千冬さんとか束さんの年齢って公式ありましたっけ? いや、別にないと書けない内容じゃないからいいんだけど……
第九話
色々あって、セシリアが天使だった。だが、一夏にそんな趣味はなかった。ドンマイ! お疲れ、セシリアちゃん! 実弾と光線が飛び交う戦場を、飛べ! 一夏!
箒の部屋から追い出されてしまったのだが、どうすればいいのか。
「特別任務は終わり、一夏君も充分休めたでしょう?」
そういって箒と二人で何処かに行ってしまった。別に自分のカードキーで自由に出入り出来るのだが、どうせならと思って自分と箒の分の食事をとって戻ってきた。何気ない会話をした後、再び用事があるといって寂しそうに出ていってしまった。気分転換にと外に出ようとしたら、ラウラと警備の人が言い争っていた。
「ふざけるな! 見ていなかったなどということはない!」
「そう言われてもですね、本当にあの日から見てないんですよ」
警備員の襟を掴み、締めあげるように問い詰める。一体何があったのかは分からないが、一先ずラウラを落ちつかせなければ。
「ラウラ落ちつけ! 一体何があったって言うんだ?」
「……一夏」
きょとんとした目で見られる。警備員の人もかなり驚いているようだ。あれ、もしかして特別任務が終わった事まだ伝わってなかったのか。
「本当に……一夏なんだな」
頬をぺたぺたと触られる。新手のスキンシップなのだろうか、別に駄目だとは言わないけれど普段真面目な雰囲気のラウラがこういうことをすると、少し違和感がある。
「お、おう。それより、何かあったのか?」
「……いや、何でもない」
何でもないということはないだろう。さっきの慌てようは尋常じゃなかったが、それでも今は一転して落ちついてるし、どういうことなんだ。
「その辺も含めて説明するさ。それより、セシリア達とはまだ会ってないんだろう?」
「あ、ああ。ついさっき戻ってきたばかりだからな」
「食堂に行っててくれ、私は皆を集めてくる。皆一夏の帰りを待っていたからな」
そうなのか、そうだとしたら嬉しいな。迷惑をかけてばかりだけれど、久しぶりに皆に会うのは嬉しい。気まずい別れ方をしたのにこうして再会を喜んでもらえるなら避けていた自分が恥ずかしい。
「ああ、わかったよ」
「……本当に、一夏さんですの?」
なぜか集まった面々一人一人に俺の存在を確認される。頬をつねられたり、持ち物を確認されたり、挙句の果てにはISを起動してみろと言われたり。
「これでいいか?」
左腕だけを部分的に出現させる。あまり楯無さんからは人に見せるなと言われていることではあるが、彼女たちの切羽詰まった表情に押し切られた。
「ほんとだぁ……」
シャルルが涙を流して、顔を抑える。ラウラがそれを抱き寄せる、けれどそのラウラもその瞳から溢れる涙は止まらない。
「ばっかじゃないの……」
そう呟いた鈴音は、流す涙を拭くつもりもない様だ。
「……いぃあざぁん」
セシリアに至っては何を言ってるのか分からないが、離れようとしないので子供をあやす様に頭を撫でてる。
「み、皆、大袈裟すぎやしないか?」
「貴様が鈍感なのだ、馬鹿者め。あんな事があってすぐに特別任務になどいきおって……帰って来ないかと思ってたんだぞ」
シャルルをあやしながらラウラが答える。言われて初めて、自分がどう思われてたかを知った。
「……そりゃそうだ」
一度くらい姿を見せておくべきだった、と今更思う。
「新兵器部隊様は随分と気楽なものだな」
半ば宴会騒ぎになっていたIS部隊を諌めたのは、戦術機部隊だった。ところどころに生傷や包帯が見られた。
「俺達のところには、戦術機の補給もねえってのによ」
噂通り、物資も人も足りていないらしい。そうでなければIS部隊を動かす事態にはなっていない。
「……なによ、気分悪いわね」
鈴音はそう言いながらも、居心地が悪そうに座り直す。他のメンツも少々浮かれ過ぎだと感じたのだろう。基地自体の状況は芳しくないのが事実だ。
「英雄様も戻ってきたことだしな! これはもう俺達はお払い箱ってことだろ!」
「次も英雄様なら、この基地を救ってくれるだろうさ」
「BETAなんぞ、怖くないもんなぁ」
