対魔忍になりたかったのにどうして鬼殺なんだ!? 作:Meat Toilet
この世は地獄だと思う。
刀鍛冶の里に行ってきたまではいい。小さい老人が長にして、里一番の鍛冶師である鉄地河原鉄珍だという。
名前的に鉄のチンを想起したが、本人は至って普通の女好きだった。ひょっとこは仕様だったんだな。
里では特別な事はしていない。
刀を黒鉄塚さんに打ち直してもらい、敬愛する秋山凜子が対魔忍スーツの上に着けていた手甲と足甲を作ってもらったくらいだろうか。ハイヒールにしたかったけど、明らかに動きが悪くなるだろうってことで却下された。くそっ、対魔忍になれないじゃないか!
『惡鬼滅殺』と掘られた日輪刀を受け取り、里を出て私は蝶屋敷へと戻った。
その帰った翌日にしのぶちゃんの稽古に付き合ってあげたが、岩柱にすることは物理的に不可能だった。
まだ全集中の呼吸こそ身に着けてないものの彼女はすばしっこく、中々に才能溢れる美幼女ちゃんだ。でも、いかんせん筋力が低い。これは今後に期待かな。でも、後に首切れないって公言してたから、伸び代は絶望的だろう。後の対魔忍のエロ枠担当かな。私は両方で、カナエは戦闘を担当するってことで完璧な布陣だ。甘露寺蜜璃は私と同じく両方担当させよう。
そんなこんなで任務をこなしてたある日、私は鬼殺隊のとある場所で前田まさおのいる所にいた。
そして、ここで問題が発生してしまった。
「前田、いるか?」
「これはこれは鳴柱様。私に何かご用ですか?」
「隊服の件で話があるんだ」
「ほほう、隊服ですな?」
キュピーンと前田の眼鏡が煌めく。
私の隊服はいつぞやの闘いで爆発に巻き込まれてボロボロになったから、前田に頼んで新しいものを用意してもらったのだ。
「渾身の一品です。試着室はあちらですので、どうぞ着てください」
早速、着てみることにした。
懲りない男だった前田は、胸元が開いたミニスカートの今の時代ならスケベの部類に入る隊服が前の隊服だ。
しかし、今回着た隊服は前回とは違う。
「今回はスカートの中が見えないようキュロットにしました」
「なるほど」
膝上で脚フェチならば、泣いて喜びそうな仕上がりだ。対魔忍なので、自分の容姿と体は至高の領域にあるのでこれは素晴らしい仕上がりだろう。
前田は泣いて喜んで拝み、他にいる隠の人達も見惚れていることから気持ちは分かる。
しかし、だ。
「これはボツだ」
「な、なんですと!?」
ガーンとショックを受ける前田に私は続ける。
「確かに普段は隠さなければいけない脚をさらけ出すことにより動きやすさを見込めるし、女性はしなやかで柔らかいからこそ短いスカートの方が効率的だ。しかし、前田。貴方が自身の趣味や性癖を優先すれば、女性隊士を死なせてしまう危険性があることを知らなければならない」
「解っています……! しかし、それでも私は……私の手掛けた隊服を女性に着てほしいのです……!」
汚泥にまみれた魂の叫びだった。
そのあまりの汚さを秘めた悲痛さに罪悪感に苛まれるも、私はここで手を緩めてはいけない。
「胸元が開いて私のように胸の大きな女性が着れば、それはとても見栄えが良いだろう。しかし、考えてほしい。本来、この部分は急所であることを忘れてはいけない。隊服は身を守るために存在している。本来ある防御力を減らし、危険に晒す人間がいると思うか?」
「それでも、私はこの隊服を着てほしいのです……!」
「……気持ちは痛いほど理解できる」
「本当ですか、鳴柱様!」
「このままでは、前田の服は誰にも受け入れられまい。しかし、この隊服の案ならどうだ?」
「こ、これは……!」
そうして私が提示したのは、対魔忍スーツという名のピチピチエロスーツだった。
「隠すことが重要だ。肌に張り付くように仕上げることにより、服の摩擦抵抗を減らしてより動き易くする。更に重要なのが、体の線を浮き彫りにすることでより立体的な官能を楽しめることになる!」
「なるほど。これならば、女性隊士も受け入れやすいかもしれません」
「そうだろう?」
「ですが、これは私の感性に響きませんねぇ」
な、なんだと……!?
