堅物形、経験不足なラウラさんは色々と言われるがまま一夏君に攻略されそうな気がする(ゲス顔)
第五話
IS部隊に与えられた初の任務。それは火山地帯周辺にある村落の救助活動、何事もなく終わるなんてことはなく、ハプニング発生(知ってた)薄暗い部屋の中に敷かれた布団! 枕は二つ! 「ごゆっくり」 「昨日はお楽しみでしたね」 一夏君の明日はどっちだ?
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これから向かうのは、噴火を目前に控えた活火山、その周辺の村落である。不便な土地であることから、住んでいるのは老人が多く、退去の命令を聞かない人々でもある。
「命令に応じられない理由は、様々だろうがな」
体力的に従えない人々もいれば、信念としてその土地を離れない人々もいる。そのどちらともとれない様な人々もいるが、救援に向かえば殆どの人々は避難誘導には従う。
「これで、最後になるかな」
何人かの避難誘導を終えて、この地域の最後、地形的に訪れにくい土地に住んでいるお婆さんに避難誘導をしなければならない。
「失礼します」
ISを降りて、扉をノックする。
「……何の用だい?」
「この火山は噴火する様です。誘導しますので避難をお願いします」
見た目とは裏腹に丁寧な口調は俺達の立場も相まって避難誘導をやりやすくしていた。だが、このお婆さんの反応は芳しくなかった。
「あんたら軍の言う事を聞くもんか。この土地はあたしらのもんだ、出てってくんな!」
手痛く断られる。
「しかたありませんね」
躊躇いなく銃を取り出す。
「ちょっっと、待った!!」
なに、なんでいきなり銃を取り出してるのこの人?
「や、やっぱり、本性を現したね!」
「落ちつけ、麻酔銃だ」
麻酔銃でもどうなんだ。というか、銃を人に向けるということがおかしいだろ。
「それでも、説得から……」
「説得する時間も勿体無い。どちらにしても移動してもらわないといけないなら、事後承諾でも変わらない」
変わらないならそれでいいと思えないのは、非常になれないのは軍人としてはダメなんだろうが。
「なんと言われても、動く気はないよ。帰んな!」
お婆さんも譲る気はないみたいだ。
「……俺にいい考えがある」
ラウラの指示通り、危険な地形に有効な障害物を設置していく、それによって溶岩流の流れを変え、お婆さんを救うという作戦である。
「なんで私は、こんなことをしてるんだ……」
「まぁまぁ、そう気を落とすなって」
この作戦が始まってからラウラはずっとこの調子だ。
「あそこで楯無長官が入って来なければ……」
こんな面倒にならなくて済んだのに、と続きそうだ。それにしても、俺が考えた、連れていけなければ守ればいいじゃない、という作戦は簪さんとラウラ両方に即却下された。が、それを聞いていた楯無さんが『面白そうだ』ということで許可が降りた。
「あら、面白そうというのは重要よ?」
楯無さんからの通信だ。一体どこから聞いていたんだろうか。
「あんたらのISのデータは逐一取ってるから、監視されてると思いなさい」
あれ、俺声に出してたっけか?