一人が始めれば、皆が愚痴を言い始める。どうにも鬱憤が溜まっているんだろう。BETAの残党狩りが続いているとはいえ、もし本部隊がこの基地を襲ってきた時、耐えきれる保証はない。みなその恐怖に怯えているのだ。
「……気持ちは、分からなくもないんだけどね」
シャルルは表情を曇らせる。恐怖を覚える気持ちは分かるが、わざわざ士気を落とすような真似をしなくてもいいだろうに。
「気に入りませんわ」
セシリアが席を立つ。
「……あぁん?」
「随分と府抜けているようですわね、そんなだからBETAに負けたのではないんですの?」
凛として立つその姿には、確かに貴族然とした雰囲気があった。それに気押されたのかすぐに暴力を振るうようなことはなかったが。
「んだとぉ!」
戦術機乗りの一人が立ち上がる。二人が睨みあう形になる。
「セシリア!」
「止めないで下さいな!」
やぼったい声援と罵声が広がる。殴り合いなど、この基地の中でも珍しいものではなかったが、IS部隊が絡む事等一度もなかった。
「へいへいへい、貴族のおねいさん、拳の握り方は知ってるのか?」
「エスコートをお願いしますわ」
まず最初に手を上げたのは、戦術機部隊の方だった。握りしめた拳がセシリアへと向かう。
「……馬鹿者め」
ラウラが結果等目に見えているとばかり、その様子を見ずに呟いた。その拳が届く前に、セシリアは一歩踏み込んでいる。
「……拳の握り方も知らなくて、ごめんなさいですわ」
相手の勢いを利用し、内股を払い、派手に転ばせる。男はテーブルにぶつかり、派手な音をたてた。
「くそったれがぁ!!」
包帯に血が滲み、生傷が増えた。それでもなお、その男は闘志を失わない。振り上げた拳はなお、セシリアに向かう。
「喧嘩なら、勝てると思いまして!?」
二度目の攻撃も軽くいなされる。近接戦闘に関してはあまり長けていなかったセシリアだが、いずれこうなると知っていて、鍛えていたのだ。
「うるせぇ!」
幾度も攻撃を仕掛けるが、どれも結果は同じだった。何度も何度も、テーブルに男はぶつかりその度、傷を負った。それでもなお、立ち上がる事を辞めない。
「タフな男ね」
何度目かの突撃の後、彼の動きが鈍くなる。
「……ちくしょう」
「もう一度聞きますわ、喧嘩なら勝てると思いまして?」
彼の前に立ちふさがり、セシリアが問いかける。
「……うるせぇ」
「まぁ、普通に考えたら、年下の女に負けるとは思わないでしょうけど」
文句を言いたげではあったが、立ち上がるにも幾らか時間がかかる、彼には反論するだけの体力がなかったようだ。
「その点、私は負ける気はしませんでしたわ。それに見合うだけの努力してましたもの」
その言葉に、多くの人間が驚く。
「いつかという条件付きですが、こうなるのは分かってた事ですから」
セシリアがこれまで向かって来ていた男にゆっくりと近づく。
「あなたは、私と闘う準備をしてきましたの?」
答える事が出来ず、顔をそむける。
「勿論、するはずがないですし、する必要もありませんわ。ただ、その差がこの原因になっただけですの」
戦術機部隊の方に振り返りながら言葉を続ける。まるでそれは、演説のように、舞台の上のように彼女の声が隅々まで響き渡る。
「私達はやればできますわ、当たり前のように。体格差も経験の差も、必要な努力と手順さえ踏めばひっくり返す事が出来ますの」
もう一度、膝をついている男に尋ねる。
「あなたは何のために努力してきたんですの?」
「……BETAをぶっ殺すためだ」
今更になるが、当然の返答だ。妥当BETAを掲げていなければ、ここにいることはないだろう。
「あら、奇遇ですわね。私達もそうですわ」
そういって、笑みを作る。まるで女神の様に、天使の様に。
「けれど、もう少し私達には踏み込んだ目標がありますわ」
そう言うと、こっちのテーブルに振り向いた。
「そうでしょう?」
「ああ、IS部隊の目標は光線級に対抗することだからな」
平然と間髪なく、ラウラが答える。その返事に多くの兵士たちがざわついている。その中の一人に俺がいるのはどういうことなんだろうか。
「そ、そんなことが出来るのか?」
「新兵器なら、出来るのか?」
