対魔忍になりたかったのにどうして鬼殺なんだ!?   作:大栗須

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今思えば、何故私はこのネタを思いついたのだろう(今更)





第8話

 楽しい時間というのはあっという間に終わるものだ。

 逆に辛くて苦しい時間は長く感じる。

 時間の流れは一緒なハズなのに、この2つの間にあるものには人の心理というものが大きいだろう。私には正直、この感覚がよく解らないでいた。楽しいと感じても、辛くて苦しいと感じてもどちらも体感する時間は同じだったからだ。つまり、私は喜びも何も本当に感じたことは1度もないのかもしれない。逆に辛くて苦しいことは現在進行形で心の底から感じている。

 

「死ぬな、凜子」

 

 ピンク色なんて淫乱の象徴みたいな色合いの髪をした上半身は殆ど裸みたいな格好の変態は、私にそう声をかける。

 体に大きな傷は無いものの、打ち身やら多少の切り傷が多い。致命傷が無いのが救いか。

 極限の疲労から膝をつき、刀を杖にして息を整えていく。

 

「鬼になる、と言え。お前にはその資格がある!」

 

 瞳に刻まれた『上弦 参』が私を見据える。余裕綽々といったところか、ふざけやがって。

 まあ、良いだろう。私は寛容だから、ふざけた髪をハゲ散らかすくらいで赦してやる。

 呼吸は整った。まだ戦える。立ち上がって第二ラウンド開始だ。

 

「男を寝取られてそうな顔しやがって。冗談は髪の毛だけにしておけ」

 

 そもそも、何故私が上弦の参などというヤベー奴と交戦するに至ったか、それは少しばかり時間を遡る必要がある。

 という訳で、回想スタート! 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 藤の家紋の屋敷に泊まった翌日。

 私は義勇と会話することなく食事を共にしていた頃、それぞれの鳥がやってきたのだ。鎹烏だぁー、こっちはなんで雀なんだろうね。まあ、こっちの方が可愛いので文句はない。便宜上、私はこの鎹雀を「チュン一郎」と呼んでいる。不服そうにしていたが、私のネーミングセンスなんてそんなものだ。諦めろ。

 雀さんからの指令では、一緒にいる冨岡義勇と共に南東のある森の中に潜む鬼を捜せ、ということらしい。

 早速向かった。道中ないし暗い森の中で無言は耐えたくないから、話しかけるも無視される。いよいよ本格的に嫌われてしまったかもしれない。

 私はちょっと痴女っただけのつもりだ。年若い少年に悪戯しただけじゃないかと、猛抗議したい。

 

「真面目な話、苦手な相手とも話をして交流してないと大変だ。自分自身のためにね。いざ危機に陥った時、嫌われてたら助けてくれないかもしれない」

「……俺は嫌われてない」

 

 そこだけは反応するのか。

 

「嫌われないかもしれないけど、好かれもしない。要するに無関心ということになる。よく好きの反対は嫌いだなんて言うが、それはある程度その人の人となりを知った上で好き嫌いが出るものであって、何も交流したことのない人間がどこで何をしていようと感情が揺り動かないのが人間だ。もう少し話さないと、いつか損するぞ」

「……俺は──―」

「静かに」

 

 どっちだよ、と目で訴えられたがそんなのは気にしてられない。

 目の前にスタッと危なげなく降りた相手は、淫乱の象徴とも言えるピンク色の髪に服としての機能を果たしていない上半身裸の破廉恥な輩だ。

 間違いなく鬼だ。それも強い。で、義勇では手に負えないことも解る。

 ニィ、と笑みを深める鬼は常人ではあり得ないスピードで義勇に肉薄し、拳を振ろうとする。

 

「ボサッとするな」

 

 いくら将来は柱になっているような強者でも、今の義勇はそれ程の技量は積んでない未熟な状態だ。反応できずに棒立ちになるのも仕方ない。

 振るわれた拳を斬り飛ばすと、ピンク鬼は跳躍して距離をとる。もう腕が再生してら。

 笑みを深める鬼は、腕を伝う自身の血を舐めながら嘯く。

 

「たまたま近くで鍛練していて強い練り上げられた闘気を感じて来てみれば、女でありながらその強さ……柱か?」

「違うけど?」

「嘘だ」

「冗談は髪の毛だけにしておけ、変態」

「お前……!」

 

 青筋を立てる奴は無視し、私は義勇に声をかける。

 

「とりあえず、下がってて。撤退してくれてるとお姉さんは嬉しいな」

「……俺も戦う」

「どうせ死ぬだけだから、やめてくれる? 蛮勇は身を滅ぼすだけ、犬死にするだけだからここはお姉さんが君を守るために惹き付けておくから下がれ。これは命令だ」

「……だが」

「今の君では力不足。弱いのだから下がってなさい」

「俺は……」

 

 急にただでさえ元気なさそうな顔してたのに、本格的に元気無くなっちゃって死人みたいになってる。言い過ぎちゃったよー! ゴメンねー! 後で慰めて上げるから我慢しててね! 