「……面白そうで命令を出されては、こちらの命が足りませんよ」
「命はまぁいいとしても、ISは壊さないでよ? それにメリットとデメリット、成功確率を踏まえての面白そう、よ。あまり否定的に捉えるものじゃないわ」
それは意外だ。てっきり娯楽程度にしかとらえていないのかと。
「こっちのサポートで地形データも渡せるし、そのための作戦も組んだ。十中八九このままいけば何もなくお婆さんをお守りする事が出来るわ」
しかし、こんな土地のお婆さんを守ったからってどうメリットがあるのだろうか。
「ふふふ、これはね、戦術機じゃ出来なかった事なのよ。強大な自然現象に対しても有効な手段と成り得る、のは戦術機ではなくISであるという証明が出来るのなら、少なくとも現行の評価は上がるわ」
戦術機に出来ない事を出来て当然でなくてはならない。言葉にするのは簡単だが、実行に移すのは難しい。ISに中途半端な評価を付けているスポンサーに『面白い』と言わせられるならばそれはもうメリット、ということになる。
「サーカスの綱渡りなら相応の準備をするでしょう。ゲリラライブだって、実行する側は入念な打ち合わせの上です。観客を楽しませるには足らないと思いますが」
「やぁねぇ、私達がどれだけISに時間と金をつぎ込んでると思ってるの? それぐらい即興で出来ないと困るわ」
要するに上の事情でこうなってしまったらしい。
「いやいや、原因はお前だぞ一夏」
「そうだっけ?」
「作業が終わったら連絡頂戴。噴火に伴ってまともに連絡とれなくなる可能性があるから、その前に最終調整、増援は無しだからそのつもりでよろしく」
「もし任務を不可と判断した場合は?」
「飛んで帰って来なさい。出来るでしょ?」
ようやく少し安心した様な態度で。
「了解しました」
何故そんなやりとりが必要なのか、それで安心しているラウラに腹がたつ。
「何をビビってるんだラウラ、俺達なら出来るって楯無さんも言ってるじゃないか」
「……むしろ恐れない方がどうかしているぞ。かなり危険度の高い任務だ、失敗した場合も想定に入れておくべきだ」
「危険度は高くないんじゃ?」
「迫りくる溶岩を打ち払うなど、誰がやったことがある。前例がないということは想定外の出来ごとが起こる」
「そんなにあの婆さんを殺したいのかよ!」
一瞬戸惑う、が。
「そうだな、それも良いかもしれない」
「なん……だと……?」
「軍事行動においては邪魔だ。避難誘導にも従わない、無理に救助すれば評価は下がる。なら、自然災害で助からなかった、というのが最善手と考えるのは妥当じゃないか?」
「んなこと考えながら人命救助が出来るか!」
胸糞悪くなる会話だったから、その場で打ちきる。邪魔なら助けなくていいなんて、そんな話があるか!
火山から流れる溶岩の流れをコントロールするために、土や岩石を利用する事によって堤防を築き、土を削り谷を作りだし流れを作った。これによって火山が爆発したとしても、直接的な被害は出ないと予測される。
「作業自体は、思ったよりも早く終わったか」
ISの性能の高さから地形を変えるという途方もない行動も短時間で行える。白式の活躍も大きく、作業範囲が広いためラウラの方がかなり早く終わってしまった。
「おや、あんたは戻ってきたのかい?」
「……残念ながら、一夏少尉ももうすぐ戻ってきますよ」
ISスーツから降り、現在の状況を整理する。
「噴火にはあと……一晩掛かるかもしれない、か」
そうなると必然的にこのお婆さんの家で一夜明かす事なる。不測の事態に備えて待機しなければいけないのだろう。
「なんだい……帰らないのかい。不思議な人たちだねぇ」
否定したいとも思ったけれど、割と常識に捉われないチームにいることを思い出した。
「任務ですから」
そう言うとお婆さんが手招きをしていることに気付いた。どうやら家に入れ、ということらしい。
「いえ、哨戒任務がありますので……」
「それでも飯は食わないといけないだろうし、立って寝るってこともないだろう?」
「い、いや……」
ほらほらと手を引かれて半ば無理矢理、家の中に入れられる。
「で、あの子とあんたは恋人なのかい?」
「……は?」
いきなり何を言い出すんだこのババァは。
「ただのお友達ってわけじゃないだろう?」
「いえ、部隊の仲間ではありますが」
恋人などと呼べる仲ではない、それどころかあまり仲良くなったつもりはない。
「ふ~ん、あんたの片思いかい?」
「ぶっ!?」
片思い、だと?
