初っ端、お館様視点です。キャラ崩壊していると思われるので注意です。
ある日の事である。
「耀哉、これはどういうことですか?」
自身の妻であるあまねが普段とはかけ離れた剣呑な雰囲気をまとい、耀哉を詰問する。
その手には一冊の本が握り締められていた。
大好蛸触著『くノ一・鬼辻舞の官能任務』
あまねが言ったのは、頭のおかしい人間が書いた頭のおかしい官能小説の題名だった。
耀哉がこの小説の存在を知ったのは、鬼の不審死が相次いだ事に起因する。
どの鬼も共通してこの頭のおかしい官能小説を所持していたので、耀哉は持てる人脈を駆使して調べ上げたのだ。そして、愕然とした。
まさか鬼殺隊の柱が書いてるとは夢にも思うまい。
書くのをやめてもらうつもりだったが、こういうのはむしろ自由にやらせた方が士気が上がるので放任したのだ。
試しに取り寄せた一冊。素直に捨てとけばよかったが、危険を感じ取って絶対に見つからないであろう押し入れの奥深くに保管していた筈だった。
耀哉は考える。
まだ火は燃えていない。鬼舞辻無惨の頸に刃を届ける前に自分の頸に刃が届いている気がしなくもないが、耀哉は爆弾を解体するために自身の持てる力を全力発揮させる。
「おや、珍しい本を持ってきたね。どういう本なんだい、あまね。私には見えないから、読んでくれないかい?」
相手の羞恥心を煽り、有耶無耶にして終わらせるという汚い行為だった。鬼舞辻無惨を倒すためなら、耀哉はどんな事でもするだろう。
だが、あまねの方が一枚上手だった。
「輝利哉たちに読んでもらいましょうか」
この外道!
目的のためなら手段を選ばない卑劣な行いに、耀哉は内心では非難轟々だった。
努めて冷静に耀哉は、この場を切り抜ける方法を考えて実行に移す。
「子どもたちに読み聞かせる本じゃないと思うよ、あまね。鬼殺隊の誰かが忍び込ませたのかもしれないから、後で私から聞いておこう」
身内を犠牲に乗り切ろうとしたが、耀哉は気づくべきだった。
あまねがこの本を目の前に持ってきた段階で、既に言い逃れは出来ないことに……!
「いつも鎹鴉に読み聞かせてもらっているらしいですね、耀哉。特に縄が好きとか」
「うん、特に亀甲縛りが好きだね! 全身に食い込み、淫らな姿にするのはとても秀逸だと思う! あとは駿河問いなんかも──―」
そこまで言って耀哉は喋り過ぎたと気づいた。というか、つい口を滑らせてしまった。
とてつもなく気まずい。それもこれも全てあの変態が悪い。そもそも、何故口止めしていたにも関わらず情報が漏れていたのだろうか。鬼舞辻無惨を倒す前に夫婦間の火種が燃え上がり、頸を切る前に焼け死ぬかもしれない。
焦る耀哉とは対象的に、あまねは至って平静で小説を床に置いて耀哉と正面から向かい合う。
「私は全部聞きました。この小説の作者が元鳴柱の凜子様であることも。耀哉が秘かに支援して売り捌きつつも、本を買っては鴉に読ませていることも。そんなに私よりこの本がいいのですか?」
そんなことない。
妄想と現実、どちらが良いかなど初めから答えは決まっている。同時に決めにくい問題でもある。
妻には綺麗な自分を見ていてもらいたい。
こんな卑しい自分を見せたくなかった。自分の趣味を見せてしまうのは気が引け、決して表に出すまいとしておきながら知られてしまった。こういう時に限って直感が鈍る己の不手際に恥じ入るばかりである。
何も答えず、黙した耀哉にあまねは優しく微笑む。
「いいのです、耀哉。私も当初は驚きましたが、大丈夫です。受け入れました」
「本当かい?」
「ええ。夫の性癖を受け入れ、叶えてあげるのが妻の務めです。ですから、耀哉──―」
縄のしなる音を耀哉は聞いた。
サァ、と顔が青ざめて彼はこの場にいない変態を鬼舞辻無惨以上に呪った。
「先ずは亀甲縛りというものからやってみましょうか、耀哉。大丈夫です。やり方は凜子さんが教えてくれましたから」
耀哉は穏やかな笑みを浮かべ、覚悟を決めた。
「後で彼女にはお礼を言わないとね」
説教が確定した瞬間であった。
◇◆◇◆◇◆
「こうして見ても、鬼と言われるまで全く分かりませんね」
対面に座るしのぶが感心するように呟く。
一応鬼なので色々と検査してもらったが、割と何も変わらないらしい。頸を斬られたら死ぬのは鬼と人類の共通事項で、ここに日光が追加された程度なので大した事じゃない。
大した事といえば、あの補給法である。
しのぶが顔を真っ赤にさせて訊いてくる。
「それで、凜子さん。あの……その……冨岡さん、と……ゴニョゴニョ……して……たんです、よね……?」
「医者なんだから、ハッキリ言って。ほら、ちゃんと言ってくれないと、私って無知だから分かんない」
「このクソア──―コホン。冨岡さんから補給してるんですよね?」
「何を補給してるんだっけ? 私、しのぶの口から聞きたいなー」
「いい加減にしないと刺しますよ?」
刀の先端を向けながら言わないでほしい。驚くじゃないか。
どうやら、しのぶはセクハラ耐性がないようで私は悲しい。まったく、これだから処女は。
「このムッツリスケベ。医者なんだから、少しくらい慣れなさい」
「慣れる必要ないわよ。凜子さんが開けっ広げ過ぎるだけ。私くらいに清楚でお淑やかになった方が言い寄る男性が増えるんじゃないんですか?」
「しのぶが清楚でお淑やかだなんて世も末だ。その内、槍でも降るんじゃないか?」
「……殺す」
さすがに藤の花の毒は洒落にならないから勘弁してほしい。ガードベント村田は山へ出張してるから使えず、自力で何とかするしかない。
しのぶの本気じゃない刺突を躱していき、隙をついてズボンのベルトをふんだくってやった。
ズリ落ちるズボン。露わになったのは白い下着だが、例の紐だった。紐が解けたら脱げてしまうヤベー仕様のエロティックパンツだった。20歳だから、別に問題ないか。
「キャァァァァ!! な、ななななナニするんですかヘンタイ!」
よし、動きが単調になった。というより、慌ててズボンを上げてベルトを締めようとしている。
そこへ。
「あっそーれ、パイタッチ♪」
「キャァァァァァァァ!? お願いですからやめてください!」
ふむ、更に大きくなったようだ。小柄なのにスタイル抜群ってエロゲーかよ。少年誌だけど、このおっぱいで少年誌に出てくるとか少年たちの純粋な心を弄んでいるようで、鬼というより悪魔だった。待てよ。鬼という名の童貞を狩るという意味では、ある意味で鬼殺隊の柱にふさわしいかもしれない。その割にセクハラ耐性ゼロで泣かせてしまったので、罪悪感で辛い。
その後はなんだかんだで検査が終わり、私は衣服を整えながら不意に気になったことを口にする。
「ところで、しのぶ的にはカナエと不死川の結婚を認めるの?」
バキッ!
