第三話
シャルルが突然の除隊!? 元の世界でのこともあってシャルルの事が心配で仕方がない一夏!
でも勘違いだったり、勘違いじゃなかったりでドタバタラブコメが始まりました(錯乱)
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通常訓練の予定を変更して、作戦室でISのメンバーのみが集められた。
「ん~、皆集まったみたいだな」
楯無さんが簪さんとISメンバーが集まったのを確認すると、シャルルを全員の前に出す。
「うん、シャル君はこのIS部隊から除隊することになったよ」
「……えっ」
いきなりの宣言に皆が驚く。
「シャル君、事情の方は任せていいかな?」
「はい。最近僕のISの成績が芳しくないため、前線から下げるということで研究部の方で決まりました。本拠地のアメリカにもどることになりました。今までありがとうございました」
ぺこりと一礼して、話は終わる。どうやら集まった用事はこれだけらしい。
「……って、そう言う訳にいかないだろ!」
「シャル!」
訓練を終え、自室に戻る途中のシャルを捕まえる。
「ここから出ていくって、本当なのか!?」
呼びとめられて少し驚いていたが、すぐにいつもの表情に戻るシャル。
「そうだよ、急な別れになって残念だけ―――えっ」
「大丈夫なのかっ!?」
半ば掴みかかるように迫る。
「いたっ……どうしたの、一夏君」
「あっ、わるい」
元の世界の事もあって、少し焦っていたらしい。少し落ち着くように自分を戒める。
「うん、急なことだったからね。長くなるかもしれないから、部屋で話す?」
シャルの部屋を示され、それに頷く。
中に入ると、普段の女の子らしい彼女の様子と比べてかなり質素な様子だ。
(まぁ、軍から与えられた部屋ならこんなものか)
どこか学校の廊下の様な質素な床に座布団を敷き、テーブルを挟んで向かい合う。
「あのね、一夏君が何を知ってるかは分からないけど、問題がある訳じゃないよ」
彼女の穏やか表情に少し驚きつつも、話を聞き続ける。
「実はね、私の会社でも第三世代のISの開発が進んでて、それの生産の目処が立ったの。それで第二世代の私の実戦結果をこれ以上求める必要がなくなったんだ」
そういえばこの部隊はISの戦力を図るというのが目的だった。楯無さんの専攻がISであり、前戦基地による結果は重要なものだろう。しかし、必要なものはやはり最新機のものだろう。
「それにね……やっぱり私、BETAは怖いんだ」
「えっ……」
少し困った様な微笑み。
「私と……セシリアもそうかな。実際にBETAと出会った事はないんだ。訓練は受けてるけど……やっぱり実戦は怖いよ」
「そう……なのか」
そう言いつつも自分も出会った事はない、と言っていいのか分からず頷くだけだった。
「むしろ、ココから離れられるのは嬉しいんだよ。皆と別れるのは少し……残念だけどね」
「そ、そっか……」
嘘を言ってる、とは思えない。どうやら自分の思い違いで、元の世界とは随分と事情が違うらしい。
「どうして、僕が危ない目にあってると思ったの?」
「あ、えーと……急なことだったから、俺が来た事と関係あるのかな、って思ってさ」
つい最近起こった事と関連付けて言い訳してみようかと思ったが、思いつくのが自分が現れたことしか思いつかなかった。
「ふふっ、随分と心配性なんだね」
「いや、シャルが大丈夫ならそれでいいんだ。騒がせて悪かった、ごめんな」
何もなかったのに騒がせてしまった。いや、正直に言ってしまうと見知った仲間がいなくなるということに不安を覚えただけなのだろう。思い返してみれば、自分のわがままでシャルを困らせている様なものだ。
「一夏君は優しいね。でも、大丈夫だから」
そっと自分の手にシャルの柔らかい手が重ねられる。
「……ありがとう」
顔が熱くなるのを感じる。今まで忘れていたが、いつしか同じ風呂に入った事を思い出し、そして、これと同じ光景を思い出す。
――ねぇ一夏、私達はずっと一緒だよ――
「……っ!?」
どこか大人びた、今よりずっと優しげな雰囲気を持つ、シャルと共に二人は……二人は?