「見ればわかるよ。あたしにゃ随分冷たい態度の癖に、あの子に対しちゃ子犬みたいな態度取ってるんだもの」
子犬、私が。そんな、ことはない、と思う。そもそも子犬みたいな態度ってなんだ、ふざけるな、何が言いたい。
「……そこまで動揺してちゃ、後で何言っても意味ないんじゃないかい?」
「あ、う……そもそも、軍に所属していて色恋沙汰など」
「なんだい、色恋沙汰は初めてかい、初心だねぇ。若い時を思い出すよ」
もう何を言っても意味がない気がする。どうにもこの手の話題には縁がなかったからか、耐性もない。
「確かに、今じゃ中々見ない良い男だからね、あんたも大変だろう」
「まぁ……確かに人気がありますね」
少し前に合流したかと思えば、セシリア、シャルル、鈴音と随分と仲が良さそうに見える。楯無博士も一目置いているようだし、簪教官も気にかけていると思う。彼の突出した能力ということもあるが、仲間思いというか、あんまりにも他人の事を気にかけ過ぎる性格も一つ噛んでいるのだろう。今時、自暴自棄になった人間以外でそういった人を見るのもない。
「言われればまぁ、特別扱いではありますね」
恋愛感情かと聞かれると分からない。そもそも男性を意識することなど、肉体訓練時の体格差ぐらいしかなかったのだ、どうせ任務の途中で死ぬだろうと考えていたし、生きて未来に何かを希望することなどなかった。それでも、彼と共に生きた時間は、これまでの時間とはどこか色の違うものだと感じる。
「手伝うかい?」
ほぼ完成しかけている料理を見ながら、私に尋ねてくる。意図する事は、言いたくもない。
「……ええ」
すでに日は暮れて、夜になってしまった。ラウラに指示された作戦は終えて、ようやくお婆さんの家まで戻る事が出来た。連絡をみるとラウラは先に任務を終えて戻っているらしい。
「でかい口叩いておいて、ラウラの方が早いとかどうなんだろう」
ちょっと情けないと思いながらも、白式をブレスレットに戻しながら、扉を開ける。
「……へ?」
「何をしている、もう料理は出来ているぞ?」
ISスーツの上にエプロンを付けて出迎えたラウラに対して、言葉が出ない。
「……どうした、何か問題が?」
いやいやいや、なんでラウラが料理作ってるの。割と簡単なものだけど、川魚の塩焼きと味噌汁、見た所随分と美味しそうに見えるが、元の世界でもラウラは料理が出来る奴だっけ。いや、作ってもらった事はなかった、と思う。
「安心しろ、ほとんどこのお婆さんが作ったものだ。私は盛りつけを手伝った程度だ」
「え、イヤ別に……」
「露骨に私の顔と料理を見比べておいてか?」
「すいません」
随分と失礼な態度だったらしい。意外と言えば意外だったからだが、それに味噌汁と川魚の塩焼きは久しぶりに見た気がする。
「うん、美味しい」
派手な味付けではないが、どこか懐かしい味がする。調味料に頼らずとも食材の味での直球勝負、という感じがする。
「……どういうことだ」
「こういう厳しい環境だからこそ、資源があるのさ。ここから離れてまで手に入れたいものなんて、ありゃしないよ」
荒野になってしまった横浜基地では手に入らない、新鮮な食材。食材だけでなく、豊かな自然も、ここにはある。森も川も動植物もまた、自然な姿のままで。
「ごちそうさま、ありがとうお婆さん」
「お粗末さま、あんたらは客室使って休んでくんな」
そう言うとお婆さんは片づけにはいる。本当ならゆっくり食事をするのも気が引けるような状態だが、休める内に休んでおかないとどうしようもない。無駄に体力を消耗しないようラウラと二人で案内された部屋に行くが。
「……いや、なんでだよ」
どまんなかに布団が敷かれて、枕は二つ。
「ごゆっくり」
背後からお婆さんの声が聞こえた……気がした。
「まぁ、二人同時に眠ることはないんだが」
そう言った意味では布団一つと枕二つはありがたいな、と見当違いな感想を漏らすラウラ。これがどういった意味なのかは分かってないご様子。
「……予想では、あと4時間程だっけ?」
携帯端末を操作しながら、ラウラに確認する。