ざわつき、驚く兵士たちには疑問が浮かぶ。もしかすれば、これまで恐怖の対象でしかなかった光線級のBETAに対抗手段があるのではないか、と。それでも、これまで受けてきた損害を考えれば、とうてい受け入れられるものではなかった。
「出来ますわ」
セシリアが断言するまでは。その一言で、出来ないと断言するものはいなくなった。これまでのIS部隊の活躍、そして明らかに飛空による高速戦闘を考慮されている設計を見る限り、そうではないかと思う噂が飛び交っていたからである。
「とはいえ、ISの数には限りがありますし、完璧ではありませんの」
セシリアの言葉に一様に落胆の色が見える。
「だから、手を貸して下さいな」
未だに床に膝をついている男に、セシリアが手を差し伸べる。
「BETAは光線級だけではありませんもの。私達が光線級を倒す事が出来ても、他は無傷では話になりませんわ」
「……俺達は露払いかよ」
「さぁ、主役になるかどうかは、貴方次第ではなくて?」
舞台に立つまで、演じきるまで誰が主役になるかは分からないのだ。演目を演じるのではなく、皆即興で踊るのだから。
「順当にいけば、私達の英雄さんが主役になるでしょうけど」
その言葉に苛付いたのか、立ち上がった兵士が俺を指差す。
「てめぇには負けないからな!」
食堂での馬鹿騒ぎが終わって、自室に戻る。セシリアの演説が終わった後は、全員揃って意気投合していた。爪弾き部隊だったころとは大違いで随分と俺達は期待されているようだった。
コンコン
「どうぞ」
控えめなノックに扉を開けると、ラウラとセシリアがいた。
「ど、どうしたんだ」
先ほどの演説が嘘の様に体を小さくしてラウラにくっついているセシリア。このコンビが珍しいというのもあるが、態度が違いすぎるのも驚きだ。
「少し話があってな。入らせてもらうぞ」
ぶっきらぼうな話し方とは違って、思いのほか機嫌が良さそうなラウラ。
「……ふぇえ、いちかさぁん」
よろよろとラウラの肩を掴みながら部屋の中に入る。ラウラとセシリアは他に座る場所がないと見ると、ベッドに腰掛ける。
「一夏、さっきの演説はどうだった?」
ラウラのその言葉に、セシリアはかなり驚いている。いや、怯えているという様子だった。
「いや、流石セシリアだなぁと思ったぞ。まるで、ジャンヌダルクみたいだったな」
「だとさ、セシリア。練習した甲斐があったな」
「ほ、ホントですの一夏さん?」
どうしてそんなことを俺に聞くのかとも思ったが、それより気になったのが。
「練習した?」
「そうだ、あの襲撃以来、IS部隊を除く兵士たちの士気が下がり気味だったのと、一部の人間のIS部隊排斥の動きも見られたからな。それを何とかしようという動きにセシリアが一役買って出たというわけだ」
「それじゃあ、アレは全部演技だったのか?」
ラウラは笑いをこらえるのに必死なようだ。
「……どこまでが演技だと思う?」
「どこまでって……」
「これをする前にな、お前の思ってる通りサクラ役を設けようって話にはなったさ。だがな一夏、セシリアは要らんと言ってのけた」
ということは、相手は本気で殴りにかかっていたのか。そうでなければ、セシリアがこうなっているはずがないだろうと視線を向ける。つまるところの極度の緊張がほどけて、借りてきた子犬の様な状況になっているということだ。
「勿論、サクラを用意しないっていうのはメリットもあるが、デメリットも大きい。それでも、出来るとな。私も最初は心配だったが、言い回しや、喧嘩の指導を大真面目に受けているセシリアを見ていると成功するだろうとは思っていたよ」
当の本人は違っていたみたいだが、と付け足した。
「ももも、勿論成功すると思ってましたわ。で、でで、でも、実際に本番となると、足が震えてですわ……」
「ふふふ、わざわざ一夏の前でするとは、随分と演技派だと思ったが、この姿を他の連中に見せる訳にはいかんからな」
早々にパーティ会場から抜けださせてきたよ、と言う。確かに、あの雰囲気だけを見ると、皆の士気はかなり上がっているように見えたし、IS部隊へのマイナスな感情はかなり減ったんじゃないかと思う。