「きょ、今日は悪かった。もう戻るよ」
「あっ……」
シャルの手を振りほどくように部屋を出る。
どうするべきか迷った結果、楯無さんの部屋を訪ねる事にした。
「……やっぱり心配し過ぎかなぁ」
いるかどうかは不安だったが、要らない心配だったらしい。
「どうしたの、何か気付いた事でもあった?」
こちらには眼を向けず、手元の資料を見ている。
「いや、シャルの除隊の話なんですけど」
期待外れだ、と言わんばかりに声のトーンが下がる。
「あっちの事情よ、あなたが関連するものじゃないわ」
「ですよね。元の世界でも同じ事があったので心配だったんですけど」
そこでようやく楯無さんの表情が変わった。
「……へぇ、何があったって?」
個人的な事を除き、おおよその事を伝える。
「色々変わってる事が多いから、やっぱり思い違いですか?」
「……いや、そうでもないわよ」
手もとのインターフェイスを操作し、様々な画面が表示される。
「えっ、それはどういうことですか?」
手元を見ていても碌に分からないので、結局は聞かなければ分からないのだが。
「それより、他に知ってる事はないの? 同じ部隊の連中の事でもいいわ」
「う~ん、知ってた事といえば、ビームが曲がる事ぐらいかな」
楯無さんが硬直する。
「なに、あんたの世界ではあれは標準的な技術な訳?」
「いや、セシリアのブルー・ティアーズだけしか出来なかったけど、というか言ってませんでしたっけ?」
楯無さんが呆れた様な表情に変わる。
「根本的なところで噛み合ってないわね。まぁ、すり合わせするのも面倒だし、気付いた事があったら小まめに報告してくれると助かるわ」
「あ、それでシャルはどうなるんです?」
そもそもどういう状況下すらまともに把握していないのだが、反応からして良くないのではないか、とは思う。
「悪い様にはしないわ。利用価値もあるみたいだしね」
そう言われて追い出されてしまった。まぁ、嘘ではないだろうから楯無さんに任せる事にしよう。
翌日、訓練を終えた後、シャルが部屋に飛び込んできた。
「一夏っ、助けて!」
「えっ、な、なにっ!?」
唐突に飛びつかれて慌てふためいてると、シャルも冷静さを少し取り戻したみたいだ。
「き、急にごめんなさい……でも、一夏君が関わってると思って」
話を聞くと、急に除隊の話はなくなり、それどころか元いた研究施設からこの基地へと転属が決まったらしい。
「……何か問題があるのか?」
「僕はね、今までずっと研究施設で生きてきたんだ。これまで外の景色を見た事もなくて、ココに来れて外の景色を見れたのは嬉しいんだけど……頼れる人がいないの」
要するに元いたところから売られた、ということらしい。となるとあの話の後に楯無さんがシャルのことを買った、ということになる。
「でも、楯無さんの管轄になるんだったら安心なんじゃないか?」
控えめにシャルが首を振る。
「あの人は研究者だから、きっと僕のISだけが目的……だと思う。だから、きっと僕の事なんか」
何かに怯えるように震えるシャル。出来る事なら助けてあげたい。
「俺でよかったら、力になるよ」
彼女を抱きしめる。それで不安がまぎれるのであれば、それでいいが、ふと覚えた違和感をぬぐい切れなかった。
「……一夏さん?」
「セシリア、どうかしたか?」
昼の訓練が始まるのが遅くて、二人きりの昼食になっていた。
「いえ、最近シャルルさんと仲が良さそうなので、除隊騒ぎの頃からですわよね?」
「そうなるかな」
あれ以来、なんだかんだとシャルには頼られる事も多い。元々頼りがちだった俺は更に世話になる数も増えた感じはする。
「もしかして、除隊を取り消したのは一夏さんですの?」
「直接シャルがいた施設ととりあったのは楯無さんかな。なんか……利用価値があるとかなんとか」
「じゃ、じゃあ、一夏さんは何の関係もありませんの?」
どこか嬉しそうなセシリア。最近は元の世界のようにころころ表情が変わるようになってきた、なんとなく嬉しい。
「無関係って訳じゃないけどさ。多分、危ない目にあってたみたいなんだよ。それを楯無さんに何とか出来ないか、って」
それを告げるとセシリアが何か考え込んでいる。
「……ああ、なるほどですわ」
途端に渋い表情になる。
「なにかあった?」
「一夏さん、お人よしもいい加減にしなさいな」
「えっ」
周りを見て、周囲に人がいないのを確かめるとセシリアが言葉を続ける。
「あなた、シャルルさんに利用されてますのよ?」