「3~5時間程の予想だが、数分後に噴火が始まってもおかしくはない、気を抜かない方がいい。だが、実際に噴火が始まってすぐに被害が及ぶ訳でもないから、幸いにも休んでいて問題はない」
溶岩がここまでとどくまで数分ある。その予兆の観測は最低10分前ぐらいに出来るらしい。報告が来てから十数分あり、多少の遅れは問題ない。
「そもそも、何もせずに終わる可能性も充分にある」
ラウラの作戦通りであればそのはずだ。だけど、本人が言った通り、予測通りにはならない可能性もある。
「そうだったら、いいけどな」
「それで、どちらが先に休むか、だが」
「お先にどうぞ」
少し面を喰らった顔をするラウラ、女の子を先に休ませるという紳士的な行動とともに、なんだかんだ言って二人きりの部屋で自分だけ眠るという行為はかなり腰が引ける。なによりそれを見ているのがラウラだ、こちらの世界であまりないが、元の世界でそんな事をしたら合意と見て襲いかかってきてもおかしくない。
「分かった。20分毎に交代とする。見張りを任せる」
躊躇う事無く布団で眠りだすラウラは、正直無防備過ぎるんじゃないかとも思える。灯りは最小限にしてあるため、微かに横顔が見える程度だが、幼さの残るその寝顔には、ISを駆る姿など思いもよらない普通の少女のものだ。
「……20分が長いな」
見張っている時間は勿論、休憩する時間もだ。というか、本当に自分は休憩できるんだろうか。
――少し勿体無いが……起きろ、一夏。時間だ――
「……箒?」
柔らかく差し込む日差しと頬を撫でる指先。覚えがあるようで、懐かしい様で、自分が知らないはずの光景。気だるげな眠気に逆らう気力を彼女から貰う、その甘い雰囲気に酔いそうになりながら。
「一夏!」
目を覚ます。
「……ラウラか、どうしたんだ?」
やれやれ、と言った様子だ。寝惚けていた自分もあれだが、交代を十数回も交代を繰り返し、最早夜が明けようとする時間にもなると気が抜けていても仕方がない。仕方ないというのもどうかとは思うが。
「待ちに待った報告……火山直下の熱エネルギーの増大が感知された」
「オーライ、行こうか」
寝惚けた頭に張り手を一つ目ざましに、外に出る。朝日と共に火山の爆音が響き、オレンジ色の光が辺りを包む。
「……マジかよ」
報告から10分、予測通りの噴火状況に落ちついてはいるものの、大自然はそう楽にはいかせてくれないらしい。
「完全に連絡が途絶えた、か。一夏、本当に大丈夫だろうな」
連絡が来ないということは、データの更新は無く、自前で索敵していかなければならない。とはいえ、万が一の可能性を考慮して拠点から離れるのは得策でもない。ただひたすらに、何事もない事を神に祈る事だけだ。
「任せとけ!」
そう言い残し、情況の把握のために飛びたつ。もしもの時を考え、対応出来る幅の広い白式が偵察に出る事にした。予測不可能なこの状況で、大自然の力を無理矢理にでも実感させられる。遠めに見ているというのに、まるで目の前にある様な存在感に恐れずにはいられない。
「さすがラウラ、予測通り……ん?」
状況を更新していく内に、予想通り、誤差範囲内の項目をスルーしていくだけの作業、その途中に引っかかる状況があった。
「これはまた……大仰な事で」
「……部屋に戻ってください」
わざわざ外に出てこなくとも、どこにいても状況は変わらないが、浮遊する火山灰は人体には有害だ。ISに乗っていなければ私も危険な状況である。
「恐ろしくないのですか?」
この火山の噴火に、恐れを抱かないというのだろうか。
「まさか、恐ろしいさ。子供の時から何度も拝んでるけど、いつもはもっと遠くからだからね」
ゲホッゲホッ、とせき込みながらも、中に戻るつもりはないようだ。
「なに、あんたに一言言いに来ただけさ。老人の戯言さ、聞いていってくんな」
「……手短に」
「さっさとここから離れな。ここまで来たらいてもいなくても同じさ……死ぬのは老人一人で十分さ」
「どうして……」
死ぬのが怖くないのか。
「死ぬのはね、とっくに諦めたのさ。生きて何かできる程この体に残ってる訳じゃないからね。だから、手放すのが怖いのさ。この場所を、生きた場所を、生まれた場所を……そう思ったらね。最後にこの光景を目に焼き付けて死にたい、そう思っただけなのさ」
