対魔忍になりたかったのにどうして鬼殺なんだ!?   作:Meat Toilet

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第15話

「私は柱失格だ」

 

 鬼の頸を斬りながら、切実にそう思う。

 お館様に謁見を求め、洗いざらい全てゲロったのは言うまでもないだろう。事情を話したら優しくお説教された。自己犠牲はやめてほしいだって。

 悪くない提案だと思っていたが、鬼殺隊側からしてみればただでさえ強い鬼なのに稀血を与えるってどういう了見だって話だろう。食われるよりマシじゃないかなって思うのだが、ダメなのかな。一応死なない程度で、とは言ったものの再起不能にされたら他の鬼を殺せないんだぞ。

 一人が血を与えることで被害が無いのなら、鬼による被害を無くしたい鬼殺隊にとっては泣いて喜ぶべき事だろう。と言いたいが、やったことは自己犠牲なので褒められた行為ではないだろう。

 鬼の言うことは信用できない。陰で人を食らっているかもしれない。

 そんな事を言われたところで、どうすりゃいいんだって話だ。刀を振り回すには不利な室内で戦って全部食われたら、それこそ目も当てられないだろう。潔く死ねと? 

 そういった具合で理論的に述べたところで、鬼殺隊は鬼を殺すためにあって鬼に血を与える慈善団体ではないというのがお館様の言葉だ。

 とりあえず、この上弦の弐との取引は他言無用になった。長兄にすら知られていないお館様と私だけが知っていることだ。それでも、私が責任持って猗窩座と童磨を倒さないといけないのは変わらない。

 猗窩座よ、出来る事ならしばらく出てこないでほしい。お前と決着つけたら童磨に殺されてしまうだろうが。

 などと考えていた時だ。

 

「このクソ女がァー!!」

 

 背後に鬼がいることに気づくのが遅れてしまった。

 肩に一撃貰っても大丈夫だろう。骨が折れたところでもう片方の腕で頸を斬ればいい。

 そうして左肩を爪で裂かれ、私は鬼の頸を斬り落とした。

 

「はぁぁぁ、エロいことしてぇー」

 

 なんで殺すことしか考えてないのだろう。そこは犯すだろう。くっ殺させるところだろう、対魔忍させるところだろう。なんだって、人のことを食糧にしか見ないんだ。少年誌だから、アダルト厳禁なのは分かる。じゃあ、私の寝取られヒロインとしての立場はどうなるというんだ。ただ鬼を殺せと言いたいのか! 

 なんというか、刺激が足りない。

 来る日も来る日も単独で鬼殺だ。他の隊士と協同なんてした事ほぼ無い。何故かって私の刺激が強いからだよ。

 同じくの一でも嫁三人衆はあれでも外ではちゃんとした服を着てるのだ。それでも耐性のない野郎からしてみれば、目の毒らしい。対魔忍としてやっていけそうな彼女たちが目に毒というなら、対魔忍である私は猛毒だろう。

 前田プロデューサーの用意したスケベ隊服は着替えさせられ、今では男用の隊服を着させられても猛毒から毒に変わった程度で未だに誰かとの協同なんてさせられないらしい。そもそも着替えさせられた原因は、協同で任務に当たった同期の村田が鼻血を出して地に沈んでいた痛ましい事件があったからだ。それ以来、男性隊士とは協同任務は出来ず、出来ても女性隊士なのだが、嫉妬で狂いそうになるらしくて駄目になった。それと色気がやばいかららしい。こちとら、まだ処女なんだけどなんで嫁三人衆よりも色気があるんだろうか。

 

 

 怪我した肩を治療してもらうため、蝶屋敷へと向かう。

 いつの間にか柱に任命されていた胡蝶カナエとは仲はいいものの、やはり胸の話となると目が笑わないので地雷となっている。しのぶちゃんは背丈の話となると、顔が般若となるので地雷だった。

 こうして考えると、私は地雷原の上でタップダンスするのが得意らしい。大抵の鬼も私に対して怒り狂って襲ってくるし。唯一怒らないのは童磨くらいか。そして、地雷を気にしないで話せる相手は童磨というあたりで人間より鬼と仲のいい鬼殺隊士って何なんだろうと思う。