時は遡り、除隊命令が撤回された日。
「……失礼します」
シャルルは楯無博士の部屋へと訪れる。
「やぁ、いらっしゃい。とりあえず、そこに座って頂戴」
客人用の椅子を進められる。そこには幾つかのプリントされた資料が置いてある。楯無博士自体は動く気はなさそうだ。
「これは……?」
「君が見ておいた方がいい、と思った資料だね。眼を通しておくといい」
とりあえず資料に目を通す。それは僕がアメリカへと戻る時に使うルートや日程等の情報だった。
「……日程、5日目。エンジントラブルにより、不時着?」
なぜ、トラブルの予定が記載されているのか。
「君のサファールのスペックでギリギリ走破出来る位置に不時着とは、君の御主人は何ともお優しいことだね。まぁ、現実問題としてあのままだと生き残れるかは良くて2割程度かな」
つまり、自分は捨てられた、ということだろう。
「ISがサバイバルの形で実戦導入されてどうなるか、という実験の予定だったみたいだね。役立たずではなく、失ってもいい資源になり下がった訳ね」
「それで、あなたが……」
「そう、買った。白式のデータを出すといったら喜んで売ってくれたわ」
飼い主が変わった。最早デュノア社からの保護は受けられない、いや、既に保護などされていなかったのだが。
「楯無博士……」
「ちなみに、あなたに興味はないわ。保護する気も、飼い主になってあげる気もない。まぁ、役に立つ間は利用してあげるけどね」
声も出ない。どうすればいいのだろう。
「任務を伝えるわ、よろしくね」
「……突然呼び出して、何の用かな、一夏君?」
いつものシャルに見える。だけどどこか、元の世界と比べれば影を帯びている様な、そんな風に見える。
「セシリアから聞いたよ、よく楯無さんと話をしてるって。何を話してるんだ?」
驚く様子もなく、こちらに近づいてくる。体を寄せ付けるように、ほとんど密着している状態まで。
「ねぇ、一夏。僕の事、嫌い?」
嫌いじゃ、ない。元の世界でも大切な仲間だし、この世界でも、大切な仲間だと、思っていた。
「……そういうの、止めてくれよ」
媚を売る様な真似は、しないで欲しい。
「セシリアから、何を聞いたの?」
「詳しい事は楯無さんにも聞いた。俺の事を調べるために、近づいてるんだってな」
それを言うと、シャルはさらに体を密着させる。彼女の肢体と柔らかい二つのものを意識してしまう。
「楯無博士なんか関係ないよ、ねぇ、一夏。わかるでしょ……?」
彼女の魅力的な誘惑に、気付いたら突き離していた。
「っ……!?」
「そんなことしなくたって守るさ、仲間だからな。でも気に入らない、助けてくれって言えば済む話じゃないのかよ」
シャルが睨む様な眼付に変わる。
「へぇ……やっぱり一夏君はご立派だね」
皮肉の様な言葉だ。
「僕はね、BETAなんかと戦いたくないの。危険なとこにいたくないの、そのために必要な事ならなんだってするよ?」
「それが……これかよ」
「うん、僕には力がないから、強い人にとりいらないとダメなんだ。前にいた所からは見放されちゃったからね、次は楯無博士ってこと」
違和感を覚えたのは、彼女がここまで卑屈になっていることだったのだ。
「だからって、自分の事売る様な真似しなくてもいいだろ」
「ううん、僕にはそれしか売るものがないんだ。言ってなかったっけ? 僕は愛人の子だから、家に居場所なんてない、守ってくれる人なんていないし、売られて飼われて……こんなところに来たんだ」
ISの適性がなければ労働力としてこき使われて、今頃死んでいたかもね、と自嘲気味に話す。
「自由なんていらない、権利も、ただ死にたくないだけ。君たちみたいに恵まれた生まれじゃないから、仕方ないよね?」
何も言えない。一度、離れた彼女がもう一度近づいてくる。
「だから、ね? 一夏がしたいことなら、何でもしてあげるよ。僕を飼いたい、っていうならいいよ。一夏の好きにして……一夏の物にしてよ」
この世界のシャルは、そうやって生きてきたのだろう。半ば奴隷の様な身分に生まれ、自分の身を切り売りすることで生きてきた。セシリアが気付いたのは、出自を知っていたからかもしれない。
「わかった。俺が、守るよ」
それでも、媚びるようにシャルが近づいてくる。それは拒む。
「……言葉だけじゃ、信じられないよ」
「だからって、こんなことする必要ないだろ」
「一夏は、此処が戦場になっても、同じ事言える? 僕の命と例えば……セシリアの命を天秤に掛けられた時、僕の方を選んでくれる?」