 おとなしく下がってくれたので改めて、ピンク頭の鬼と対峙する。

 

「律儀に待っててくれたのか」

「隙を見せてなかった奴がよく言う」

「いえいえ、私は隙だらけな女だ」

「出任せを言うな。まあ、いい。俺はお前に素晴らしい提案を持ち掛けよう」

 

 まさか……! 

 

「鬼にならないか?」

 

 ああ、そっち? 

 

「期待して損した。なんで鬼にならないといけない? 利点は何?」

「その練り上げられた闘気、お前は至高の領域に至っているのだろう。そこに至ったお前が老いて朽ちて死んでいくのが俺は堪らなく悔しいんだ。それも鬼となれば失われずに済むんだ」

「気持ちは解らなくもない。私は確かに至高の領域であるな。だから、月日が経って至高ではなくなるのが辛いのは解る」

「お前はなんの話をしているんだ?」

「至高の領域の話だろう?」

「そうなんだが、妙に噛み合ってないような気がするのは何故だ」

「そう聞こえるだけだ」

 

 上弦の参にもなれば、人を見る目はかなりあるようだ。私が数多の男たちをシコらせれる領域にあるだなんて、ようやく敬愛する秋山凜子師匠に届いたといったところか。

 

「やはり何百年も生きてる鬼は人を見る目に自信があるようだ。参考までに名前を伺いたい」

「猗窩座だ。お前の名前は?」

「秋山凜子だ」

「凜子、鬼になれ。鬼になって俺と思う存分殺り合おう!」

「な、なんだって!?」

 

 ヤリ合うだとっ? 

 落ち着け、落ち着くんだ私。確かに鬼になれば、四六時中やり放題だからメリットがデカい。それに鬼には血鬼術というものがあって、ワンチャン私の血鬼術が触手肉壺になれば擬似的な触手プレイが楽しめる。正にヤりたい放題の肉欲まみれの日々だ。でも、嬉々として頷くのは対魔忍ではないだろう。凄惨でハードな凌辱の果てに快楽堕ちして鬼にならなければ、私は対魔忍を名乗る資格はない。ここは猗窩座と戦って力及ばず敗れて凌辱され──―

 

「ハッ、殺気?」

 

 猗窩座ではない。ここにはいない誰か……それも女の恐ろしい殺気を浴びたのだ。誰の殺気かは解らないけど、まるで猗窩座を取られまいとする何者かのモノだと思わせられ、私は妄想するのは止める。

 

「猗窩座、私は鬼にならない。私は殺し合うために力を得たのではないからな」

「そうか。なら、若く強いまま死んでくれ!」

 

 ドンッ、と肉薄してきた猗窩座が拳を振るう。古武術の類いか。きちんと武術を習った人間を鬼にするとか、純粋な戦力としての価値を見出して鬼にされたか。一撃一撃が必殺でどこぞのクルセイダーでも、快感より先に痛みが先行しそうな威力だな。

 見切れない事はない。これ以上速くなられるなら、それはそれで対応するけど今の速さなら私の方が速く殺れる。

 一旦、距離をとって私は腰を落として抜刀の構えをする。

 

『壱の型 霹靂一閃・神速』

 

 笑った顔で余裕綽々の猗窩座の首を斬る。硬いものを斬ったような感覚だが、まあ斬れたので問題ないだろう。

 

「上弦の参も案外大したことないねぇ。もう頸を斬っちゃったよ」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべてNDK(ねぇ、どんな気持ち?)しようと振り返り、そして真顔になった。

 大抵の鬼は頸が繋がっていると錯覚しながら立ち向かってきて、体が崩壊していくのに気づいて訳も分からず勝手に死んでいくものだが、何故か猗窩座の頸は繋がっていた。それどころか体を崩壊させることなく、立ち向かってくるではないか。

 

「なんで死なないんだ!」

「イイ一撃だったぞ、凜子! やはり、お前は鬼になるべきだ! そして、俺と殺し合おう!」

「ふざけんな! こっちは殺し合いに興味ない!」

 

 何が悲しくてR-18にグロテスクの『G』を付け加えなきゃならんのだ。

 腕を斬った、脚を斬った、胴を斬った。唯一、頸だけは入念に守ってるのだが、それも霹靂一閃で斬れる。ちょっと対応されてきてるから、回数を増やしていこうか。

 

「ははっ、素晴らしい! 素晴らしいぞ、凜子! だからこそ、鬼になれ!」

「女を寝取られてそうな顔をしやがって! しつこい! そんなんだから、嫁に逃げられて鬼になるしかなかったんだ! この童貞包茎不能野郎!」

 

 ブチッ!! 

 

 なんかキレてはいけない音が聞こえた気がするのは気のせいだろう。

 

「……殺す」

 

 今までにないくらい怒った顔をした猗窩座が構えをとる。

 空手とかでやってそうな構えだ。正拳突きしてきそう。

 

『血鬼術 破壊殺 羅針』

 

 猗窩座の足元に雪の結晶のような陣が浮かび上がる。

 やれやれ、ようやく本気モードといったところか。鬼故に舐めてかかるのは解るし、本気出してくるのが分かってるなら初めから本気で遣り合ってぶっ殺したい。

 

 壱の型 霹靂一閃・六連

 

 一連は防がれ、二連も防がれ、三連は脚を斬り、四連は左腕を斬って、五連は防がれ、六連は再生された左腕を再び斬り落とした。

 反応速度が上がっている? 

