今回もキャラ崩壊とグロ表現、もしかしたら嫁が同人誌みたいになったら耐えられない! という方はブラウザバックをお願いします。
第六話
ついにBETAの大群が現れた。一夏は初の対BETA戦になるのだが……今回は特にフラグ回収はないぜ!
緊急アラームが基地内に響き渡る。簪さんが現状の説明をする。
「あ~、今回集まってもらったのはほかでもない、この横浜基地にBETAが接近している。君たちには基地内の警護を務めてもらうことになる」
前回とは違い、チームとして警備に務める事になる。
「現在は10キロ程度離れている地点で先見隊との戦闘になっている。光線級がいる様子はないが、数は数千程度確認されている。状況によっては基地周辺での対処も検討されるので、準備を怠らぬように」
「ここまで来る可能性があるんですか?」
鈴音の質問に簪さんが答える。
「突発的な襲撃の為、具体的な報告もまだの状態です。可能性だけで言えば十分にありえると考えて行動するように」
「そうなると初の実戦というわけですね」
「……こちらの戦力の状況は?」
報告書を一枚めくり、簪さんがシャルの質問に答える。
「先遣隊が他部隊との混合で2個中隊、現在防衛で動けるのは1個中隊程度、と言ったところでしょうか。細かい数字は追って連絡します」
そう言うと楯無さんが場を引き継いで簪さんは出ていってしまった。
「この襲撃は予想外ではあるけれど、実際にあんたたちを前戦に出すつもりはないわ。前戦のおこぼれを拾えればラッキーとでも思っておきなさい」
その後、簡単なブリーフィングの後にそれぞれの機体へと向かう。
「……一夏」
待機状態にはいる準備時間、機体の整備に掛かる僅かな十数分の間、俺達は手持無沙汰になった。シャルが訪ねてきたのはそんな時だった。
「どうした?」
「どうした、って……分からない?」
部屋の入り口で柱に背を預けている、微妙な距離感に少し戸惑う。
「怖い……んだよな」
彼女は、恐らくこの部隊でただ一人、BETAと相対することを恐れている人間だ。
「大丈夫だよ、BETAが俺達がいるところまで来るかどうかも分からないし、もし来ても俺が守るよ」
守る、と自然に言葉になった。なんとなく、そう言いたくなったのか。いや、いつか言った事があった気がする。
「一夏は、怖くないの?」
少し間をおいて、シャルが喋る。
「怖くないと言えば嘘になるな。相手はBETAだから。それでも、守りたい者の為なら、戦える」
シャルの言葉が詰まる。喉の奥で、何かが詰まる様な、苦しいのに吐き出せない、そんな風だ。
「……死ぬのが怖くないの?」
「怖いさ」
「嘘だ、だってこの前の任務でも、進んで死にに行ったようなものじゃない」
あれは確かに自分でも肝を冷やした。それでも、死ぬとは思わなかったが。
「死なない様に努力したから、まだ生きていられるんだぜ? そこのところは分かってくれよ」
シャルなら、分かるんじゃないだろうか。生きたいとしがみ付く気持ちは同じだ。
「分からないよ……約束したのに。私の事を守ってくれるって言ったのに」
「破ってないだろ、約束は」
「そうだけど……そうじゃないよ」
う~む、こういう時の女の子の気持ちは全然分からない。元の世界でもそんな経験はなかったけれども。
「無茶しないで、お願いだから」
「……俺の事、心配してくれるの?」
「わ、私の為なんだから。一夏が守ってくれないと……ダメ、なんだから」
「分かってるよ、大丈夫」
何かまだ話し足りない様子だったが、シャルは戻って行った。
「シャルルと何か話していたのか?」
「いや、まぁ緊張するなぁ、って話」
「……随分と緊張感の無い話だな」
ラウラに呆れられた。
「とはいえ、今回の襲撃がどうなるか予想もつかない。隊全員が冷静な判断が出来ると良いんだが」
「そうだな」
「お前の話なんだが」
「えっ」
割と冷静な方だと思っていたんだが。
「精神状態を危惧しているつもりはないが、軍隊として冷静な判断を出来るとは思っていない。ということで、ほれ」
渡されたのは連絡をファイルしたもの。本来ならラウラが隊全員に伝えるべきものだろう。
「俺の分だけじゃないよな?」
「一夏に配ってもらうために持ってきたからな。擦れ違った時にシャルには渡しておいたから、鈴音とセシリアに頼む」
こういうのは隊長のお仕事では?