「その分だけ、期待が跳ねあがった気がするけどなぁ」
「なぁに、それこそ要らん心配だろう? 英雄殿」
勿論、あれだけセシリアに啖呵を切らせたのだ、ここで躓く訳にはいかない。
「そうだな、俺たちなら出来るさ」
そっとセシリアの頭を撫でる。改めて、自分たちが期待されているという事を再認識する。
「というか、ISって対光線級に作られたものだったんだな」
「うむ、そのあたりは微妙に違うけどな」
「え~と、元々はG元素の運用で幾つかのプランがあったんですのよ」
セシリアが話し始める。少し調子を取り戻してきたようだ。
「その中で採用されたのがスサノオ計画、G爆弾ですの。廃案となったものを数え上げればきりがありませんわ」
「そ、そんなに凄いものだったのか?」
G元素についての知識は、ハイブの中で製造されている地球内では見られない物質という程度にしか把握していなかったのだが。
「その当時は凄いかどうかも未知数なものだったようだがな。机上の空論を出ないものばかりだったが、桜花作戦以降、G元素を再利用できる形での運用を見直される形になった」
桜花作戦、オリジナルハイブの中枢を破壊した、最早伝説に近い作戦だ。シロガネ部隊という英雄まで作り上げられる始末なのだが、その詳細については上層部しか知る方法はない、らしい。
「スサノオの戦果は凄まじかったが、何体も生産するだけのコストは無い。第5段階以上のハイブへの破壊作戦には有効ではあるが、それ以外の広域作戦となると量産体制を整えるのに異論がでた」
「そこで前段階で廃案となったプランの幾つかが見直しされたんですの」
「その一つがISなのか?」
そもそも廃案になった様なプランだったのか。
「ああ、戦術機の内部に使用されている強化外骨格を利用し、G元素による高出力、高機動を実現する事によって現状問題となっている光線級に対抗できるのではないか、ということ」
「なにより使用するG元素の量が少ないことが決め手らしいですわ」
確かに、機体一つに対するコストはスサノオの様な巨大な機体を運用するよりはましだろう。
「最終的な計画としては宇宙での活動も想定に入れているらしい……そもそも、行動範囲が宇宙規模であるという意味を込めての命名だからな」
「そう……なのか」
元の世界との奇妙な一致、とも思ったが、自分たちの世界ではどういった経緯でIS計画と名付けられたのは知らなかった。それでも、宇宙での活動を目指していた、ということぐらいは知っていたが。
「BETAが外宇宙からの侵略者の可能性がある以上、最終的には宇宙に出ての活動も必要になってくる。その研究も進むというならということで計画の一つとして予算は分配されていた……んだけど」
そこで少し歯切れが悪くなる。
「何かあったのか?」
「今の楯無博士の目覚ましい活躍でようやく実用化に至ったのだが、それまでのパワードスーツとしての出来はとてもじゃないが、数年で実用化出来るとは思われていなかったらしい」
それを実用化に至らせたのだから、楯無さんは異例の若さで基地長を任されるまでになったらしいが。
「上層部の人間しか楯無博士の携わる前のIS計画を知らないから、何とも言えないが、な」
楯無さんに疑惑を持つ人間も少なくない、ということだ。それでも、俺はどうして楯無さんがISを作る事が出来たのか、と言う話を既に聞いてしまっている。確かに彼女は天才ではあるが、ISを完成させられる程逸脱はしていない。
「誰が作ったかなんて関係ないさ。まぁ、楯無さんには感謝してるけれど」
違いない、と笑ってラウラが返す。ようやくセシリアも落ちついたようで、自室に戻っていった。
「何か用ですか、楯無さん」
ある日突然呼び出された。楯無さんは用を言ってから呼び出すことは少ないので、正直少し慣れてきたところだけれど。
「ん、そうだね。少し聞きたい事があってね」
「……また、元の世界のことですか」
断片的にこちらの情報を聞き出そうとしてくる。勿論、隠す必要がないところは全部伝えているが、彼女自身技術的な部分を直接聞き出せないということを知っている以上、俺の拙い知識と白式の解析結果を照らし合わせながら、と言う事しか出来ない。