「いい度胸してますよね、不死川さん。人の家族を傷物にしやがって……!」
持っていた筆をへし折り、そこらの鬼よりも恐ろしい鬼へと変貌していく姿には正直言って怖い。
「私、そろそろ真菰ちゃんにスケベな事しに行こうっと──―」
「行かせると思ってますか?」
ガシッ、と肩を掴まれた。
ゆっくりと振り返ると、アニメで見たような綺麗な笑みを浮かべたしのぶがいて恐ろしい。どうやら、私には百合の花を咲かせる趣向は無いようだ。
「お説教です、凜子さん。姉さんも後からしますが、先ずは貴方もです。その緩んだ貞操観念を矯正してやります!」
「はいはい、ムッツリ乙」
「こ、このクソア──―」
女性にあるまじき恐ろしい言葉使いになろうとしたしのぶだったが、扉がノックされて慌てて口を噤んだ。
どうぞ、と促されて入ってきたのは葵枝さんだった。
慌てて居住まいを正すしのぶは、何というか母親に勉強以外のことをしていた事実を隠そうとする子供だった。バブっていたか。
葵枝さんの用事は包帯の補充であった。鬼に再び狙われるリスクがあるから、鬼殺隊で匿うことになったので、何もしない訳にもいかないのでこうして蝶屋敷で医療関係の手伝いをしてくれることには感謝しかない。
ただね。葵枝さんのように母性溢れる女性が孤児の集まりみたいな鬼殺隊にいるのは、とてつもない猛毒なのよ。
「いつもありがとうございます、お母さ──―んン゛! 葵枝さん」
例えば、しのぶのようにバブるのだ。
葵枝さんが来るまでは、カナエが母親……まではいかなくても姉代わりとなって機能していたが、ここにきて現職のママが出てきたのですっかりカナエもバブっている。普通なのは蜜璃くらいか。対抗馬で珠世様が出てきてほしいけど、珠世様は未亡人で母親だったけどその前に医者なのでバブみを感じてオギャれない。
葵枝さんが私に気づいて挨拶してきたから、私も負けじと返事する。くっ、バブみなんかに負けない!
「葵枝さん、お久しぶりです。蝶屋敷で寝泊まりしてるんですか?」
「そうですよ。最初は凜子さんが使ってた屋敷だったんですが、広すぎて私達にはとても勿体ないです。せっかく凜子さんが許可を出してくれていたのに申し訳ありません」
「いえいえ、お気になさらず。元はと言えば、住み慣れた場所から離れざるを得なくした私の責任ですから。せめて快適な暮らしをしてほしいです」
「でも──―」
「いえいえ──―」
以下、殆ど同じ内容の応酬なので省略。
ちなみに私は葵枝さんの前では礼儀正しく振る舞っている。頭突きが怖いのもあるけど、そもそもこのオギャる丸たちがいる蝶屋敷で葵枝さんを辱めたら、絶対に面倒くさい。
しのぶが礼儀正しい私を見てあ然とするという失礼極まりない行動をしていたが、後でセクハラしてやろう。今の私は鬼なので、両方にセクハラできる。
葵枝さんが包帯を持って出て行ったので、私はさっきしのぶが言いかけたことを呟く。
「お母さん、ね。気持ちは理解できるよ、しのぶ」
「凜子さんの両親は……」
「流行り病だ。しのぶは?」
「鬼に殺されました」
典型的な鬼殺隊に入る原因だという。私のように鬼とは無縁の生活をしてきた人間かいるのは少数で、しのぶのような人間が普通である。だから、大家族でお母さんやってきた母性溢れる女性にバブみを感じてオギャるのだ。
「しのぶ、私だったら好きなだけ甘えてもいいよ」
「貴方に甘えるくらいだったら、姉さんに甘えるわ。変態が伝染る」
「拳で処女膜ブチ抜くぞ」
「鬼よりも恐ろしいことをしないでください」
私も恐ろしいのでやりたくない。やっぱり対魔忍がちょうどいいな。
途中、シリアスっぽくできるかなと思ったら『バブみ』と『オギャる』の単語を出すから、シリアスになりきれませんでした。これも全て鬼舞辻無惨って奴の仕業なんだ。ナンダッテ!?