「私と顔を合わせるよりは、お前が会いに行った方が皆落ち着くだろ?」
「そういうものかな?」
「自分より危なげな奴を見ると冷静になるものだろう」
「……まぁ、命令ならそうするよ」
受け取って、残る時間を確認して、扉を開く。出撃までは随分と余裕があるから、二人に手渡すには十分だ。
「助かったよ」
そう言って自分のところへ向かうラウラ。
「まぁ、ちょっと話すのも悪くないだろ」
「鈴、いいか~?」
どたばたと音がした後、扉が開く。
「な、何か用?」
「いや、どうしてるかな~って」
「……呑気ね、良い御身分だこと」
ラウラに続けて鈴にも呆れられた。間抜けに見えるらしい、まぁ、間は抜けていると思わなくもないか。緊張感がないとも言われたし。
「ついでに連絡、ちゃんと目を通しておけよ」
「そっちがついでなの? まぁ、いいけど」
受け取ってその場で読み始める。
「思ってたより落ちついてるみたいだな」
「おかげ様で、あんたの馬鹿面見たら少し落ち着いたわ」
「なら良かった」
「……馬鹿にしたのよ?」
言っては悪いが、馬鹿にされ慣れてるという部分もある。元の世界でも爺臭いだの唐変木と散々言われている。何より、鈴の落ちついた、と言う部分に嘘がない事は分かってしまったから。
「人間、自分より危なげなのを見ると冷静になるんだとさ。だから俺がこうやって連絡配る係りになった」
俺の代わりに鈴が複雑な顔になってくれた。
「言いたい事は分からなくもないけどね……まぁ、一夏がいいんなら何も言わないわ。私が最後だったりするの?」
「いや、あとセシリアが残ってる」
少し残念そうな溜め息をついて、俺を扉の前から追い出してくれる。
「気付いてないかもしれないから言っておくけど、さっきのラウラも含めて、よ?」
さっきの事、ラウラ、気付いてない?
「あっ、助かったって、そういうことか」
ラウラも柄にもなく緊張していたのだ。こんな回りくどいやり方を選んだのも、緊張を解す為というのは間違いではなかったということだ。
「……もう、いいか?」
「あ、あと少し待って下さいな!」
そう言われてもう五分程待っている。時間はまだあるから構わないけど、連絡を置いていくと言えばやんわりと呼び止められるのだ。
「ど、どうぞ」
セシリアの手動で扉が開いた。ほのかにアロマの香りに何故か入口正面に向いて座っているセシリア。違和感はあるけれど、こうして見ると本当に人形みたいだ。
「はい、連絡。ちゃんと渡したからな」
「あ、どうも」
「じゃあ」
「……へ?」
部屋の外に一歩出た瞬間に手を掴まれた。
「いいいいい、いくらなんでも渡してすぐ戻るのはどうかと思いますわよ!?」
結構時間食っちゃったし、落ちついているみたいだからいいかな、と思ったがそうもいかないらしい。というか、先ほどと打って変わって顔が赤い。どうにも、セシリアはセシリアなりに緊張しているみたいだ。
「セシリア、緊張してる?」
「……は?」
更に顔が赤く染まる。どうやら図星のようだ。部屋に入った時はそうでもない様に見えたけど、セシリアもBETAと戦うのは緊張するのだ。
「隠さなくても良いよ。俺もそうだから」
「……そ、そうはみえませんわ」
ちゃんと見ると、僅かに体が震えているようだ。やはり、怖いのだ。もしかしたら、部隊で一番、怯えてるのかもしれない。どうすればいいのか分からないけど、そっと手を握る。
「一夏さん……」
分からないけど、誰かにこうしてもらえば、俺なら安心できるかも、と思った。
「大丈夫、セシリアならきっとBETAにも負けないよ」
「……はぁ?」
あれ、なんでセシリアにまで呆れられたんだろう?
