対魔忍になりたかったのにどうして鬼殺なんだ!? 作:Meat Toilet
恋雪さんがログインしました。
嫌な夢を見ていた。
「この泥棒猫! よくも私から狛治さんを奪おうとしたわね!」
ギリギリと締めるのは、儚げな色白の肌の触手が似合う女性だ。
美人なんだろうな。今は憤怒の形相で締めてきて恐ろしいが。
「奥さん、ちょっと落ち着いて」
「やだ、奥さんだなんて……私と狛治さんはまだ祝言を挙げる前よ」
パッと離し、ポッと顔を赤らめた頬に手を当てる彼女のなんと可愛らしいことか。さっきまでの憤怒はどこにいったのだろうか。そんなことより、この状況は一体何なんだ。
「あの、これは一体……」
「なんですか、泥棒猫」
「失敬な。私は他人を寝取るんじゃなくて、他人に寝取られる側の人間だ。その不名誉な呼び方はやめて」
「泥棒猫以外の何だと言うんですか! いいですか、私と狛治さんは夫婦だったんです! それをぽっと出の貴方が奪うのはいけません!」
「誰がいつアンタの夫に手を出そうとした!? てか、その名前の男と出会ったこと無い!!」
「会ったじゃないですか! 私の狛治さんに!」
ハクジなんて知らんがな。
直前の記憶を掘り返してみよう。ハクジなる人物に該当しそうな人間だろう。駄目だ、どれも違う。いや、待て。逆転の発想だ。人間じゃなくて鬼かもしれない。それなら、直前に会った淫乱ピンクがもしかしたらハクジかもしれない。
フゥー。
「男の趣味悪っ」
「狛治さんを悪く言わないで!」
「無茶言わない。あんなド変態ピンクを好きになるなんて正気なの?」
「狛治さんはとっても良い人よ! それを変態呼びしないで! 狛治さんはとってもカッコいい人なんだから!」
「でも、半裸で変な入墨あって髪の毛は淫乱の象徴とも言える桃色だ。これを変態と言わずして何と言う? というか、変態じゃない男はいない。男は皆、女の子に対して変態的な要求をしたがり、変態的な趣味を持っているんだ。ハクジさんとやらだって隠れて誰かが描いた春画を所持していたかもしれないんだ。気づかないだけでハクジさんとやらも例外ではない!」
「そんな……狛治さんに限ってそんなこと……!」
「否定できるの? 貴方はハクジさんの性癖を全て熟知してるの?」
「私は……」
よし、勝った。で、思う。
狛治さん、狛治さんと呟く彼女は一体誰なんだろうか。
「貴方の名前を聞かせて」
「恋雪です。貴方は?」
「私は秋山凜子。それで、貴方は何者なの?」
「私は狛治さ……今は上弦の参・猗窩座の妻となるハズの女でした」
「ふむ……」
もしかして、私って死んでる? ああ、違う? よかった。
恋雪さんが語った内容は、正直に言って悲惨だった。
狛治さんは病気の父親を助けるため盗みを働き、捕まってそれを嘆いた父親は自殺。悲嘆に暮れる彼を拾ったのが、恋雪さんの父親で楽しい生活を送っていて逆プロポーズして結婚も間近になったある日、近くの剣術道場の門下生が井戸に毒を放り込んで父親と恋雪さんは命を落とした。その後、狛治さんは門下生をぶっ殺し、鬼舞辻無惨が鬼にしたんだと。
「で、それがどうしたの?」
「狛治さんを理解してほしいのです」
「理解するし、同情もする。それだけだ。人を食い殺してイイ理由になるとでも思ってるの?」
「そのような事は思ってません。私は貴方に対して酷いことをしてしまいました」
私の思考が筒抜けだったらしい。あの、抵抗虚しく凌辱される云々を考えていたのをNTRされると勘違いして猗窩座を止めなければいけなかったのに、逆に手助けしてしまったんだとか。
例えるなら、寝取られの予感がした達郎が寝取らせまいと普段以上の力を発揮するようなものか。
「赦してほしいだなんて思ってません。私は狛治さんを止めなかった。止める事もできません」
「死んだ人間がどうこう出来るなら、苦労しないよ。貴方は安らかに成仏でもするんだ。生きてる奴のことは生きてる奴が何とかしておくから」
次会っても勝てるかどうか怪しいところだがな。ほら、私って対魔忍だから。対魔忍されてしまうかもしれない。
そんな内心とは関係なく、恋雪さんは深々と頭を下げる。
「どうか、狛治さんを止めてください。お願いします」
「任せておきなさい。コテンパンに叩きのめしてくるから」
「あの、出来れば優しく」
「筆を下ろせと?」
「……やっぱり絞め殺したい」
「冗談だ。大体、そういうのは貴方の役目だ。貴方たちは夫婦なんだか……ら……」
恋雪さんが真っ赤になって俯く。まさか……!
「そういうのはちゃんと結婚してからで……私と狛治さんはまだ出来ません」
「おいおい、鬼になって当然か」
きっと弱い奴というのは弱い奴(童貞)ということなんだろう。きっと猗窩座は童貞を捨てられなくて鬼になったかもしれない。鬼ってもしかして童貞と処女のモテない非リア充集団か? じゃあ、私を勧誘したのは処女を捨てられないというのを解ったから? よし、殺そう。
そんな事を考えていたら、恋雪さんの額に青筋が出てることに気づく。
「冗談だ。貴方の願いは解りました。必ず私がやり遂げてみせましょう」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げる恋雪さんを最後に私は目を覚ますのだった。
目を覚ますと、ヤケに日差しが眩しく感じた。
それなりに怪我していたハズだが、寝てる間に傷が塞がったのだろう。病院で着てるような服を着せられ、誰かが治療して病院に放り込んだのだろう。鬼殺隊にそんな施設はまだ無かった筈だから、どっかの病院だろうか。明治後期に病院なんてあったっけ? まあ、いいや。体バッキバキだし、これ絶対何日も寝込んでたわー。
とりあえず、長い眠りから覚めたらやってみたいことがある。
「ここはどこ? 私はだぁれ?」
なんてやってみたけど、誰もいないから意味はな──―
「あ」
須磨さんがいた。長兄の嫁。おっぱい星人の長兄のストライクゾーンど真ん中の彼女には、私が現代から引っ張ってきたエロ知識を教えてあげたまではいいものの、私に『耳年増』という評価を与えたとんでもない奴だ。事実だけどさ!
彼女は目にいっぱいの涙を溜め、ダイブして抱きつく。
「凜子ちゃん、須磨お姉ちゃんを忘れちゃったのっ? お願いだから、私のことを思い出してー!」
「「凜子ちゃんが記憶喪失!?」」
「あっ、舞鶴さん、まきをさん助けひうっ」
同じように飛びついてきた。嘘だろお前たち!?
「冗談だから! 泣きつかないで! うぎゃぁー、涙と鼻水で服がぐちゃぐちゃになってるぅー!! 助けてお兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
それまで寡黙なクールビューティを目指していた私は、キャラ性も何もかもかなぐり捨てて長兄を呼ぶのだった。
堕姫ちゃんって可愛いよね。普段はツンツンしてるのに、いざヤラれると泣いてお兄ちゃんに助けるあたりが特にね。プライドをズタズタにへし折って泣かしたい。