「そうだけど、今までと少し内容が違うかな。確か一夏君はお姉さんがいたんだよね」
「ええ、千冬姉さんが」
「年はどれくらいはなれていたの?」
そんなことが重要なのだろうか、少しいぶかしむ様な表情になってしまった。
「6歳ですよ。俺が今16だから、22だったかな」
世間一般からすれば少し離れた姉弟だが、別におかしいところはないと思う。
「……回りくどい言い方をするとかえって混乱すると思うから、率直に聞くね。本当に貴方達に血の繋がりはあったの?」
「何のことですか? 悪い冗談なら帰りますよ?」
首を振る。
「不躾なのは分かるけど、冗談じゃないわ。貴方は両親の存在をしらない、つまりそれを知っているのは姉の千冬さんだけだったんでしょう?」
自分は親の顔も覚えていない。そんな時から姉の手を借りて育ってきたのだ、相当大変だっただろう。
「よく考えてみて、貴方が自意識を持たない間。つまりは遅くて3~4歳の時から面倒を見ていたということになるわ。そんなの、10歳程度の子供に出来ることじゃないわ。少なくても、他の大人の庇護下にあったはずよ」
確かに、それに関しては異論はない。
「だったら、それは篠ノ乃の家の人たちにお世話になっていたはずです。その頃からの縁だったし、特におかしい事はないはずですよ」
そこでどうして血縁がない、と言う話になるのか。
「あぁ、ごめんなさいね、別に貴方とお姉さんの関係がどうというのが問題ではなくてね。問題は貴方とその千冬さんが生まれた時からその名前だったかどうか、ということなの」
「……は?」
「ようするに、貴方は幼い頃に両親から捨てられた、もしくはその両親が他界している訳でしょう。もしもその千冬お姉さんが両親を快く思っていないのであれば、或いは名前を変えている可能性もあると思ってね」
どうしてそんなことをする必要があるというのだ。
「あくまで可能性よ。もしそうなら、織斑一夏という名前を探し続けても見つからないということに納得がいくわ」
要するに、セシリアや鈴音がいるのに俺だけがいない、という現状の結論が、俺の名前が偽名である可能性がある、ということらしい。
「……単純に探し切れてないのでは?」
「そう言われると耳が痛いわね。そうじゃないとは言い切れないからどうしようもないのだけれど、正直これ以上打つ手がないのよ」
篠ノ乃姉妹についても同様に、ということだ。
「この付近に篠ノ乃神社は確認したわ。その名字を持つ家系も確認した。現在はその全てがBETAとの争いで死亡が確認されてるわ。その中に、箒、束という名前はなかったけれどね」
つまり、俺と千冬姉さん、箒と束さんだけがこの世界で確認出来ないのだという。
「でもそれも、漏れがないとは言い切れないんですよね」
「これでも相当労力を割いてるのよ? 大凡9割程度は調べ切れていると思っていいわ。それなのに見つからない偶然をただの偶然で済ませる訳にはいかないでしょ?」
残りの1割を信じるよりも、もしかすれば俺からの情報の大元に間違いがある可能性を探っているのだろう。
「正直言うとね、一夏と千冬って名前はともかく、箒や束が名前になっているなんて疑問なのよ。あんまり私が言えることではないとは思うけどね」
確かに、それを理由に小さい頃苛められていた程度に、特異な名前ではあると思う。
「でも、だから偽名って言うのは単純過ぎませんか?」
「篠ノ乃って神社でしょう? それで世襲制なら、実名じゃなくて襲名した名前、或いは特別な時に名付けられるものじゃなかったりしないの?」
どちらがどう、ということではないが、家の仕来りによって偶々、名付けられる名前が変わってしまったのではないか。
「それは、なくはないでしょうけど……」
そこまで深い事情については知らないが、箒の祖父の名も龍韻と珍しい名前だ。由来は聞いていないが、実名ではないのではないかと思う。もしくは、こういう子にはこういう名前を付ける、という風習の様なものがないとは言い切れない。
「はぁ、ないとも言いきれないのね。なら、名前で辿ってもこれ以上の成果は出ないわ」
無駄足ね、と楯無さんは言い切った。