「総員、配置についたな!」
ラウラの言葉が通信を通して耳に響く。まだ基地の敷地内だが、部隊全員の準備は済み、ISに搭乗完了している。
「現在、前衛部隊が交戦中だ、気を抜くな」
楯無さんからの直接通信が届く。
「了解、現在位置で待機します」
浮遊状態で5機のISが待機している。連絡が滞っているのか、それともISチームは連携に組み込まれていないからか、必要最低限の命令しか来ない。質問をぶつけようにも簪さんも楯無さんも他の部隊への指示でまともに会話すらできない状態だ。
「初の実戦なのに、こんな状況とはな……」
そう言って、先見隊の方に目を向ける。何の気に無しだったが、数百メートル先の戦場をはっきりと捉えた。
「嘘……だろ?」
今まさに、戦術機部隊がBETAに蹂躙されている。シミュレータ訓練で散々見てきたBETA達が、目と鼻の先で、味方を殺している。
「ふざけんなっ!」
思うよりも早く、飛びだす。黙って見ていられない。
「おい、待て一夏!」
制止の声も届かない。
「誰か、誰か助けてくれ!」
戦線は最早崩れた。隊の新人がビビって仲間に銃を当てた時から、シーツにこぼしたコーヒーの様にBETAの波が此方に押し寄せ、勢力図を塗り替えていく。
「落ちつけ、援軍を待つんだ! それまで持ちこたえろ!」
残っているのは、隊長である自分と、ベテランの三人組、それとやらかした新人のみ。10小隊あったのが今はもう跡形もない。
「司令部! 援軍はまだですか!?」
「準備が出来次第前戦に送り込んでいる。到着するまで戦線を持ちこたえさせろ」
たった四人で何が出来るというのか。ここで全員死んでしまう。そうなるくらいなら、命令無視しても撤退した方がいいのではないか。
「た、助けて! 隊長!」
「アルファ3、そこを動くなよ!」
装備しているアサルトライフルの残り弾を全て吐き出す。目の前まで詰め寄られたデストロイヤー級に穴が空き、動きを止める。
「……隊長もう無理です、残弾も無くては戦線も維持できません」
アルファ2が泣きごとを言う。とはいえ正論だ、闘い続けて体力も精神も、機体も弾も限界だろう。
「お前ら、刀を抜け」
「は? 正気ですか!?」
チーム全員が無茶な要求に驚いている。
「無茶です! 隊長、逃げましょうよ!」
「そんなことしたって、何も変わりませんよ!」
弱腰な連中だ。これだけBETAと戦ったって何も変わりはしない。
「変わるさ、ここで戦わなけりゃあ、後ろにいる奴らを見殺しにすることになる」
「……そ、それは」
「俺達の代わりに誰かが死ぬだろう。俺達の尻拭いを誰かが持つ事になる。そいつは闘い方を教えてもらった教官に随分と失礼じゃないか?」
若い兵士たちは何も言えなくなる。そう言われて割りきれるほど、長く闘っていないのかもしれない。闘う度に周りが倒れ、それに慣れてしまってからどれほど経つだろうか。そうやっている内に覚悟が出来てしまった。次は自分でもいいさ、と。
「お前らには悪いが、俺の意地に地獄の底まで付き合ってもらうぞ」
「くそっ……最悪だ」
呟きながら、周りも刀を構える。新人などモニタ越しに泣いてる姿すら見えるって言うのに。
「やってやる、やってやるぞ!」
「……援軍が間に合えばいいんですけどねぇ」
全員が構える。レーダーに敵影が複数映る。どうあがいたって生き残れないだろう。それでも闘うしかない。
「……待って下さい! 隊長、この反応はなんですか!?」
それが何か、自分の知識と経験で検討している間に、BETAの隊群を焼き払う。空を飛ぶ雄々しい翼に、鷹を想像させるような爪、この世のものとは思えない美しく白い鳥は、青く輝く粒子と残像を瞼に焼き付ける。
「……凄い」
誰もが息をのみ、驚愕する。夢でも見ているのだろうか。それとも、頭がおかしくなってしまったのか、都合のいいことを勝手に脳が写しているだけなんだろうか。
