどうしたいのかって考えると、人間がG元素に最適化することになる」
「ああ、ISの利点も少ないG元素を上手く活用するということでもありましたからね」
違う、と首を振る。
「人間がG元素に最適化した形はどうなると思う?」
「それは、織斑博士のISの様になるのでは?」
「もっと先、最終形、進化の先にこれ以上ない形で考えて」
少し考えて、クロエが思いつく。
「……人体とG元素の融合?」
「それが一つの可能性だと、俺は思うけどね」
「そうだとしたら、篠ノ乃箒は!?」
「……本当に、仲間が欲しかっただけかもね」
或いは、違う結果を求めたのかは、分からないが。
執務室に向かう途中、セシリアに出くわす。
「あ、一夏さん……会議からおかえりですの?」
「セシリア少尉、仮にも局長に対してその発言は……」
「人の姉妹に色目を使う人間に、階級が関係ありまして?」
セシリアのお姉さま方にはイギリスに寄った時、色々とお世話になりました。
「色目を使うっていうのは誤解だけどね。こっちからすれば取引先だし、良い関係にしておきたいでしょ」
セシリアは不機嫌な態度を崩さない。
「あら、それはどうですかね」
「大体、甲斐性無し相手じゃ役者不足だよ。まぁ、それでもISの立役者には礼儀を立てないと、って感じかな」
「それはまぁ……ところで、ブルーティアーズのビットの生産は目処が立ちましたの?」
「いや、まだだよ。向こうの開発部門が首を縦にふってくれないからね」
眩いばかりの笑顔でセシリアは言う。
「あら、それは残念ですわ」
「追加武装に関しても、どうしてもお金が掛かってくるからなぁ。どこもかしこも、『それなら』予定を見送るしかない、ってね」
「大変ですわね。やはり、BETAによる被害のせいでしょうか」
「あの……確か、ブルーティアーズにビットの装備は既に完成しているはずでは?」
元々装備予定ではあったものの、個別のPICの制御がままならず試作段階を超えない状態であった。
「あれはまだ、実戦で使えるかどうか分からない装備、ですのよ?」
「そうだなぁ、まだまだ生産ラインに乗せるには程遠いよ」
クロエが食いさがる。
「……それでも、必要な技術なのでは?」
BETAという大敵に対する有用な技術であれば、分け与えるのもやぶさかではないのか。
「有効に使える下地がないと、有効性を示しても意味がないのですわ」
「例えば、仮に何百発のミサイルを的確に打ち落とす程の性能があったとして、それを敵に対して有効に扱えるかは、使い手次第だろ」
「もしも、悪意ある人物に渡ればそれがこちらに向けられる可能性もありますのよ」
「そりゃあ、伝播だけを目的とするなら、世界中にハッキングして文字通り有用性を示してもいいだろうけど」
「ISのコアネットワークを使えばデータの収集には困らないでしょうけど、技術を広げる過程でもしも、その中にウイルスなんかが入っていたらと思うとぞっとしますわ」
「それに、利権の取り合いになるとややこしくなるしな。全部まるっと投げてしまえればいいんだけど」
「そうですわねぇ、独占しようとすると無駄に敵対意識を持たれる事もありますし」
「まぁ、新しい技術なんてのはそういうものだよ。当分変わらないと思うよ」
「そうですわね。それでは失礼しますわ、織斑長官殿」
セシリアは背筋を張り、敬礼をする。
「あ、そうだ」
別れる前に、そっと口づけを交わす。
「こういうのを、色目を使うって言うんだろ?」
「そうですわね、私の思い違いだったようですわ」
書類を整理していると、ノックの音が聞こえる。
「どうぞ」
「失礼しまーす、今忙しい?」
鈴音が遠慮なしにソファに座る。
「クーちゃんに任せれば暇にはなるな」
帰ってきたばかりなので仕事は溜まっている。作業現場などの指揮を任せているのでここにはいないが、頼めば出来ないことはないだろう。
「……その内過労で倒れるわよ、あの子。それなら後回しでいいけど」
「何かあったのか?」
「いや、最近甲龍のメンテナンスで適応が下がってきてるのよね」
片手間にウインドウを表示すると、少しずつではあるが、減少傾向が見られる。