何度も見たはずなのに、恐ろしいはずなのに目を離せない。畏怖の念を抱きながらも、美しいと思わずにはいられない。
「お婆さん……」
なんと声をかければ良いのか、そう迷っている内に一夏からの連絡が入る。
「堤防が壊れた」
「……な!?」
前には溶岩の波が、熱を振りまきながらこちらへと来ている。ハイパーセンサのおかげで随分と距離があっても鮮明に把握できたのは良かった。後ろには、お婆さんとラウラ、今しがた連絡を送ったところだ。
「……状況は把握した。残念だが、そこが破れたらどうしようもない」
ラウラは万策尽きた、と言った。
「打ち合わせした通り、私達だけでこの地域から離脱することになる」
それでも、俺は諦めない。
「作戦があるんだ、ちょっと聞いてくれ」
どうやらこの火山灰はジャマーにもなっているらしく、音声通信もラグが生じているらしい。ラウラの返事は少し遅れて聞こえる。
「何か……あるのか!?」
とっておきのモノが一つ。
「零落白夜で叩っ斬る」
「馬鹿か!?」
つんざく様な叫び声が聞こえる。流石にちょっと耳が痛い。
「何を考えてるんだ。大体、あの溶岩に近づくつもりか!?」
「出力を上げれば、危険じゃない範囲から届くよ。それに、俺の白式は溶岩程度でどうにかなる作りでもないからな」
「……それでも!」
「零落白夜で熱エネルギーを奪えば、溶岩は冷えて固まる。逆転の発想だ、溶岩で堤防を作ればまだなんとかなるよ」
「なるわけないだろ! このば……」
あ、こんなタイミングで通信切れちゃったよ。仕方ないなー、独自で判断するしかないかなー。
「さてと、いっちょやりますか」
目標が接近するまで、あと10秒、雪片弐型も白式もフル稼働状態で待機してある。準備は万端、あとは結果をごろうじろ、ということだ。
「やっぱ、ラウラの作戦は完璧だな」
「……切れた」
音声通信が切れた、もう一夏がどういう状態か分からない。
「大変だねぇ、あんたも」
お婆さんが同情した様な目で私を見ている。どういうことだ、不測の事態になった、仕方がない、多少の犠牲は目をつぶらなければ、犠牲になるのは自分だ。当然だ、一夏も自分の命と天秤にかけるようなことはしないだろう。そう思っての行動だったのに。
「逃げな」
「……え」
「逃げるんだろう? 此処にいても無駄死にさ。伊達男にゃ悪いかも知れんが、あんたが付き合う義理はないんだろう?」
そうだ、私まで無駄死にするつもりはない。命令を破ったのは一夏だ、そうだ、私は逃げても何の問題もない。
「あの子もここで逃げたあんたを、笑う様な奴じゃなかったろ?」
「……くそったれ!」
今何をしているのかは、その前の通信で分かっている。成否は分からないが、数百メートル先で剣を振りまわしているのだろう。
「やってやる! やってやればいいんだろ!」
こうなったらやけだ、自暴自棄だ。あいつと同じになってやる。あの馬鹿と同じ場所に立って、地獄の中で踊ってやろうじゃないか。
「……やれやれ、二人とも馬鹿だねぇ。行ってきな、朝飯作って待ってるから」
最大出力の零落白夜を振りまわす事数度、作られた堤防は後から流れ込む溶岩によって、溶かされて崩される。
「おおぉおぉらぁぁあああ」
一向に流れが衰える様子はないが、一度堤防を作れば数十秒もつのが幸いして、機体ごと溶岩に呑まれるまでは至らない。
「後何回振れんのかな」
やはり無謀だったのだろうか、何も出来ずに溶岩に沈んで……死んでしまうのだろうか。それとも不様に生き恥を晒す事になるのだろうか。
「……まだ無事だな、一夏!」
「ラウラ!? どうしてここに」
「お前が馬鹿だからだ、それより現状を報告しろ」
零落白夜を振るった結果を簡潔に説明する。
「出来ると大口叩く威力なのは分かったが、作戦と言えるものじゃないな……下がれ、一夏」
「ラウラじゃどうする事も出来ないだろ、俺は逃げないぞ!」
「下がりながら堤防を作れ、と言ったんだ。言う通りにしろ」
ラウラはまだ、諦めていない。
「了解!」