「綺麗……」
瞬く間にBETAの数が減っていく、そうしている内に同じように空を飛ぶやつが現れた。
「チーム21中島部隊、応答お願いします」
「っ、この声は!?」
この基地の爪弾き物が集められた部隊、確か、IS部隊といったか。本当に最新の機体を扱っていたなんて聞いていない。
「IS部隊所属、ラウラ・ボーデビッヒです。部隊の状況を」
「残弾も殆どねぇ、部下の機体もほぼ同じだ。この辺の連中はもう連絡が取れない。とりあえず動けるのはこの4人だけとみてよさそうだ」
「部隊の善戦に感謝を。補給のために一時撤退をお願いします。戦線は私達にお任せください」
「ようやく一夏……α5にα2、3も追いついたようです。現時点では戦闘に問題ないと」
「……すまんな。援軍感謝する」
部隊に撤退命令を出す。混乱しすぎて反応は遅かったがのろのろと俺の後ろをついてくる部隊員たちは、まだ狐につままれた顔をしていた。
左腕の荷電粒子砲が、多くの要撃級を葬っていく。近づいてきたものをまとめて雪片弐型で薙ぎ、小さい兵士級やそれに近いサイズのBETAを払っていく。敵戦力の中心に位置する要塞級が長く鋭利な爪を地面に刺しながら現れる。
「お前らが……」
かぎ爪状の触角には、戦術機を貫いた跡らしいものが残っている。恐らくはここで闘っていた人たちだろう。報告を聞くだけでも何十、いや百人を超える人々が戦死していたはずだ。
「くたばれ!」
触角は、ISのそれとは速度が違いすぎる。その戦場の何よりもはやく、要塞級を切り刻んでいく。
「こちら、α2甲龍。現場に到着しました」
目の前には数えきれない程のBETAの死骸。文字通り山のように積まれたそれは、そこが地獄である事を物語っている。それに紛れるように重なる戦術機の破片が、何があったのかを言わずとも知らせる。
「まだ一夏さんは戦闘を続けているようですわ……要塞級を今倒したようです」
それだけでは飽き足らず、まだ敵陣の真っただ中へとその身を投じていく。
「了解、白式の援護に向かいます」
「IS部隊、α5白式、聞こえますか?」
鈴音達の援護によって、BETAとの戦闘は想像以上に早く終わった。散開しているため、まだ戦闘の全てが終わっている訳ではないが、残るは殲滅戦を残す程度、戦術機に任せても問題はない。その証拠に通信越しではあるが、状況が終了したという声も聞こえる。
「……はい」
「言いたい事は多々ありますが、まずは楯無長官と通信をしてもらいます。指示はそちらから聞いてください」
「了解」
いくら戦果をあげたとはいえ、命令違反もいいところだ。どんな厳罰が待っているか分からない。
「気分はどう? 英雄気取りの新兵さん?」
「……」
「鈴音とセシリアには撤退命令を出して、被害状況だして修理を優先して……そう、6番ドックと7番ドックを使って頂戴」
横目に鈴音とセシリアが先に基地へと戻っていくのが見える。彼女たちは俺の命令違反の後に、簪さん達の指示で動いていたようなので、恐らく処罰はないと思うが、連帯責任と言う言葉もある。
「本来ならね、機体とりあげて24時間ぶっ続けで説教をしてあげた上に、独房一週間と雑用半年分を付けても余りが出そうなんだけど、それをさせる人員が惜しいの、よかったわね」
「えっ」
「とりあえず殲滅戦の参加と瓦礫除去、人命救助の任務を幾つか渡しておくわ。出張ったからには最後まで働きなさい。それ如何によっては減罰も考えたげる」
「りょ、了解しました」
今すぐどうこう、ということはないらしい。良かったというべきか、後が怖いというか。
殲滅戦の援護を幾つか終えた後、一番最初にBETAと戦った場所へと戻ってきていた。既に殲滅戦は終わっており、あとは人命救助の命令があるだけだ。
「アルファ5白式、応答しろ」
「ん、ラウラか」
「……作戦中だ、隊長と呼べ」
