対魔忍になりたかったのにどうして鬼殺なんだ!? 作:Meat Toilet
鬼殺隊、辞めたい。
もうブラック企業が可愛く見えるくらいの重労働だね。先ず師範の家から初任務へ向かって苦もなく鬼を斬りました。そしたら、雀が飛んできて次を示すの。で、斬ったら次。斬ったら次、と。数えるのもバカらしくなるくらい頚を斬った。その間、休みなんてほぼ無い。あっても、藤の家紋の屋敷に泊まるくらいだ。音柱だったか派手柱だったかふうま柱だったかになった長兄の屋敷を拠点にするのも良かったかもしれない。しかし、考えてみてほしい。これはとても大事だ。
長兄には嫁が3人いる。
1度泊まったけど、ちょうど目撃しちゃったんだよね。長兄と嫁3人の夜の大運動会をね。
詳細を語ることは出来ないが、とりあえず三発以上は出してたと言っておこう。あの行いを毎日もしくは定期的に見てしまうかもしれないと思うと、血が足りなくなるので諦めた。ついでに継子の件も断っている。というのも、教わることが無かった。
決して自惚れてる訳じゃないけど、まだ宇髄家にいた頃に長兄や他の兄弟たちと戦わされた時があったのだが、私の連戦連勝だったのだ。単純な個人の戦闘能力では、私は長兄より上だった。その代わり、忍者としての総合力では長兄に負ける。いや、1つ言い訳させてほしい。対魔忍は捕まってからが本番なので、私が敵とかに捕まったり囲まれたりするのは普通のことなんだ。決してエロいことされたいために捕まったり見つかりに行ってない。
そんなこんなで長兄とその嫁たちの愛の巣に入り浸れないので、宿無しホームレス状態で鬼を殺していた。
「ひささん、今日もまた泊まらせてもらってもいいですか?」
「ええ、いいですよ。早速、お風呂を沸かしておきますね」
「ありがとうございます」
すっかり顔馴染みになった婆さんにお願いをして、屋敷に入って体を休める。
特に苦もなく鬼を斬っている。血鬼術を使いそうな輩ばかりだが、使われる前に殺すことを心掛けているので特に苦戦らしい苦戦はない。対魔忍のエロ同人だったら、調子に乗ってたところを捕まってアへるんだろうけど、この世界では鬼に捕まる前に死ぬ。況してや私は稀血なので、美味しく戴かれてしまうだろう。くっ殺!
そんなこんなで階級はもう甲になっていたりする。まだ鬼殺を始めて数ヶ月くらいしか経ってないのに、このスピード出世は裏がありそうで怖い。もしかしたら味方の裏切りに遭って対魔忍されるかもしれない。
「お風呂が沸きました」
「はい、わかりました」
スッと現れたお婆さんに笑顔で頷き、風呂場へ向かう。
いやー、もう勝手知ったる我が家です。屋敷の間取りも覚えてしまっているし、お婆さんとは気兼ねなく話せるような仲にある。もはや我が家である。
私が藤家紋の屋敷に入り浸る理由には、やはりこの風呂にある。
「あー、生き返るー」
体を洗って温かい湯に入ると、疲れが飛んでいくような気がする。怪我はしないよう心掛けているから、神経質になって疲れが溜まるのだ。キモチイイのは良いけど、痛いのは駄目だ。こっちは全力で対魔忍したいのに、どの鬼も食欲だけで、性欲が無いのだ。お前ら、それでも元人間か! 一人や二人は犯しに来いよ! 対魔忍……したいです。
そういえばお風呂というのは、ソープランドという言葉が浸透したのは1980年頃らしい。その前はトルコ風呂と呼ばれていたのだとか。まあ、今私が入ってる風呂は檜風呂なので、全く関係ない話だ。まあ、対魔忍でそういうプレイがあったが、あれは敬愛する秋山凜子が敵意を抱く高坂静流のものであって秋山凜子のものではない。あの女郎、私よりもデカくてムカつく。
風呂から上がり、脱衣場で服を着ようとしたら下着はあるのに隊服が無かった。うむ、洗濯してくれてるんだな。しかし、浴衣が無いのはアカン。
幸いにしてバスタオルらしきものがあるので体を巻いて、ひささんを捜しに脱衣場を出る。
「メッスイキ、メッスイキム・ザ・ン♪」
うん、酷い歌詞だな。本人に聞かせたら、今までに無いくらい怒り狂いそう。でも、無惨様も悪いと思う。あらゆるエロ同人を読んでエロゲーやってきた人間に女になってショタになるなんて、全力でエロネタになってくださいと言ってるようなものじゃないか。アカン、この溢れるリビドーを何とかしなくては! そうだ、無惨様で官能小説書こう。エロ画でもいいんだけど、この時代のエロと私のエロは次元が違うので万人受けは難しいだろう。それに本人の目に入ったら、血眼になるのでそれだけは避けたい。