「おかえり、さぁ、たんと食いな!」
お婆さんの手料理を口いっぱいに頬張る。
「生きてるって素晴らしい!」
「……何処かの馬鹿のおかげで生きた心地がしなかったからな」
「馬鹿のおかげでこうして飯が食えるんだ。ありがたいことだよ、二人ともに感謝だね」
結果的になんとか被害を抑える事ができ、お婆さんの家も、自分たちも生き残る事が出来た。運が良かったということも、ある。だが、それでも生き残れた喜びは、大きい。
「……生きてる?」
「はい。ある程度レポートにまとめましたので詳細はそちらで確認してください。何もなければこのまま帰投します」
噴火が収まって、ある程度時間が経てば、不安定ではあるものの連絡が繋がった。
「随分な報告ね、彼は随分と破天荒な事で」
「……言葉もありません」
少々の休養ではこの頭痛はとれそうもない。
「まぁ、あなたのサポートも中々よ。お疲れ様、早く帰って私を安心させてちょうだいな」
ふざけたやりとりも、生きた心地を感じさせてくれる。今なら全ての事柄に感謝出来そうだ。
「了解しました」
朝になり、お婆さんと別れを告げ、ラウラと共に集合地へと向かう。
「……怒られるだろうなぁ」
「長官自体はそう不機嫌ではなかったがな」
意外な返事だ。半ば命令違反に近い形なので心配だったのだが。
「まぁ、厳罰は免れないだろうがな」
「……だよなぁ」
お婆さんを守れた事、それについては自分の意思で命令違反したことには後悔はしていない。軍として、やってはいけない事をしたということは、何かしら別の方面に迷惑をかけているということだ。つまり、今回主に俺が被害を吹っかけたのは、同じチームの皆と上司である楯無さんと簪さん、共犯に巻き込んだラウラにも多大な迷惑をかけているということだ。
「正直、悪かった」
「なぜ、私に謝る」
「いや、迷惑掛けたんじゃないかな、と思って」
「そうか、僅かにでも迷惑がかかってないかもしれないと思われてたのか」
「いやもうホントすいませんっした!」
やっぱり迷惑をかけたんだな。
「……まぁ、反省してもらうのは大いに結構だが、私に遠慮する必要はない……と思う」
ラウラにしては歯切れの悪い言葉だった。
「遠慮はしてないとは思うけどなぁ」
「一夏の予想外の行動が迷惑をかけていると感じているんだろう?」
命令違反の行動だけと言う訳じゃなく、この世界の常識に捉われない行動自体が迷惑をかけてる気はしている。
「確かに労力がかかっている一面はある。だが、それがなければ今回お婆さんの命や尊厳は失われていた。私一人であれば命だけは助かっても尊厳を守ることは出来なかっただろう。一概に良い悪いとは言えないが、新しい考えが交わるということは……個人的に言えば良いとは思っている」
前の世界ではもう少し固い考えを持っていた気がしていたけど、どうやらこの世界ではまとめる役割を持っているせいか、少し雰囲気が違っている。
「それでも軍規としては罰を受けてもらうし、私も必要な罰は受ける覚悟で行った事だ。お前もそうだろう? 責任は負う必要はあるが、行動を制限させるつもりはない、ということだ」
「自分の行動に責任を取れ、か。当たり前だよな」
当たり前なのだが、必ずしも出来るという訳ではない。こんな世界で、軍に所属している以上、一人で責任をとれない行動など……何度取ってしまったんだろうか。
「今更自覚したのか……」
正直に言ってしまうと責任をきっちり取れている自信はない。元の世界でも同様だが、やはり周りの手助け無しで生きてはいけないのだと思う。
「お前の行動は迷惑だけを与えてる訳じゃないということだからな」
「……これからもよろしく頼むよ」
「迷惑を自覚してくれれば、な」
長々と読了ありがとうございました。
誤字脱字は標準装備なのでご配慮くださいorz
まだまだ先は長いのですが、次で一端の区切りです。続きは書いてあるのですが、次は少しタヒ人が出るので、苦手な人には不味い展開になります。
暇を持て余している且つ、嫁が同人誌みたいに酷い目にあっても泣かないという勇者な方がおらっしゃられれば、お付き合いください。