気が抜けてしまったのだろうか、親しい人との通信が嬉しい。
「失礼しました、ラウラ隊長」
「まずは救助隊へと合流する。指示した地点に着陸し、ISを待機させる」
瓦礫や死骸だらけの中、少しだけ開いた場所にISを置き、徒歩で救助隊の人々と合流する。その中で、体格の良い上官に声をかけられる。
「おぉ、こんなところに何の用だ、英雄さんよ!」
部隊章を見ると中尉、恐らくは小隊長だろう。話す距離があまりに近く、正直に言うと暑苦しい。
「人命救助です、中島中尉殿。この地域での援護をしろとの命令です」
その言葉が意外だったのか、反応に間が空いた。
「そんな事もするのか、大変だな、お前達も」
「いえ、何処かの誰かさんが命令違反したため、休む暇も貰えないだけです」
現状どこも人員が足りてませんから、とシャルが嫌味ったらしく付け加える。
「ははは、その命令違反のおかげでこうやって生きてるんだ。ありがたい話だぜ」
「おかげで?」
「気付いてないのか。あの時BETAと戦っていた部隊だよ」
後ろにいる4人を指差すと、あいつらもそうだ、と言う。
「あぁ、あの時の部隊」
通信もせずに突撃したものだから、誰を助けたかなんて分からなかった。
「ご無事なようで何よりです。他の方々も?」
「ああ、ちょいと精神的にはまだ判断はつかんが、英雄思考にならんことを祈るばかりだな」
ちらりと俺の方見られると、すこし居心地が悪い。
「ところで、一夏よ。お前は誰が本命なんだ?」
「えっ?」
急に振られたが、なんのことだ?
「とぼけるなよ、部隊に女四人に男一人で気にならん訳がないだろう。それとも何か、それ以外にいるっていうのか?」
「あはは、まさか。俺なんかじゃ相手にされませんぃぐぉ!」
両足に激痛が、指先を押しつぶされるような激痛が……。
「中島隊長、この馬鹿は放っておいて現状を把握しておきたいのですが」
「そうですね、空気の読めないのは少しばかり席を外させてもいいんじゃないかな?」
怖い、訓練中でも向けられた事のない様な殺意が今俺に向けられている。
「……あ~、一夏少尉。作戦のことはこっちで済ませるから、俺の部隊のいるところで雑務の手伝いをしてきてくれ」
「……了解しました」
激痛に躓きそうになるのを堪え、ゆっくりと歩き出す。中島注意の助け舟は俺の命を救ったかもしれない。
中島小隊に近づくとまだ少女とも見える衛士が反応した。
「お、織斑少尉!」
小動物のようにこちらに近づいてくる、どこか可愛げのあるんだが、すこし場違いな気もする。
「えっと、雑用の手伝いを命令されたんだけど」
そう言うと、ブンブンと首を横に振る。
「英雄にそんなことさせられませ……あいたっ」
ガタイのいい青年に拳骨が振り下ろされ、言葉の途中で途切れた。
「隊長からの命令だろ、無視させんなよ。悪いな、うちの馬鹿が馬鹿な事言って」
「いえ、そんなことは……」
「とはいえ、だ。隊長も助けてもらった相手を働かせようって人じゃないんだ、体良く休憩をとれってことだろう」
なんというか、思ったよりフランクな人達だ。基地内にいる間は、顔を合わせる機会が少なかったからか、印象と随分違う。
「あ、一夏少尉じゃないか。さっきは凄かったね、新型なんて眉つばものだと思っていたけど、あんなに凄いならもっと早く来てくれても良かったのに」
「……すいません」
もっと早く、俺が向かっていれば、百を超えるの死者がでることもなかっただろう。そう出来なかったのは、此処に来てから今日みたいな事を考えずに、慢全と日々を過ごしてきた自分の所為だろう。もう少し立場が変わっていれば、あるいはもっとISが認められていれば、こうはならなかったに違いない。
「まてまて、お前を責めてる訳じゃないんだ。全く、うちには馬鹿しかいないのか」
「筋肉馬鹿には言われたくないけどな。ごめん一夏少尉、責めるつもりはなかったんだ」