そんな事より、早く隊服もしくは浴衣を入手しないと。
「ひささーん、浴衣をくださーい」
あのお婆さんは血鬼術使ってんじゃねってくらい気配が無い。急に現れては消える神出鬼没の厄介な相手だ。見つけるのは、ツチノコを見つけるのと同じくらい困難だと思われる。
しかし、今回は違う。
気配を感じる。これはきっとお婆さんに違いないな。フッフッフ。
初めてお婆さんを自分で見つけれるという歓喜と、どうせバスタオル着けてるんだし問題ないという平成から令和にかけて生きた人間の感覚で襖を開けた。
「……なっ」
「……」
大根に手をつけていた少年……冨岡義勇はいきなり襖を開けられて何の気なしに振り向いて私の姿を見るや、その出で立ちに急速に赤面してギュルンッと顔を背けた。
耳まで真っ赤にする初々しい反応をされると、悪戯したくなるのが悪い女の特徴だ。
「あらあらぁー? どうしたのかなぁ? 久しぶりに会ったのだから挨拶してくれないのですかぁ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、背後から這い寄って胸を背中に当てて声をかける。緊張から体が硬直してるのが窺える。
「固まっちゃってどうしたの?」
「…………」
言葉が出ないか。仕方ない。もっと体をくっつけるしかないね。
メチャクチャ赤面してるね。こういう童貞染みた反応をしてくれると、可愛くて面白いよね。程度が過ぎれば炭治郎くんみたいに寄り付かなくなっちゃうけど、でも反応が楽しすぎて笑いが止まらない。
よし、ここは更なる反応を得るためにおねショタの大先輩である愛宕さんを参考にするしかない。
「フゥー」
「ひっ」
ガチャンッ、と音を立ててお膳をひっくり返さなかったものの耳を押さえて飛び退いた義勇は赤面して口をアワアワさせていた。
「な、なにをした?」
「耳に息をかけてあげただけ。どうせなら、噛まれたかった?」
「どっちもやめろ。その格好といい恥ずかしくないのか?」
「ふむ」
改めて自らの格好を思う。
下着は着けた上でタオルを巻いている。下着の紐が見えないデザインをオーダーメイドしてるから、傍目にはタオル1枚でショタを弄ぶ痴女ですね。
だが、待ってほしい。
私は確かにショタコンだ。おねショタ系のエロ同人は対魔忍のエロ同人の次くらいに大好物であると同時、条例とか法律とかで手出しできなかった前世で今のこの状況は垂涎ものだ。しかし、いざ自分がその立場に立つとどうしていいのか解らない。ショタ食いの愛宕さんなら、18禁スレスレのおねショタをするのだろう。まだ未熟者の私にはギリギリを攻めるのは至難の業だ。
いや、ヤれる。私にはヤれる。よし、ここは悪戯な笑みを浮かべてタオルを外すように見せかける。
「見たい?」
「……変態か」
嘘だろお前!?
「ちょっと久しぶりに会えたから、はっちゃけた。ちゃんと挨拶しない人間が悪い」
「……俺は悪くない」
「じゃあ、無視するな。もっとお話ししましょう」
「……早く服を着ろ」
まあ、確かに。
「そうしたいんだけど、隊服はお風呂に入ってる最中に洗濯するために回収されてて代わりの浴衣が無かったから、お婆さんに浴衣を貸してもらうために捜し回ってるんだけど見てない?」
「……早く言え」
「それで、お婆さん知らない? 正直、この格好は寒くなってきた」
「ここに居られましたか」
わひゃっ!? 急に現れないでよ。心臓が止まりかけたんだけど! 本当、神出鬼没の妖怪なんだから!
ひささんのお手元には、私のために用意したのであろう浴衣があった。
「もしかして、浴衣を持ってきてくれたのですか?」
「お召し物を置いておくのを忘れてしまい申し訳ありません。ですが、ちょっとこちらへ」
「はい、なんでしょうか?」
ひささんの誘導に従い、脱衣場へ直行して浴衣を着る。
そして、
「そこに正座してください」
アカン、めっちゃ怒っとるわ。
「あの、せっかく温まっていたのに冷たい床に正座するのは嫌だなーっと」
「正座」
「はい」
もはや逃れる術はない。
その日、ひささんから雷が落ちた。