 いよいよ以って柱失格ではなかろうか。鬼と仲良くしたいとかカナエが言っていたので、数百人単位で人を食った経験のある童磨を紹介しようと思ったが、彼女は童磨と別ベクトルでヤバいので引き合わせるのは止めておいた。同族嫌悪的な感じで殺し合いそうだ。

 そんな事を考えながら、私は蝶屋敷の正面入口ではなく裏手から入る。気分的にはアオカンするカップルをコッソリ茂みから覗くような感じだ。

 物理的に人間とコミュニケーションを図らせてもらえない私に対して、カナエもしのぶちゃんもコミュニケーション有りだし美人なので言い寄る男は多いだろう。しのぶちゃんに至っては小柄であるものの、胸は膨らんできてるので対魔忍になれる素質は充分あるだろう。Y豚ちゃんはロリのみだったが、しのぶちゃんはロリに巨乳も属性が付加されるだろう。なんと素晴らしい世の中だろうか。あとは触手とオークがいれば完璧だ。

 カナエかしのぶちゃんを捜そうとしたら、正面入口の方からカナエの声が聞こえたので自然と足が向かう。

 

「冨岡くん、またどこか怪我したの?」

 

 おや、義勇がいるのか。

 何故か私を徹底して無視するようになった彼は、柱になって私と顔を合わせても事務的な会話のみで立ち去る。抱き着こうとしたら躱されるので何かあるかもしれない。

 もしかしたら役立たず扱いして逃がしてあげて、錆兎を死なせたのが悪かったかもしれない。他の人はそうでもなく、それなりに話せてるのをコッソリ見ていたので私限定でコミュ障を発動するようだ。思春期じゃあるまいし。

 しかし、こうして遠巻きながら様子を窺う限り、カナエと義勇は仲良さげだな。

 

「ふむ……」

 

 お気に入りのおもちゃが知らない内に誰かに奪われたような気分だ。気に入らないというべきか。ラブコメの波動を感じる。私が感じたいのは青い春じゃなくて性なる春の方の性春なんだよなー。発情の香りが鬼殺隊では感じることは少なく、私の戦うモチベーションの低下に繋がっている。でも、なんだか羨ましいな。なんなんだろうな、この感覚。

 

「何してるんですか?」

 

 背後から声をかけられ、ドキッと心臓が高鳴ってトリップしていた思考が現実に引き戻される。

 そっと振り返ると、しのぶちゃんがしかめっ面をして立っていた。

 

「あっ、しのぶちゃん。やっはろー」

「なんですか、その変な挨拶。普通の挨拶してください」

「おっはよう、しのぶちゃん。今日も可愛いね!」

「朝から元気ですね。というか、怪我してるのだから早く来てください」

「はーい」

 

 実はもう傷は塞がりかけていたりする。割と怪我の治りが早いのがウリなのだが、なのでいざ本番で貫通して血を流してもすぐに痛みは克服できる自信がある。

 

「凜子さん、あまり変な行動は控えてくださいね」

「私を変人扱いするなんて酷いね。私が変人なら、カナエも変人になるよ」

「姉さんを一緒にしないでください。姉さんは貴方のような痴女ではありませんから!」

 

 酷い言い草だと思う。しのぶちゃんは姉を神聖視し過ぎると思う。依存してるように思える。

 たった1人の家族だし、気持ちは解らなくもない。

 

「人を痴女扱いするな。大体、本物の痴女を見たこともないのによく言えたね」

「あんなスケベな隊服を着ていて平然としてる時点でおかしいわよ!」

 

 ああ、前田プロデューサーが手掛けた隊服のことか。

 日本では女性が下着をつけるようになったのは、1932年頃の百貨店火災が起きた後だ。今はまだ下着をつけないのが普通で、おまけに下着は現代と違ってゴワッとしてて着物の下に着けるとラインが出て見栄えが悪い。なので、私は下着を自作して着用している。

 だから、スケベ隊服を着用して激しい動きをしても下着が外にさらけ出されるくらいで問題なかった。それが痴女の原因かもしれない。

 

「たぶんその内あの隊服を喜んで着る人がいるかもしれないから、そんな酷いことは言わないでおいて」

「一生現れませんから。凜子さんだけでは?」

 

 まだ甘露寺蜜璃がいないから、鬼殺隊におけるエロ枠は私のみだった。

 