「いえ……でも、まだ実戦が少ないためどうしても前線には出せなかったみたいです。出撃した五機のうち二機が修理で動けなくなってるみたいですし」
「そ、そうなんですか。大変ですね」
小動物のような新人が、気遣ってくれているようだ。
「言われればそうだよな。新型っつっても万能と言う訳にはいかんか。むしろ俺らが守らなきゃいけなかったんだよな」
「だな、力不足で申し訳ない」
言葉が出ない。自分は遅れて、多くの命を犠牲にしてしまったのに、この人たちは優しい言葉をかけてくれて、何を言っても失礼な気がした。
『一夏、話は終わったか? そろそろ作戦の時間だ』
ラウラの通信が入る。短かったが、雑談も終わりにしなければならない。
「これで失礼します……話が出来てよかったです」
「こちらこそ、だ」
隊の四人が敬礼をする。俺には真似できない、全員の息の揃った見事な敬礼だ。同じように敬礼を返し、ラウラ達がいる場所へと向かった。
救助作業も瓦礫撤去も一段落がつき、西の空が赤く染まる時間帯に、簪さんが現れた。
「お疲れ様です、一夏少尉。一度戻ってください」
壊れた戦術機の指の上に腰かけていた俺は、目を伏せたままだった。
「どうかしましたか?」
命令違反で飛びだし、楯無さんに叱られ、それでも仲間に感謝された。成果こそあったものの、自分の行動は子供のそれと同じだった。
「……今日の事は、俺が間違えていましたか?」
多くの人が犠牲になった。俺が出なければ、IS部隊が戦わなければもっと被害が出ていたんだろう。いくら命令違反が悪いと分かっていても、そのために見殺しにするという選択肢は、ない。
「命令違反は許されないと知っていて……ですね」
簪さんは確認する。
「命令を守れば、中島小隊は全滅していました。あの地域で見つかった生存者の何人かも……それを考えると、正しい事を出来るとは思えません。彼らを見捨ててしまったらと思うだけで、怖いんです」
そしてそれは、今日の出来事でもある。もっと早く、上手く立ち回っていれば、多くの人が救えたはずなのだ。今日の様に、生きていることを喜び、感謝していたはずの人々が、物言わず、絶望の淵の沈んでいったに変わったことは、決して自分は無関係ではない。
「あなたの言う命令は、多くの人員の命も考慮して下されたものであることを理解してください。あなたの軽率な行動が更に多くの命を失う可能性があるということ、あなたの知らない情報に基づいているのです」
そうだ、やはり簪さんや楯無さんは正しい。危うくもっと多くの被害を出していたかもしれない。そうなってしまえば、俺が責任を取れる様な状況ではない。そう……割りきらなければならない。
「……しかし、あなたの判断は懸命なものでした」
「なっ……!?」
「現状では、楯無姉さんも私達も、あなたの戦力やISの能力を正確に判断できていません。万が一失う危険性があったため、部隊を動かすことは出来ませんでしたが、結果だけで言えば、私達の命令よりもあなたの判断の方が正しいと言われれば、仕様がないことです」
「俺が正しかった、というんですか」
救えたことは、良かったと思う、だけど。
「勿論、命令違反を増長させるつもりはありませんし、これから許容することもありませんが、現場の判断が重要視される場面もあります。必ず正しい選択肢を下せる指揮官がいれば、また違った話になるのでしょうが」
楯無さんですら、そうではないのだ。それでも、より多くを守れるように、大切なものを失わない様にと、考えて出したものが、命令なのだ。
「そうですね、少し昔話をしましょう。私があなたと同じように仲間を失った時の話です」
「……簪さんが?」
夕日に照らされたその顔は、少しだけ、俺の知っている幼さの残る簪に近かった、気がした。
「衛士としての訓練を終え、小隊長として部隊に配属されて、戦場に出ました。新人の部隊で現場の連携はとれていないと同じ、判断は遅く、伝達も鈍く、余りにも幼稚で、非力でした」