新たな作戦を指示すると呼び出された。いつものブリーフィングルームで楯無さんを見る。
「え~、こうして集まってもらったのも他でもないの。待望のBETA殲滅戦を行うわ」
そう言うと、プロジェクターが映し出される。
「数はおよそ3千、その内光線級が100~200程の群体よ。ハイブから進行が確認されてから1週間が経ち、恐らくはこの基地を目指しているものとみられる。早いうちに手を打たないと手遅れになるのだけれど、光線級が最後尾に構えているだけあって、戦術機での対応となると大規模な損害が見込まれる」
つまり、ISの本領発揮ということになる。
「貴方達は雑魚の相手はしなくていいわ。パッと飛んでいって、光線級だけを潰してきて頂戴」
「……は?」
光線級の前には扇状に広がるBETAの群れがいるのだ。それを無視するならば、随分と大周りすることになる、そうなってしまうと基地までたどり着いてしまう可能性もある。
「やぁね、何のために貴方達を呼んだと思ってるの。真正面が一番層が薄いからこの上を最高速で飛んでもらうわ。その為に、距離千まで加速して接近、高度五千を維持し飛行し、BETA群を越えた地点で高度二千まで下降、その後に光線級の殲滅して頂戴」
時と場合によるが、今回は高度四千以上が光線級の射程範囲だ。つまり、光線級のレーザーを掻い潜ってという作戦になる。
「ハイパーセンサーと視覚情報のリンクは常に行うけれど、高速移動中は0コンマ02秒程の遅れが確認されているから注意してね。エネルギーフィールドは約4秒程耐えられる計算よ。絶対防御領域に達する場合、1秒程でエネルギー切れになるわ」
実質そこまでいってしまうとほぼ失敗だろう。となると直撃は命に関わる。
「最高速で仮定すると、20秒弱で光線級までたどり着くわ。これまでの訓練の中でも簡単な部類に入るから、貴方達なら出来ると信じてるわ」
20秒の内の4秒はレーザーを浴びていい計算になるが、それも最高速を維持できたら、という計算だ。
「それともう一つ、お知らせというか、紹介したい人がいるの」
そう言って、部屋に入ってきたのは箒だった。
「なっ!?」
「初めまして、私の名前は篠ノ乃箒です」
「あなたは、篠ノ乃束でしょう」
「……違うわ、私は篠ノ乃箒」
ISの格納庫の中で、更識楯無と篠ノ乃箒が対面している。更識楯無の腕には拳銃が握られている。
「ならどうして貴女はISの知識を持っていたの。どうして、絶対領域の仕組みを書きだす事が出来たの?」
少しだけの沈黙の後に篠ノ乃箒が返事をする。
「あれはもう、覚えていない」
「どういうこと?」
まさかここまで来て、とぼけようとするのだろうか。
「とぼける訳でも、ふざけている訳でもない。ただ本当に、あの時は頭に浮かんだものをそのまま書き写していただけ。理解していた訳じゃない。それは今も同じ」
「それはつまり、今も情報が流れ込んでいるという事?」
「一夏と隣にいると、頭の中に直接情報が流れ込んでくるの。その前から断片的なものは流れ込んできた」
「でも、一夏と一緒にいると流れ込んでくる気憶は、篠ノ乃箒のもの、ということなのね」
つまり、篠ノ乃箒だった訳ではなく、一夏と一緒にいる経過を経て、彼女は篠ノ乃箒になった、ということなのだ。
「だから私には篠ノ乃箒の記憶しかないのだ。それが、一夏と過ごして、私が篠ノ乃箒として認識されていたからなのか、それとも元々私が篠ノ乃箒だったからなのかは分からないが」
とにかく、それ以前の記憶は存在しない、ということらしい。
「一夏が何か、ブースターの様な役割をしていると仮定しても、それ以前から貴女は受信機の役割をしていたはずよ。それは今も続いているの?」
「……続いているとは思う。ただ、極稀にしかなかったものなのは、貴女も知っているだろう」
彼女を保護し続けて数年経つが、情報を得られたのは数度のみ。受信した事全てを書きだした訳ではないだろうが、それを含めても年に何度かという程度なのだろう。まだこの段階では判断できない、ということなのだろうか。
「じゃあ、貴女の体はどちらかというとBETAに近い物質でできていることについて、何か知識はないの?」