「その内現れることを期待しておこうかな」

「一生現れませんから。それと、普通の隊員であれば重傷なのにどうして平然としてて治りが早いんですか?」

「生まれつきだ」

「……まるで鬼を殺すために生まれたような体で羨ましいです」

 

 おいおい私は対魔忍で凄惨な凌辱されるために生まれてきたというのに、鬼を殺すために生まれてくる訳がないだろう。しかし、最近はあの鬼共の食欲に塗れた目で見られると昂ぶるようになってきた。私も日々の戦いで、ついに食欲と性欲の区別がつかなくなってきているらしい。しかも、私は対外的には性癖を隠してるので他の隊士の尊敬の眼差しが痛い。これは由々しき事態だ。暴走なんて滅多なことでもやらない。

 鬼を殺すために産まれてきた、ねぇ。

 

「しのぶちゃんはどうしても自分の手で鬼を殺したいの?」

「貴方もそう言うんですね」

 

 やめておけ、と言いたい。藤の花を毒にする研究が実を結び、実地で試す段階にまで迫ったのは血の滲む努力と彼女自身の才能のおかげだろう。

 正直、鬼を毒で殺すのって戦争に条約禁止のトレンチガン持ち込むようなものだ。鬼殺においてルール無用だが、相手は知性ある1つの個体として認識すれば、余計な苦痛を与えて殺すのは如何なものかと思う。家族を殺されたから、惨たらしい報いを受けさせないと満足しないという気持ちは理解できるだろう。

 理解はするけど、共感はしないな。

 

「私は貴方が羨ましいです。息をするように鬼の頸を斬れる貴方が羨ましい。姉さんと肩を並べて戦える貴方が羨ましい。私は鬼の頸をどうやっても斬ることができなくて、こんな回りくどい方法でしか鬼を殺せないのに貴方はいとも容易く鬼の頸を斬れる。私は貴方のように強くなって姉の隣に立ちたかった」

 

 ほほう、対魔忍になりたいとな? 先ずは誰かに性的に見られても動じないところから始めよう。上手く躱せないからとか嫌だからなんて理由でぶっ飛ばしてたら、嫁の貰い手が無くなりそうだ。あとはア〇ル洗浄だな!

 勿論、こんな巫山戯たことは言えないので真面目に返したい。でも、こんなコンプレックスの塊みたいな奴にどんな声を掛ければいいんだろう。

 

「過ぎたことを悔やんでも仕方ない。これからどうするか、どうしたいかが重要だ。どんな形であれ、鬼殺したいから毒に頼った。それを形にしたなら、それは間違いなくしのぶちゃんだけの力だ」

 

 サイコパスだなー、なんてアニメ見てた時は思ってたけど、人間らしさがあって愉快だなと思う。

 こうして考えてみると、映画とアニメしか見ていなかったのが悔やまれるな。しかも、もうしのぶちゃんがサイコパスっぽかったのと甘露寺蜜璃の隊服がスケベだったくらいしか覚えてないし。後は人の名前と煉獄が死ぬくらいか。殆ど覚えてないや。

 

「というか、包帯を早く巻いてくれないかな? いい加減、上脱いで下着姿なのは寒いんだけど」

「あっ、ごめんなさい」

 

 私は寛容なので赦す。

 そうして包帯を巻いてもらってた時だ。

 

 ──―ガララ

 

「しのぶー? ちょっと冨岡くんの治療をお願いしたいのだけ……ど……」

「……入るぞ」

「おや」

 

 義勇がカナエと一緒に入ってきたのだ。

 別に野郎が入ってきたところで問題ない。下着姿だし、見られたところできちんと大事な部分は隠れてるし、均整のとれた美しい肢体を見られることに恥ずかしさなんてない。むしろ、誇らしくあるべきだ。

 それが通常時ならの話だ。

 

「……………………」

「……………………」

「冨岡くん、廊下に出ましょうか?」

 

 呆然とする義勇をカナエが連れ去り、何やら注意されていた。しかも、かなり大きな声だった。

 

「いやー、急なことで反応ができなかったよー」

「凜子さん、顔が真っ赤ですよ?」

「しのぶちゃんの目がスケベなのがいけない」

「誰が貴方に欲情するか!」

 

 それは女としての自信が粉々になるんだけど。

 

 

 


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