その為だったら、喜んで君の物になるよ、と。こんな世界だからだろうか、自分の世界ではとても考えられない様な悲しい告白に、嫌気がさす。
「……二人とも守る」
「嫌だよ、僕を選んで」
「BETAだろうが、なんだろうが、守るよ」
子供の様な我がままに、シャルも我慢できなくなったようだ。
「そんなこと出来る訳ないでしょ。君一人で出来ることなんて……」
「俺は、なんだって出来る! 俺の白式は世界最強だ! ここにいる誰にも負けやしない!」
「……そんなの」
ない、とは言い切れない。あまりにも隔絶した技術に整備士たちも舌を巻くほど。楯無博士も特別扱いしている程で、だからこそシャルも、俺なんかに媚を売ろうとしているのだ。
「シャルがそんなことしなくていいように、必要だっていうんならBETAだって滅ぼしてやるよ! だからそんなことするのは止めろ……自由が要らないなんて、言うなよ」
どうして、分からなかったんだろうか。元の世界でも、怯えて、苦しんで、ようやく助けを求めた彼女が、すぐにでも倒れてしまいそうなバランスの上で成り立っていたのに。
「絶対に守るから、俺が力になるから。シャルの方こそ、好きに生きてくれよ」
シャルは答えない。俺の言う事が信じられないのだろうか。それはそうか、何十年にもわたって蹂躙し続けてきたBETAを滅ぼすなんて、そんな大言壮語信じられる訳もない。
「……とに?」
だけど、彼女の頬には涙が流れていた。
「ホントに、僕は……自由に生きていいの? 一夏は僕の事を守ることに、躊躇ったり、しない?」
「大丈夫だ、シャルも知ってるだろ? 俺は強いんだよ」
自分が強いなんて、思った事もない。元の世界では、自分よりも強く逞しい人たちがたくさんいた。そういう人たちに守られて、自分は生きてきた。だけど、これからは俺が守る番にならなければいけない。例え虚勢でもなんでも、自分が強くなければいけない……強くなければ、誰かを守る事すらできない。元の世界のように、誰かに守られているようでは、話にならない。
「……うん、知ってるよ。一夏、強いもんね」
「……で、それを私に言いに来たの、シャルル少尉?」
楯無博士と僕の二人だけで話をしている。
「これからも、所属としてはあなたに従います。だけど……彼のことを疑うような任務には、従えません」
彼の言葉を疑わなかった訳じゃない。だけど、元いた組織にも戻れない、楯無博士も一兵士の命を尊重するような人間でもないだろう。僕も、今まで通りにいかなくなった。
「……僕も、自由に生きてみたいと思います」
どうすれば自由な生き方になるのかはまだ分からないけど、誰かに縛られて、飼われて初めて生きていられる様な弱い存在から抜け出したい。
「厄介ねぇ、どうにも」
「……厄介?」
「あなたじゃなくて、織斑少尉のことよ。なんだかんだ言って、女の子には弱いと思ってたんだけど……潔癖症かな」
何か言い返そうとも思ったが、セシリアの好意に全く気が付いていなさそうなあたり、思うところもある。僕の媚びた姿勢には気付いてはいたみたいだけど、女性として見られていた気はしない。
「その手のことには鈍感だとは思いますけど、問題ですか?」
「協力的な姿勢を見せてくれてるのはいいんだけどね。ただまぁ、これから先もそれが続くかどうか、ってなるとね」
不確定要素の塊のような人間だから、敵に回りでもすれば手に負えなくなってしまう。首輪をつけたかったが、僕では役者不足だったということだ。
「まぁいいわ、任務は続けて頂戴」
「……いや、僕は」
ニヤリと含みがあるように楯無博士は笑う。
「彼の事を観察して、異常があれば報告してと言ったまでよ? 疑えとは言ってないわ、あなたの自由な範囲で続けてくれれば良いわ」
「……あぁ、なるほど」
やはり、僕の事など歯牙にもかけていなかった。保険の一つにしか過ぎなかったのだろう。
「わかりました。出来る範囲で、織斑少尉と共に行動して任務を続けます」
一夏と一緒にいられると言うのならば、文句を言う理由もないのだ。それも見抜かれているようで、釈然とはしないが、逆らう理由もない。
「それでいいわ。流石に夜這いした結果まで報告しろって言ってる訳じゃないもの」
「しませんよ!」
ながながと読了ありがとうございました。
まだまだ先は長いので、暇を持て余した方で仕方ないなという方はこれからもよろしくお願いします。