その時の仲間を思い出したのだろうか、声のトーンが一段落ち、悲しんでいるようだった。
「結果として、先輩達に助けられた時、命が助かったのは私ともう一人、その一人も次の戦場で命を落としました。私は小隊長には向いていない、それどころか衛士としても満足な能力はない、と姉の進言しました。楯無姉さんは当時の部隊長を務めていて、直属ではありませんが上司でしたから」
「それで、衛士を辞めたんですか?」
「いえ、『そんなことより、面白い研究があるから読んでみなさい』と数百ページにもわたる研究データを渡されましたよ」
「……そんなこと、ですか」
簪さんは少し寂しそうな笑みを浮かべて言う。
「ええ、そんなことです。確かに人命は大事ですが、私自身が悩んでいたのは、失ってしまった者に対する罪悪感と、自分の非力さです。要するに悲しいから慰めて欲しい、と言っていただけなんですよ。姉さんはそれが分かっていたから、そんなこと、と言ったんです」
「簪さんも、そう思うんですか」
「……今では、そんなことだった、と言えますよ」
少しの間が、今でも辛い出来事だったと分からせる。それでも、言葉の上では割り切れるように、まるで俺にも出来るんだと言わんばかりに優しく語りかけてくる。
「少し話を戻しますが、研究データはこの世界とは違う、別世界からやってきた異邦人についてのものでした」
「……もしかして、シロガネ部隊ですか?」
「ああ、姉さんはその話はしていたんですね。とある時空間を基点として、世界が繰り返し、何度も同じ世界を経験するという信じられないものでした。一夏さんはバタフライエフェクトを知っていますか?」
「……風が吹けばおけ屋が儲かる、でしたよね」
「そうです。何度も世界を繰り返しているけれど、過去を変えることによって未来を作りだすということは、とても難しく、計り知れない程の情報と行動力を必要とする場合もある。実際に、データだけで語れば、何十、何百と繰り返していた可能性は十分にあるようです」
「何百……ですか」
何百と同じ時間を繰り返す、それは一体どれほどのことなのだろうか。何の変化もない時間を繰り返したのか、それとも一度たりとも同じ時間はなかったのだろうか。
「はい、つまり私が記憶を持って過去に戻ったとしても、その情報を上手く扱える保証はありません。回数を重ねたとしても同様に、その情報量に私個人が耐えられる保証もありません。さらに、世界を繰り返す、と言ってもその世界が消え去るという意味ではないという結論でした。対象者、特異点、名もない彼の努力や苦悩は計りしれず、何をこの世界に残していったかは分かりませんが、過去に戻って未来を変えるという努力は凡人には出来ない事なんですよ」
少し考えれば分かることだ。例え意のままに時間を渡る事が出来たとしても、出来ごとをそのまま書きかえられる訳じゃない。少しずつ干渉するしか方法がない以上、トライ&エラーの回数は、数百できかない事もあるだろう。
「そうして初めて私は、過去を変えられたとしても未来を望む物には出来ない。出来ることは今を努力する事だけ、それは過去に戻れるとしても同じことだったんです」
「過去に戻れるとしても……同じ?」
「もし一夏さんが過去に戻れるとして、今朝に戻ったとしましょう。そうすれば、今日の出来事をどう変えますか?」
「えっと……出現地点を予測して、BETAを迎撃します」
「そうなると、作戦が変わって、部隊の編成が変わりますね。今回の様に、何百人という死人は出ないかもしれません。ですが、それでも被害の数は零にはならないでしょう、あなたはそれで納得しますか?」
犠牲者が出る? そうだ、もう一度やり直したとしても、BETAとの戦闘が始まってしまえば、犠牲が出ないなんて楽観視は出来ない。