「私はBETAの変異体だ」
きっぱりと告げられるとは思っていなかったのか、更識楯無は戸惑う。
「勿論確証はないが、断片的な気憶の中に、自分がBETAとして作られているものがある。それが本当に自分の気憶という保証はないけれど、自分の気憶として判断出来るからな」
「BETAになる瞬間を覚えている、と?」
少し間が空いて、返事が来る。
「BETAと篠ノ乃が融合する場面を、恐らくBETA側の視点で記憶しているのだ」
少し悲しそうにそう呟く。
「なら、君は……BETAなのかな?」
地鳴りが聞こえ、体が震える。BETA群が近づいているのが分かる。
「時刻一〇〇〇、IS部隊発進してください」
距離一〇〇〇〇、前列との衝突までおよそ八〇秒、亜音速までスピード上げた段階で、光線級の射程に入る事になる。
「現状、データに変更はないわ。訓練通りに行けば、数分後には決着がついている」
「サー、訓練通りの平常心で挑んでますよ」
「むしろ、コンディションはそれ以上、ですわ」
楯無博士はこんな時まで軽口を叩ける余裕に舌を捲いている。
「そう、行って来なさい。パーティーに遅れるんじゃないよ」
前列まであと距離四〇〇〇、一五秒弱で接触する。この速度で移動する物体に対抗手段があるとは思えないが、ここから高度を上げる。
「高度二五〇〇、三〇〇〇、三五〇〇……熱源反応、来ます!」
ISのリンクデータとハイパーセンサーから光線級のレーザーの軌跡の予測がはじき出される。機械の様に正確なその軌跡は俺達の姿を捉えている。
「……命取りだ」
高度四〇〇〇を超えてから五秒、一射目が放たれる。網の目を抜けるように、IS部隊は避ける。
(次弾まで五秒、つまり二射目は二秒後、三射目が五秒弱)
恐ろしいまでの正確無比な射撃は、データ通りの軌跡を描く。
光線級の後衛が放つ二射目も、データ通りだ。不意を打たれて放たれるものならともかく、避ける性能をもってすれば容易い。なにより、直線状のレーザーを正面から受けるのだ。言ってみれば点状の攻撃に当たる事はない、正確無比であろうとだ。
(恐れは……ない!)
二射目、三射目からエネルギーの充填が必要なのか、スピードが落ちてくる。最速は二射、次は四射、六射目、小型と大型では連射の機能も違う。六射目まではほぼ同タイミングと見ていい。
(上手く行けば、六射目は無い)
一射目五秒、二射目七秒、三射目十二秒、四射目十四秒、五射目十九秒、六射目二十一秒、順調にいけば六射目はない。
二射目のレーザーが放たれる。これもまた、難なく避ける。
「小型光線級、熱源反応上昇しています!」
三射目のレーザー反応、予測軌道がハイパーセンサーにて映される。
「よ、予測よりも早くありませんの!?」
予測通りだけれど、時間が長く感じる。極度の緊張と集中していることもあるのだろう。
「セシリア!」
シャルルが叫ぶ。レーザーの端がブルーティアーズのエネルギーフィールドを捉える。
「きゃあ!?」
速度は落ちたが直撃には至らない。エネルギーの残量は問題ない。
「来るぞっ!」
それでも四射目が来るまで二秒しかない。立て直す時間もないが、まだ大丈夫だ。連続で被弾することはなかった。
「ま……だまだ、ですわっ!」
それぞれの余裕が無くなってくる。だが、五射目まであと五秒ある。最高速を維持することは出来なかったが、それでも五秒間の猶予は大きい。
「皆さん、気を付けて下さい! タイミングをずらしている光線級がいます!」
オペレータの指示と同時に、少ないが複数の光線の軌跡が描かれる。
「しまっ……」
多方へのサポートに気をとられたのか、ラウラがタイミングのずらされたレーザーに直撃する。
「ら、ラウラッ!?」
「落ち付いて、スピードを落とさないの!」
鈴音が唯一最高速を保って、先頭を維持している。直撃をしたとはいえ、時間にして一秒に満たない。
「α1、損害軽微! 速度は落ちましたが、航行に問題はありません」
苦しい表情をしているが、ラウラが最後尾につく。隊列に少々変更があった。
「五射目、来ます!」
小型の二度目のクールタイムが終わり、細い光線が交差する。
(距離七五〇、もうすぐだろ!?)