「これくらいなら大丈夫だろう。問題がある程の振れ幅じゃないし、その内戻るさ」
「あ、そう? それならいいんだけど。しかし、厄介よねこういう適応って。努力でどうにかなり辛い部分だもの」
目に見えやすいものならばいいのだが、どちらかというと生まれつきの部分が大きい。
「どうしようもない部分だからなぁ」
ソファにもたれかかる姿勢で鈴音が尋ねる。
「どうにかならない?」
そもそもISの適性というのは、自己進化の促進のためではないかと言われている。一つは多様化の傾向があること、少数の能力を持つ人間に適応し、保持しようとする事で進化の幅を広くしているのではないか、という考え方。もう一つは、原初に近い存在に対して適応が高いのではないかという考え方、これは元の世界で例外であった、俺、箒、千冬姉の適性値が異常に高かったことからである。
「こればっかりはなぁ。自己進化から独立させるか、ISの方を誤認させるか……それとも、鈴の体の方いじるか?」
「生憎健康体よ、ドーピングや改造手術は気が進まないわね」
肩をすくめる。
「ならそのままでいいと思うぞ。これから先、問題が起きてからでも間に合うしな」
「……ちなみに、あんたは適正高いんでしょ?」
「まぁな。箒ほどじゃないが」
書類整理の手は止めずに答える。
「それって箒があんたを選んだ理由と関わってるのよね?」
箒が俺を選んだ理由、か。確かに、俺は人間の中では箒に近いのかもしれない。それの兆候がよく見られたのはどちらかというと千冬姉の方だが、潜在的なものであれば俺もそう変わりがない。
「適正が高いから俺が選ばれたのかもな。どっちが先かは知らないけど、俺も特別みたいだ。ほんと、ハタ迷惑な話だぜ」
ISの最終形に、最も近い存在。性別に関わりなく織斑一夏がISに適合したというのは、そういうことだったのだろう。
「普通は、女性の方が適性率良いはずなんだけどね」
元々が女性に近いので、必然的に女性の方が適性率が高くなるのだ。とはいえ結局は相対的な評価なので、男性に全く適応能力がないとは言い難い。
「性別の壁は大きいしな。同じ条件なら女性の方が適性率高いのは当然なんだが……どうしたものか」
この世界では起動できない、と言うほどではない。コアネットワークの関係もあり、少し干渉したこともあって、基本的には男女関係なく起動させることが出来る。というよりも、機械的な部分が多い所為でコアネットワークを反映させられる部分が少ないというのもあるが。
「それに、弘法筆を選ばず、って言葉もあるしな。まぁ、頑張れ」
鈴は嫌そうな顔をする。
「そうだけどね。仕事する以上は筆を選びたいでしょ」
「確かにな。でも、俺が求めてるのは弘法の方だから」
「ん、言ってくれるじゃない」
さっと立ち上がり、鈴は部屋を出ようとする。
「さぁて、筆に負けない様にもうひと頑張りしますか」
ISが納められている格納庫で、ラウラが調整に勤しんでいた。
「御苦労さま、調子はどうだ?」
「悪くないな。一夏の調整のおかげで推進系が安定している。これなら光線級に出くわしても問題はないだろう」
「それなら、俺も調整した甲斐があったよ」
一応、他の機体も見てはいたが、まだまだISの実戦経験は少ないといってもいい。いつ整備不良が起きてもおかしくはない。
「一夏、一つ聞いてもいいか?」
「いいよ、答えるかどうかは別だけど」
ラウラは作業している手を止める。
「どうして、ISの研究を続けようと思ったんだ?」
「どうしてって……お金になるから?」
露骨に嫌な顔をする。
「真面目に答えろ。そんなものの為に動くような人間じゃないだろ。それに、箒があんな風にしてしまったものなのに……関わり続けるのは、嫌じゃないのか?」
「嘘じゃないけどね。お金になるのは需要があるからだ。誰かに必要とされて、っていうのは悪くないしね。ましてやその中にラウラがいるなら、それこそ吝かじゃない」
「……それでも、だ」
そんなことで続けられる訳がない。
「別に、ISの関係のない道を選ぶ事だって、今のお前なら出来るはずだろう」