 

『破壊殺 空式』

 

 何でもない場所で拳を振るい、衝撃が左肩を突く。どういうこっちゃねん。

 まさか波動拳だというでも言うのか。こっちだって斬撃飛ばせんだよ。

 

 伍の型 熱界雷

 

 殴って防がれた。同時に猗窩座の攻撃も止まる。

 踏み込み、呼吸する。

 

 参の型 聚文成雷

 

 猗窩座を中心に周囲を回りながら斬撃を仕掛けるも、全てに対応してきやがった。映画で見てたけど、ここまで捌かれると自信なくすんだけど。

 

 肆の型 遠雷

『破壊殺 砕式・万葉閃柳』

 

 型を打ち返された。頬を掠めて縦に傷が入る。

 

『破壊殺 砕式・鬼芯八重芯』

 

 刀を弾かれた衝撃で体勢が崩れている。マズい、これはアレをやるしかない! 

 

 零の型弐番 避雷針

 

 ただ羽織を犠牲にして緊急回避する1度きりの技だ。身代わりの術というのかもしれない。隊服を犠牲にすれば回数は増やせるかもしれないが、避雷針は衣服をボロボロにして使い物にならなくなるので下着姿で闊歩しなきゃならなくなる。

 緊急回避したものの、体のあちこちを掠めて出血している。おまけに直前の行動とか全部捨てて行う回避運動なだけあり、その消耗は通常の3倍。これで怪我もしているのだから、正直本末転倒だ。唯一、戦闘に支障が出るような怪我を生じさせないのが救いか。こんな形で喘ぎたくなかった。どうせ喘ぐなら、布団の上がよかった。

 羽織と軽傷と大幅な体力消費と引き換えに重傷や致命傷を避けるか、割に合ってるような合ってないような。

 

「はぁ……」

 

 避雷針やったのもあるけど、その前の段階から息が上がっていて疲労していたのが襲ってくる。

 刀を地面に刺して支えにし、膝をついて呼吸を整える。

 

「死ぬな、凜子」

 

 で、ここからが最初のやり取りに繋がる。

 

「男を寝取られてそうな顔しやがって。冗談はお前の髪の毛だけにしておけ」

「何故、鬼になろうとしない? その素晴らしい剣技が失われてしまうんだぞ。何故だっ?」

「価値がないからだ。ただ強さばかりを求めたところで、私が本当に求めているものとは違うからだ」

 

 というか、いい加減しつこいな。鬼なんて食欲しかない戦闘狂の集まりだろう。私は文明人だから、争いは好まないし食欲だけなんて生きてて悲しくないのだろうか。

 生き方はそれぞれだし、特に何も言うまい。どの道この男は殺さないといけない。もし鬼殺隊が全滅した時、コイツが何をするか想像できそうだからだ。いや、でもしんどい。

 

「ちょっと援軍が来るまで待ってもらってもいい?」

「卑怯者め。お前はもう死ね」

「そんな理不尽な」

 

『破壊殺 乱式』

 陸の型 電轟雷轟

 

 無数に迫る拳や蹴りを打ち落とし、次の型を出そうとして下がろうとする。

 

『脚式 飛遊星千輪』

 

 下からの打ち上げを刀で受けるも、力を流しきれなくて体が宙に浮く。

 

『脚式 流閃群光』

 

 咄嗟に引き抜いた鞘をぶつけ、吹っ飛ばされた。どれくらい飛んだかは解らないけど、木に背中をぶつけて息が一瞬止まる。

 あー、本当にキャラじゃない。真面目に戦うのはマジで性に合わない。私がやりたいのはバトルだけど、バトルじゃないんだよ。

 体勢を整える間もなく、猗窩座が向かってくる。あ、ヤバイ。死ぬ。

 しかし、私に拳が届くことはなかった。

 

『全集中・水の呼吸 捌の型 滝壷』

 

 猗窩座の腕を斬りつけた少年がいた。珍しい髪色だ。あ、錆兎だ。

 助かったとは思う。猗窩座の腕が飛んでったし、命拾いしたのは事実だ。

 

「アハハ、守られちゃったなー」

 

 あれだ、吊橋効果が発動したなコレ。落ち着け、私はチョロインじゃなくて寝取られ系ヒロインだ!

 

「その闘気、素晴らしい。凜子に劣るとはいえ、お前も鬼にならないか?」

「断る! 男なら女を傷つける奴は赦せない!」

 

 早く加勢しないと錆兎が死ぬ。早く体を動かせ、私! 

 夜明けはまだ遠い。

 

 

 

 

 

 




???「あの泥棒猫、ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」


男を寝取られてそうな顔しやがって云々発言がありますが、決して誤字ではありません。
次回は明日の夜9時に投稿予定です。
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