連射性能も高くないのか、少し精度も欠いているように感じた。一夏の白式は機体性能に助けられてか、鈴音の次に位置している。続いて、シャルル、セシリア、少し離れてラウラという順だ。
「距離二五〇! 六射目、来ます!」
管制室の空気が止まる。大型の光線級のレーザーは、距離が近くなった事で、交差しぶつかり合い、拡散することで広く道筋を阻む。
「っ、どうなったの!?」
楯無博士が一時的に止まった映像を見て叫ぶ。
「処理速度が追いついていないだけですよ! モニタ、出ます!」
苛立っているのか焦っているのか、管制官も語尾が荒くなる。
「……IS部隊全機、突破してます」
鈴音が一番槍言わんばかりに、一番近くにいた小型の光線級を串刺しにする。
「さぁ、こっからフィーバータイムよっ!」
「今度は私のスターライトをお見せしますわ!」
「……先ほどの礼、倍にして返させてもらう!」
「早めに終わらせないと、後がつかえてるからね」
全員が突破した事を確認すると安堵してしまう。だが、俺達の役目はこれからと言っても良い。勿論、敵陣の真っただ中にいる以上危険度は然程変わらないが。
「α2より管制室、これよりフェイズ2に移行します」
前線のBETA群が戻ってくるまでに、ここにいる光線級200体を殲滅しなければならない。およそ移動時間に10分弱といったところだが、そこまで時間は必要ないだろう。
スターライトが光線級を纏めて貫き、ラウラの電磁砲が纏めてなぎ払う。小型の光線級は取りつこうとし、大型は角度を上げてレーザーを放つが、高度を四〇〇〇以下に保っている以上、直撃はない。
「こういう時に、広範囲兵器がないのは面倒だよね」
アサルトライフルで足に当たる部分を潰し、シールドブレイカーで止めを刺す。ヒットアンドアウェイのため、前の二人と比べると討伐数自体は少ない。
「持ってるのに使わないのもいるしねぇ」
「自由に動き回るからだろ……」
その後の隊列に関しては、ラウラが急遽後方支援に変更になったため、お互いの動きを見ながら、と言う感じである。この状況だと荷電粒子砲を使えば、討伐数は伸びるだろうが、誤射の可能性を考えるとあまり撃ちたくない。
「改めて思うけど、一夏って……無茶苦茶ね」
同じ近接武器のみで光線級を相手しているのだが、それでもなおシャルル、鈴音の討伐数と一線を画す活躍を見せる。後方支援組には劣るのだが。
「これで最後、っと」
アサルトライフルが何十発と突き刺さり、大型の光線級を蜂の巣にする。
「IS部隊各機に告ぐ、戦線を戦術機部隊に任せ、一時撤退せよ」
楯無博士の指令が下る。鈴音は少し不完全燃焼気味だったが、確認のサインが出る。
「周囲に光線級の反応は?」
「ありません。高度四〇〇〇を保ち、基地まで帰投してください」
ラウラの機体のEN残量が減っている程度で、損害と言う損害は見られない。それでも、白式以外はメンテナンスが必須だろう。
「……よくやった、あとは私達に任せろ」
楯無博士はそれっきりで通信を切ってしまった。中々見れない感情的な部分を見てしまって思わず笑みがこぼれてしまう。
「α2、帰投します!」
長々と読了ありがとうございました。
戦闘とか凄い好きなのに、全然書けないや、誰かこの人凄いよ! っていうのがあったら教えて下さいorz
今回は文字数多めですが、正直話数区切ってる意味もあんまり感じていないのでいいかな、と思います。
まだまだ先は長いので、暇を持て余してる方がおられましたらお付き合いの方お願いいたします。