「そうだね、別の事で生計を立てるのも、そう難しい事じゃない」
生きるだけなら、確かに出来る。
「……もし仮に俺がISの研究から逃げ出したらどうなったと思う?」
「残されたISと知識の取り合いになるだろうな。それにどの国もお前を狙うだろう、だけどその追手からも逃げ切れるだろう?」
「まぁ、だろうね。でも、ISの所為で頓挫した研究だって山ほどある。かけた時間とお金っていうのは、取り戻せない」
「ISの為に?」
「いや、このまま放っておくとね、犠牲はもっと増える。闇雲に調べる事で傷つく人間も増える、その内、シャルやセシリアや鈴、ラウラにもその手が伸びてくるだろうね」
ラウラはそれでも、訴える。
「だが、お前が関われば全て無くなるという訳ではないだろう。むしろ、少なくなるという保証はないんだぞ? それに、ISの事でお前を恨む人間だって、少なくないんだ」
「研究っていうのは、かもしれないを実現させるためにやるものだろ? 利益の追求の為が理由じゃないのは、ラウラの想像の通りだとは思うけどね」
「……お前は、馬鹿だ」
束さんの様に生きる事も出来た。好きな人間とだけ関わって、嫌なことから逃げ続けるだけの力を、違法に近い形で手に入れる事は出来たのだ。それでも、身近な人間の為に生きるというのは、きっと変わらない。ただ少し、方向性が違うだけなのだろう。
「否定はしないけどね。それでも、ラウラがいてくれるなら、いいかなとは思えるよ」
「……達をつけなかったのは、褒めてやる」
「織斑長官、少しよろしいですか?」
「……シャルか、何事か思ったよ」
悪戯好きな笑みを浮かべ、執務室に入ってくる。
「えへへ、おかえりなさい。中々挨拶も出来なかったからね」
「こっちこそ、米国はどうだった? リヴァイブの方は気にいってもらえたかな?」
「うん、テスト運用の準備も順調みたい。協力も取り付けやすいし、比較的には話が通じやすい感じはするね」
基本的に米国は成果主義であるため、利益さえ見せれば話は聞いてくれる。勿論、交渉になると難航する事も多いが、別の事情で交渉にすらならない国よりは幾分マシだ。
「あとね、日本に亡命を希望してる人がいるんだけど、どうする?」
「……それなんだよなぁ」
研究職を追われた人間がちらほら。現在戦術機の開発をしている部門はまだいい、それ以外でのG元素を活用した研究所、或いは戦術機の武装の製造となってくると、予算削減の憂き目にあうケースが多い。
「一夏の事も有名になってるよ。革新的な技術を持ち、なおかつ国家との渡りもつけやすい、能力の高い技術者だって」
「言っておくけど、それ全員の雇用先探せるほどじゃないぞ」
とはいえ、何もしないのも居心地が悪い。全部出来ればいいのだけれど。
「そう思って、使えそうなのはデュノア社とドイツの方に連絡はつけておいたけど、どれだけ上手く行くかは分からないね」
「……シャル、お茶入れてくれる?」
「もう、クーちゃんいないからって、小間使いにしないでよ」
文句を言いながらもちゃんとしてくれるのがシャルだ。二人分のお茶を入れる、どうやら一つは自分用だ。
「そりゃあ、ISの方に予算は伸びてはいるけど」
「うちの整備士も文句が出てるみたいだし、そっちで探してみたらどうかな」
「現状の指導も上手くいってないのに増やす……しかないなぁ。また仕事が増えるのか」
既に日本で元戦術機開発部門の人間も再雇用している。ISの人手が増えるのは悪くないのだが、どうしても教育不足と人材過多になりがちだ。
「楯無さんがいてくれれば、ねぇ」
「いや、どうしたってこの問題はなくならんだろうし、ある程度の犠牲は目をつむる!」
そう言ってお茶をすすると、シャルが目を細める。
「それじゃ、この書類は要らないかな?」
亡命希望の書類を差し出す。
「……一応、受け取っておこうか」
「……はぁ」
「た、溜め息をつかなくてもいいだろ!?」
「そういうところは変わらないよね、一夏って」
痛いところをつかれて、ぐうの音も出ない。
「大丈夫だよ、この人たちだって生きる為に頑張ってるから。一夏の関係のないところできっちりやってくよ」