「やはり、私は鳴柱様の着る隊服こそが素晴らしいと……ドンピシャだと思います!」
「さらけ出し過ぎなんだ。ここは敢えて隠し、肌に張り付くような作品にして、体の線を強調させる服にするべきだ。隠せてるように見えて、隠せてないというこの淫靡さの何が駄目なんだ」
「そのような服は恥ずかしくて女性隊士には着ていただけないと思います」
これには温厚な私もキレるわぁー。言ってること真逆じゃん。
「それを言うなら、前田の作る服の方が恥ずかしいと思うな。確かに強い鬼と対峙すれば、隊服の防御力は関係ないかもしれない。しかし、ここで防御力を低めれば弱い鬼にさえ殺られるかもしれないんだぞ」
「確かにそうかもしれません。しかし、これではあまりにも破廉恥です……!」
「破廉恥なのはお前の頭だよ。残念でならないよ、前田。貴方は世の女性のため、今ここで頸を差し出してもらおうか」
「で、殿中で御座るゥー!」
結果、近くを通りかかった長兄によって止められた私は前田と一緒に小一時間説教された後にしばらくの接触禁止令を言い渡された。ちなみに止めようとした際、長兄が胸元を見下ろして吹いたので、男性用の上着を着ている。
この世は不条理だ。地獄だ。
何故、対魔忍スーツの良さが解らないというのだろうか。あれほど、機能性に富んだ服は無いだろう。エロさを兼ね備えつつ、動き易さも兼ね備えている。これを考えた人は時代の最先端をいく天才だと思う。
実際に着てみればよかったかもしれない。しかし、図面しか作成しなかったばっかりに前田には受け入れ難かったかもしれない。
「やっぱり、自作してみるしかないか」
そう結論づけた時だ。
大勢の人が寺院に入ってくのが遠目ながら見えたのだ。
「宗教か」
昔、日本ではセックス至上主義を経典とした宗派が存在したらしい。そもそも、日本は成り立ちからして性行為とは切っても切れない関係にある。国が生まれたのは神様同士が後背位で性行為した結果らしい。
性行為によって悟りを開けるといった仏教の教えも存在するし、日本という国は昔から性に対しておおらかな国柄だった。そこへ欧米列強のキリスト教だの何だのといった宗教観が混ざりこんでいって、禁欲的な性活を余儀なくされて抑圧されたリビドーが『寝取られ』や『触手』、『リョナ』、『人体改造』というジャンルが生まれたのだ。つまり、女性らしく慎ましやかといったそういうのは古き良き価値観ではないと思う故に私は常識人ということになる。
もしかしたら、見た感じ寺社仏閣といった類の寺ではないことが窺えるあの場所ではリアル対魔忍プレイを拝めるかもしれない。
「むむっ、鬼の気配がする。これは是非とも調査しないといけないなー」
嘘である。
鬼殺隊の柱として今は任務中なので寄り道は出来ないが、鬼の気配がしたから調査する、という名目があれば角が立つことはない。
という訳で、おっ邪魔しまーす☆
「万世極楽教……なるほど」
なんともエロい響きだ。万世における極楽というのは、全てエロへと通じているに決まっている。
信者からの話を聞き、妄想が更に拍車をかけていく。
なんでも、女性を上納すると良いらしい。とんだエロ教祖だな! さぞかし、夜の悪代官ごっこを楽しんでそうである。ここで対魔忍である私が乗り込んで捕まることにより、それはもう酷い事をされてしまうのだろう。くっ殺!
教祖のいる部屋への侵入は容易だ。この時代に赤外線センサーだの何だのといったものは無いので、人目さえどうにかすれば問題ない。
さあ、エロ教祖! 勝負だ!
「おや、珍しいね。こんなところに鬼殺隊の女の子が来るなんて。しかも稀血だー」
鬼だった。
「失礼しました」
そっと扉を閉じ──―
「帰ろうとしても駄目だよ。俺は君と話したいな」
ナンパかな?
次回、容赦ないセクハラが童磨を襲う。