「もしその被害にあったのが仮に、IS部隊の一人だったら?」
「!?」
IS部隊がもっと早く前線に出ていれば、そうなっていた可能性は少なくない。白式に乗る俺はともかく、調整が不完全な四人は万全とはいえないのだ。
「犠牲者を悼む気持ちが悪い訳ではありません。それでも、自分の願いは過去に戻ることじゃない、そう思ったんです。これからを見据えて、前を向いて生きること、姉さんの様に強くなりたい、それを思い出せたから再び戦場に戻る事が出来ました」
「願いは……過去に戻る事じゃない」
例え辛く悲しいことがあったとしても、それを無かった事にしたいなんて、出来ない。出来たとしても、それを目的には出来ない、過去に戻って変えたいという願いは、別の目的からくるものだから、それを望むのは、手段と目的を履き違えることにもなるかもしれない。
「楯無姉さんや一夏さんのような人なら、或いは出来るのかもしれませんが」
元の世界の簪の様に自分は特別ではない、才能なんてないと言う。だけど、それを悲観している訳ではなく、認めて自分にできることを見つけているのだ。それはとても、強く、格好いい大人のように思えて、顔を上げられなくなった。涙で崩れている情けない顔を、彼女に見せたくなかった。
「簪さん……簪教官、すぐには出来ないかも知れませんが、俺も頑張りたいです」
絶望を乗り越えた彼女の様に、悲しみを耐えられる楯無さんの様に、強く、誰かを守れる存在に。
「……簪教官?」
ふと、彼女の返事がなくなった。どこかに行ってしまったのだろうか。話の途中でいなくなる様な人ではないと思うが、そうだとしたら恥かしい独り言を呟いていた事になる。そんなところを誰かに見られては、基地に戻る事も出来ない。急いで顔を上げて、前を見る。
「……は?」
目の前には見慣れた軍服が血で染まっていた。それを着ている人物を確認しようと思ったが、頭の上半分が兵士級の顎で隠れているのでそれも出来ない。
「……簪、さん?」
ずるり、と気味の悪い人形のように崩れ落ちる。眼球が片方だけ飛び出て地面に落ちた、綺麗な蒼色の髪は血で赤のグラデーションとなっていて、理科の人形のように頭の中身が見える。
「……嘘だ」
それはきっと簪さんではない。さっきまで話していた人間が気付かぬ内に食い殺されている等と、まるで出来の悪い悪夢か、B級ホラーの世界だ。だからきっと、これは 現 実 じゃ な い
「 あ、 ☐■☐な、gjh sn」
「もう止めて、現場の確認と前後の発言の整合性はとれたわ。充分よ」
「となると、犠牲者は簪中尉で間違いないようですな。惜しい人を無くした」
自白剤を投与された一夏は、意識があるのか分からない状態で、合図と同時に投入された麻酔でようやく眠っているようだ。
「瓦礫の下にBETAが残っていて被害を出すケースは少なくありません。今回のケースでもこれ一件ではありませんが……注意を促すにも限界がありますからね」
「それもそうですが、彼は大丈夫ですか? 虎の子と聞いていますが」
ベッドでよだれを垂らし、まるで精神疾患を抱えているような状態の彼は、とてもではないが今日BETAを大量に殲滅し、この基地を救った英雄には見えない。
「……再起不能であれば、捨てるしかないでしょうね。惜しい人材ではありますが、こぼした牛乳は元には戻せませんから」
そう言って、部屋から出る。複雑な感情を仮面で押し殺して。
長々と読了ありがとうございました。
誤字脱字 それを はずすなんて とんでもない !
如何だったでしょうか? 長々とここまで続けてみて下さった方々に感謝を!
実は全体からすると折り返し地点にはなるのですが、次から出てくるヒロインの設定がぐずぐずのビーフストロガノフ状態なので出来れば修正してから出したいです。
ちなみに現時点での全文はワードの表記で120k文字くらいある、正気の沙汰じゃあないぜ(笑)