そう言ってゴミ箱の中に書類を全部捨ててしまう。
「……シャル」
「軽蔑した?」
「いや、お前それしたいがために集めてきただろ?」
ギクリ、と反応する。シャルだって生きる場所を探すのに努力してきた人間だ。それに加えて根が優しいから、放っておいても他が引き抜くか、シャルの紹介でなんとかなっているんだろう。
「な、なんのことかなぁ?」
露骨に目を逸らすなよ。
「まぁいいや。シャルがそう言うなら俺は何も言わないよ」
それをやらせてしまう程には自分を追い詰めていたのだ。その点に関しては反省しなければいけない。
「大体、一夏が悪いんだよ。自分のキャパシティも考えずに行動するから」
「……なんとなく、思い当たる節あるのがどうにも」
多分、千冬姉の影響と、反面教師としての束さんだろう。千冬姉もなんだかんだ言って、他人の面倒を見て苦しんでいるところはあった。というか主に俺の世話をすることで彼女自身を追いこんでいるところはあったのだが。
「……ちょっと休もうか」
そう言うとシャルは目を輝かせる。楯無さんもきっとこれくらいの激務をこなしていたのだろう。それを考えると束さんの生き方が羨ましく感じることも、なくはない。
「そうだ一夏! お出かけしよう?」
「偶には一日寝てても……駄目ですか、駄目ですね、分かります」
毎日頑張ってるお父さんの気持ちも分かってしまった。
月明かりが地面を照らす夜。空を飛ぶ五つの影がある。
「一夏……確かに僕はお出かけしよう、っていったよ?」
今日はIS部隊で長距離遠征だ。
「百歩譲って、この面子が集まる事は、良しとしますわ」
「だけどね、遠征とお出かけは違うでしょ!」
「……呆れて言葉も出ないぞ」
四人が全員文句を言うのも久しぶりな気がする。何ヶ月間かは互いに忙しい日々が続き、一緒に行動するということも殆どなかったからだ。
『え~と、各々言いたい事はあると思いますが、任務中なのである程度つつしんでください』
「だってさ、クーちゃんのいう事も聞いてやってよ」
「お前が言うな!」
鈴の怒鳴り声が通信越しに響く。
「しかし、外気温を見ても、ISだと寒さを感じないな」
現在は雪こそ降ってはいないが、山を登っている為外気温は氷点下を下回る。外見は薄着に見えるISスーツだが、肉体を保護する機能は充分だ。
「そうでないと音速に近い速度を出せない訳ですし、当然と言えば当然ですわ」
「……だけど、こんな雪景色の中を飛ぶとは思ってなかったね」
山を覆う雪は、一様に目を奪う。木々が被る雪と、合間に見せる枝葉はどこか現実感がないようにすら、感じる。
「さぁ、着いたぞ」
山の頂上に着いた。雲の上に出る程大きな山岳ではないが、眺めを見れば、何を見せたいのかは言わずとも分かる。
「……へぇ」
「すごい、ですわ」
「綺麗……だね」
「なるほどな……」
一面の雪景色と、彩る赤色は椿。月明りしかない夜の世界でも、ISのハイパーセンサのおかげで繊細に映る。
「こういうのも、悪くないだろ?」
長々と読了ありがとうございました。
これで今回の小説はお終いです、これ全部読んでくれている人っているんですかねぇ? いたら感謝感激ですorz
雪椿に関しては特に設定を深く掘り下げていたわけではないので、機体のデザイン、仕様等あやふやなままです。もう少し煮詰めたかったけど、そういったことで出来ない人間ですいません。
一応挿絵として書きはしましたが、あれだったら普通に白式をトレスした方がかっこいいですね、やっぱりなれないことするんじゃないですね。フルフェイス被らせてACとか某格闘ゲームの正義さんっぽくすればよかったのかな。
一夏?君の長い旅路は終わりました。ハーレムルートというのは、誰かを選ぶのではなく、誰をも選ばないというということかもしれません。大抵の人はその矛盾と軋轢につぶされそうですが、一夏君なら多分、やってのけるでしょう。幸か不幸かは、彼自身が決めることなので、私自身からはなんとも言えません。
ここまで暇つぶしに付き合って頂けた忍耐力のある御方がおられましたら、最大の感謝を。